番外編 ミラング共和国滅亡物語(44)~序章 アルデルダ領獲得戦(44)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、グルゼンVSランシュとの戦いに決着がつき、そして、停戦交渉も山場を迎えるのだった。そして、リース王国の騎士団とミラング共和国軍第四師団との戦いもまた、決着が―…。
「確かに誠意ばかりでは、上手くいかないのがこの世―…。だけど、誠意というのは、信頼を得るために必要なことではありませんか。シエルマスの統領であったことから、人の醜い場面を数多く見てしまったのは致し方ないこと―…。だけど、人は、その分、誰かに善意を振りまくもの何ですよ。私としては、ミラング共和国側が我々の条件を飲んでもらうのなら、アルデルダ領を割譲する用意はあるのですよ。」
と、アールトンは言う。
心の中では、
(ここで、こちらがアルデルダ領の割譲の意思があることを示しておきましょう。まあ、これで、我々の意図はシエルマスの統領ラウナン=アルディエーレに伝わってしまうことだろう。まあ、今、私の言っていることは矛盾も多量にはらんだものだ。だから、その矛盾を確実についてくることは確かだ。さあ、そろそろ、交渉も終わらせにいきましょうか。)
と。
アールトンとしては、この誠意というタイミングで、わざと矛盾することを言うのだった。理由は、長引く交渉であったとしても、この場で誠意ということを示す必要がある。そう、リース王国側にとっては、アルデルダ領をミラング共和国側に割譲する、ということを―…。
そして、その言葉の矛盾について、確実に、ラウナンは指摘しないといけないことに気づき、その選択肢を外すことはできないように仕向けるのだった。誘導であり、選択肢を一本にするという狙いがあった。
それに、リース王国としては、アルデルダ領の割譲に関しては、戦前から想定されていたことなのだから―…。理由は、アルデルダ領がリース王国にとって、お荷物であり、あるだけで、財政支援しないといけないし、リース王国に利のあるものではないからだ。
(ここで、アルデルダ領の割譲―…。それに、さっきの要求と矛盾している箇所がある。アルデルダ領を割譲する意思はない………というわけではなく、アルデルダ領を割譲する意思はあるが、それをすぐに出すわけにはいかない。すぐに出してしまうことは、負けを認めたことになるから―…。そう考えると、アルデルダ領にリース王国軍を入れなかったのも納得がいきますし、我々が集めた情報にも合致する。そして、私からアルデルダ領を譲渡することを承認させるということなのだろう。そして、そろそろ停戦協定を終わらせたいところですが―…。いくつか決めないといけない。商品税と通過税、最低でも通過税の撤廃だな。)
と、ラウナンは心の中で考える。
ラウナンとしては、リース王国側の意図というものを理解することができた。そして、アルデルダ領をミラング共和国側に割譲する意思があるということを―…。
だけど、それだけでは問題なのだ。アルデルダ領がミラング共和国側になると言っても、商品税と通過税がアルデルダ領を通って、ミラング共和国に入ってくる時に商人が支払う額と同じ額になる可能性が存在するのだ。それはないかもしれないが、協定で約束させないといけない。特に、通過税に関しては廃止させないと―…。
「アルデルダ領をミラング共和国側に割譲されることには同意いたしますが、後、通過税の廃止および商品税の減額も付け加えてもらわないといけない。そうしなければ、ミラング共和国は再度、リース王国に戦争を仕掛けるかもしれません。今度も、ミラング共和国の国民の怒りがさらに、上乗せされていることでしょう。私としても、そのような結果になるのはよろしいとは思っておりません。飲んでいただけますよねぇ~。」
と、ラウナンは言う。
ラウナンの言い方は、圧を与えるような感じであり、これに関しては、飲んでもらわないといけない。ラウナンとしては、しばらくの間、リース王国と戦争する気にはならなかった。停戦協定をした後、すぐに戦争なんて、周辺諸国からの信頼というものを簡単に失うし、ミラング共和国が弱れば、周辺諸国はこれチャンスと言わんばかりにミラング共和国を攻めて、領土を奪っていくことだろう。
そのようなことがわかっているからこそ、停戦協定後すぐに、リース王国と戦争を再開することはない。むしろ、他の弱い諸国へと向けて進軍することになるし、海のある国を目指す方が効率的だ。リース王国以外の―…。
(商品税かぁ~。まあ、アルデルダ領の分だけ減額したとしても、交易の増加が見込めるなら、飲むべきだろう。通過税に関しては、リース王国にはないから、条件を飲むことができる。それに、そろそろ、騎士どもも大分、数を減らしたところであろう。ここで交渉を終わらせるか。)
と、アールトンは心の中で思う。
アールトンとしては、目的を達成することは可能であるし、リース王国側、いや、ラーンドル一派としてもこれから内陸交易で大量の得を手に入れることができるのだから、これ以上、交渉を焦らせる必要もない。さらに、リース王国の騎士団の騎士の数もかなり減っているのだと思い―…。
「わかった、これで停戦交渉は終わりで良いかな。」
「ええ。」
こうして、リース王国側のアールトン、ミラング共和国側のラウナンのリース王国とミラング共和国における今回の戦争における停戦交渉が終わるのであった。
戦争終結という感じで―…。
リース王国の騎士団の本陣。
リーウォルゲは、ただ見つめる。
(ミラング共和国軍が撤退していった。だけど―…。)
と、心の中で思いながら、そこには、多数の死体があった。
その死体は、ミラング共和国軍第四師団の兵士とリース王国騎士団の騎士のものである。
そこには、数を数えるのが大変だと感じさせられると見た目から思ってしまうぐらいに―…。
(騎士団の方も数をだいぶ減らしてしまっている。確実に、全滅の定義になるぐらいに―…。クソッ!!)
と、リーウォルゲは悔しそうに心の中で思うが、それでも、それを感情に出すわけにはいかない。
騎士である以上、いつか、自らが戦いの中で死んでいくことを理解しているし、それに同意した上で、騎士となっているのだから―…。
だけど、それでも、一人でも多くの者が生き残って欲しいと思っているし、身近な騎士たちが死ぬことに何も感じないということはない。頭の中でわかっていることでも、感情というものではそれを理解しようとしてくれない。いや、消せない気持ちは湧き水のごとく溢れてしまっているのだ。
(今、戦死者の数の把握だ。戦いが終わったとしても、俺らにはやるべきことがたくさん残っている。まだ、ミラング共和国軍が攻めてこないとは限らないし―…。)
そう、リーウォルゲにとっては、まだ、このリース王国とミラング共和国の戦争は終わっていない。停戦交渉の結果の知らせが届いていないのだから―…。
ミラング共和国軍に対して、警戒しない理由がない。
「動ける者は負傷者を救護テントへと運べ!! それが済み次第、死者の埋葬と死者数を数えるように!!」
と、リーウォルゲは命じる。
その声を聞いた者たちは、騎士たちはすぐに負傷者を救護テントへと運ぶのであった。
それを終えると、死者の埋葬と同時に、ミラング共和国軍とリース王国軍の騎士団の本陣での戦いの死者の数を埋葬と同時に数えるのだった。
一方、ランシュのいる場所。
グルゼンとの戦いから数分後、ランシュは起き上がる。
天成獣の力を借りることはできないが、武器を持って、戦うことはできる。
そして、ランシュは、生き残っているリース王国軍の騎士を探すのだった。
その時―…。
「ランシュ、敵は撤退していった。」
と、ラウナンが言う。
その声に、ランシュは自らの先輩であるラウナウのものであることに気づき、先輩のいると思われる方向へと視線を向ける。
ランシュは、ラウナウの表情が冴えないものであることを理解し、何となく、良くない結果であることに気づき、その推測を言葉にすることはなかった。
そのことに関して、
(先輩が言うと思うから―…。)
と、ランシュは、心の中で思うのだった。
そして、
「そうですか。わかりました。」
と、ランシュは、そのことのみをラウナウに向かって言う。
そして、ラウナウは、ランシュに対して、重い表情をしながら言い始めるのだった。これを言いたくはないが、それでも、言わないといけないことだから―…。
たとえ、ミラング共和国軍の第四師団が撤退していったからと言っても、こちら側にとっては、不幸な出来事にすぎないのだから―…。
「騎士の四割が亡くなった。今回の戦いで、な。ミラング共和国軍へと強襲をした奴らと、この本陣での戦闘に当たった奴らも、関係なく―…。この騎士の数を補うのは相当な時間がかかる。」
と、ラウナウは言う。
ランシュも理解することができる。
その後に、ラウナウが言うことを―…。
そして、ラウナウは続けて、
「リース王国の中央で権力を握っている方々が推薦する人間を騎士団に大量に送ってくるということですか。リーウォルゲ団長に責任を擦り付けた後に―…。」
と。
ラウナウとしても、リーウォルゲとしても、気づいていないわけではないが、それでも、どのように、リース王国の騎士団の騎士を減らそうとするのか、具体的な方法を理解することができなかったし、かつ、騎士団よりも上の存在であり、かつ、騎士団の誓約の関係上、上からの命令には忠実に従わないといけないのだ。
そのことを、アールトンは上手く利用して、目的を達成したというわけだ。
ただし、目的を達成したからといって、自らにとっての本当の利益を得られるというわけではなく、その逆もしかりと存在するのである。理想を現実にして、自らを滅ぼすことができるように―…。
そのことにアールトンはいまだに、気づいていない。
理想に溺れ、現実が見えなくなってしまった者の特徴なのであろうか。
さて、リーウォルゲとしても、このような騎士団の騎士の戦死者を出してしまっている以上、責任を取らされるのはわかっている。自らの首、一つで責任が果たされれば良いが、そのようなことはないだろう。リーウォルゲだって、責任を取りたくない気持ちはかなりある。だけど、誰かが責任を取らなければならないのなら、トップである者が取るのが道理であろう。
そして、リーウォルゲは悔しく思ってしまうだろう。自分自身に力があれば―…、と。
これ以上は、話が逸れてしまうので、また、後に、リーウォルゲの気持ちに触れられれば良い。
一方で、ランシュは、ラウナウが言いそうなことを理解できてしまうのだった。推測でしかないかもしれないが―…。
(そう、狙いは何となく理解でき始めていた。リース王国の中央で権力を握っている奴らは、今回のアルデルダ領へのミラング共和国軍の侵入を利用して、騎士の中でリースの中央で権力を握っている奴らに反対するかもしれない勢力の削減とリーウォルゲ団長へのその責任の擦り付け、それから戦死者が発生したことによる騎士団員の数を奴らの推薦で補うということだ。要は、リース王国の中央で権力を握っている奴らがやりたいことは、リース王国における自らの権力の完全掌握と、反対勢力の一掃。そうすれば、奴らは完全にリース王国をわが物にできるというわけだ。そのせいで、俺らはこんな危険な目にも遭わされることになったし、リース王国の領土を失うことになったのだ。彼らはリース王国のことを思っている愛国者とか言うが、実態は自分たちの権力にしか興味がなく、自らの権力によってしないといけないことをはき違えている存在でしかない。俺は、別に愛国者じゃないが、こんなことを思ってしまう。本当に国を滅ぼすのは、私欲だけしか興味がなく、周りが不幸になることを厭わないような奴らなのだ。)
と、心の中でランシュは思うのだった。
ランシュからしたら、ラーンドル一派のやろうとしていることは、馬鹿なことでしかない。それでも、彼らはそれに成功しているのだから、現実というものは残酷なものだと理解させられてしまう。
それに、ランシュは、グルゼンとの戦いで敗北しているのだ。
ゆえに、強い気持ちを抱くのだった。
ラーンドル一派のことは、愛国心を語っている偽善者でしかなく、本当は自らの権力を築くことにしか興味のない、いや、自らの権力のためなら他者を何人蹴落とそうとする存在としか思えなかった。美辞麗句も彼らの欲という汚さを隠すための道具でしかないことを理解させられる。
そして、自らの権力基盤の確立のためなら、何でもして良いと思っていることに対して、ランシュも言える義理ではないが、せめて、無意識に思った部下であるヒルバスのためもあり―…。
(だから、俺は心から強くして、一つの決心を言葉にして、言いたくなる。)
ランシュは心の中で決意し、言い始める。
「先輩、俺は強くなって、王族の護衛を受けるようになるほどの実力を身に付ける。ならなくちゃいけない。弱い存在のままじゃいられない。帰ったら、より鍛錬の時間が欲しい。」
これは、ランシュの偽ることのない気持ち。
リース王国の王であるレグニエドと、アルデルダ領の領主だったエルゲルダへの復讐のため。ヒルバスという友であり、部下が望む、リース王国の本当の意味での繁栄のために―…。
ランシュは決意し、強くなろうとする。
レグニエドへの復讐は、王族の護衛になった方が達成しやすくなる。そして、ヒルバスとの約束のために、必要とあらば、リース王国の権力を掌握しようと考える。権力の掌握には実際興味はないのだが―…。
ラーンドル一派の勢力の動き次第ではあるが、無意識のうちに、ラーンドル一派を許せる存在ではないと認識するのであった。
その言葉を聞いたラウナウは、
(ランシュ、お前は強くなる。己の弱さと壁にぶち当たった時、人は本当の意味で、自らの真価というものが問われる。この時、真っ向から立ち向かおうと考え、それを強く口にできる者は、成長する。人としての強さとともに―…。ならば、俺が言えることはこれだけだな。)
と、心の中で、ランシュの言葉に嬉しい気持ちを抱くのだった。
たとえ、今回のミラング共和国とリース王国の戦争で、ラーンドル一派の策略に嵌められて、騎士の多くを殺されたとしても、生き残った者の中に、これほどまで、真っ直ぐかはわからないけど、強くなろうとしている者がいるのだ。それを口に出せるぐらいの―…。
ランシュを後輩に持てて良かった。
だからこそ、先輩として、ラウナウは、自らがランシュにできることはこれぐらいしかなかった。
そう―…。
「そうか、俺の鍛錬はさらに厳しいぞ。弱音を吐くなよ。」
と、ラウナウは言う。
これからより強くなっていくであろう、ランシュを騎士団の騎士の中で、最強にするために―…。
「はい!!!」
ランシュもラウナウの言葉に、すぐに返事をする。
ランシュにとって、意志は復讐にあれど、その後は友の約束のために生きていくことを―…。
そして、ランシュとラウナウは本陣に戻っていくのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(45)~序章 アルデルダ領獲得戦(45)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
長い長い番外編の序章も終わり近づいてきました。第一章に入る前に、一週間か二週間ほど投稿をお休みします。ストックを増やすためです。
それに、『ウィザーズ コンダクター』とか『この異世界に救済を』も進めておかないといけないと思っているという面もあります。
投稿を休んでいる間も、ずっと、『水晶』の執筆を進めていたりするので、大変なことには変わりありませんが―…。
『この異世界に救済を』は、プロローグの盛り上がる大事な場面に入っていくと思います。イルアーナがギフトを獲得したことが、一つのある出来事にきっかけになって―…。語り手の伏線を回収できればなぁ~、と。
では―…。