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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
400/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(54)~第一章 勝利はときとして毒となる(4)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、リース王国ではリーウォルゲ死後の騎士団の騎士団長を決める交渉が騎士団側とラーンドル一派の間でおこなわれるのであった。

 「ミドールを騎士団長にすることはできません。」

と、フォルクスは言う。

 フォルクスとしても、ミドールが危険人物であることを知っている。

 過去に、リーウォルゲと肩を並べるほどの実力かと考えると、そうなのかと疑問に思ってしまうが、それでも、剣技が優れていたのは事実だ。

 だけど、素行が悪いのはかなり知られており、スラム出身というだけで差別してしまう団員もいたが、全員がスラムで育ったからと言って、ミドールのようになるわけではない、と理解していた。

 騎士団の団員の中にも、スラム出身の者はいるが、真面であったり、のちに真面になったりとする者はいくらでもいる。騎士団長の中でもスラム出身者がいる。

 そう考えると、ミドールという存在は、スラムの良くないと思われる部分の集合体であることがわかる。

 ハルギアは困ったような表情をしながら言い始める。

 「だけど―…、リーウォルゲ騎士団長と同等か、それぐらいの実力の者が騎士団の中にいるのですか? それに、騎士団は先の戦争で、四割もの死者を出すという全滅となったのでしょう。その騎士団の再建のためには、強い者が騎士団のトップに就任すべきです。そうしなければ、騎士団の団員になってくれる者もいなくなるでしょ。これは、私たちによる善意なのだよ、フォルクス副団長。」

 ハルギアとしては、勿論、善意で言っているわけではない。自らのお仕事だからこそ言っているのだ。

 今回、ラーンドル一派としては、今回のリース王国とミラング共和国の間でおこなわれた戦争によって、リース王国の騎士団は四割もの戦死者を出し、その数を補うために、ラーンドル一派の者たちを騎士団の中に入れることと、リーウォルゲが亡くなっている以上、次の騎士団のトップをラーンドル一派の息のかかった者であるミドールにしようとしているのだ。

 ミドールの過去の素行がラーンドル一派にとって、重要でないことは明らかであるし、必要なのは、ラーンドル一派にとって都合が良いかそれだけなのだ。

 そして、そのようなことに気づかないフォルクスらではない。

 たとえ、ハルギアらが圧をかけたとしても、言うべきことは決まっている。

 「それでも、ミドールを騎士団の騎士団長にすることはできません。」

と、フォルクスは強く言う。

 騎士団にそのような素行が悪い者がトップになった場合、さらに、リースにおける治安が悪化することは間違いないし、そうなってしまうと、騎士団の評判も低下する。ただ単に、実力者をトップにすれば良いというわけではない。

 ラーンドル一派の目的がわかっているので、断るしかない。騎士団側は―…。

 「なぜです。まあ、こちらとしても王命ということで、無理矢理にでもミドールを騎士団長にすることは可能だ。このような手を我々は使いたくないのだが―…。」

 ハルギア、いや、ラーンドル一派からの脅しだ。

 (………騎士団風情が!! なぜ、儂ら一派の命令を断ろうとするのだ。やっぱり騎士団というのは、儂ら一派にとって敵というわけじゃ。アングリアのためにも儂らのものにしておかないとの~う。)

 ブレグリアは、心の中で騎士団を侮蔑する。

 ブレグリアは、ラーンドル一派のトップであり、かつ、リース王国の誰もが羨みの視線を向け、かつ、誰もがリース王国や周辺諸国の中で一番に偉い存在であると認められ、言うことすべてが実現されてしかるべき存在であると、自身は思っている。

 それは、妄想の類でしかないし、ありえないことだ。

 だけど、現実、ブレグリアはこのように思っており、そのためなら、言うことを聞かない勢力を排除してきたのだ。それも、すべてのことにおいて、できたわけではないが―…。

 一方で、騎士団の側は、

 (………ラーンドル一派。無理矢理にでもミドールを騎士団の騎士団長にしたいと考えているようだ。ハルギア副宰相の言葉から推察すると―…。だけど、私は過去の騎士団の団員資料を見ただけしかわかりませんが、ミドールをトップにするわけにはいかない。騎士団長に求められるのは実力と同時に、人格的に優れていることだ。素行の悪い者は論外。ラーンドル一派(彼ら)は、自分のことだけしか考えることができないのか。妥協しないといけないところはあるが、それでも、騎士団長をミドールにさせるということは何としても阻止しないと―…。)

と、ニナエルマは心の中で思う。

 繰り返すほどに、ミドールをリース王国の騎士団の騎士団長にしたいとは思わなかった。

 理由は、ミドールの素行の悪さもあるが、それ以上、ラーンドル一派の都合が良い状態にすべきではないと考えたからだ。ラーンドル一派は、ミドールを推薦する以上、彼らにとって騎士団の人間性に関することよりも、利益重視だということがわかるし、騎士団を自らにとって都合が良いことに動かそうとするはずだ。ラーンドル一派の者がおこなった犯罪的行為、いや、犯罪行為の揉み消しから、ラーンドル一派に反対する勢力への証拠なき鎮圧活動だ。法に反しているというべきであろう。

 リース王国の法律の中で、王族に対する反乱や犯罪は重大な罪に該当するのは確かである。だが、ラーンドル一派は、王族に該当するわけもないので、いくら罪を犯される側であったとしても、一般の人々と犯人に対して処罰を下すことしかできない。つまり、ラーンドル一派は、自分達が襲われる危機にあることを自分で証明するかもしくは実際に遭っていることにならないといけないということだ。

 王族の場合は、ちゃんとした証拠さえあれば、簡単に処罰を下すことができるし、普段の態度などを言及するだけでも、王族以外の気に入らない奴を処罰することができる。だけど、それは、ちゃんと証拠を示さないと王族に反乱している者に罪に問うことは難しいとされる。理由は、しょうもないことで、王族が自らに反抗的な者を処罰しようとすれば、どこかで情報が漏れた場合、狭量の王とされ、人気をなくすし、他の王族にその地位を奪われたり、最悪の場合は、反乱を起こした者に集まる味方が多くなり、王族としても迷惑なことでしかない。ゆえに、よっぽどの証拠がない限り、王族に反抗する者を処罰はしない。自制はあるということだ。法以外の部分の縛りで―…。

 その自制のために、王族は信頼というものと同時に、権威というものになすことに成功しているのだから―…。世論、人々の反応というものを理解しているのだ。彼らの感情を―…。

 そして、ラーンドル一派というのは、そういう世論、人々の感情というもの、利益というものを無視しているのだ。そんな者たちに、良い結果が訪れるわけがない。

 フォルクスは返答する。

 「どんなにリース王国側の王令であったとしても、私たち騎士団は、リース王国を守らなければならない以上、騎士としては、実力が必要であり、かつ、騎士団内における騎士たちとの信頼のある人物がトップにならないといけません。ミドールは、騎士団を素行不良で追放された者です。彼を騎士団長にすることは、騎士団内に不穏な分子を生み出すことになり、返って、リース王国の弱体化に繋がるだけです。」

と、フォルクスが言いかけたところで―…。

 「長い!!!」

と、ブレグリアが怒りを発する。

 ブレグリアにとって、フォルクスの話は長すぎるものであり、到底、理解できないものであったし、つまらないものでしかなかった。

 ブレグリアは、頭が良いとは言えず、ラーンドル商会のトップを務めてきた家の中で生まれ、後継者とされ、後を継いだ人物だ。生まれた頃からブレグリアの父親や母親以外の人物はおべっかこそ使わなかったが、時には怒鳴ると言われてもおかしくない叱りを受けたわけではない。ブレグリアの父親と母親は、ブレグリアを駄目な息子だと思っても、周りによって勝手に担がれることを憂い、厳しくしていたが、それでも、両親の気持ちを理解できずに、ラーンドル商会のトップになってしまったのだ。

 その後に関しては、語らなくても、前に触れたので省略しても大丈夫であろう。

 そして、フォルクスの意見を最後まで聞く気などなかった。フォルクスにとって、リース王国の繁栄なんてどうでも良い。ラーンドル商会および一派が自らを中心にして栄えれば良い。いや、さらに、限定して言うならば、ラーンドル商会のトップとなる人物達だけが栄華を誇れば良いと思っているのだ。

 残念な存在であるし、リース王国にとっても、ラーンドル商会にとっても、不幸なことでしかない。

 「しかし!!」

と、フォルクスは自らの意見を聞いてもらうように言おうとするが―…。

 「長い話は嫌いだ。それに、我々は、今回の戦争で、壊滅に近いほどの死傷者を出した騎士団に、我々なりの誠意を伝えているつもりだ。騎士団を一刻も早く再建し、周辺諸国に強いと示すためのなぁ~。ミラング共和国に負けた原因は、お前ら騎士団にもあることをわかっているのか!!!」

と、今度はメタグニキアが反論するのだった。

 メタグニキアも賢くはないが、それでも、覚えていることがある。

 そう、今回のリース王国とミラング共和国との戦争で、敗戦の原因はアールトンの講和と同時に、本当の原因が騎士団の無駄な奇襲攻撃にあると判断している。そして、そのような破滅を仕向けたのがアールトンであり、かつ、ラーンドル一派の総意であったのだ。

 つまり、自らの欲望が成就する可能性を高め、かつ、正論と周囲が判断することを使うことができるわけである。

 (事実だからこそ反論することはできない。ラーンドル一派側の謀略だと主張したとしても、彼らはしらばっくれるだけだ。こいつらの方が権力が上である以上、こちらの意見を通すのは難しい…か。だが、ミドールだけは騎士団長にすべきではない。)

と、ニナエルマは心の中で考える。

 ここで、口をはさむことはできない。

 ニナエルマがフォルクスにアドバイスをすることはできるかもしれないが、それでも、ラーンドル一派は確実に急き立ててくるだろう。彼らは、自らに有利になることしか、興味がなく、そのようになって当たり前だとさえ思っている。

 本当に、ラーンドル一派は―…。と、第三者がそのように思っても仕方ないぐらいに―…。

 「確かに、騎士団としても不覚としか言いようがありませんが、ミドールをトップにするのは―…。」

と、フォルクスが言おうとすると、また―…。

 「馬鹿どもが!!! 騎士団はリース王国を守るためにある。そして、我々はレグニエド王だけでなく、リース王国の王の信頼によって、リース王国の政治を任されている以上、我々の言葉、王の言葉そのものである。つまり、騎士団のお前らは我々の言葉に従わなければならない。当たり前のことだろ。昨今の騎士団どもは、そのことをわかっておらず、残念だ。ミドールはメタグニキアの私設部隊で優秀な成績をあげているのに―…。」

と、ブレグリアは呆れながら言う。

 まあ、この言葉も裏でハルギアがアドバイスしているからこそ、ここまで、賢いように聞こえるのであるが―…。

 ハルギアは、メタグニキアやブレグリアよりも賢い人物である。狡賢いと表現した方がより的確であることに間違いはない。

 そして、ハルギアは、アールトンに近い存在であるが、アールトンには及ばないことを理解しておいてほしい。

 また、ミドールについて再度見ていくと、私設部隊に拾われた後、優秀な成績をあげているのは事実である。ただし、この会談の場で挙げられるほど表向きにできるものではない。要は、暗殺とか、そういうことだ。

 さらに、ラーンドル一派の言っている「我々はレグニエド王だけでなく、リース王国の王の信頼によって、リース王国の政治を任されている以上、我々の言葉、王の言葉そのものである」という言葉に関して、半分正解で、半分は間違っていることになる。

 リース王国の歴代の王は、商人として国際交易をおこなっていたラーンドル商会の初代のトップを信頼していたのであり、彼らの情報を基に、対外政策を考えていたにすぎない。次第に、ラーンドル商会の方が政治にも進出し、派閥を形成するようになるが、どんどんラーンドル商会のトップの質が徐々にではあるが下がっていく。それでも、優秀な部下の意見をしっかりと聞いていたから上手く事をはこぶことができたが、ブレグリアの代で、優秀な諫言もできる部下を追い出してしまったせいで、ブレグリアに媚びを売る者たちしか残らず、ラーンドル商会および一派の質は、ぜんぜん駄目な状態になってしまっているのだ。

 その中で、リース王国の王の側も、ラーンドル一派や商会に対して、信頼をなくしているのだ。力が強いから何もできないというだけで―…。現王のレグニエドは、ラーンドル商会や一派よりも、エルゲルダの方を信頼しているぐらいだ。いまだに―…。

 つまり、ラーンドル一派の言葉が、王の言葉に実際にはなっていないということなのだ。

 だけど、周囲には、王の言葉イコール、ラーンドル一派によって発された言葉ということになっている。

 騎士団にとってもそうだ。

 (……どうする。)

と、ニナエルマが心の中で考えている間に、トントンという音がなるのだった。

 「誰だ?」

と、ハルギアがドアの方に向かって言うと、そこからの返事は―…。

 「儂じゃ、リーンウルネじゃ。」

 そう、交渉の部屋の近くに、リーンウルネがおり、中へ入ろうするのだった。

番外編 ミラング共和国滅亡物語(55)~第一章 勝利はときとして毒となる(5)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


ここから、交渉が―…。長めです。

では―…。

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