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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
405/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(59)~第一章 勝利はときとして毒となる(9)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、リース王国の新たな騎士団長を誰にするかということで騎士団側とラーンドル一派の側で交渉がおこなわれるのだった。そんななか、リーンウルネが仲裁することになり―…。

 「ただし、私も鬼ではありません。その虚偽の文書を他に真実だとこれ以上言わないのであれば、こちらとしても、これ以上、騒ぎにしないようにいたします。」

と、ラルガードは言う。

 ラルガードとしても、ラーンドル一派を潰して、混乱させたいわけではない。

 それに、今回、この約束は確実に守られる可能性が高いと、考えることができた。

 理由は、ここにリーンウルネがおり、騎士団の偉い人がいるのがわかっており、彼らがもしもの時に証人になってくれることが確かであり、ラーンドル一派の馬鹿でも気づかないわけがないだろうと思えるからだ。

 気づかないで、ミドールの騎士団追放処分に関する虚偽の文書を再度、ラーンドル一派が口にしたり、公にしようとするのなら、リーンウルネおよび騎士団がそれを虚偽だといくつもの方法で示してくるに違いないし、結果として、ラーンドル一派にとって分が悪くなるのは間違いないことだから―…。

 ラルガードは、それぐらいに頭の回転は速い。

 そして、ラルガードを襲ったり、貶めようとするのならば、確実に、反撃するであろうが、それでも、敢えて少しだけ譲歩することによって、ラルガードに危害を加えることに対する罪悪感を植え付けるのだった。保険程度でしかないが―…。

 (……ラーンドル一派に対しての、せめてもの保険でしかありませんが、彼らが裏で襲ってくる可能性もないとは言えません。だが、後悔はない。私に家族はいないのだから―…。私が死んだところで意味をなさない。)

と、ラルガードは心の中で思う。

 ラルガードの両親は、行政官にラルガードがなった歳に病気で亡くなっており、結婚しているわけではないし、彼女がいるわけでもない。だからこそ、自分がラーンドル一派に殺されたところで、何も残らないと考えている。ラルガードに家族や血の繋がっている者は誰もいないのだから―…。守るべき人がいないからこそ、このように恐れることがない。このような言葉もラーンドル一派に向かって言うことができる。

 (チッ!! こいつ、俺の裏の部隊を使って始末した方が、得だな。)

と、メタグニキアは心の中で思う。

 だけど、メタグニキアは気づいていない。

 もし、仮にラルガードを暗殺した場合、返って、ラーンドル一派が疑われる可能性を拡大させることになり、何とかもみ消すことに成功したとしても、公文書の管理官側がラーンドル一派を怪しむことになり、懐疑心を抱くことになる。表面上は、ラーンドル一派の実力のために従ったとしても、ラーンドル一派に対する恨みがなくなることはないどころか、日に日に膨らむことになり、ラーンドル一派が弱ると、すぐにでも反抗勢力になることは避けられない。

 そこまでの思考をメタグニキアおよびブレグリアはできない。短気の最大限の利益ばかりに目を向け、長期的な利益に目を向けることができない。それを大まかに推測的な比較を正確にすることができない。

 ゆえに、彼らは短期的な利益を主張してばかりして、自らがピンチに陥っていくことに気づきもしないこともある。悲しいことに―…。

 ハルギアは―…、

 (……………あの公文書管理官を殺したとしても、ラルガード(あいつ)以外の公文書管理官に恨まれることは避けないといけない。奴らは頭が回転が速い。確実に、俺らが強行で排除しようものなら、世論操作はしないにしても、周り、特にリーンウルネの派閥がそのことを広めることを知っていやがる。ここは、メタグニキア様とブレグリア様を説得しないと―…。)

と、心の中で思う。

 ハルギアにとっては、溜息でしかない。

 それでも、説得しないといけない。

 ラルガードを暗殺してしまえば、ラーンドル一派に罪がきせられ、最悪の展開になる可能性が存在するのだ。説得も後ではあるが、重要なことである。

 「わかりました。」

と、ハルギアは受け入れるのだった。

 ラルガードの意見を―…。

 それをメタグニキアとブレグリアは、満面の笑みで受け入れるのだった。何かを企んでいるのではないかと周囲に思われても仕方ないと思わせるほどに―…。

 (うわ~、こやつら、この公文書管理官の抹殺のことしか考えていないのじゃろう。哀れ―…。しばらくの間、儂の影の方に見張らせるとするかの~う。)

と、リーンウルネは、心の中で呆れるのだった。

 そう、リーンウルネは、完全に理解できてしまったのだ。メタグニキアとブレグリアがラルガードを始末しようとしているのを―…。それを現実に実行してしまえば、どういう結末になるのか、そのことで一番になるそうなものではなく、メタグニキアとブレグリアにとって好都合な妄想が現実になるのだと思っているのだろう。リーンウルネからしたら、アホくさ、としか思えなかった。

 リーンウルネは、同時に、もしも、ラルガードの暗殺が実行されるのはあまり宜しくないと考えて、自らの影に見張らせるようにするのだった。

 そして、現実に、ハルギアが説得に成功したのか、ラルガードの暗殺事件は起きなかった。

 話を戻し、話は進んで行くことになる。

 「私に対する用件は終わったので、公文書棟へと帰らせていただきます。では―…。」

と、ラルガードは言うと、すぐに交渉がおこなわれている部屋から出て行くのであった。

 騎士団側としては、偽造文書の証明がなされて、少しだけ安心する。

 だけど、気を緩めるべきではないということが理解できるので、表情に出すことはしなかった。

 (これで、本格的な交渉へと移行することができる。ミドールという人間の危険性はリーンウルネ様に伝わったことだ。交渉を有利に進められる。)

と、フォルクスは思う。

 フォルクスは、ここから本番の交渉になってくると思うのだった。

 ハルギアに関する偽造文書の処分を下すほどの権力を騎士団も、リーンウルネの持っていない。なぜなら、ハルギアに処分を下そうとする場合、確実に、ラーンドル一派が強硬的な方法で、それを阻止してくるのは分かってきているし、これは世間の明るみに出にくい以上、難しい。

 権力というものを使えば、このような自らの違法行為をももみ消すことは可能であるが、それはただ、起こるべき処分を後に繰り越したに過ぎない。それを繰り越せば繰り越すほど、発覚した時のダメージはかなりのものとなる。権力を持っている者はそのことを理解しているかどうかは分からないが、それでも、本能的に、自らの不利になることイコール世間に晒してはいけないことだという考えに基づき、とにかく不都合は隠そうとする。権力者の習性かもしれない。

 「では、ハルギア様が提示した文書は偽造ということで、こちらとしても大きな騒ぎにしたくないので、その偽造文書の製作を見なかったことにする代わりに、騎士団の騎士団長は私、フォルクスが就任することに賛同いたしますよねぇ~。」

と、フォルクスはここで、ラーンドル一派に圧をかけるのだった。

 これも駆け引きであることを理解している。

 フォルクスは、交渉の場に出てくることがほとんどないが、戦闘経験から相手を倒すにはどうすれば良いのかを理解している以上、ここが攻め時だと判断する。ハルギアのミスを利用して、まず、自らの騎士団の騎士団長にすることを承認させる。後で、裏切られないように、リーンウルネの言葉を待つ―…。

 そして、フォルクスの意図をすぐに理解できたのか、リーンウルネは言う。

 「そうじゃの~う。ミドールは、素行に問題があったということじゃ。それに、ミドールを騎士団の騎士団長に就任させることは犯罪者を就任させることになるようじゃの~う。先の戦争、騎士団長のリーウォルゲを暗殺したのは、ミドールなのではないかと思われる情報が儂のところに上がってきておるのじゃが。勿論、嘘だと儂は信じたいがの~う。」

 リーンウルネは、ここでラーンドル一派にとっての弱点である情報の一つを投下する。

 リーンウルネも今回のミラング共和国とリース王国との戦争において、軍隊に自らの息のかかった者を派遣してはいないが、戦争に誰も派遣しなかったわけではなかった。そう、影の者たちを何人も派遣しており、身の危険のあったリーウォルゲにも派遣されていたのであった。そして、影の者の一人が、リーウォルゲがミドールに暗殺されるシーンを見ていたのだ。その一人は、戦闘ではミドールに勝つことはできないが、ミドールに気づかれることなく、後を付けることは簡単なことだ。一芸に秀でているというわけだ。

 そして、今回、その一人がリーンウルネにその情報をあげている。

 リーンウルネは、今の自らの言葉を言いながら、ラーンドル一派の表情を観察するのだった。

 そのことにラーンドル一派側も気づきはしたが、ほんの一瞬、気まずそうな表情をするのだった。

 (なぜリーンウルネが知っていやがる!! いや、俺らを貶めようとしているデマだ。動揺しなければ良い。)

と、ハルギアは心の中で思う。

 なぜ、リーンウルネがリーウォルゲの暗殺に関して知っているのかは理解できないが、それでも、適当に言っているだけだと思う。動揺すれば、リーンウルネの思うつぼであることを理解させられるのだった。

 (クッ!! なぜ、リーンウルネが知っていやがる。見られていたのか!!! 儂らのエルゲルダ領のミラング共和国への割譲の責任をアールトンに押し付けるため、そして、戦争での敗北の責任を騎士団の騎士団長にきせるために、ミドールのリーウォルゲを暗殺したのに!!! 見られていたなんて!!! ミドールの奴、後で処分した方が良いな!!! メタグニキアの野郎もついに―…。)

と、ブレグリアは苛立つ。

 ミドールからの報告を聞いているブレグリアは、リーウォルゲの暗殺に成功したことに対して、このように、リーンウルネに知られていることを聞かされていないのだ。ミドールが気づいていないだから、ミドール側としてもそのような報告をすることはできない。

 そのことにブレグリアは気づかない。

 彼は、ラーンドル商会のトップになる家に生まれたというだけで、歴代のラーンドル商会のトップになってきた者たちよりも、一番、能力だけでなく、頭脳の面でも劣っていることに間違いない。

 ブレグリアは、さらに、メタグニキアすらも処分しようと考えるのだった。メタグニキアの私設部隊の中で一番優れているからこそ、今回のリーウォルゲの暗殺任務を授けたというのに―…。

 ブレグリアは、苛立つ表情をわずかであるが見せてしまうのである。

 「そんな話は嘘に決まっておる。なぜ、我が国の騎士団の騎士団長を暗殺するようなことをする必要がある。王国の軍事力を弱体化させるだけだ。」

と、メタグニキアが言う。

 これは必死の言い訳であり、兎に角、通じてくれることを祈るのみだ。

 リーンウルネは、

 「そうじゃの~う。リース王国を弱体化させるような政策を採用する訳がないの~う。アルデルダ領をミラング共和国側に割譲して、財政上のマイナス要素を解決するぐらいには、頭が回るのじゃろう。そんなことはしないと思っているおるが、エルゲルダを追い出し、レグニエド王の不信をかったとしても、リース王国のためにそのような行動をとるのが一番だと考えるじゃろう。」

と、言う。

 これは、ラーンドル一派が自ら不利になるかもしれないが、リース王国にとっては利益となることを言っている。

 リーンウルネの狙いから言わせると、ラーンドル一派は必ず自らの一派にとって、不利になるような選択肢をすることは有り得ないと考えている。そのことをどちらの答えにしろ確かめることができる。つまり、表情を見て―…。

 「ああ、そうだ、そうに決まっている。リース王国にとって利益となる選択肢をすることが一番の選択なのだから―…。」

 (クソッ!! リーンウルネめ!!! 儂らにこの言葉を言わせるように仕向けたな!!! いつかこいつを追い出してやる!!!)

と、ハルギアは怒りを抑えながら言う。

 その言葉に、メタグニキアも、ブレグリアも目を泳がせながら頷くのだった。

 明らかに、リーンウルネの言った言葉に本当の意味で賛成しているわけではない。勿論、嘘だ。ある意味で人間らしい。

 ラーンドル一派は、自らの利益のために動くことが第一であり、それ以外の利益のことなど考えるはずもないし、自分達が最悪な状態にならないことが一番大事なのである。

 そういう意味では、リーンウルネに嵌められたというのは正しいことだろう。

 「そして、ならば、リース王国の騎士団の騎士団長はフォルクスが就任するのが騎士団にとっても、リース王国にとっても利益になるだろう。だけど、騎士団の兵力を補わないといけないとなると、臨時に採用試験を開始して、兵士の方からも優秀な者を数多く出す必要があるの~う。その中に、ラーンドル一派の息のかかった者たちの中で、優秀な者を試験に出せば良いの~う。」

 そう、これがリーンウルネの解決案であり、素早く組み立てたものではない。

 騎士団の被害を聞いた時、リーウォルゲがミドールによって暗殺されたという報を聞いた時から、考えたものである。

 騎士団の再建と同時に、リース王国のダメージを最小限にして、素早く回復させるために―…。

 双方ともに、頷くしかなかった。

 「はい、そのようにいたします。」

と、フォルクスは返事をし、

 「わかった。」

と、ブレグリアは悔しがりながら返事をするのだった。

 こうして、リース王国の騎士団の新たな騎士団長はフォルクスに内定するのだった。



番外編 ミラング共和国滅亡物語(60)~第一章 勝利はときとして毒となる(10)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


次回ぐらいで、この交渉も終わるとは思います。

それ以後は、ミラング共和国の動静が主要な内容となっていきます。

では―…。

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