番外編 ミラング共和国滅亡物語(52)~第一章 勝利はときとして毒となる(2)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、勝った側のミラング共和国では、ラルネで勝利の歓喜に包まれるのであった。一方で、不穏な動きも―…。
ラルネにあるアマティック教本部。
その本部の建物は、今、まさに改装中であり、出来上がれば、荘厳で観光名所になると言ってもおかしくはない。
リース王国やその周辺地域で信仰されている宗教の信者にとっては、苦々しいものでしかなく、教団関係者は特にそうだ。
まったく、教えを理解しておらず、身勝手なことばかりを言っているのだから―…。アマティック教の連中は―…。
そして、建物の中はすでにある程度改装が済んでおり、その中央にある教主の間には、教主とともに一人の人物がいた。
「シエルマスか―…。今回は何用だ。私は忙しいのだよ。」
と、アマティック教の教主フォンミラ=デ=ファンタレーシア=イルカル=フォンドが言う。
教主にしても、今は、色に溺れていたい。
だって、今まで、地下にずっと潜っていないといけなく、色に溺れることなどできやしなかったのだ。教主は、昔から色好きではあったが、なかなか、色に触れる機会などほとんど存在しなかった。
教主自体は、既婚者ではなく、女性からも嫌われたり、生理的嫌悪を抱かれることの方が多かった。女性の側から言わせれば、生理的嫌悪と同時に、胡散臭く、一部は物事を大成することができず、ろくでもない人物のクズであると勘で感じてしまうのだ。誠実性の欠片もない。そういうことであろう。
実際、この教主はクズであり、あまり人前では言えない性癖を患っており、世間からは良い扱いを受けないのだが―…。そこに健全性というものは存在しない。
だけど、教主は運良く、ディマンドと出会い、シエルマスと繋がることによって、今の地位を得ることに成功している。それでも、このような地位がなければ女性たちから無視される人生であることに変わりないが―…。
女性のすべてではないが、富、名誉、地位を持つ男性に簡単に引かれる人もいる。自らの安寧のために―…。
さて、話を戻し、彼は、色に溺れたいがために、忙しいと来客であるシエルマスの一員に言う。
この場には、イルカル以外に教団の関係者はいない。
そして、シエルマスの一員であるこの人物としても、イルカル、教主がシエルマスを裏切るようなことでもあれば、簡単に、すぐに首を挿げ替えることをトップから命じられている。アマティック教はシエルマスの支援によって、ここまでの財政基盤を築いたのだ。だから、シエルマスに逆らえば、財政基盤が窮地になるのは間違いない。ゆえに、シエルマスはアマティック教に対して、優位な立場になることができる。
「ええ、今回、教主にはある男を預かっていただきいとお願いに上がりました。」
「ある男?」
イルカルもシエルマスの一員で、目の前にいる人物を見ながら、疑問に思う。
(何をしようとしている。こいつらは―…。まあ、面倒事は、部下共にでも押し付ければ良い。彼らは私の忠実な信者であり、狂信者。)
と、イルカルは心の中で思う。
イルカルの性格はクズであり、自らのしたことに対して、責任を持つことはない。言葉を巧み操り、責任逃れをするのだ。決して、言葉自体が上手い方ではないが、上手く逃れることができるのだ。そして、イルカルは、どんな時でも、自らに首にぶら下げているネックレスを外すことはない。
その理由は後に分かることだろう。
イルカルは、目の前にいるシエルマスを見ながら、この人物が言おうとしていることを理解することができる。そして、イルカルにとって面倒なことであると勘が告げている。
関わり合いたくはないが、それでも、シエルマスに逆らうようなことをすれば、命がないことはわかっている。自分の命は惜しい。
「リース王国の元アルデルダ領の領主エルゲルダだ。我々、シエルマスで匿うことになった。だからこそ、教主、あなたのところが隠しやすいと判断した。もちろん、断ることはないよな。」
シエルマスの今、この場にいる者がイルカルに向かって言う。
拒否権というものは存在しない。
シエルマスが言うことには、必ず「はい」か「イエス」のように、受け入れることしか許されない。そこに理由はない。受け入れない者は、粛清の対象だからだ。
だって、そうだろ。言うことを聞かなくても良い事例を一度でも作ってしまえば、次から、逆らうもの、命令を聞かない者が必ず現れてくるのだから、そういう存在を出さないために、絶対、しっかりと命令を聞かない奴はどういう目に遭うのかを見せしめておかないといけない。
それを知っているからこそ、イルカルの返事は決まっている。
「わかっておりますよ。シエルマスの方が言われているのですから、我々、教団としても受け入れないという選択をするわけがない。だって、シエルマスは、ミラング共和国で一番の強い組織であり、ラウナン様は、一番の実力者なのだから―…。」
と、イルカルは胡麻を擂るように言う。
イルカルとしても、シエルマスを騙すことはできるかもしれないが、実力が足らないというか、シエルマスの統領であるラウナンに勝てる気がしないのか、自らの力を使うことができないでいた。
そして、イルカルはシエルマスを恐れてもいるが、一番はラウナンであり、そのために、シエルマスには仕方なく従っているという面もある。追加するのであれば―…。
「そうか、感謝する。数日後に、統領自身がここへ来られる。失礼のないようにな!!」
と、シエルマスの一員と思われる人物は、姿を晦ますのだった。
イルカルは緊張していた気持ちが緩む。
理由は簡単だ。
シエルマスが姿を消したことにより、シエルマスの人物に対して、無礼な言葉を言ってしまわないかという緊張感から解放された、その安心感に包まれているからだ。
シエルマスという存在は、自らへの外および内側の批判を受け入れることはない。間違っていることが明らかになれば、最悪の場合、組織自体の信頼を損なうことになり、シエルマスが崩壊することになるかもしれない。シエルマスの崩壊イコール、ミラング共和国の滅亡であると認識している。現実に、すべての可能性のシュミレーションの結果がそうなるわけではない。
だけど、一つの未来においては、事実であることも確かだ。
そして、イルカルは、心の中で悪態をつく。
(シエルマスどもが―…。まあ、財政基盤をシエルマス以外から築くのはこの国じゃ難しいが―…。俺としては、女と酒と、金さえあればどうでも良いが―…。さて、エルゲルダのことは下の者たちに任せるとして、俺は遊びに行きますかぁ~。)
と、心の中で思いながら、自らの私室という名の豪華な部屋へと向かって行くのだった。
イルカルは、結局、クソな人間であり、自分の幸せ以外、考えることができないのであった。
一方、話は変わって、リース王国。
この数日で、リース王国軍は、リースへと戻ることに成功したが、彼らに浴びせられたのは罵声だった。
そう、アルデルダ領をミラング共和国に奪われたのだ。
領土を奪われ、負けた国に、その国に住む住民はその政権に対して、称賛することなど有り得ない。
「何、負けてくれやがって!!!」
「責任者には処罰!!!」
一部の罵声には、今回のリース王国とミラング共和国における戦争における敗戦の責任者を処罰しろという声が上がる。
だけど、その声を出している者たちも、何者かによって利用されている可能性はあるだろう。
そして、そのような言葉を聞きながら、ファルアールトは心の中で、
(チッ!! 罵声ばかり言いやがって!!! こんな罵声程度で、俺が今回の戦争で責任を取らされるわけがないだろ!!! 責任を取る奴は決まっている!!!)
と、言う。
ファルアールトとしては、自らが、今回の敗戦になった原因の指揮官と言われてもおかしくない結果であるが、裁かれることはないと確信している。だって、勝利しろではなく、アルデルダ領を割譲し、それ以外のリース王国の領土を守れと言われただけなのだから―…。ファルアールトの上、そう、ラーンドル一派の重鎮から―…。
もし、これで、ファルアールトが裁かれるようなことになれば、ファルアールトはラーンドル一派の裏でおこなってきたことのいくつかを公衆の面前で言ってやろうと考えているぐらいだ。まあ、そのようなことは、ラーンドル一派はさせないであろうが―…。裏の組織を使って―…。
そして、そのような罵声を受けながら、リース王国軍は、それぞれの場所へと戻っていくのだった。
リース王国とミラング共和国の戦争が終わって四日後。
リース王国軍がリースに戻った日の翌日。
軍法会議が開かれていた。
その裁きの場にいる者たちは、全員、ラーンドル一派である。
そして、ラーンドル一派の重鎮たちは、一人を除いて裁く側である。
一人とは―…。
「なぜ、私が裁かれる側にいるのですか―…。今回の戦争の功労者です。」
と、心の中ではイラつきながらも、冷静に言葉を言う。
この人物としては、自らが今回のリース王国とミラング共和国との戦争で、リース王国側のお荷物となっていたアルデルダ領をミラング共和国側に割譲し、ラーンドル一派が好きに使えるお金を増やすことに貢献したのだから、裁かれるのではなく、褒章を貰える立場のはずだ。
なぜ、このように自らが裁かれようとしているのか。
裁かれるのは、リース王国の騎士団の騎士団長リーウォルゲではないのか。
そのように、この人物は感じているかもしれないが、裁かれるのはお前だ。
「何を言っておるのだ、アールトンよ。お前がアルデルダ領を割譲する停戦協定に容認しなければ、我々、リース王国は勝っていたのじゃ。そんなことも分からずに―…。アールトン、失望したよ。」
と、ブレグリアが言う。
そう、裁きを受けているのは、アールトンである。
アールトンは、元々、リース王国の中で困りものであったアルデルダ領をどうにかしようとしていたラーンドル一派全体の悩みをアルデルダ領の割譲で解決させたのだ。
その方法は、たまたま、アルデルダ領の領主であったエルゲルダの政策に乗っかることによって、ミラング共和国との戦争を誘発し、アルデルダ領にミラング共和国軍を攻めさせて、それ以上、リース王国の領土を取られないようにするために、リース王国軍は戦い、リース王国のラーンドル一派にとって都合の悪い騎士団の数をこの戦争を利用して、減らそうとしたのだ。
そして、アールトンは、そのどれもを成功させたのだ。
褒められこそすれ、このような裁きを受ける理由が見当たらないのだ。本当に、アールトンは思っている。
だけど、外から見れば簡単に分かることである。
リース王国は、今回の戦争で、アルデルダ領を失っているのだ。これを敗北と言わずして何と言う。
そう考えれば、アールトンのしたことは、リース王国に対する売国行為に他ならない。
「いや、アルデルダ領に関しては、困っていたのは事実です。皆さんだって、知っているはずでしょ。アルデルダ領は深刻な財政難であり、リース王国からの援助がなければ、破綻していてもおかしくないほどの―…。その困ったアルデルダ領をミラング共和国に割譲することで、これからのリース王国の財政の無駄を省き、ラーンドル一派の皆さまがこれからのリース王国を発展させるための資金を確保したのです。そうしたのに、なぜ!!!」
と、アールトンは最後に、声を荒げる。
アールトンとしても苦し紛れであることはわかっているが、聞き入れられるのではないか、と―…。
そう、絶望の状況で諦める合理的な人間になることなど、アールトンにはできなかった。わずかにでも生き残る可能性がある以上―…。
これは、時として、無謀な賭けであり、視野狭窄によって、別の解答の可能性を考える機会を奪う。世界は人という存在が考える限りにおいては、無限にも思えるか無限そのものの通りの可能性を探すことができる。たとえ、条件によって、その範囲を狭めようとしても―…。
「ふう~、アールトンよ。貴様は、私の友人であるアルデルダ領エルゲルダを助けられるはずなのに、助けようとしなかった。そのせいで、エルゲルダは死なれてしまったというではないか!! 貴様が、私に偽の報告などを持ってこなければ、このような事態にはならなかった。アールトン、お前はこの王であるレグニエドに逆らったことにより、リース王国そのものへの反逆と見なし、処刑を言い渡す!!!」
そう、この場にリース王国の王であるレグニエドが現れ、アールトンに求刑を言い渡す。
この国王の判断に、ラーンドル一派は文句を言うはずもない。
だって、これは、決まっていたことなのだから―…。
ミラング共和国とリース王国の戦争が想定されている時から―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(53)~第一章 勝利はときとして毒となる(3)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していきたいと思います。
これから、アールトンはどうなってしまうのでしょうか?
まあ、展開は決まっているんでしょうけど、アールトンも自らのため、ラーンドル商会および一派のために動いたけど、結局、人を陥れてもこういう展開になるんでしょうかねぇ~。ということで、アールトンは報いを受けるのだと思います。アールトン以外にもいるんですが―…。
『水晶』はこの番外編で、再度、交渉を描かないといけないのは大変ですが、何とかストックの中で完成させることができました。ということで、楽しみにしていてください。
PV数が増えますように―…。
読んでくれている皆様、本当にありがとうございます。
では―…。