番外編 ミラング共和国滅亡物語(56)~第一章 勝利はときとして毒となる(6)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、騎士団側とラーンドル一派の側で新たなリース王国の騎士団の騎士団長を誰にするかという交渉が開始されるが、そこにリーンウルネが現れて―…。
……………、緊迫した空気が流れる。
そして―…。
「儂を敵に回す愚かさも知らないとは!!! 今すぐにでも、リーンウルネ、殺してやる―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
すでに、ブレグリアに冷静さはない。
そして、メタグニキアとハルギアはビックリしながらも、返って、冷静になって、かなり自分達が危うい状況になっていることを理解するのだった。してしまうと言った方が良い。
そして、一国の商会のトップが言って良いような言葉ではない。
「落ち着いてください。ブレグリア様。このような発言は、ラーンドル一派にとっても、商会にとっても、失脚しかねません!!!」
と、ハルギアは、ブレグリアを宥めようとする。
ハルギアとしても、ブレグリアが失脚するようなことになってしまえば、ラーンドル一派および商会は壊滅的な損害になる。それぐらいにブレグリアは、ラーンドル一派および商会にとって、絶対的な存在である。ブレグリアのおかげではないが、ブレグリアがラーンドル一派を率いていることによって、権威的に何とかなっているようなものだ。
その権威がなくなることは、つまり、ラーンドル一派の崩壊を意味する。商会の方は別の人間をトップにすれば良いし、揉めて分裂するぐらいで、悲惨ではあるが、それでも、ラーンドル一派崩壊よりはましな結果になるであろう。
しかし、ラーンドル一派の崩壊は最悪の結果にすぎない。崩壊イコール終わりなのだから―…。
ラーンドル一派崩壊後、確実に、ラーンドル一派側の予測が正しければ、リーンウルネがリース王国における政治の実権を握ることになる。リーンウルネはリース王国における国民の人気および信頼が高いため、国民の側は確実に、リーンウルネに靡く。ラーンドル商会は商会としての実力は認められているが、それでも、好かれているわけではない。嫌われていると言っても良いかもしれない。
要は、好きか嫌いかのどちらか片方に向かわねばならないという問いがあった場合に、多くの者が好きの方に向かいたいのと同じである。つまり、リーンウルネの方を支持するというわけだ。
それを理解しているからこそ、メタグニキアとハルギアは、ブレグリアの失言を気が狂ってしまったことによる一時的なものであることにしようとしているのだ。
「そうです。今の発言は、撤回してください。取り返しのつかないことになります!!」
と、メタグニキアも必死だ。
その様子を見ながら、リーンウルネは、
(短気は損気じゃの~う。)
と、冷静に、今のラーンドル一派の者たちの状況を観察できるぐらいに、心の余裕がある。
一方で、騎士団側は、呆れかえっていた。
(ラーンドル商会のトップがこのような自分勝手な人であることは知っていましたが、今の失言は、さすがに撤回できないでしょうに―…。それに、こちらとしてはかなりラッキーどころか、自分達の言う通りに話を進めることができる。これは弱みだ。ただし、ラーンドル一派を追い詰めすぎないようにしないと―…。)
と、ニナエルマは心の中で思う。
今のブレグリアの失言は、騎士団としてはラーンドル一派および商会のトップの弱みを握ったということになる。だけど、追い詰めすぎるとラーンドル一派が暴走する可能性があり、最悪の場合は、メタグニキアの私設部隊を使って、騎士団の有力職にある者たちを暗殺してくるかもしれない。それを避けないといけないということだ。弱みを握っても、慎重に行動しないといけないことに変わりない。
ゆえに、呆れながらも、冷静になることができていた。
「ニナエルマ、どうする。」
と、こそこそとフォルクスが小声で話しかけてくる。
フォルクスとしても、今の状況を確認して、情報共有しておく必要があると判断する。理由は、今、ブレグリアを落ち着かせるのに、メタグニキアとハルギアが必死であるため、こちらの話し合いに気づかないと判断して―…。
そして、ニナエルマも小声で話し始める。
「慎重に行動しないといけないことに変わりはありませんが、こちらとしては、リーンウルネ様に仲裁していただいた方がプラスです。リーンウルネ様と提携するか今後の課題となりますが、リーンウルネ様と話し合える関係を作っておくのは、今の騎士団にとって必要な選択です。」
「わかった。私としても、リーウォルゲ団長亡き今、騎士団を守っていかないと―…。」
「フォルクス副団長がそのように思っているのなら、団長になっても大丈夫でしょう。ミドールを騎士団のトップさせるわけにはいかない。」
「そうだな。」
フォルクスとしては、リーウォルゲが亡くなった後の騎士団を、ラーンドル一派の思い通りにしたいとは思っていなかったし、彼らの好き勝手されると騎士団の評判も下がるだけでなく、リース王国の強さも下がっていき、周辺諸国に付け入る隙を与えることになる。
ミラング共和国と停戦協定を結んだからと言って、弱くなった国を守ってくれるわけではない。実際に、エルゲルダの馬鹿な政策のせいで、追い詰められたミラング共和国は、戦争好きな対外強硬派に実権を奪われることになり、今回の戦争へと到ったのだから―…。今後も、攻めてこないとは限らないのだから―…。
だけど、攻めてこないのに、攻めてくるという嘘を付く者たちもいて、それで、周辺諸国へ憎しみを植え付けようとしてくるので、前段の考えに関しては、注意をしておく必要があるし、相手側の情報を多角的に集めることを欠かさないようにしないといけない。
さて、話を戻して、フォルクスの一言で、ニナエルマはフォルクスが騎士団を率いても大丈夫だということを改めて確認することができ、かつ、ミドールを騎士団長にすべきではないと思うのだった。
それを見ていた、ラウナウは、
(こりゃ傑作だな。ラーンドル商会のトップは子どもが爺さんになったようなものか。それで良い面もあるが、今のは悪い面でしかないなぁ~。これで、こちらが優位な交渉となるわけだ。リーンウルネ様もこちらにある程度は有利にしてくるだろう。リース王国にとっての利益が分からないわけではないだろ。良く外に出られて、いろんな人と話しているのだから―…。)
と、心の中で確信する。
騎士団側にとって有利に結果になることを―…。
ただし、すべての面で騎士団にとって望ましい結果になるかと言われれば、そういうことにはならないであろう。
ラウナウの実家は商売をしている以上、リーンウルネが良く城の外に出て、いろんな人と話をしているのを知っている。ラウナウの実家にも何度も来ており、帰省すると、リーンウルネとの会話の内容が家族の中の話題に上がったりするので、リーンウルネがどういう人物か推測することができる。正確性が高いという面で―…。
そして、リーンウルネがリース王国にとって、リース王国に住む人々にとって、何が本当の意味で利益に繋がるのか、わからないはずがない。完全ではないにしても、ラーンドル一派よりは正確なはずだ。
ラーンドル一派の今、失言を発して周りから落ち着かさせられているブレグリアのような勉学も商人としても勉強もしていなさそうな者とは違い、リーンウルネはしっかりと勉学にも励み、常に情報を収集して考え、自らなりの結論を下し、失敗した時にはそのことに責任を感じることができるし、学ぼうとしているのだ。
人としての差は、天と地ほど開いている。いや、それ以上であろう。
数分後、メタグニキアとハルギアは、ブレグリアを落ち着かせることに成功し、交渉は再開されるのだった。
「さっきの発言は撤回させてもらう。儂もラーンドル商会のトップとしての仕事を夜遅くまでしておっての~う。リーンウルネ王妃ならわかるじゃろう。徹夜を何回もすれば、簡単に起こりやすくなるのも―…。」
と、ブレグリアは誤魔化しながら言う。
実際に、徹夜を何回もして、簡単に怒りっぽくなるかは分からないが、テンションがハイになることだけは確かであろう。
そして、ブレグリアは徹夜をしたことがこれまで、一回もない。なぜなら、ブレグリアの我が儘の大半を聞いてもらっており、さらに、寝たいと言えば、寝られるのだから、そういう徹夜をする必要がなかった。ゆえに、嘘ということになる。
ブレグリアは、さっきの発言を誤魔化さないと、リーンウルネが不敬罪を使って、ラーンドル一派および商会を潰しにかかるかもしれない。そのようなことをされたら、さっきの失言を騎士団側が聞いている以上、確実な証拠となってしまう。
リーンウルネは、ラーンドル一派を潰したがっているのだから―…。リース王国の本当の利益のためには不要な存在であることを理解しているがために―…。
ラーンドル一派が潰れれば、これまでおこなってきた自分達の犯罪的なものが、世の中に暴露されたりして、リース王国に住んでいる人々からの復讐を受けるかもしれない。そんな未来をラーンドル一派の者たちが望むはずもない。
ゆえに、ここでリーンウルネに不敬罪で訴えられるわけにはいかない。
「そうか、儂は徹夜をしない主義だと決めておるので、そういうことはわからぬの~う。儂としては、さっきの言葉を撤回しようが、不敬罪として訴えてしまいそうじゃの~う。誠意というものがないと、儂はついこの口が言ってしまうものじゃ。良く城の外に出ておるから、話している間に、ポロリと―…。の~う、つまり、お主らの答えは自ずと決まっているはずじゃ。」
と、リーンウルネは煽るように言う。
リーンウルネとしては、このまま「はい」と受け入れて、ラーンドル一派および商会のトップを不敬罪で訴えないということをする気はなかった。あるはずもない。
リーンウルネは、これだけでラーンドル一派を潰すことができるとは思っていなかったが、それでも、ダメージを与えることはできる。リース王国の人々にとって、ラーンドル一派および商会を完全に敵にすることができるであろう。それでも、リーンウルネの派閥に属する者の数が多くない以上、無理して、今、行動に移すのは危険な選択肢でしかない。勢力を盤石にし、数を増やしておく必要がある。
「リーンウルネぇ~。」
と、メタグニキアが苦々しく言うのであるが、そのような言葉に、リーンウルネは意を返さない。
(………誠意を見せてもらわないとの~う。ただ、何でもかんでも人が言うことを聞いてもらえると思ってもらっては困るの~う。)
と、リーンウルネは心の中で思う。
すでに、駆け引きは始まっているのだ。
そうである以上、ラーンドル一派側は、リーンウルネに誠意を見せないといけない。だって、失敗を犯したのは、ラーンドル一派のトップであるブレグリアであり、チャンスを得たのはリーンウルネなのだから―…。
そうなれば、リーンウルネにとって、利益になることを提示しないといけない。
そうしなければ、合意されることはない。
「レグニエド王にも、つい、口が滑ってしまいそうじゃの~う。」
と、リーンウルネはさらに煽る。
そして、ラーンドル一派側は、三人とも苛立ちをマックスにさせるのだった。怒りで暴言を言いそうなほどに―…。
騎士団側は―…。
(大人気ねぇ~。)
と、呆れていたが、それでも、自分達に有利になる可能性があるので、何も言わない。
言葉を発することもない。
ただただ、今の状況を見守るのであった。
そして、リーンウルネの方は、そろそろラーンドル一派の方を苛立たせるのはこれ以上は良くないと判断し、提示するのだった。
「さて、儂としては、このリース王国の騎士団の新たな騎士団長を決める交渉の仲裁をおこないたいの~う。儂は第三者だから、きっと中立で、リース王国の利益になる交渉結果へと導くことができるかもしれぬの~う。どうする? このまま儂の煽りを受けるか、もしくは、儂の言う通りにして、交渉をおこなうのか? 答えは決まっておるじゃろう。」
リーンウルネは、ラーンドル一派側に一方的な答えをするように促す。
そう、求められる選択肢は、ラーンドル一派にできるのが一つしかないのだ。
「わかった。仲裁をお願いする。」
と、ブレグリアは苦々しくしながら認める。
ブレグリアとしては、悔しくて、頭が怒りの沸点を超え、再度、暴言を吐きそうなほどだ。最悪の場合は、近くにいるメタグニキアの私設部隊の者に命じて、リーンウルネを殺すように命じていたかもしれない。
そういう意味では、リーンウルネの煽りはギリギリのようなもの……ではないが―…。リーンウルネならすぐに自らの天成獣の力を使って守っていることであろう。暗殺は成功しないというわけだ。
(リ~ン~ウ~ル~ネ~ぇ~、いつかぶち殺してやる~。)
と、メタグニキアは心の中で怒りを感じるのだった。
「感謝いたします。さすが、ラーンドル商会のトップだけのことはあるの~う。」
形式的な礼をするリーンウルネだった。
こうして、リーンウルネが仲裁するという形で、リース王国の騎士団の騎士団長を決める交渉が再開されるのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(57)~第一章 勝利はときとして毒となる(7)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。