番外編 ミラング共和国滅亡物語(62)~第一章 勝利は時として毒となる(12)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国では戦勝の凱旋パレードがおこなわれ、その後、対外強硬派の五人が集まるのだった。
ミラング共和国首都ラルネ。
その中の議会堂のある一室。
そこには、対外強硬派の主要幹部が集まっていた。
彼らは、久々に全員が集まるのである。
理由は、ミラング共和国とリース王国との戦争で、軍人であるファルケンシュタイロとシエルマスのトップであるラウナンは、戦争に従軍していたため、ラルネに戻ることはなかったからだ。
そして、五人それぞれが席に就き、話し合いが始まる。
「今回の戦争、ファルケンシュタイロ、ラウナン、二人とも大義であった。今回のリース王国との戦争での勝利は、我々、政権にとって基盤を盤石にすることができた。だけど―…、今回、アルデルダ領を奪った後、どういう理由で停戦にしたのか、ラウナン、説明して欲しい。皆に納得してもらわないと、我が政権の基盤が崩れかねん。」
と、シュバリテが言う。
シュバリテにとっては、今回、勝っているのになぜ、急に停戦を結ぶのか。これに納得しない者は多いだろう。
だからこそ、そのことに関する説明をラウナンからしてもらいたいのだ。ラウナンにとって、理由がないわけではないということを理解しているのだが、その理由の如何まではわかっていない。
「ええ、ファルケンシュタイロ様にはある程度、説明したと思いますし、シュバリテ様には一応、停戦する旨を伝えたとは思いますが、残りのディマンド様とクロニードル様のために詳しく説明いたしましょう。まず、シュバリテ様とファルケンシュタイロ様。急な申し入れを受けれていただき、感謝いたします。」
と、ラウナンは言いながら二人に向かって、頭を下げ、ディマンドとクロニードルの双方に視線を動かす。
「では、今回、停戦という結論にいたった経緯を説明いたします。まず、今回、リース王国がミラング共和国に対して、商品税の増税と通過税の新設をおこなったのは、アルデルダ領の財政が悪化したことにより、なされたものであり、その案をリース王国側は承認したということです。我々に戦争を仕掛けさせるためです。その中で、アルデルダ領を我々に占領させて、支配させれば、リース王国のお荷物であるアルデルダ領をこちらへと割譲させることができるという寸法です。結局、それを考えたと思われる人物は、終戦後、ラーンドル一派によって処分されたようですが―…。まあ、その人物もラーンドル一派の重鎮でしたが―…。そして、今回の戦争を主導したのがラーンドル一派である以上、アルデルダ領よりも多く領土を損失することになると、ラーンドル一派の基盤が崩壊し、リース王国でも国民から人気の高い王妃リーンウルネがリース王国の政権を掌握しかねない。そうなれば、ラーンドル一派と戦うよりもかなり深刻な戦いとなる。我々が負う犠牲の数は半端ないものになってしまいます。リーンウルネは、国民の信頼を得ており、騎士団の扱い方も優秀な人材が扱いやすいようにします。我が国は、これからリース王国に代わり、世界を支配するのです。だから、リース王国の戦争で兵力を過剰消費するわけにはいきません。我々は、慎重に、確実に、最強国になるためなのですから―…。」
と、ラウナンは言う。
完全に理由の説明になっているかと言われれば、怪しいとしか言えない。だけど、リーンウルネがリース王国の実権を握られるよりも、ラーンドル一派にそのままリース王国の実権を握らせ、一気に滅ぼした方が得であると判断した。
ゆえに、一時的に停戦したまでに過ぎないのだ。永遠にリース王国を攻めないという選択肢はミラング共和国の政権側に存在しない。
「で、言いたいことはリース王国のレグニエド王の王妃リーンウルネが、リース王国の実権を握ると、ラーンドル商会およびその派閥よりも厄介になるということか、わかった。」
と、シュバリテは、ラウナンの理由を理解する。
(……………リーンウルネ王妃には会ったことがあるが、あの女は女性のくせに、男の世界の政治に口を出すのか。分からないのか、女が政治をすれば、その国は亡びることになるんだぞ。そのことも理解できないとは―…。シュバリアの方も、軍隊に女の指揮官を誕生させようとしていたが―…、政治の延長上に戦争があるのに、それに女を関わらせるとは―…。まあ、シュバリアはいない。だけど、どうしてか、あの女をクビにすることができない。なぜだ? それよりも、リーンウルネ王妃を台頭させないということは、ラウナンもまた、ミラング共和国の人間であることだ。そこは安心だな。)
と。
シュバリテは、男尊女卑の考えを抱く人間である。現実世界の中にもそのような考えの人がいるが、大半かそれ以上の人々は男尊女卑のような女性を蔑視することに対して嫌悪感を抱く人が多いし、女性蔑視がなくなることを望んでいる。
だけど、ミラング共和国では、このような男尊女卑の考えを持っている者が多いし、女性の中にもそのことに不満はあるが、それが当たり前のことだと思っていて、変えることができないと半ば諦めている。諦めるしかないとさえ思っている。
そして、対外強硬派は、このような男尊女卑の考えを抱き、政治とそれに関係する世界に女性が関わるということを嫌がる。彼らは二百二十年前から続く男尊女卑の考えの本当の理由を知らずに、いや、知ったとしても自らの地位のために、そのことを信仰し続けるだろう。
そして、シュバリテは、イルターシャのことを嫌っていた。軍事は、シュバリテが心の中で思っているように、戦争は政治の延長線上にあるという考えのもと、軍事と政治は関連しているので、自らの考えに照らし合わせ、女性が進出すべきではないと判断を下している。
そして、シュバリテは、他国もそのようなものであるべきだという認識をも抱いている。リーンウルネが女性という理由だけで、女性が政治に関わることが国を滅ぼすという迷信を信じているために、リーンウルネのような存在も嫌っている。ラーンドル一派の側からすれば、好まれるだろう。ラーンドル一派の人間は、ミラング共和国の政権を掌握している者たちよりもそういう女性蔑視の考えはそこまでないだろうが、リーンウルネに政権を奪われたくないという気持ちで、好感を持つであろう。
だけど、リーンウルネ側からは嫌われる思想だし、リーンウルネならば、いろんな方法を用いて、その原因を調べ上げ、先導し、時代を変えるぐらいのことを慎重に、状況を見極めておこなう可能性がある。
そして、そういう意味では、隣国がラーンドル一派が政権を握っていることに、シュバリテは安心感を抱くことができる。
「ふん、リース王国の王妃、たかだか女一人にビビるとはなさけないの~う。儂ならば女に権力を握らせないように黙らせてやるだけだがなぁ~。」
と、クロニードルは言う。
クロニードルは、そう言いながら、手をバンバンとパンチする仕草をする。クロニードルは保守的というよりも、自分にとって優位であることが続くことに固執する人間であり、時代に、およびミラング共和国に住む人々が抱く本来の感情なんて関係ないと思っている。
信念があるという意味では良いように聞こえるが、それでも、主観的な判断および一定の真面な考えから言わせれば、クロニードルは批判されて当たり前だし、世間の表に出られないようにした方がよいと思うかもしれない。
だけど、ミラング共和国である以上、半数近くはクロニードルのことを当たり前だと思っている。多くの男性というか、自らの優越感という気持ちがこの男尊女卑が満たしてくれるので、このままであることを望む。
一方で、女性の多くは、今のミラング共和国の男尊女卑の考えに不満を持っているし、男性による自分が上だという考えに嫌気が差しているし、味方が多くないということから諦めているだけであり、何かきっかけがあれば一気に燃え広がるのは明らかであった。
それに、女性の方でも同じように心の底では、男性のことを馬鹿だと見下すこともある。
まあ、結局、このような男尊女卑の考えを抱いたとしても意味はなく、クロニードルはミラング共和国の国民のそれぞれが何を考えているのか、本当の意味で分かっていないし、今までの価値観にしがみついて自らの優越感を守っているだけにすぎないのだ。新たな考えへの適応を見せずに―…。
クロニードルは、ある意味でミラング共和国の今の象徴であるかもしれない。
さて、クロニードルの言葉に対外強硬派の者たちの主要幹部のほとんどが納得することができるが、同時に、強気に出すぎるのも失敗した時に大変になることを理解するのだった。
ラウナンは、
(クロニードルは老いたな。すでに老いていたが―…。まあ、こいつも必要となくなれば処分すれば良い。クロニードルの子どもも孫も馬鹿ばかりで、私としては後継者として扱いやすい―…。せいぜい、私の掌の上で踊っていてくれ!!)
と、心の中で思う。
クロニードルなど、そこら辺にいる石であり、虫と同じぐらいの存在でしかない。クロニードルは政治家の家に生まれ、自分は政治家として支配層の一人として、ミラング共和国の一般的な国民を導く存在であり、選ばれた存在であると思っているので、ミラング共和国に住んでいる人を見下している。
それがクロニードルの人生であり、見下すことに慣れてしまい、染みついてしまった結果、それを当たり前のものと思っている。
そのことを理解した上で、ラウナンはクロニードルという存在が完全な愚か者であることを理解しているし、結局、ラウナンのための人形でしかない。
そして、ラウナンは、クロニードルがラウナンのことを警戒すべき存在であることに気づきもしない。さらに、クロニードルの子どもで後継者とされている者は、ミラング共和国の商人協会の会頭を務めているが、発言があまりにも馬鹿すぎて、周囲から飽きられているが、クロニードルの家が政治家の家である以上、その悪口を表立って言えないし、批判することもできないし、権力もあるから、何も言うことができず、放置されてしまっているのだ。
そのせいもあるのか、どんどん発言が傲慢になっており、さらに、クロニードルも自らの後継者とされる息子を甘やかすので、付け上がり、最近は悪いことを公然としだす始末であり、ミラング共和国に住んでいる者たちからの評判はかなり悪い。裏では「傲慢息子」という名で言われていたりする。
さらに、孫の方も駄目で、アマティック教から女性を融通しており、それに飽きると、ラルネの街に繰り出して、夜に女性を襲っている。それを揉み消すのに、クロニードルの部下たちの真面な人たちは苦労させられている。それでも、いつか真面になってくれることを祈りながら、揉み消しに従事するのだった。
そういう駄目な存在だからこそ、ラウナンにとっては利用する価値があり、ラウナンの実力をもってすれば、反抗するような簡単に処分することができる。勿論、処分は彼らの生の終わりを意味するが―…。
「だけど、あのリーンウルネとかいう女、リース王国の国民からかなりの人気を得ていると話していることだ、ラウナンが―…。要は、ラウナンが警戒するのも無理はないぜ。クロニードルさん。」
と、ディマンドが言う。
ディマンドはラウナンだけでなく、アマティック教からの情報も手に入れられるので、リース王国の王妃であるリーンウルネがリース王国の人々から人気があるのを知っているし、どうやって、そのようなことを獲得したのかも理解している。
続けて、ディマンドは言う。
「リーンウルネは、良く城の外に出て、王国民と接して、話を聞き、いろいろと問題を解決しているとか―…。」
そう、リーンウルネは良く城の外に出て、情報収集をおこないながら、問題を解決するためのアドバイスを送ったり、不正を働く者を取り締まったりもしている。不正を取り締まるのはリーンウルネの本来の目的ではなく、あくまでもついでである。リース王国に住んでいる人々が不正をなす者を倒すことができないと判断した場合のみであるが―…。あくまでも、リーンウルネ自身はサポートであるし、支援に関しては、自立できるようになれるようにすることを達成できるようにするためである。
そうすれば、リース王国の経済が栄え、財政も良くなり、物の消費も良くなり、良い人材が適材の場所で仕事ができる機会を増やすことができる。上というよりも、皆を取りまとめることを仕事になす者にとって、当然にしなければならない義務であるということを、リーンウルネは認識した上で―…。
「ふん、そんなパフォーマンスで信頼を得られるとは、リース王国民も馬鹿としか言いようがない。国民なんて馬鹿で、粗野で、俺らの言っていることも理解できずに、文句ばかり垂れ込む。そんな奴らは、黙って、俺らに従えば良いだけだ。ここにいる、選ばし者たちの言葉を聞いて―…。だからこそ、儂らはどんなことをしても許される。これは国民どもに対する立派な教育だ。」
と、クロニードルは言う。
その言葉に、シュバリテ以外、全員が頷くのであった。
そう、彼らは自らの選民思想に溺れ、自らの存在というものを過剰に評価しているのである。
結局、愚かとしか言いようがない。
「時間をこれ以上、かけるべきではない。これからの軍事的戦略および、政治戦略について話し合おう。」
と、シュバリテは言う。
時間は有限なのだから―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(63)~第一章 勝利は時として毒となる(13)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の投稿日は、2023年4月11日頃を予定しています。
では―…。