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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
396/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(50)~序章 アルデルダ領獲得戦(50)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、リース王国の騎士団の騎士団長であるリーウォルゲがミドールによって暗殺されてしまうのであった。


 それから数時間が経過する。

 リース王国軍の全体においても、死者の確認をし終えていた。

 その中でも、騎士団の本陣では―…。

 同様に、戦死者の処理と兵と騎士の死体を確認して、燃やしていた。

 人を燃やす時に、臭いにおいがして、自分達も戦争をすれば、このようになるのではないかと思い、戦争への嫌悪感を抱かせるのだった。

 それでも、自らが騎士であり、または兵士であり、戦争の場合には、従軍しなければならない以上、避けることのできない現実であると、嫌でも認識させられる。

 だけど、そのような鬱な気分は、日常の生活の中で次第に忘れていくかもしれない。しかし、完全に忘れることはないだろうし、戦争が起きると主観的に想定できてしまう状況になると、返って、強く思い出すかもしれない。

 ただし、酒は一時的に忘れさせてくれるかもしれないが、酔いが抜けきれば、返って、酒を飲むまでに思っていた以上に募らせて、襲ってくる。

 快楽は、憎悪を増幅させる。

 ただそれだけのことだ。

 そして、戦争に関して、なるべくなって欲しくないと思っている者の中にはランシュもいる。

 ランシュは、ラウナウとともに、戦死者の処理や兵と騎士の犠牲者数を数えながら、仮の火葬場に運んでいたりする。その途中でヒルバスと合流し、一緒に作業している。

 ランシュとしても、人を殺すことに対して、嫌悪感を抱きはするが、仕事である以上、任務である以上、人を殺すことはする。騎士であり、戦争に従事せざるをえない以上―…。

 それでも、戦争を望むか、というと、望みはしない。

 今回の戦争でも、人の行動というのが身勝手であるのを無理でも理解させられる。特に、戦死者の処理が特にキツいものであり、辛い。

 それを、戦争を仕掛けている本人たちは頭の中にあるのだろうか、と、疑問に感じながら―…。

 そして、座学でも学んだことを実感させられてしまう。

 戦争において、略奪をおこなえば、略奪された側から恨まれるであろうし、占領した土地もしっかりと再建するのであれば、それなりの費用が掛かるのは事実なのだ。時間も―…。

 そういうことを、戦争を仕掛ける人々たちは考えて欲しい。

 そして、ある結論に到達するのだ。

 (そういう苦労を知ろうともせずに、いや、関係ないからこそできるのだろう。)

と、心の中で思いながら―…。

 そういう苦労とは、今、ランシュがしているはずの戦死者の苦労のことである。その苦労を理解できれば、戦争なんてほとんど起こそうなんて考えはしないはずだ。

 そして、今の苦労すら一部でしかなく、このミラング共和国とリース王国の戦争で被害を受けた者たちにとっては、苦痛でしかないのだろう。ランシュと比べるのも烏滸がましいが、それ以上の苦痛を感じているということだ。

 戦死者の処理も最後の方になったのか、ランシュは、

 「これで最後か。」

と、声を漏らす。

 そう、ランシュは、完全に疲れ切っていた。

 そりゃそうだ。ランシュだって、ミラング共和国とリース王国の戦争の中で戦い、グルゼンに敗れているのだから―…。

 そのうえ、戦死者の処理などをおこなっていれば、疲れ切るのは当たり前のことであり、ランシュだけでなく、リース王国の騎士団の騎士で、ミラング共和国とリース王国の戦争に派遣された者の中で生き残った者たちも同様に疲れ切っている。

 仲間の多くが戦死してしまい、かつ、アールトンの策に騙された者たちは、他の騎士たちに顔をあわせることができない。だって、自分達はリーウォルゲの命令を無視したけど、それはリース王国側の指令であった以上、責任は強く感じていないが、それでも、悪いことをしたような感じになってしまう。ミラング共和国軍第四師団へ奇襲攻撃に参加しなかった者たちからは、恨まれているし、評価を落としている。

 そんな中で、疲れ切っているランシュは、自らの集中力がなくなっていることには気づいている。

 そこに近づいてくる人物が、その人物は―…、

 「大丈夫ですか、ランシュ君。本当に、今回の戦いは悲惨としか言いようがありません。」

と、ランシュに声をかける。

 ランシュとしても、聞きなれた声であり、自らの部下である声だ。騎士団の中では、同僚ということになる。いや、その人物の方が正式な騎士となった期間は先である以上、上下関係は逆だとされてもおかしくはない。

 そして、ランシュは心の中で思ってしまう。

 (ヒルバスも、今回のことが悲惨なものであるということを認識しているのだろう。まあ、俺らはリース王国の住民をアルデルダ領以外を含めて守ったとしか言いようがない。だけど、アルデルダ領は―…、守れなかった、結果はどうなるかもわからないが―…。)

と。

 ランシュとしても、ミラング共和国とリース王国の戦争における講和の結果を知らないし、その内容がどうなっているかも分からない。

 騎士たちに知らされる時は、それから暫くの時が経ってからであった。その内容は、自らの敗北を印象付けるものでしかなかった。ランシュもそのように認識するものだった。

 だけど、ラーンドル一派にとっては、金にならないアルデルダ領を手放すことができたのだから、嬉しい限りだった。まあ、そのような本音を漏らすことはなかったけど―…。

 さて、話を戻して―…。

 ランシュは、ヒルバスがミラング共和国とリース王国の今回の戦争が悲惨であることに関して、同じ意見であり、今わかる結果として、アルデルダ領以外のリース王国領を守ったということである。

 ランシュとヒルバスが話している中で、一人の騎士が血相をかきながら、やってくるのだった。

 この人物は、フォルクスを見かけたのか、フォルクスに向かって言い始める。

 「大変です!! フォルクス副騎士団長!!!」

 その一人の騎士の言葉に、フォルクスは返事をする。

 「どうした!!!」

 (血相をかいているから、何かあるのだろう。だけど、何もなければ、こいつにはしっかりと灸をすえないとな。)

 フォルクスとしても、今、戦争後であり、かなりの情報の処理や、作業の進捗度の確認の関係で、どうでも良いことであれば、怒りを表情に出してしまいそうだ。

 それだけ、今のリース王国の騎士団の騎士たちの戦死者数に苛立っていた。ラーンドル一派だと思われる策にのせられ、ミラング共和国軍第四師団に奇襲を仕掛けたのだから―…。

 そして、一人の騎士がフォルクスの前に到着した時、すぐに衝撃的なことを言い始めるのだった。

 「リーウォルゲ団長が―…、死んでいます。この森の奥で!!!」

 その言葉は、この場にいる者たちにとって、最悪の知らせだった。

 表情は驚きでしかなく、同時に怒り、悲しみ、複雑な感情の入り混じりであった。

 「何だと!!!!」

 フォルクスでさえも焦りの表情と動揺を見せるほどに―…。

 「とにかく、案内を!!!」

 フォルクスは叫ぶ。

 (リーウォルゲ団長が!!! あり得ない!! あり得ない!! あの人が死ぬなんて―…。自殺、もしくは暗殺!!! とにかく、その現場に向かわないといけない。別の死体であってくれ!!!)

と、心の中で希望に縋る。

 フォルクスは、リーウォルゲ騎士団長が自分より強い人物であり、簡単に、暗殺されるほど、油断する人物だとは思えない。

 リース王国の騎士団は精鋭であり、実力があることは確かで、暗殺者に対処できないはずがない。

 フォルクスはすでに、周囲を完全に近いほどの把握できるための冷静さはなくなっていた。

 ゆえに、周囲が、フォルクスのさっきの叫んだ言葉に驚いていることに気づくことができず、その叫び声で、リーウォルゲが殺されたことを報告してきた騎士は怯えてしまうのだった。

 (もしも、嘘だったら―…。)

 その騎士の心の中では、嘘だったら大変なことになるのだと理解するのだった。嘘だったら、フォルクスによって、殺されるのではないか、そんなぐらいに―…。

 だけど、この騎士は、本当に、リーウォルゲの遺体を見たのだ。

 ゆえに、嘘ではない。

 自信を持ってもいいはずなのに、それすら、させないほどにフォルクスの圧というものに飲み込まれてしまうのだった。

 それでも、怯えてばかりはいられない。

 自分がリーウォルゲの遺体を発見した以上、その場所へと案内しないといけない。

 そのことに気づけば、この騎士は冷静になることができた。

 「こちらです。」

と、この騎士が言うと、騎士はフォルクスをリーウォルゲの遺体を発見した場所へと案内するのだった。

 その時、ランシュは、

 (リーウォルゲ団長が死ぬなんて―…。あの時、先輩に言うべきだったし、リーウォルゲ団長に進言すべきだった。どういう理由で、死んだのかは今ここで判断することはできない。それに―…、とにかく、冷静になるべきだな。)

と、心の中で思うのだった。

 強い後悔ではなかったが、それでも、ランシュとしては、リーウォルゲを一人なりたいと言った時に、一人にさせるべきではない、と進言すれば良かった。

 人は完璧でない以上、どこかでミスをすることが避けられない生き物である。

 そのミスによって、時に、悲惨な結果になることだって―…。今がまさにそうだ。

 だからこそ、ランシュは、戦場の中で相手の気持ちは重要だが、それでも、最悪のことを想定しながら行動をしないといけないし、選択をおこなっていかないといけないと理解するのだった。

 一方で、ラウナウは、

 (……………これは良くない兆候かもしれん。ニナエルマが近くにいれば、相談だな。状況によって、ラーンドル一派と敵対することに完全になってしまうが、リーンウルネ王妃の後ろ盾を得ることもしていかないといけなくなるなぁ~。こりゃ、予想以上、騎士団としての難局だ。)

と、心の中で思う。

 ラウナウは、今の、騎士団の状況がかなりヤバいことに気づくのだった。

 リーウォルゲが暗殺されたことが事実ならば、確実に、次期騎士団騎士団長を誰にするかという問題が発生する。普通であれば、副団長のフォルクスがトップになるであろう。騎士団の中でナンバーツーであり、リーウォルゲの補佐をしている以上、妥当な判断ということになる。

 だけど、ラーンドル一派がそのまま、フォルクスを騎士団のトップするとは思えない。なぜなら、騎士団のトップをラーンドル一派の息のかかった者をトップに推薦という名の圧をかけてくるかもしれない。

 ラーンドル一派ならやりかねないと―…。

 そういうことになった場合、最悪、押し切られそうになったら、騎士団としてリーンウルネ王妃の後ろ盾を得ることが重要になる。リーンウルネ自体も騎士団の力というものが必要であるとは認識しているであろうが、変に勢力を拡大していけば、ラーンドル一派から目をつけられるのは事実だ。なるべく、ラーンドル一派に気づかれないように行動したいと考えている。

 さて、話がズレそうなので、戻すと、リーンウルネが騎士団と協力する可能性は高いとは言えないが、それにも限度があるということだ。


 そして、案内されるフォルクス。

 リーウォルゲの遺体がある場所へと―…。

 その場所は、リース王国軍の騎士団の本陣とは、少し離れた場所にあり、かつ、本陣からは見えにくい場所であった。

 「これです―…。」

 そこには、リーウォルゲの遺体があった。

 それは、確実にリーウォルゲだと分かるほどの―…。

 幻覚でも、幻影でもない。

 「リーウォルゲ団長―…。」

 フォルクスは、言葉にする。

 その言葉は、まるで、あり得ないと僅かにでも抱いていたものが一気に崩壊した現実を突きつけられている。

 認めなければならない。

 他者から聞いた言葉には嘘があるが、自らが見たものに嘘はない。現実は、完全にそのようなことが成り立つわけがない。錯視がある以上―…。

 「フォルクス副団長。私もリーウォルゲ団長がこのような姿になっているのを最初に見た時は、副団長ようなあり得ないと思ってしまいました。どうして、団長が―…。見た感じだと、自殺だとは思えません。団長が自殺するとは考えられません。」

 その一人の騎士は、ふざけて、そのようなことを言っているわけではない。

 彼は、別に、リーウォルゲを暗殺した犯人ではない。

 だけど、リーウォルゲが自殺するようなことは考えられない。先入観、そういうものを指摘されれば、否定することはできないが、勘というものがリーウォルゲは自殺ではないと思ってしまう。

 「だろうな。リーウォルゲ団長が自殺とは考えられない。だけど、殺されている。これは紛れもない事実―…。誰だ、このようなことをしたのは―…。」

と、フォルクスは怒りの感情を薄っすら、体を震わせることで露わにする。

 だけど、フォルクスは犯人を見つけることはできないし、証拠を手に入れることもできない。

 なぜなら、リーウォルゲを暗殺した犯人は、証拠となるものを完全に回収してしまっているし、リース王国の当時の周辺諸国を含めて、現実世界のような犯罪捜査の手法が存在することもない以上、どうしても、暗殺した者を追求できる確固たる証拠は証言でしかなく、その証言もない以上、どうしようもない。

 結局、泣き寝入りということだ。

 (いつまでも、落ち込んではいられない。次の騎士団のトップは私になる可能性が高い。団員達に弱い姿を見せるべきではない!! 私が、しっかりしなければ!!!)

と、フォルクスは心の中で、自らを奮い立たせる。

 理由は簡単だ。

 心の中で思っていたことにもあるように、フォルクスはこれから、リース王国の騎士団のトップという立場になる可能性が高い。

 だけど、リース王国の中央で権力を握っているラーンドル一派は、自らの息のかかった人物を騎士団のトップにしようとしてくる可能性は存在する。それでも、ラーンドル一派の息のかかった者で実力がない者をトップにしたならば、騎士団はそのトップに対して反抗する可能性が存在し、返って、リース王国の弱体化に繋がりかねない。

 それは、周辺諸国にとって、リース王国に干渉する機会を提供するだけだ。そのことを、ラーンドル一派の全員が理解できているかは分からないが、理解していないと最悪の道を辿る可能性はかなり高い。

 「この様子に関しては、俺の口から言おう。」

 リーウォルゲは言い終えると、騎士団の本陣へと戻るのであった。


 その後、リーウォルゲが本当に殺されたことを、騎士団の本陣で、フォルクスは伝えるのだった。

 その時、騎士団の誰もが涙を浮かべようとしていたが、その中で泣く者はいなかった。

 フォルクスが、


 ―団長が暗殺されたとしても、騎士団の一員である以上、今は泣くな。泣くなら、リースに戻り、宿舎の中で泣け!!! これから、騎士団にとって大変なこともあるだろうが、リーウォルゲ騎士団長や歴代の騎士団員たちが残してくれたこの騎士団を守っていかないといけない。だからこそ、より精進して欲しい。リース王国の繁栄のために―


 その言葉の影響だろう。

 この戦争の後、生き残った騎士たちは、より強くなろうと訓練を積んだのは―…。

 それでも、後のレグニエド王暗殺事件の時は、ランシュの前に簡単に倒されていた以上、限度というものは存在することは明らかであるが―…。

 さて、話を戻して、この時、ランシュはこのように思っていた。

 (適当な人ではあったが、騎士として、人として尊敬を集めていた人だから―…。俺だって、自らの復讐という目的がなければ、心の奥底から空虚な自分ということになっていただろう。俺は知っている。大切な人を失うということが、空虚になって、それを埋めるためには物凄いエネルギーが必要なのだ。俺の復讐という物凄いエネルギーのようなものが―…。)

 ランシュとしても、誰かを失うことの辛さというものを知っているし、今が、どのような状況であるかを完全ではないけど、ある程度は把握できる。良いか悪いか、そのようなことぐらいは―…。精度が高くないのは、情報不足ということで説明することができる。

 そして、騎士たちは、戦死した死体を処理、リーウォルゲの死体も処理され、リーウォルゲの遺品だけはリースへと戻ることになった。リーウォルゲにも家族がいるのだから―…。彼らにせめて、遺品を渡すために―…。

 講和に関しては、ラーンドル一派のアールトンとシエルマスの統領ラウナン=アルディエーレとの間で成立していたが、実務者クラスでの細かいすり合わせが残されており、それは講和の使者が到着次第、おこなわれる予定であった。

 リース王国の騎士団は、リーウォルゲが暗殺された翌日に帰還命令があり、リースへと帰還していくのだった。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(51) に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


今日は、遅くなって申し訳ございません。いつもの時間に投稿することができない可能性があったので―…。

次回の投稿日は、2023年3月21日頃を予定しております。

「ミラング共和国滅亡物語」の第一章からの再開です。

では―…。

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