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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
394/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(48)~序章 アルデルダ領獲得戦(48)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ベルグとフードを被った人物の介入により、グルゼンはラウナンとの勝負で、不利を解消し、グルゼンはベルグから天成獣の宿っている長剣を渡され、一対一の戦いで、ラウナンに大きな一撃を与えるのだった。

 数分の時が経つ。

 辺りは、土煙が立っている。

 だけど、夜という闇のせいで、土煙を認識するのはかなり難しい状況だ。

 そんななか、一人の人物は立ち続けている。

 (………ほ~う、これが天成獣の力なのか―…。こういうのと、よく戦って勝つことができたよなぁ~、俺は―…。まあ、天成獣の宿っている武器を扱えるものがあったとしても、持っていない時の気持ちで忘れてはいないところは忘れるべきではないな。それに、まだまだ完璧に扱えているわけではない。いろいろと試していかないと、な。さて、ラウナンの方は―…、向こうから気配はするが―…。)

と、一人の人物は心の中で思う。

 一人の人物とは、グルゼンである。

 グルゼンとしては、今日、初めて、天成獣の宿っている武器を使ったことから、自身が完璧ではないことに気づくのだった。それは、これまで、天成獣の宿っている武器を扱う者たちと戦うことが多かったからであろう。

 ゆえに、気づいてしまうのだ。

 自らが、まだまだであることを―…。

 同時に、いろいろ試して、自らの持っている天成獣の宿っている武器でどういうことができるのか、探っていく必要がある。天成獣が気づいていない戦い方もあるだろうから―…。

 そういう意味でグルゼンは強くなるであろうし、現に、ラウナンに圧倒的な差で勝つことができるのだから―…。

 まだ、確実に勝利がわかっていないのだから、さも、グルゼンがラウナンに勝利したことを言うべきではない。

 だが、それはすでにわかっていることだ。

 「ふう……私は―………。」

と、ラウナンは息を荒くさせながら言う。

 ラウナンは、グルゼンの「生龍斬撃」を食らい、大ダメージを受けていた。

 そのダメージは、ラウナンがやっと思いで立ち上がることしかできないほどにさせていた。

 (決着はついたな。)

と、グルゼンは心の中でそう思いながらも、警戒を切らすことはなかった。

 グルゼンとしても、勝敗を決したとしても、何か別の要素の登場で、戦局が変わってしまうことは十分にあるのだから―…。

 そのような要素が起きないという保証はどこにもない。

 そして、ラウナンは膝をつくのだった。

 (…………天成獣から力を借りることができない……だ…と。このままでは、暗殺に失敗してしまう。私はこれまで、一回も暗殺に失敗したことがないのに―…。私は―…、私は―…。)

と、ラウナンは心の中で動揺する。

 ラウナンは、暗殺部隊でもあるシエルマスに属している以上、失敗が許されることはない。任務に失敗した場合、処罰があり、軽いものであれば、降格処分で済むが、最悪の場合は始末されるのだ。今まで、ラウナンもその任務を失敗してきた者たちを処分してきた。ゆえに、トップであるラウナンが任務に失敗したとなると、シエルマス内の一部からラウナンを統領の地位から降ろして、成り代わろうとする者が出現してくるのだ。

 さらに、グルゼン暗殺に失敗したという経歴が刻まれることになり、一生、それを周囲から言われるのだ。

 そんなことにラウナンが耐えられるはずがない。

 ラウナンは、他者を自らの掌で踊らせることに何よりの快楽を抱く存在なのだ。そして、自ら以外の存在は、自身のための操り人形でしかないのだから―…。

 その快楽をグルゼン暗殺失敗で奪われてしまうのだ。

 だからこそ、体を動かして、目の前で余裕な顔をしているグルゼンを殺さないといけない。

 (……クソッ!! さっきまで、私の攻撃を受けて、きつそうな表情をしていたのに!!)

 ここで、ラウナンは、天成獣の宿っている武器を使っているからという言葉を言うこともできる。

 だが、それは、ラウナンも自らの武器にも天成獣が宿っており、さらに、それを使って戦っている以上、グルゼンのことに対して、文句を言うことができない。

 有利だったのに―…、どうして―…。

 (動け!! 動け!!!)

 焦り始めるラウナン。

 もう、周りの状況すら、自身の状態すら理解することはできなくなっていた。

 「ラウナン。さっきまでは、俺が不利だったから言えることではないが、お前自身は重要な勘違いをしている。俺はこれからベルグの部下となるが、別に、リース王国に属することはない。それに、ラウナン、お前は確実に、ミラング共和国を滅ぼすことになるだろうなぁ~。」

と、グルゼンの言っている途中で割り込む。

 「ふざけたことを抜かすな、グルゼン。私は、このミラング共和国を繁栄に導くことができるのだ。シュバリアと同じことを言いやがって!!!」

と、ラウナンは言いながら、短剣をグルゼンに向かって投げるのだった。

 これが抵抗だ。

 ラウナンにとっては、この抵抗は怒りによるものであり、冷静さの欠いているものではない。いや、後者の方を周囲から見せれば、冷静さを欠いていると判断されてもおかしくはない。

 だけど、ラウナンは頭に血がのぼり、自らの状況により気づくことができない。

 グルゼンの言葉に、ラウナンは、頭の中で、シュバリアを始末した日の、シュバリアの言葉を思い出すのだった。


 ―お主のような存在がミラング共和国を滅ぼすのだ。国民という存在を舐めつくしたお前のような腑抜―


 いや、勝手に頭の中に流れてくると表現した方が正しいだろう。

 ラウナンが忌避する言葉―…。

 ラウナンをそこら辺の人と変わらない存在であると思わせる言葉―…。

 ああ、生物は、自ら以外の存在よりも、自身が優れていること、優位であることを示したい存在である。ラウナンは、そのことに対して、忠実であり、そのことの本質に気づかない、愚かな存在だ。

 一方のグルゼンは、ラウナンの短剣の投擲を何も感じることなく、ただ、迫ってくる攻撃を白刃取りするかのように中指と人差し指の間に挟んで取るのだった。長剣を構えておらず、右手に長剣を持っており、それとは逆の左手で―…。

 その短剣を見たグルゼンは、

 (………天成獣との会話はできていないようだな。能力を確かめているようが力量が足りない。ふう~、それでも天成獣の宿っている武器が強いということの証左なのだろう。)

と、グルゼンは、心の中で、冷静に分析するのだった。

 そう、ラウナンは、自らの扱っている武器に宿っている天成獣と会話をすることができていない。この武器を扱うことができるようになってから、数年経ったとしても―…。

 実際、天成獣の宿っている武器を扱っている多くの者が、自らの扱っている武器の中に宿っている天成獣と会話をすることができていない。会話をするためには、強制的な魔法のような方法かもしくは、自然と聞こえるか、ということである。

 天成獣と会話をすることができるようになれば、天成獣から、自らがどういう能力かを教えてもらえるし、借りられる力の量がわかったりするものだ。

 ゆえに、天成獣と会話することができる者は、実力者へとなる確率がかなり高かったりする。

 そして、それを最初に扱うことでなすことができたグルゼンとランシュは、天才の部類に入っていてもおかしくない。自らの武器、天成獣を理解することが、天成獣の宿っている武器で戦う者の宿命である。

 その宿命に抗ったという言い方をすると良い方向に捉えられそうなので、そう言うべきではないだろう。要は、ラウナンは、天成獣のことを理解する気のなかった敗者でしかない。

 「シュバリアがなぁ~。まあ、シュバリアがラウナンに何を言ったかは知らないが、それでも、ラウナンにとっては今の短剣を投げるほどには、嫌味だったということだな。最初から、それぐらいのことを理解すれば、シュバリアは死ぬことはなかっただろうなぁ~。同時に、生きて気づくことができたのが、ラウナンの目の前だったとは不幸だったなぁ~。まあ、本人がその時どう思ったかは俺は見てないし、当事者でない以上、分からないがな!!」

と、グルゼンは言う。

 グルゼンとしては、シュバリアと同じことを言っていたことに関して、腹立たしいという感情はそれほどなかった。それよりも、むしろ、対外強硬派が権力を取る前に気づいて欲しかった。ラウナンがミラング共和国を滅ぼす可能性が高いと思っているなら、裏で暗殺することもできただろうに―…。いろんな方法を用いて―…。天成獣の宿っている武器を扱っている者でも、対抗できないわけではないだろうに―…。グルゼンを使って、ラウナンの暗殺を実行すれば良かったのに―…。グルゼンとしても、賛成はしていたであろう。

 まあ、このような方法が正義だと言われると、違うと言える。人の世の中、道徳や倫理で説かれていることだけで、良い方向に行けるのなら、こんなことをする必要はないし、したいとすら思わない。

 だけど、人の世の中というものが悲しいかな、道徳や倫理で説かれているようなことが無視されることもあるし、かつ、人が完全で完璧でない以上、道徳や倫理そのものの中の一部もしくは全部が人を良い方向とは逆の方へと向かわせることだってある。

 ゆえに、人は常に、道徳や倫理、何が正しいのかを考える必要があるし、人が決めるものが正しいとは限らないことを理解しないといけない。

 それでも、道徳や倫理が人の世の中で大事なことに変わりがある訳ではない。要は、道徳と倫理は主観性を免れることができないということである。

 「それでも、一言、言えることがある。ラウナン、俺はラウナンを殺す気はない。お前を殺すのは、ミラング共和国が滅びる時、リース王国の中にいるこれから成長していく者だろうなぁ~。じゃあ、行くわ。これ返しとくわ。」

と、グルゼンは言う。

 言い終えると、ラウナンの武器である短剣をラウナンの方へと投げ、ラウナンの右肩に刺すように当たり、ベルグ、フードを被った人物とともに、グルゼンは夜の闇へと消えていくのだった。

 一人取り残されたラウナンは―…、すでに精神に異常をきたしていた。

 (アハハハハハハハハハハハハハハ、グルゼンは殺した。俺はグルゼンの首を短剣で斬り裂き、血が大量に流れて死んだ。そうだ、そうだ。そうじゃないとおかしい。)

 嘘を真実にする。

 見ている者たちは消えた。

 ベルグなどいなかった。

 フードを被った人物も―…。

 グルゼンはここにいない。

 グルゼンの死体をラウナンが埋めたから―…。

 そう、これらの嘘はラウナンにとって真実なのだ。

 嘘を真実だとみなして、自らの心に平常心を保つ。

 そうしなければ、ラウナンの心は壊れて、二度と戻ることはないのだから―…。

 ………負けたことを受け入れられない。

 シエルマスのトップ、統領であるからこそ、失敗をすれば、自らの失態になり、下からトップの地位を狙おうとする者たちによって、寝首をかかれかねないからだ。

 自らの存在以外のすべては、ラウナンの掌で踊っていないといけないのだ。ラウナンの操り人形でないといけないのだ。

 そうすることで、全員、全員、幸せなのだ。

 ラウナンのために生きることが、皆にとっての幸せなのだ。

 ああ、ここまで、自らにとって都合の良いことを思っているとは―…。

 まるで、自分以外の他者の考えなど一切読むことなんてしていないのだろうか。いや、してはいるが、それは自分にとって都合が良いことだけなのかもしれない。

 ラウナンという存在は、自分の利益の最大化のために動いているだけなのだ。そう、主観的合理性、自分が最も合理的であると勝手に思っていることなのだ。

 そして、ラウナンの今の状況を見ている者たちがいたならば、ラウナンは壊れたと判断するだろう。心の方が―…。

 いや、元から壊れていたのかもしれない。

 自分の益になることが実現されていないのだから、他者の益とともに、自らの益を獲得することができるということを理解できないのだ。

 いや、その前に気づいていれば、ラウナンにも良い人生というものを広く見ることができたであろう。

 過去を知ることは大事だが、今は、過去を完全に再現することができない。

 この当たり前で、人にはそれに逆らうことができないことを理解している者は少ない。本当の意味で―…。

 そして、ラウナンは立ち上がる。

 (グルゼンは俺が殺した―…。そういうことにしよう。私はシエルマスのトップの統領であるから、私は失敗などしやしない。私に計算ミスが存在するはずもない。私がミスするのは、私の足を引っ張ることで得をする奴らがいるからだ。そうだ、そうに違いない。私は完璧だ。)

 壊れてしまった。

 ラウナンは―…。

 ミラング共和国滅亡物語は始まる。

 自らの失敗を正確に理解し、かつ、自らの存在の完璧さを否定することができず、負けを受け入れられなかったせいで―…。

 負けたことから、自らを成長させられることができなかったせいで―…。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(49)~序章 アルデルダ領獲得戦(49)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


グルゼンとラウナンの勝負も終わり、序章も後、次回と次々回で完成します。まあ、この勝負でラウナンは心の中が壊れてしまいました。そして―…、ミラング共和国の滅亡へと向かっていくのだろうか? 執筆してみないとわかりませんが―…。

ということで、『水晶』を読んでくださっている人、評価およびブックマークをしてくださった皆様には感謝しかありません。ありがとうございます。

PV数が増加しますように―…。

では―…。

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