第27話-1 ルーゼル=ロッヘ(6)
今回の話しも分割となってしまいました。当初予定していたよりもセリフや場面の量が増えてしまいました。それに、追加されていくのが多くなってしまいました。
前回までは、闇の竜をアンバイドが反射鏡で、倒すことに成功する。そして、黒い渦から現れたランシュとヒルバスは瑠璃たちに招待状を渡し、フードを被った一人の人物を回収し、去っていくのであった。一方で、李章の蹴りの一撃で倒されたトリグゲラは―…。
ここは、ルーゼル=ロッヘ近郊にある森。
そして、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドがいる場所とは少しではあるが、離れた場所。
一人の人物が体をおさえながら歩く。その歩き方は、ふらふらとしたものであった。ゆえに、木を伝いながらのものとなっていた。
その一人の人物は、身体における状態は、決していいものではない。むしろ、最悪といっていい。
それは、負けたからだ。
(李章に奇襲されてさえいなければ、クローナに負けることはなかったのに。)
と、一人の人物であるトリグゲラが心の中で怨念を感じさせるように言う。
実際は、トリグゲラは李章の蹴りの一撃でやられていたのだ。クローナがトリグゲラをクローナ自身に全集中させなければならないほど、均衡した実力を有していたからだ。
しかし、トリグゲラにとって李章に奇襲されたがゆえに、クローナに勝つことができなかったのだと思い込んでしまっていたのだ。
トリグゲラは、李章の奇襲さえなかったら、クローナに勝つということを自身として当たり前のように結論していたのである。
それに、トリグゲラはルーゼル=ロッヘにおける裏の顔といってもいいぐらいの勢力を誇っていた。そのことが、トリグゲラにとっての自信でもあり、実力を過信させる自惚れでもあった。そう、不自由が自由に存在しているように、自らの勢力が永遠と自身が思うこともまた永遠でないということを―。そして、人が築き上げるものなどいつかは無に帰すことなど、人の生きる世では普遍性の高いものでしかなく、それに該当してしまったのだ。
日の出にもなろうとする時刻。
ルーゼル=ロッヘの手前で、紺黒い色とは違い、赤くて青へと向かうための光がトリグゲラにさし始めた。
(今度こそ…、倒してやる。)
と、トリグゲラは意思強く決意する。そう、クローナや李章などの自らを倒した奴らに復讐して、ルーゼル=ロッヘでの裏の面子を保つために―…。
そして、トリグゲラはルーゼル=ロッヘの入り口へと辿り着く。
トリグゲラは顔をあげ、これで、拠点に帰ると思っていた。
トリグゲラは気づく。ルーゼル=ロッヘの入り口に何人かの人が立っていることを―…。
立っている人物はみな、トリグゲラを睨みつけていた。
その様子にもトリグゲラは気づく。
(何だ。睨みつけやがって…。この俺がやられているのがそんな嬉しいのか。クズどもが…。この俺に従うことでしか生きていられない奴が…。)
と、トリグゲラは逆にルーゼル=ロッヘに立っている人々に対して、睨みつけ返すのであった。
しかし、トリグゲラは勘違いしていた。何もルーゼル=ロッヘの住民は、トリグゲラの支配下にいなければ生きていけないということはないのだ。彼らは、トリグゲラやゼルゲルらに対抗するほどの力も人脈も、知恵も方法もなかった。それを手に入れることも、発見することもできなかった。ゆえに、ただトリグゲラやゼルゲルらに従って生きていくしかなかったのだ。むしろ、トリグゲラが、ルーゼル=ロッヘの住民に対して、力で支配することを必要としており、そこから得られる利益に依存していたのだ。そう、ルーゼル=ロッヘの住民を抑圧して支配することでしか生きていなかったのは、トリグゲラの方であったのだ。
ゆえに、トリグゲラやゼルゲルの勢力が衰えて、自分たちでも倒せる感じたのならば―…、答えは一つしかない。
暴力という名の死を―…。
そう、これは、トリグゲラやゼルゲルらが生み出したしまったのだ。ルーゼル=ロッヘの住民が今まで喰らったほどの抑圧をそのままトリグゲラやゼルゲルに返すことの口実を―…。
そして、トリグゲラによるルーゼル=ロッヘでの裏の勢力の一部が崩壊していったのである。
暴力が暴力という結末を辿るように―…。
ちなみに、その後トリグゲラは、ルーゼル=ロッヘの入り口にいた人々によって暴力を振るわれ、出血多量となり、顔面はすでに原形を保っていなかった。しかし、トリグゲラは死という結末を回避し、衛兵によって捕まり、刑務所に入れられることになった。ゼルゲルとともに―…。そして、この刑務所におけるトリグゲラとゼルゲルの話しについては、本編の話しとしてはただの蛇足にしか過ぎないので、ここでは省略することにする。
時は戻る。
ランシュとヒルバスが黒い渦の中に消えて、少し時間が経過していた。
クローナはあることに気づく。
「あの~、すみません。私と戦っていた、中年ほどのずる賢い人が周囲にいなのですが…。」
と、クローナは言う。そう、中年ほどのずる賢い人、つまり、トリグゲラがいなかったのだ。さっきまで、李章の奇襲の蹴りをまともに受け、気絶していたのに―…。
実際、トリグゲラは、闇の竜にクローナや李章が視線を向けている最中に、目を覚まし、今の状態ではクローナや李章に勝てないと踏んで、逃げていったのである。
「大丈夫だと思います。トリグゲラ自身はもう私たちにとっての危機をもたらす存在ではありません。」
と、李章がクローナの声を聞いたのか、クローナに向かって答えるのであった。そう、トリグゲラは、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドにとって危険をもたらすことができないことを―…。ちなみに、これは、李章が持っている緑の水晶の能力を使ったからである。
「うん、そうなんだ。今から探し出したとしても無駄だしね。それに、瑠璃、李章、礼奈には、用があります。現実世界の石化に関する協力についての―…。」
と、クローナは言う。
それに対して、李章は首を傾げる。
李章は、クローナが実は、自分たちの協力者であって、魔術師ローとともに来たということを、気絶していたがために知らなかったのだ。
「あの~…、それは一体―…。」
と、李章は少し唖然としながらクローナに尋ねようとする。なぜ、クローナが現実世界の石化について知っているのか、を。
その中で、クローナと李章が会話していることに気づいた礼奈は、
「あなたがクローナさん。ローさんからは伺っています。」
と、言う。それは、李章がローの言う協力者がいるということを聞いていないので、実際に聞いている礼奈自身が対応したほうが話しがうまくいくという礼奈の判断によるものであった。
「山梨さん…。」
と、李章は言う。
「ここは、私が話しをしておくから、瑠璃のところに行ってください。」
と、礼奈は言う。かなりの気遣いをしたうえで―…。
李章が瑠璃のもとへと向かって行った。
「すみません。李章君のほうは、ローさんからあなたことについて話を聞いていないので―…。」
と、礼奈はクローナに対して、申し訳なさそうに言う。
「いえいえ。それは―…、構いません。私の用件はただ一つです。ローさんからあなたがた、瑠璃さん、李章さん、礼奈さんと協力して、ベルグという人を一緒に探すためのお手伝いをすることです。」
と、クローナは礼奈に対して、用件を言う。
それは、クローナが瑠璃、李章、礼奈のベルグ探しに協力するというものであった。これは、魔術師ローからクローナに対して頼まれたものであった。
「私じゃ…。判断できないから。今から私たちと一緒に、私たちの泊っている宿に来てもらってもいいですか。」
と、礼奈は言う。
「わかりました。」
と、クローナは礼奈の言葉に対して返事をした。
一方、アンバイドは、
(俺は、あのランシュとかいう男によるゲームに参加するとして―…、瑠璃、李章、礼奈はどうする気なんだ。それに加えて、ローと一緒にしたクローナが一体、何者かについて聞きだす必要があるな。もし、うまくいって、四人を戦力としてゲームに参加したとしても、ランシュやヒルバスに勝てる可能性、現時点でゼロ。どうしようもすることはできない。やっぱりどこかで修行させないといけないか。天成獣の力をさらに引き出せるようにするために―…。)
と、心の中で呟きながら、じっと考えていた。
それは、瑠璃、李章、礼奈、クローナをランシュやヒルバスと戦えるぐらいの実力をはやくつけさせる必要があった。ただし、現に三日後にリースへの移動を含めて、そこまで成長させることは不可能であった。ゆえに、
(たぶん、どんな修行させたとしても三日後も不可能に近い。ならば、最悪、四人(ここでは、瑠璃、李章、礼奈、クローナのこと)の勝てない相手と判断したら、即すべて俺が相手にしたほうがいいか。それでも修行は確実にするということで―…。)
と、アンバイドは再度考えを、心の中の言葉にする。
そして、クローナと礼奈のほうへと近づいていった。
「瑠璃さん。大丈夫ですか。」
と、李章は言う。
「それは、李章君に言われたくはない。フードを被った人の攻撃を受けて気絶した人には―…。」
と、瑠璃は李章に対して、毒を混ぜたような言い方で言う。
李章に対して、瑠璃はある意味で素直になることはできない。できるはずもなかった。嫌いとは真反対に位置する気持ちのために―…。本当のところは、瑠璃は李章をものすごく心配している。
一方で、李章は、瑠璃の毒のあるような言葉に、自分自身のことを的確につかれたために、心の中でかなりショックを受けていた。表情にだすことはしなかった。
それに、李章は、自らの弱さをフードを被った一人の人物との戦いで悟らずにはいられなかった。そのために、妥協して緑の水晶の力を使うようにするという妥協点をだしたのである。ただし、それだけでは、李章は強くなることはできない。そう、自らの天成獣の力が宿った武器である刀を使わなければならない。そうすれば、自分自身が鍛えてきた蹴りを無駄にし、自らの努力自体を否定されるようになってしまうからである。
瑠璃に言われた言葉からのショックを数秒で若干ではなおすことのできた李章は、
「すみません。瑠璃さんや山梨さんの足を引っ張ってしまいました。」
と、瑠璃にごめんなさいと頭を下げて謝罪する。たぶん、深々としたもので、直角になるようなものであった。
「それなら―…」
と、瑠璃は口ごもりながら、言い、数秒の間があいて、
「李章君は、1人だけ何かを背負って戦わないでほしい。私だって、役に立ちたいし、足手まといと思われたくもない。それに、意地をはって、蹴りだけ戦うのは止めて欲しい。李章君が足手まといになるのは私がそうなるのよりも嫌。だから、自分の刀をとって、天成獣の力を十分に発揮して戦って欲しい。李章君の死ぬところなんて見たくない―…。」
と、瑠璃は李章に懇願する。李章のことを心配しすぎて。言葉の最後のほうでは、声すらもかすれさせ、目には涙さえ浮かべてしまいそうになった。瑠璃は、泣き落としで李章に自らの武器を使うにさせることが自身にとっても、李章にとっても失礼だと考えたから、涙を引っ込めていた。
李章は考える。自分のプライドで、瑠璃を傷つけていたことに―…。
だから、瑠璃を安心させるために、
「うん、そうします。瑠璃さんに迷惑をかけてすいません。」
と、李章は再度を瑠璃に謝るのであった。
これ以後、李章が自らの武器を使うべきかどうかについて、迷うようになったという。
「礼奈。そこにいる、魔術師ローのお伴はどうすんだ。」
と、礼奈とクローナの方に向かって来た、アンバイドは礼奈に尋ねる。
「一緒に、私たちの宿に来てもらいます。それと、彼女、クローナさんは、これから私たちとともに一緒に旅をしていいかと聞いてきています。」
と、礼奈はアンバイドに言う。
「そうか。俺個人としては、クローナとか言ったか、旅の同行に関してはOKだ。後は、瑠璃、李章がどうかだな。」
と、アンバイドは言う。
「では、戻りましょうか。」
と、礼奈が宿に戻ることをアンバイドに提案する。
「そうだな。」
と、アンバイドは答え、
「瑠璃!! 李章!! 宿に戻るぞ。」
と、瑠璃や李章に聞こえるように大きな声で言う。
「わかりました。」
と、李章がアンバイドに聞こえるように返事をする。
そして、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドは、クローナを加えて、自身の泊っている宿に向かって行ったのである。そう、もうすでに朝日が昇り始めようとしている時刻であった。
【第27話 ルーゼル=ロッヘ(6)】
リース近郊。
ランシュのいる広場…。
すでに、ゲーム参加者のための戦いが行われていた。
そう、瑠璃、李章、礼奈を討伐することを目的としたゲームに参加するために…。
戦いはすでに開始されてから2時間が経過していた。
残っている者は、100名をきっていた。そして、チームとしては、12~13チームといったところであろう。
そして、生き乗っているチームの中には、すでに何人かが戦闘不能となっているものもいた。
「フン、2時間を経過して、だいぶ数が減ったな…。それに、そろそろ俺のゲームに参加する9チームが決まりそうだな。」
と、ランシュは言う。生き残っているのは、自らの部下の中でも、それなりに実力のあるものが多かった。一方で、風などや姿を消すことによって、生き乗っている者もほんの少しではあるがいたようだ。ランシュやヒルバスもそのことに気づいていた。
「ええ、そうですね。」
と、ヒルバスは言う。こんな戦いよりもランシュをいじりたくて、いじりたくて仕方なかった。その気持ちをかなり抑えているが、視線がものの見事にそれを語っていた。
ゆえに、ランシュはヒルバスのそのいじりたい気持ちを理解していた。ランシュとしては、すごくヒルバスをすごく嫌そうに感じていた。排除したいほどではないが―…。
ランシュは、一方で、思っていた…。
(リースが俺の村でしたこと……。それをしようとしたリースの王家を許すわけにはいかない。俺の復讐のために―…。たとえ、私が仕えていたセルティー皇女が敬虔なる善人であったとしても―――…。)
と、ランシュは心の中で呟いた。自らの過去の出来事に思い出しながら―…。
第27話-2 ルーゼル=ロッヘ(6)へと続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ランシュの過去編に関しては、番外編やリースの章の中でもやっていくと思います。なぜなら、ランシュという人間の過去がリースの章のストーリーに結構重要になってくるからです(たぶんですが…)。
さらに、トリグゲラやゼルゲルのその後の話しはやるかやらないかは、現時点ではわかりません。
第27話が終わると、リースの章に入っていくことにしたいと思います。