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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
395/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(49)~序章 アルデルダ領獲得戦(49)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、グルゼンとラウナンの戦いに決着がつき、勝者はグルゼン。グルゼンはベルグとフードを被った人物とともに消え、その場に残されたラウナンは心を壊してしまうのだった。

 一方、リース王国側。

 すでに、停戦交渉が成立した以上、戦争をする意味がない。

 ミラング共和国も戦いを止めていた。

 その後―…。

 「アールトン…。ここで停戦して良かったと、本当に思っているのか?」

と、ファルアールトが言う。

 ファルアールトは、リース王国軍の今回の戦争における軍の指揮のトップだ。

 まあ、ラーンドル一派の息がかかった人物であり、お飾り大将に過ぎないのは確かだ。

 さらに、ラーンドル一派も軍の指揮の経験がないので、軍の指揮に関しては、ファルアールトに任せっきりであったし、アールトンもその部分にはほとんど介入していない。

 餅は餅屋と言われるのだ。専門家に任せるのが良い。だけど、ファルアールトを本当の意味での軍事の専門家と言われたら、ハテナマークを掲げざるをえないが―…。

 そして、ファルアールトとしては、リース王国が有利な上で講和を結ぶべきだった。ただし、アルデルダ領を割譲するという条件は確実に含めた上で―…。

 アルデルダ領の割譲は、すでに、戦前から決まっていたことなのだ。エルゲルダの政策が情報としてもたらされ、そして、アールトンが会議の中で主導して、了承させたのだから―…。他のラーンドル一派の重鎮たちに対して―…。

 「ええ、これ以上、リース王国軍から無駄に死者を出しても意味はないでしょう。それに、リース王国の騎士団はかなりの規模での戦死者が出ていると、密偵からの報告で聞いています。これで、ラーンドル一派の権勢はより強くなったと―…。後は邪魔なリーウォルゲを今回の敗戦の責任者として公開処刑した上で、幕引きとしましょうか。」

と、アールトンは言う。

 リース王国の騎士団の勢力を弱らせることも今回の目的の中に含まれていた。リース王国の騎士団は、ラーンドル一派にとって邪魔な存在でしかなかった。理由は、リース王国の騎士団は、明確な反対の意思はないが、ラーンドル一派の政策に対して、意見をすることもあるし、ラーンドル一派の要求を聞き入れないことが多かったのだ。

 まあ、ラーンドル一派としては、騎士団を自らの手中におさめて、自らのために動く部隊にしたかった。そうすれば、ラーンドル一派は、不祥事をやりたい放題でできるし、それを止める者たちがいなくなる。さらに、騎士団がラーンドル一派に対して、反乱、もしくは、クーデターを起こすことを防ぐことができる。

 そう、ラーンドル一派にとって、都合が良いのである。

 で、今回、アールトンの策によって、リース王国の騎士団の騎士の一部が勝手に、ミラング共和国を攻めて、手痛い被害を受けたのだ。そして、それがこのような不利な講和の状況を生み出した。不利な講和を生みだした責任をすべてリーウォルゲに擦りつけるのだ。

 こうすることで、リーウォルゲは、自らの策というものが完全に成功するのだ。

 だけど―…。


 一方、リース王国の首都リース。

 その中にあるラーンドル商会本部。

 その建物の中では―…。

 「アールトンは残念だったなぁ~。」

と、ブレグリアは言う。

 ブレグリアは、このラーンドル商会のトップであり、かつ、ラーンドル一派の頂点にいる存在である。

 この人物は、悲しみながら言うのだった。

 「彼は優秀であったが、儂の脅威となってはいけなかった。儂や息子アングリアの脅威となる存在は排除しないといけない。ラーンドル一派、ラーンドル商会の繁栄のためには、儂と血の繋がりがある者の地位が安定的でなくてはならない。だから、そのための礎となる。アールトンもさぞ喜ぶだろう。儂のために死ねるのだ。」

と、ブレグリアは続ける。

 ブレグリアにとって、自らの地位を脅かす者の存在を長期にわたって、権力を握らせるわけがない。自らの血を引く、これからのラーンドル商会およびラーンドル一派を率いる人物たちの地位の安定のためには、必要なことなのだ。脅威の排除が―…。

 そして、同時に、ブレグリアは自らの行動を正当化する。そう、ラーンドル商会およびラーンドル一派の礎になることが素晴らしいことだと―…。そして、そのことが、アールトンがさも望んでいることであるかのように―…。

 まあ、アールトンも礎になることは望んでいないが、ラーンドル一派およびラーンドル商会の繁栄を望んでいる。なぜなら、その功績により出世することができるからだ。ラーンドル商会およびラーンドル一派を握りたいと思っている。それでも、ブレグリアやアングリアを排除したいと思っているわけではない。

 ブレグリア、その息子のアングリアがいなければ、ラーンドル商会が回らないことを理解している。象徴という認識で―…。象徴を奪えば、それを奪ったアールトンが周囲から恨まれることになるのだから―…。どんな力を得たとしても、奪いすぎるのは良くない。段階を踏んでおこなっていけば良い。外堀を埋め、内堀を埋めていく感じで―…。

 そのような考えにラーンドル一派および商会の者たちは気づいていないが、アールトンが権力を拡大していくことに対して、危険であるという認識はある。

 それを特に感じるのがブレグリアであり、彼はその存在を認めない。自らが一番であり、その下に誰もが従うのが正しいという認識なのだから―…。その地位になるために、自身が生まれたのだということを理解しており、同時に、その地位はアングリアが継ぐべきだと考えていた。だって、世間的に悪いことをしても許されるのだから―…。それを実際に経験しているのだから、自分が一番偉いと思って当然なのだ。

 ゆえに、アールトンを処分するのに、心を痛めることはない。痛めるどころか喜ばしいことなのだ。こうやって、ラーンドル商会およびラーンドル一派のために命を使って、貢献してくれるのだから、ありがたいとしか思っていない。

 要は、ブレグリアは、自らおよびその一族の繁栄のためなら、他者は犠牲にしても構わないという考えの持ち主なのだ。

 「そうです。」

 「さすがはブレグリア様。私たちには考え付かないことを思いつく。天才です。」

 「アールトンもきっと喜んで死んでくれるでしょう。」

 そう、この場にいる重鎮たちもブレグリアの太鼓持ちへと化しつつ、自らの命を必死に守りながら、同時に、利益を得ようとするのだった。ブレグリアの権力のお零れに与りたいだけなのだ。そうすれば、ラーンドル商会およびラーンドル一派という後ろ盾を使って、好き放題できるのだ。ラーンドル商会およびラーンドル一派に反抗してくるのは、リースの中にはほとんどいないのだから―…。

 許される。ならばしたって良いじゃないか。声を上げられない人々に対して、出されない声、いや、出すことができない声はさも聞かなくても良い、聞く必要もないと認識する必要がないと思い。

 だけど、本当は、そういう声ほど重要なものであり、そこには本当の意味で社会的に利益になるものがあり、個人を含め多くの人々の利益となるものが潜んでいるのだ。そのことに気づかずに―…。察することができずに―…。

 そうか、ラーンドル商会のブレグリアの後期は、優秀な人材がどんどんラーンドル商会から去って行ったのだ。後に残るは、ブレグリアによって媚びを売った者たちだけだ。

 ブレグリアにとっては、気持ち良いものかもしれないが、それは、同時に自らの視野狭窄に陥れるものであり、返って、自らの属している団体および組織を衰退させていくのだった。その衰退に気づくことがないというわけではないが、あの衰退する前の利益ばかりを考えるし、自らを変化させたり、陥れさせることになる結果の可能性になるものを嫌って、結局、失敗するだけなのだ。

 人という生き物は合理的に生きているように思う人もいるが、それは主観的なものでしかないし、主観的合理性と言った方が良いかもしれない。合理性の欠片もない選択であるということを言うのであれば、それはある一面というか、ある未来の時点の結果の一面を見ているだけにしかすぎないのかもしれない。

 そして、ブレグリアは媚び売りたちの言葉に快楽を感じ、今日も溺れていく。こんな素晴らしい平和以外に一番はないと理解しながら―…。

 その後、彼らは、アールトンを陥れるための工作を確認し、作戦を開始させるのだった。特に、メタグニキアの私的な裏の仕事をする者たちを使って―…。


 リース王国軍の騎士団の本陣の近く。

 そして、その森の中―…。

 一人の人物が悔しそうにするのだった。

 (クソッ!! 俺にもっと力があれば!!!)

と、心の中で思いながら、一つの木を右腕で一発殴るのだった。

 苛立ち。

 自らの不甲斐なさ―…。

 許せない、許せない、許せない。自分という存在を―…。

 (力さえあれば―…、このように仲間を殺されることもなかったのに―…。)

 騎士団の中でも、リーウォルゲを命令に違反して、ミラング共和国軍第四師団に奇襲を仕掛けた騎士たちもいる。

 彼らは、リース王国側の命令であるという詔勅を見て、リース王国側の指令だと思って―…。

 その時、その命令を受けた騎士の大半が、アールトンがメタグニキアの私的な裏の仕事をしている者たちを使って、供給の減っていた食糧を裏で、昼に食べさせていたのだ。まあ、その供給を減らす理由で、嘘をついたのはアールトンであるが―…。

 状況によっては、ミラング共和国軍第四師団に攻めていったリース王国の騎士団の騎士を自己責任と言いたくなるだろうが、現実は、そんな簡単に自己責任だと判断することはできない。物事には、いろんな要因が複雑に絡み合っているのだ。行動する、動くという単純な言葉で言ってもいい、その動く、行動するということは同時に、自分以外に対して影響を及ぼすことがあるということだ。波及する、そう言った方が良いかもしれない。

 それは、いくつもの自分と自分以外が部分的もしくは全体的に、行動をしている以上、複雑に絡み合うのは避けられない。

 ゆえに、自分とそれ以外の行動が折り重なって、今の結果というものがある。

 だからこそ、自分の原因と、それ以外の原因の二つもしくはそれ以上の視点で本来は考えないといけない。簡単に、原因は一つだと決めつけることはできない。それが現実なのだ。

 なので、我々は、リース王国の騎士の個人的な責任だけにもできないし、リーウォルゲの責任だけにもできないのだ。

 ここで、責任がないということをここで安易に決めつけてはならない。

 大事なのは、自らの責任の部分に対して、有耶無耶にすることなく、何が駄目だったのかを考え、次に似たような場合があればどうすれば良いのかを考え、似たような場面に遭遇すれば、その経験を生かした上で、対処方を実践する必要があるということだ。

 それでさえも、完璧に、完全に克服できるということではないし、しない方が良いことになる結果もあるので、その判断を間違えないようにしないといけないし、気を付けないといけない。そのことを理解しておく必要がある。

 もしも、今回の責任の優先順位を付けるのであれば、個人的なものになってしまうし、人によって違うかもしれないが、一番の責任はアールトンと彼らラーンドル一派であることは確かだ。

 ラーンドル一派がリース王国の騎士団の騎士を多く戦死させて、弱体化させた後、自らの息のかかった者たちを入れるという発想をしなければ、このような事態にならなかっただろうし、ミラング共和国軍との戦いで有利に進められた可能性は存在していた。

 だけど、ラーンドル一派に、そのようなことを考える者たちはいない。なぜなら、彼らの思い通りにいったのだから、何を考える必要があるのだ。だって、成功したことに反省する部分を考える方が馬鹿だとしか思えない。

 しかし、成功イコール自分の思い通りになるイコール、自らにとっての本当の利益になるとは限らない。だって、そうだろう。人は完全にも、完璧にもなることができず、そのように向かい続けることでしか、人類の終わりを先送りにすることができない生き物なのだから―…。

 そして、リーウォルゲは後悔する。

 (クソッ!! 俺には力が必要だ。仲間を、親しい人を守るための権力が!!!)

と、心の中で思っていると―…。

 何かが自分の体を貫く感触がした。

 リーウォルゲとて、斬られたことがないということはない。

 騎士である以上、斬られたり、刺されたりしたことがないわけではない。

 つまり、リーウォルゲにとって―…。

 「リーウォルゲ騎士団長様。あなたはリース王国にとって、ラーンドル一派にとって邪魔な存在です。さようなら。」

と、リーウォルゲの後ろからいる者が言いながら、刺したものである剣をリーウォルゲから引き抜く。

 リーウォルゲは腹部を抑えようとするが、さらに斬りつけられるのだった。

 そして、木に背をもたれかけるようにして、足を地面につけてしまうのだった。足の後ろの部分を―…。

 「お前は―…、メタグニキアの―…。」

と、リーウォルゲは意識が途切れ途切れになりながら言う。

 一方で、リーウォルゲを刺した者は冷静な表情になりながら―…。

 「リーウォルゲ様の大事な騎士団は、私がしっかりと継いで、ラーンドル一派にとって、都合の良い組織にしますよ。私もやっと表に出られる。」

と、そう言いながら、消えるのだった。

 すでに、リーウォルゲはこと切れていた。

 その時、刺してきた人物の言葉を聞きながら、悔しそうに自らの生を終えるのだった。その生涯は悔いの残るものであった。

 その時思っていた心の中の言葉は―…。

 (お前か―…、ミドール。メタグニキアの私的部隊に属していたのか、騎士団を追放された後に―…。クソッ、クソッ!!)

 そう、リーウォルゲを暗殺したのは、ミドール。

 後に、ヒルバスに殺されるあのミドールである。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(50)~序章 アルデルダ領獲得戦(50)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


明日(2023年3月10日)の投稿に関しては、いつもの時間に投稿できるかどうかわからないので、夜のどこかで投稿をすると思います。

次回で、番外編の序章、完結します。

では―…。

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