番外編 ミラング共和国滅亡物語(55)~第一章 勝利はときとして毒となる(5)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、リース王国ではリーウォルゲ死後の騎士団の騎士団長を決める交渉が騎士団側とラーンドル一派の間でおこなわれていた。そんななか、その交渉がおこなわれている部屋の近くでリーンウルネの声が聞こえるのであった。
ここで、騎士団側およびラーンドル一派側、全員が驚くのだった。
ラーンドル一派側では―…。
(なぜ、リーンウルネが!! 王妃には、この交渉がおこなわれているとは伝えていない。もし、この交渉に加わってしまったら、騎士団側が有利になってしまう。そんなこと許されるはずがない。我々が何のためにアールトンの意見を採用し、処分したのか。これまでの我々の努力が台無しになってしまう。とにかく、リーンウルネをこの交渉に参加させるわけにはいかない。)
と、ハルギアは考える。
ハルギアとしては、この場において、リーンウルネが加わるのはかなりの不味い事であると理解できる。なぜなら、リーンウルネはラーンドル一派に対して、良い印象を抱いていないし、ラーンドル一派に継ぐ、自身の派閥を持っているのだ。というか、一代でここまでの派閥にしてしまったのだ。
リーンウルネが騎士団側の味方なんてものをしたら、騎士団はリーンウルネと協力関係になり、ラーンドル一派にとってはかなり不味いことになる。これは決して、許されることではない。ラーンドル一派の権力失墜を一番に避けないといけないのだから―…。
(チッ!! あの領主の娘が~。一体、誰のおかげで、こんな王宮での生活できると思っているんだぁ~。)
と、ブレグリアは苛立ちを見せる。
言葉には出していないが、それでもわかる。ブレグリアが苛立っているのが―…。表情に出てしまっているし、それを周囲が察知できるぐらいにはわかりやすいものであった。
ブレグリアとしては、リーンウルネをレグニエドの王妃にしたのが誰なのかを理解している。そう、ブレグリアであり、ラーンドル一派である。
当時、ラーンドル一派としては、権力が弱い領主から選び、かつ、ラーンドル一派に逆らうことができないことを良しとした。その中で、レグニエドが気に入ったのがリーンウルネであり、当時のリーンウルネの両親の方が、リーンウルネを良く見せようとして、お淑やかで、男性を立てることができるという嘘をついたのだ。そのことに騙されて、レグニエドとリーンウルネの結婚は実現されることになった。
結果として、リーンウルネはラーンドル一派に都合が良い存在ではなく、返って、リーンウルネ自身がリース王国の中での人気を獲得してしまい、ラーンドル一派に継ぐ権力を獲得するにいたった。リーンウルネ自身が領内で、自らの配下をしっかりと獲得しており、それが勢力の基盤となっている。
それに、リーンウルネにいる勢力は、護衛だけでも一部は騎士よりも強い者がいるし、文官でも優秀な者はいる。
だけど、数が少ないせいで、勢力は拡大したとしても、優勢になることはできていなかった。さらに、リーンウルネがそこまで、自身の勢力を拡大していなかった。ラーンドル一派に一気に、追い落としにあわないようにするためである。慎重に行動しているというわけだ。
そして、今回のミラング共和国とリース王国の戦争で、リース王国側に戦争責任があることと、止めることができなかったために、自身の勢力拡大が重要な課題となっていることを自覚させられるのだった。
さて、話を戻すと、ラーンドル一派の狙い通りのレグニエドとリーンウルネとの結婚だったのに、現実、逆の結果になっており、リーンウルネがラーンドル一派にとっての脅威となっていることに、恩を仇で返しやがって、と思うのだった。後悔と言っても良い。
だけど、現在まで、リーンウルネの勢力に手出しすることはできていない。リーンウルネのリース王国民からの多くの支持があり、潰すと内乱の可能性を嫌でも頭の中に浮かんでしまうため、というか、リーンウルネにそう言われてしまっており、丸め込まれえてしまっているせいで、迂闊に陥れることもできていない。
リーンウルネの部下に防がれてしまっているのも、一応はあるが―…。
(なぜ、こんなタイミングで―…。)
と、メタグニキアは心の中で思いながら―…。
「ハルギア、今、大事な会議中だから、リーンウルネ王妃には入れないと言ってきて欲しい。」
と、メタグニキアはハルギアに命じるが―…。
「ということで、この交渉には儂も参加させていただくとしようかの~う。それに、二者だと双方にとって良い利のある結果にはならないじゃろう。片方の利得だけが提示されて、交渉は平行線。これこそ、良くない結果になるだろ。ハルギア副宰相―…。」
すでに、リーンウルネは部屋の中に入ってきていた。
これは、騎士団側が呼んだわけではない。
そのようなことをする暇はなかった。
むしろ、最悪の場合、誰かをこっそりと外へ出した上で、リーンウルネを呼ぶという手段を講じるつもりでいた。それをラーンドル一派が許してくれるかは分からなかったが―…。
(ここで、リーンウルネ王妃の登場。我々としては、助かったと言わざるをえません。このままでは、ラーンドル一派達の言う通りに、王命で、騎士団の騎士団長をミドールにされていた。そう思えば、リーンウルネ王妃は最高のタイミングで来てくれた。感謝しかない。)
と、ニナエルマは心の中で思う。
だけど、真剣な表情を崩すことはしなかった。
できるはずもない。
今、喜ぶ表情をしてしまった場合、ラーンドル一派からリーンウルネに助けを求めたということを、勘繰られてしまう。今の状況においても、勘繰られている可能性の方が高いとわかっているのだから―…。ならば、可能性の方を低くしておく必要がある。
一方で、ラウナウは―…。
(ここで王妃か。俺らにとってはラッキーとしか言いようがない。それにしても、王妃の狙いは何だ。今回のリース王国とミラング共和国との戦争で、いの一番に戦争を止めようとしてくる可能性が高いお方が―…。なぜ、今回の戦争では黙っているのだ。何かあるんだろう。王妃の狙いが―…。)
心の中で、今回のミラング共和国とリース王国との間の戦争で、何もしてこなかったのだ。
ラウナウとしては、リーンウルネなら、戦争を止めようとして、エルゲルダの商品税の増税とか通過税の新設に反対しようとするし、エルゲルダの領主としての地位を剥奪し、追放してもおかしくはない。だけど、今回に関しては―…。
そうなってくると、ラウナウは、リーンウルネには何か狙いというものがあるのではないかと、思ってしまうのだ。
実際、リーンウルネには、狙いがないわけではないが、そうせざるを得なかったのが、現状だ。
数というよりも、人々の動きに時間というものが消費されている以上、限度というものが存在するのだ。
リーンウルネの言葉に、ハルギアは反論する。
「リーンウルネ王妃。残念ながら、今回、この場では王妃様には関係のないことであり、我々の間では、公平な交渉がなされております。だから、リーンウルネ王妃は、自らの公務に励んでください。忙しいと思われますから―…。」
ハルギアとしては、リーンウルネの手を煩わせるのは申し訳ないという感じで言っているが、本音はリーンウルネが邪魔だから、さっさとこの場から出て行って欲しいのである。というか、交渉が自分達にとって有利に進んでいるのに、余計な邪魔が入って、失敗でもしたら―…。
それに、ハルギアの言っていることにメタグニキアとブレグリアは、心の中で賛成している。
(リーンウルネ。さっさとどこかへ行きやがれ!! 顔を見るだけでも、苛立つ!!!)
と、ブレグリアは心の中でさっさと、出て行けと思うのだった。
表情には、しっかりと出ているので、リーンウルネや騎士団側に、その気持ちが悟られてしまうのであった。
(ふむ、儂がこの場にいるのは、好ましいとは思っていないようじゃ。じゃが、騎士団側から見ればの~う。儂がいた方が良いようじゃ。つまりは―…。)
リーンウルネはこの場にいることが正しいと判断するのだった。
さらに―…。
(ブレグリア。お主は分かりやすいの~う。最初に会った時から、自分の感情を簡単に表に出てしまう。それがお主の弱点じゃの~う。商売人なら、表情を作るぐらいのことはしないと、大成せんぞ。メタグニキアは馬鹿なのに、優遇されて宰相とか、世も末じゃの~う。それに勝てないのが儂に悔しいとしか言えないが―…。)
と、リーンウルネは、心の中で悔しそうにしながらも、表情に出すことはなかった。
ブレグリアのように、何でも思い通りになるような人生ではなかったし、それでも、自らの道を示してくれる人がいたから、ここまで真面にいられることができたし、世間からは良い人でいられることができた。
さらに、いろんなことを学ぶことの必要性を学び、それを実践して、学んできたのだから―…。そう、相手や物事を知ることが、生き続けていく上で重要なことだと教えられて―…。
その中には、商人はどのように交渉をし、どうやって商品を流通させたり、販売したりするのかということも含まれる。
ゆえに、交渉の場で、感情をコントロールすることができない者は、相手に感情を読まれて損をすることになる。
そして、ブレグリアは損をしてしまったのだ。
リーンウルネは、ブレグリアがラーンドル商会のトップになっていることを憂い、かつ、メタグニキアというどうしようもない馬鹿が宰相という王を支える立場になっていることに対して、リース王国は大丈夫かと思ってしまう。
だけど、彼らをその地位から降ろす権限を持ち合わせていない。だからこそ、何もできない自分に歯痒い思いをしてしまうのだ。
リーンウルネは言い始める。
「儂は、今、暇じゃぞ。それに、儂には、優秀な部下たちがいるから、そこまで忙しくすることもないしの~う。それに、今回の交渉は、リース王国の騎士団の新たな騎士団長を誰にするかということじゃ。ならば、儂も関わった方が良いじゃろう。そっちの方がリース王国民からの信頼は高いと言えるしの~う。」
リーンウルネは、この交渉のことを知っていた。
リーンウルネ側にも、裏で情報収集する部下がおり、彼らが今回のリース王国とミラング共和国との間の戦争における情勢の把握もしっかりとおこなっており、騎士団側よりも情報が集まっている。さらに、そこから騎士団およびラーンドル一派がどのように行動するのかを―…。
(…………騎士団側は、新たな騎士団長にフォルクスを、ラーンドル一派はメタグニキアの私設部隊の中で要職にあるミドールをか!!! だが、ミドールはあまり良い噂も情報もないしの~う。ラーンドル一派としては、騎士団を自分の言う事を聞いて、動いてくれる部隊にしようとしているが、それをしても、ラーンドル一派にとっても、良い結果にならないじゃろ。彼らは気づいていないじゃろうが―…。それに、この交渉は完全ではないにしても、騎士団側に勝たせた方が良いじゃろう。)
と、リーンウルネは考える。
リーンウルネとしては、リース王国にとって一番良い選択は、考えられる範囲では騎士団側が推薦している者を、リース王国の騎士団の騎士団長にした方が良いことはすぐに理解することができる。
ラーンドル一派が推薦するミドールは、あまり良い噂とか情報を聞かない以上、リース王国の騎士団の騎士団長にすべきではないことはわかる。騎士団のトップには、人格的な面も重要であったりする。
さらに、ラーンドル一派の力がリース王国の中で完全に盤石になることは、リース王国の繁栄にとって、デメリットでしかなく、衰退への道へ向かい、そのスピードも早くなると思われる。国を建国するよりも、それを維持する方がかなり難しいのだ。それを知識としてリーンウルネは知っているし、日々、ラーンドル一派を見ていると、嫌でも理解してしまう。
「だが―…。」
と、ハルギアは反論しようとするが、リーンウルネの言っていることが理解できるし、正論である以上、言葉を噤んでしまう。
「ということは、儂が参加しても良いということであるの~う。」
と、リーンウルネは得意な笑みで言う。
その表情を見て、ブレグリアは苛立ちを募らせる。メタグニキアをも苛立たせる。
そして、感情が爆発しないわけがない。
「リーンウルネ王妃、あなたは何もわかっておられないようだな。」
「何をじゃ、ラーンドル商会のトップのブレグリア殿。」
そう、ブレグリアの―…。
ブレグリアは、一気に捲し立てるように言う。
「大体、儂がお膳立てをしてやらなかったら、小さな領主の娘ごときがこの国の王と結婚できると思っているのか!!! ふん、儂が見出してやったからこそ、この王妃の地位があるのに、王妃になった途端、裏切り、挙句の果てには、王国民を誑かして―…、いい加減にしろ!!! 儂は、リース王国の歴代の王によって信頼されており、政治の全てを任されている!!! 一王妃が、儂の言う事を聞かないとは!!! この恥知らずが、儂らが出て行けと言われたら、大人しく出て行くのが礼儀だろうが―――――――――!!!!」
と、最後には、奇声を発するのだった。
その様子に、騎士団側はビックリしてしまうが、冷静に聞き流すことはできるし、冷静に考えることもできる。
そして、リーンウルネに至っては、ブレグリアを愚か者を見るような目で侮蔑する。
「ふむ、ラーンドル商会の未来も危ういの~う。」
と、リーンウルネは言う。
さらに、メタグニキアは腹を立てるのだったが、それよりも上がいた。
「リィ~ン~ウ~ル~ネ~。」
ブレグリアは、リーンウルネを睨みつけるのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(56)~第一章 勝利はときとして毒となる(6)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。