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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
403/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(57)~第一章 勝利はときとして毒となる(7)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、リース王国の騎士団の新たな騎士団長を誰にするのかということで、騎士団側とラーンドル一派による交渉がおこなわれ、そこにリーンウルネが第三者として仲介を務めることになった。


前回の分で、次回の投稿日を書いていなかったと思い、誠に申し訳ございません。

書き忘れが起きないようにチェックしていくつもりです。

 「我々としては、騎士団の騎士団長にミドールを推薦したい。」

と、ハルギアが再度言う。

 続けて、

 「ミドールは、メタグニキア様の私設部隊の中で優秀な成績をおさめ、かつ、今回のミラング共和国との戦争の中で亡くなられたリーウォルゲ元騎士団の騎士団長と実力は互角であり、現在のリース王国の騎士団は同戦争で多くの者を戦死させている以上、我々としても一日でも早く騎士団を再建しないといけない。そのためには、部外者であるが、実力者でないといけない。さらに、兵士の中でも剣術に優れている者たちを騎士団に入れて、騎士団をすぐにでも強化しないといけない。そうすれば、周辺諸国も迂闊に、我が国に手を出してこないでしょう。怖れ(おのの)いて―…。」

と。

 ハルギアは、リーンウルネにもラーンドル一派がどういう理由で、ミドールを騎士団の騎士団長に推薦しているのかを示しておく必要がある。その理由は、ラーンドル一派からしたら真面なものであることに確信を抱くことができるし、騎士団としては、ラーンドル一派の意見を受け入れるしかない。なぜなら、今回のリース王国とミラング共和国との戦争でかなりの失態を演じ、かつ、騎士団のトップが殺されたのだから―…。

 目の前で起こった確認できる事実を繋げて、矛盾がないと周囲に思わせる解釈ほど、例え確認できない部分において矛盾が生じる場合でも、周囲はその解釈を信じてしまう。人とは、自らが知っていること、思い出せることの情報によって、物事を判断しているからであろう。

 ゆえに、そのことを知っているハルギアやその下にいるそこそこ狡賢い者たちが協同で、起こった確認できる事実を基に組み立てたストーリーのなかに、騎士団側から矛盾を指摘されかねないと思われる部分を徹底的に排除して、臨んでいるのである。そして、排除できる部分を自分達で見つけることができたとしても、気づかない部分に関しては、排除できているわけではないので、完全になっていることはないのだが―…。

 そして、ハルギアたちは、自らの優位が変わることないと思っている。

 いくらリーンウルネであったとしても、今回のリース王国とミラング共和国との戦争に、人を派遣していないことはわかっている。今回の遠征に参加した軍人の中に、リーンウルネと近しい関係にある人物は一切、いなかった。そこから、ハルギアたちは、リーンウルネは今回の戦争から逃げたと思っている。

 だからこそ、逃げたことを責めていけば、まだ、リーンウルネにラーンドル一派が有利な交渉結果を与えないといけないことになると、思っている。そう、考えた方がラーンドル一派に属する者たちにとって、幸せな気持ちになれるものである。不快という名の、あのいやらしくて、何も良いことをもたらさないような感情なんていらない。ラーンドル一派が必要とするものではない。マゾではないのだから―…。

 一方で、騎士団側が言い始める。

 「リーンウルネ様。今回、私たち、騎士団の騎士団長に関しては、騎士団の者たちとの長く築き上げてきた信頼関係と、人格的な観点から、早期の騎士団の再建は必須であり、騎士たちとの余計な衝突を回避すべく私、フォルクスが副団長から内部昇格させることにいたしました。騎士団内の同意も得ています。ニナエルマ。」

 フォルクスは、自らが騎士団長になる正当性を説きつつも、それが騎士団の同意を得ていることを言い、ニナエルマに問いかける。

 ニナエルマはその意図をすぐに理解することができるし、できないわけがない。

 「はい、我々、騎士団としても、ミドールではなく、副団長であらせられるフォルクス様にリース王国の騎士団の騎士団長になってもらい、一日でも早く騎士団の再建と同時に、我が国、リース王国における軍事力の再建を早期に達成して、周辺諸国に攻められないようにすることができるでしょう。」

と、ニナエルマは淡々と答える。

 そこに嘘がないと思わせるように、リーンウルネに対して視線を向けるのではなく、ラーンドル一派の一番上のブレグリアの方へと視線を向けるのだった。自らは正直に正しいことを言っているのであり、ラーンドル一派よりも優れた意見であることを示そうとしているのであった。

 これが通じるのであれば、ニナエルマも苦労しないだろうが、ラーンドル一派に対して、苛立ちしか生み出すことはない。

 それもそのはずだ。優れていることを示して、ラーンドル一派の冷静さを奪い、リーンウルネがこちらの味方をしやすくするためなのだから―…。

 まあ、途中の過程という理由は異なったにせよ、結論は同じになったというわけだ。

 (チッ!! 騎士のくせに偉そうにしやがって!!! まあ、リーンウルネが騎士団の方に味方をしたいかもしれないが、思い出せば、リーンウルネは今回の戦争を逃げたのだ。だからこそ、我々を味方するしかないのだからなぁ~。)

と、心の中でブレグリアは思う。

 ハルギアもメタグニキアも、似たようなことを思っている。

 ここで記したとしても、似たようなことなので、あまり意味のないことだとしか感じられない。

 要は、ブレグリア、メタグニキア、ハルギアは、騎士団とリーンウルネを見下しているということだ。

 だけど、そのような余裕があるとは、現実、思えないのだが―…。

 (ふむ、儂としては、騎士団側に有利な裁決を下したいのじゃが、これはいろいろと探っておく必要があるの~う。それに、こちらは、ラーンドル一派ども以上に、騎士団以上に今回の戦争の情報を知っておるからの~う。さて、その情報をどこで使うべきじゃろうか。促すとするかの~う。)

と、リーンウルネは心の中で方針を決める。

 この方針は、リーンウルネの情報が裁決によって、重要な役割を果たすことで、リーンウルネ側にとっても得になるような決着にする必要があるからだ。ここで、自らの勢力の拡大が達成されるとは思っていないが、戦争ということなので、間違った情報による裁定をおこなってしまうと、大変な事になることを理解しているからだ。人は、自らの優位のために嘘をつくし、自らの属す陣営のために、その有利な情報を流すのだから―…。

 そういうことを勉学だけじゃなく、リース王国の国内の紛争やクルバト町での虐殺事件で散々、理解しないといけないことをわかっている以上、学習しないという選択肢は有り得ない。

 そして、リーンウルネは言い始める。

 「では、ラーンドル商会のトップのブレグリア、宰相のメタグニキア、副宰相のハルギアたちに聞こう。お主らが勧めるミドールという人物は、リーウォルゲにも匹敵するほどの実力を持ちながら、なぜ、メタグニキアの私設部隊に属しておったのじゃ。それに、それほどの優秀な者なら騎士団にとどまっていることも十分あろうに―…。その理由を説明していただきたい。」

 このリーンウルネの疑問に対する答えは、用意されている。

 ラーンドル一派の側であっても、ミドールの素性を聞き出すことぐらいわかっている。騎士団の騎士団長のトップにしようとしているのだから、その人物が危険な存在ではないかを確かめる必要がある。

 そのことを考えないわけがない。

 「ええ、リーンウルネ様―…。ミドールは、今回の戦争で亡くなられたリーウォルゲ騎士団長と同じ実力を有しながらも、過去の騎士団長の中の一人に、ミドールを気に入らない者がいて、ミドールを素行不良という謂れのない罪をきせて、騎士団から追放したそうです。そして、あてもなく彷徨っていたミドールをメタグニキア宰相が拾い、私設部隊に所属させたのです。ミドール様は、このメタグニキア様の私設部隊でそれはもう目覚ましい活躍をされているのです。人格的にも申し分ございません。素行不良というのは嘘なので―…。」

と、ハルギアは言う。

 これは想定されている解答であり、文書を読み上げるように言えば良い。現に、ハルギアは紙の中から該当する物と箇所を探し出してから読み上げたのだから―…。

 (まあ、騎士団側は、ハルギアの素行不良に関して攻めてくると思いますが、まあ、こちらに偽造した正式書類があるのだから―…。)

と、ハルギアは心の中で考える。

 ハルギアとしても、正式な騎士団の書類、公文書を有していないわけではない。つまり、公文書を書き換えることなんて造作もない。副宰相の権威というものは、それだけ凄いのである。だけど、王族や宰相には及ばないが―…。

 「そうかの~う。ふ~ん、では、騎士団側からは、今の副宰相のハルギアの発言に関して、意見はないかの~う。」

 リーンウルネも形式的に聞くのであった。

 それには、騎士団側としては、反論があるのは当たり前のことだ。

 「ミドールの素行不良は事実です。私も騎士団時代のミドールを見てきましたが、見回り途中で取り締まった者たちから金銭を奪ったり、スラムの中で、暴行を振るっていたという情報も騎士団側に入ってきており、さらに、騎士たちにも気に食わなければ暴力をふるっていました。これは、騎士たちに事情聴取を第三者のリーンウルネ様の派閥の人々がおこなえば、すぐにわかることでしょう。それに困り果てていた当時の騎士団長が、最終的に苦渋の決断でミドールを騎士団から追放したまでです。当時の騎士団に落ち度など存在していません。ミドールの騎士団追放処分に関しては―…。」

と、フォルクスは言う。

 フォルクスは、はっきり言うことができる。

 実際に、同僚に恫喝をしていたミドールを見ているのだから―…。

 それに、ちゃんと証拠を積み上げているし、当時の騎士団の中に所属していた者たちに事情聴取をすれば分かることである。ただし、ラーンドル一派がその事情聴取をおこなえば、確実に、改竄されることがわかっているので、リーンウルネの派閥に属している者という言葉をしっかりと言ったのである。この部分がかなり重要であると、フォルクスは理解している。

 その言葉に関して、当たり前のように、ハルギアは反論する。

 「だが、こちらの公文書を見ていただきたい。」

 ハルギアは、ある書類を一枚、提示するのだった。

 騎士団側に奪われないようにするため、ハルギアは持ったまんまフォルクス側に移動し、それを見せるのだった。

 「!!!」

 フォルクスは驚くのだった。

 その表情を見たハルギアはしてやったりと思った。

 そう、フォルクスが驚く表情は、ハルギアに反撃の隙を与えることになった。

 「これは、当時ミドールが騎士団から追放されることを決定した時の文書。ちゃんと日付は、当時のものであり、かつ、追放理由はこう書かれている。


 ―以下の者を騎士団より追放処分とする。

  名は、ミドール。

  以上の者は、騎士団内において、騎士団長の騎士罷免権限を適用し、以上の処分を下す―


 このように、当時の騎士団長は、騎士団長が所有している騎士罷免権限を違法に適用して、ミドールを騎士団から追放処分にしたのです。現に、メタグニキア様の私設部隊では、品行方正であり、部隊の隊員たちから信望の眼差しを受けているのは事実です。それに、騎士団長の過去のおこないを騎士団に所属している人間が言えるわけがないでしょ。それを認めてしまえば、騎士団としての信頼が地に墜ちてしまうのだから―…。それに、騎士罷免権限は騎士団の規則によると、証拠がなければ使ってはならないとされるものであり、かつ、騎士罷免権限を行使する時、書類と同時に証拠書類の提出が決まっているはずです。だが、その文書がいくら探しても見つからないのです。どういうことですか? さあ、説明してください。それに、フォルクス副団長はさっき、この文書を見せた時に、驚かれているので、私としては反論がなければ事実だと断定してしまいますが―…。」

と、ハルギアは証拠を示し、煽る。

 ハルギアとしても、偽造文書だと気づかれるのではないかとヒヤヒヤとしているが、それでも、これを偽造だと証明することはできない。なぜなら、偽造した証拠はすでに捨て去っているのだ。

 フォルクスも若干では焦りの表情を見せるが、すぐに冷静な表情となる。

 ニナエルマは、

 (嵌められた!! ハルギア副宰相が出した文書は、偽造文書の可能性が高い。だけど、証明する方法がない。どうやって反論する。こちらとしては、騎士団の本部に戻って、ミドール追放に関する公文書を持ってくれば良いけど、それを許してもらえるとは限らない。自らの優位を絶対に手放すことがないのが、ラーンドル一派だ。どうする。)

と、心の中でどうしようもなく、追い詰められるのだった。

 だけど、騎士団の本部に戻ることができない以上、文書があるかどうか、それを確かめる術がないし、逆に、ラーンドル一派が騎士団の本部で、ミドール追放処分に関する公文書の調査に乗り出すかもしれない。そうなると、ラーンドル一派が偽装した文書と本物の文書をすり替えるかもしれない。そうなってしまえば、最悪の展開でしかない。

 そんななか―…。

 「ふむ、儂は、ハルギアの今、持っている文書を見たことがないの~う。」

と、リーンウルネが言い始めるのだった。

番外編 ミラング共和国滅亡物語(58)~第一章 勝利はときとして毒となる(8)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では―…。

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