番外編 ミラング共和国滅亡物語(58)~第一章 勝利はときとして毒となる(8)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、リース王国の騎士団の新たな騎士団長を決めるための交渉がおこなわれ、第三者としてリーンウルネが仲裁に入るのだった。
「儂の部下の中にも、こういう文書に精通している者がおっての~う。」
と、続ける。
リーンウルネのハルギアの今、見せている文書を見たことがないと、言っているのだ。
そのことに対して、ハルギアはすぐに言い始めるのだった。
リーンウルネを馬鹿にした感じで―…。
「リーンウルネ様が見なかったのは、たまたま騎士団の一個人に関する公文書だったからでしょう。王妃であらせられるリーンウルネ様も普段から忙しい身。騎士団一人に対する追放処分に関して、興味を示されることもないし、リーンウルネ様の部下が知らなくてもおかしくはないのです。」
ハルギアは、すべての文書を把握できる存在なんているはずがない。そのように思っているし、普通の一般人の判断からしてそうだ。
リース王国とその周辺地域における公文書の量に関しては、かなりな量であることに間違いはないが、それでも、現実世界における日々発生する公文書と比べれば、圧倒的に少ないと言える。むしろ、大帝国などでなくては、現実世界以上の公文書の量が発生することはない。行政規模の大きさによるということなのかもしれない。
それでも、公文書の量は国家および公的機関の歴史の積み重ねである以上、歴史の長いリース王国では発生してしまうものである。現実世界における日本のように過去のある時期において、公文書が私文書になるという現象が発生することは、国家が滅亡しないことには発生する可能性はかなり低い。公文書の重要性を国家が認識しているからである。現在の日本では公文書の重要性は認識されているであろうが―…。
そういう意味では、リース王国のすべての公文書をリーンウルネが把握できるわけがないと考えるのが当たり前であろう。
だけど、リーンウルネとて、何もすべてのリース王国の公文書を把握しておく必要はないと判断することができるし、何を探すべきかは推測することができる。
「そうかの~う。だけど、騎士罷免権限に関する文書の保存は城ではなく、騎士団内と……後は城の中にある公文書棟のだったはずじゃの~う。なら、騎士団内だけでなく、公文書棟の職員にでも聞きに行くべきじゃの~う。それに、騎士団の本部内だとハルギアが見せておる文書とは別の物が発見されるからの~う。じゃから、中立性の高い公文書棟にいる専門の職員に頼んで―…。じゃあ、呼んできてくれないか。ミドールの騎士罷免権限に関する文書もしくはミドールの騎士団追放処分に関する文書があるかも言っての~う。」
と、リーンウルネが言う。
その言葉を聞いたのか、ドアがバタァと開き、誰かが出て行くのだった。
そう、ドアの外に出て行った人物は、リーンウルネの護衛の中でも影の人物であり、その影はもう一人、今の部屋の中にいる。
(リーンウルネ様も持っているのか―…。まあ、想定することが可能であろうが―…。まあ、リーンウルネ様は一人しか護衛を付けていない可能性が―…。いや、私たちにも気づかれないようにしていたのだから―…、もう一人―……、いや、いないなら、無理矢理、話を進めても大丈夫。)
と、ハルギアは心の中で思う。
ハルギアとしても、リーンウルネが自らの裏の者と一緒にやってこないはずがない。というよりも、それを忘れてしまっていることに、ハルギアの残念さがある。
いや、メタグニキアも、ブレグリアもそうかもしれない。
騎士団の側は、そこまで驚くこともないし、リーンウルネクラスの人間に、護衛が一人もいないということは有り得ない。誰かしら護衛をする者と一緒に行動するであろうし、一人に見せても、影から護衛している可能性は十分にあり得る。
まあ、騎士団側も当時は知らなかったであろうが、リーンウルネの持っている天成獣の宿った武器は、攻撃をすることはできないが、守りに関しては絶大の力を発揮するという特殊なものだ。ゆえに、本来、リーンウルネに護衛というものは必要ない。リーンウルネ本人もそのことを理解しているが、形の上では必要であったりするのだ。不意を突かれるという可能性がなくなっていないので―…。
一方で、騎士団の側は、リーンウルネが天成獣の宿っている武器を持っていて、扱えることを知っていることには知っている。だけど、以上のことから、能力とか性質が何かまでは分かっていなかった。
そして、ハルギアは話し始める。
「これは、公文書棟から私が申請し、借りている物であり、事実上、本物の公文書であるということです。リーンウルネ様の影が確認する必要もないことでしょうが―…。信用度を上げるためには、必要なことでしょう。だけど、すぐに戻って来なければ―…。」
ハルギアも馬鹿ではない。
だからこそ、この部屋から公文書棟に向かい、そこから専門家をこちらへと向かわせたり、例の該当する文書を確認するのに、時間がかかることは想定することができる。
ならば、話を進めた方が得だと―…。
トントントン。
(えっ!!)
急にノックの音がなるのだ。
(さすがに、こんなすぐに来たりはしないだろう。)
ハルギアにしても、メタグニキアにしても、ブレグリアにしても、あり得ないと思うぐらいである。
騎士団の側にしてもそうである。
ゆえに―…。
「あの~、すみません。リーンウルネ様に呼ばれて来ました。」
と、ドアの外から声が聞こえる。
「わかった。入ってくれるかの~う。」
と、リーンウルネが言うと、すぐに、ドアの外にいた者が中に入ってくるのだった。
そして、緊張しながら、騎士団側、ラーンドル一派側に頭をぺこぺこしながら、リーンウルネの方へと向かって来るのだった。
「リーンウルネ様、ミドールの騎士団追放処分に関する文書ですね。そのことに関して、結果を申し上げさせていただきます。」
「わかった。」
「今回の該当文書は、ミドールの騎士団追放処分は、日頃からおこなわれていた騎士団員への暴行、および、スラムでの窃盗、暴行、脅迫、それだけに留まらず、スラムを勝手に私兵として扱っていることなど多くの騎士団の規則に関する違反を犯しており、かつ、証拠はかなりの量を提出されており、その文書は、影さんに持っていただいただけでも、文書の枚数は二十枚以上あり、かなり正確な証拠となっております。後、影さんから聞いたのですが、騎士罷免権限の行使も妥当どころか、遅いと言っても過言ではありません。過去の騎士罷免権限によって処分された騎士団の団員の中でも、ミドールの騎士団追放処分はだいぶ甘い処分だったと言えなくもありません。後、ハルギア様のお持ちになられている文書は、日付も正確に記載されていますが、当時の騎士団長の筆跡とは異なりますね。当時の騎士団長の書類は大量に見させてもらいましたが、確実に違うと言えますね。」
専門家は、ミドールの騎士団追放処分は妥当であり、むしろ、甘い処分だと言い、かつ、ハルギアの文書を偽物だと言ったのだ。
ハルギアとしては、怒りの感情しか湧かない。
「何を言っているのだ!!! テメーは、本当に公文書の専門家なのか、もしくは、リーンウルネが仕立てた偽物だな!!!」
ハルギアにも、そのように言える根拠がある。
だって、公文書棟から行って戻ってくるのに、三十分以上はかかる。それに、リース王国の城の中はかなりの広さであるし、その中でも公文書棟は政務をおこなう場所からかなり離れた場所にあるので―…。
だけど―…。
「そう、ハルギアが疑ってしまうのも無理はないじゃろう。だけど、これは現実じゃ。儂の護衛の中にはの~う。行ったことのある場所なら、すぐにでも影移動ができる能力者がおるのじゃ。そやつは、一緒で影に潜って移動するのじゃ。まあ、今回は、外に出てもらってから、人のいない場所で発動したのじゃろう。ということで、ハルギア、お主も体験してみるかの~う。」
と、リーンウルネは言う。
そう、ここで、リーンウルネは嘘を言っていない。嘘を言う気もない。事実である以上、堂々とした態度で言った方が良いに決まっている。
それに、今から体験させることも可能なのだから―…。
そして、その人物がドアを開けて出て行ったのは、あえて、そのようにラーンドル一派達に見せることによって、このような油断を誘うためである。本当に、恐ろしいとしか言いようがない。
「チッ!!」
ハルギアは舌打ちをする。
リーンウルネが不正をしていることの証拠をつきつけて、認めさせることができるのであれば、ラーンドル一派にとって有利な仲裁にもっていくことができたのであるが―…。失敗である。
そして、リーンウルネは、
(ふむ、これで、ハルギアの持っていた証拠は意味をなさなくなるの~う。)
と、心の中で思うのだった。
だけど、リーンウルネもまだ、ハルギアがここで諦めるとは思えない。むしろ、ミドールの騎士団追放処分に関する文書および、そこから連れてきた者が職員であるかの真偽を問い詰めてくる可能性もあった。
「ふん、こいつがこの城の公文書棟の中にいる専門家であるのは、本当か。名を言ってみろよ。」
と、今度はブレグリアが言う。
ハルギアは、顔を青ざめるのであった。
ハルギアの方も、すぐには思い出すことはできなかったが、それでも、ブレグリアが今の言葉を言おうとしている段階で、思い出してしまったのだ。
そして、さっきの文書偽造がバレて、再度、ラーンドル一派の側がミスを犯せば、どんどん騎士団側に有利な結果になってしまうのだ。そのようなことになれば、ミドールを騎士団の騎士団長にして、ラーンドル一派にとって都合が良い騎士団に変えることができなくなってしまう。
追い詰められるなかで、解決策となる結果になることもあるが、残念ながら、今回のメタグニキアが言っていることは、その逆のパターンに該当する。
それは、見ていくなかでわかっていくことであろう。
「私は、リース王国の行政機関、公文書管理官のフォーマー=ラルガードですが―…。五年前ほどから、公文書の専門家として、リース王国にちゃんと正式に雇われています。ラーンドル一派の方々でも、私を陥れようとしているのなら許す気はありません。」
と、強気で言う。
ラルガードの経歴を簡単に言うのであれば、公文書の専門家であることは事実だ。リース王国の行政官として十五年前ほどに試験に受かり、行政官として仕事をし、その中で、ラーンドル一派の馬鹿な行動に嫌気が差して、ラーンドル一派の息がかかっていない、公文書棟の管理官の方へと見習いとして入り、五年前に本人の言う通りに公文書棟の正式な職員となった。その期間は五年ほどである。
公文書の管理官は、リース王国の中でもかなりの専門職であり、文書の管理および公文書に書かれている内容に関して精通していることが必要とされる。ゆえに、正式な公文書の管理官になるのはかなりの狭き門であり、見習いであっても、十年で管理官に正式になれるのであれば、秀才として褒め称えられるほどだ。要は、ラルガードはかなりの頭脳の持ち主であり、暗記力に関して、ずば抜けていると言っても良いし、本人も自信を持っている。
これほどの専門性が高い以上、ラーンドル一派に与するほどの愚かな選択を犯すことは少ない。決してないと言うことができないのは、どんな頭が良くても、人という存在である以上、過ちを犯す可能性を否定することができないからである。
そして、ラルガードも例に漏れず、ラーンドル一派に従う気はない。過去の行政官としての経験からも言えることである。
「ふん、公文書管理官ごときが―…。」
と、ブレグリアは文句をたれるが、それでも、ラルガードの圧にビビッてしまうのだった。
「そして、リース王国の宰相やそれに関連される方々が虚偽の文書を作成されるのは、私たち、公文書の管理官にとって許されざる行為です。公文書が歪められるということは、国家、あなた方が支配している国の国民からの信頼を裏切る行為であり、かつ、そこに溝を築いてしまい、乗り越えられないようなことになってしまえば、リース王国は崩壊へと向かうことになります。今、リース王国の宰相や副宰相がしていることは、国を滅ぼす行為でしかないのです。もし、国の崩壊により混乱を引き起こした場合は、どのようにして責任を取られるつもりですか。」
と、ラルガードは毅然とした態度で言う。
ラルガードが言っていることは、至極当然、頭の中に浮かんでも良いことである。だけど、人は完全ではないし、完全になれない以上、このようなことが浮かばないことがある。たとえ、ラルガードとしても逃れることができないことであるが―…。
そして、ラーンドル一派の側は、怒りの表情をさせているのが分かるが、ここで暴言のようなものを吐けば、より不利になることを理解することができたのだろうか、暫く、感情を抑えようと必死になるのだった。
(………公文書管理官という存在には初めて会うが、ここまで言うのか―……。俺ら、騎士よりも信念が強そうというか、頑固だな。)
と、ラウナウは心の中で驚くのだった。
ラルガードの言葉に対して―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(59)~第一章 勝利はときとして毒となる(9)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
新たな騎士団長の交渉は中盤から後半戦に突入していくと思います。
『水晶』も文字数が200万を超えて、かなり長いなぁ~、と思っています。というか、第1編がここまで長くなるとは―…。投稿開始直後には思ってもみなかったことです。
最近は、いろいろと疲れがあるのか、執筆ペースが落ちているような感じです。4月後半まで行けば、休めるゴールデンウィークで休めるかもしれないので、そこまで無理せずに頑張っていきます。
では―…。