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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
389/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(43)~序章 アルデルダ領獲得戦(43)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ランシュとグルゼンの戦いに決着がつき、グルゼンが勝利するのだった。そして、グルゼンはどこかへと消えるのであった。

 ミラング共和国軍第四師団。

 その本陣―…。

 次から次へと情報、戦況に関する情報がもたらされる。

 それを聞くのは、第四師団のトップおよび参謀を担当する者たちである。

 「ナッド=ナックルオーバー将軍!! リース王国の騎士団のトップ、リーウォルゲが戦線に出ており、こちらの死傷者が増加しています。さらに、ナウード=ファンサの騎馬隊は進撃したのですが、行方不明で、偵察に出たと思われるシエルマスの者も帰ってこず!! 明らかに、リーウォルゲ以外にも強者がリース王国の騎士団の中にいるものと思われます。」

と、報告者は自らの推測を混ぜて報告する。

 その推測を、ナッド=ナックルオーバーは、すぐに理解する。

 そして、その推測の方が正しいかもしれない、最悪の結果であることを―…。

 このままでは、リース王国の騎士団にダメージを与えることはできるが、同時に、自らの師団の兵士の犠牲者数が多大なものになる。三割が全滅のラインだとすれば、確実に、全滅以上の結果になる。師団の半分がリース王国の騎士団の全員を殲滅することによって、命を落としてしまうかもしれないと―…。

 これも推測でしかないことは確かだが、それでも、そのような結果になりそうに感じて、ナッド=ナックルオーバーは恐れる。

 兵士をいくらでも補充できるなんて発想自体、無理なことであり、よっぽど、自らの国民がいなくなることに抵抗がない、ろくでもない奴であることに間違いはない。それで、そのようなことを想起して、さらに、良い選択だと思う人物で、その国の愛国心なんてことを宣うものなら、こいつは、絶対に信じてはならない、トップにしてはいけないような存在だ。たとえ、口触りの良い、心地良い言葉を言う者であったとしても―…。

 破滅の道を簡単に、開いてくれる存在でしかないのだから―…。

 さて、ナッド=ナックルオーバーとしては、以下の心の中で思っているようなことになる。

 (このまま、この戦線を維持するのは危険としか言いようがない。この師団のトップとしては、退却し、大勢を整えるのが一番の良い選択だ。だけど、戦いから撤退させる選択をシエルマスおよび、ファルケンシュタイロが認めるだろうか? 彼ら、対外強硬派は、この戦いでの勝利を望んでいるはずだ。それに、ここで、リース王国との戦争を終わらせるにしても、他の国との衝突も考えると、これ以上、兵を減らすわけにはいかない。シエルマス側からの許可を貰った方が良いな。)

と、ナッド=ナックルオーバーは考える。

 これを今、言葉に出すことはない。

 まだ、考えを纏められてはいないし、今回の戦争で実質上の主要ゲームメーカーとなっているのは、シエルマスの統領ラウナン=アルディエーレであることに、間違いはない。

 そうなってくると、ラウナンの意向に逆らうことはできない。

 だけど―…。

 「ふう~、急いできて良かったぜぇ~。」

と、第四師団の本陣の中に入ってくる人物がいた。

 ここまでの移動に、数十分ほどの時間を消費したのは事実だし、走ってきたのは事実だ。

 それでも、息を切らすことなく、いや、息を切らしているような表情を見せないでいた、という方が正しいだろう。

 第四師団の本陣は、リース王国の騎士団を攻めることになったので、前へと素早く移動させていたのだ。垂れ幕を作るだけにしているのみの簡易なものとして―…。

 「ナックルオーバー、久々だな。」

と、続けて、この人物は言う。

 そして、ナッド=ナックルオーバーは、この人物が何者であるかを知っている。

 「グルゼン!! 貴様!!! 一体、どこにいた!!! お前の第二師団はどうなっている!!!」

と、ナックルオーバーは、激しい口調で言う。

 これは、グルゼンが指揮する第二師団が元々、リース王国の騎士団の軍隊に攻める予定であったからだ。それなのに、リース王国の騎士団によって、攻められたのは、第二師団ではなくて、第四師団だったのだ。それに、第二師団は第四師団の前にいたはずだから―…、そう、リース王国の騎士団の近くに―…。

 「ナックルオーバー、第二師団のことに関しては、心配無用だ。それに、第二師団は安全な場所におり、いつでも攻めることができる準備はできている。だが―…、第二師団を用いても、リース王国の騎士団を全滅させることができないのは、確かだ。リース王国の騎士団のトップ以外にも、天成獣の宿っている武器を扱っている者が複数いる。そいつらは、確実に実力があり、ナックルオーバーの想定より酷い被害になる。それに、第四師団は、撤退させて、ここに集まるようにした。」

と、グルゼンは言う。

 グルゼンも戦況を把握できないほどではないし、全滅の定義を理解している。

 ゆえに、このまま、リース王国の騎士団と戦っても、無駄に兵力を消費するだけで、それに見合った戦果を得ることはできない。そうなれば、後々、悪い方向に響くのは、経験上からわかっている。こういう場合、引き際を誤ると、最悪の結果になるのだから―…。

 「ナッ!!!」

と、ナックルオーバーは、グルゼンの言葉に驚くのだった。

 一瞬、冷静さをナックルオーバーは無くすのだった。

 「グルゼン!!! 貴様、わかっているのか!!! この戦争の軍隊を指揮しているのが誰か!!!」

と、ナックルオーバーは怒りを見せる。

 ナックルオーバーとしては、当たり前のことである。だって、この戦争の実権を握っているのは、シエルマスの統領ラウナンなのだ。

 そのことを知らないのなら、軍人としては、はっきりと言うが、指揮官を務めることはできない。そう、シエルマスに簡単に始末されて、命ごと奪われ、自らの老衰までの未来に手に入るかもしれない幸運を手放すことになる。

 ゆえに、ナックルオーバーは、シエルマスに事前の許可を貰っておくことが必要だ。

 「知っているさ。ファルケンシュタイロ―…。だけど、実質の指揮権は、シエルマスの統領ラウナン=アルディエーレ。簡単に言えば、そいつの一存で、この戦争を終わらすこともできるが、同時に、続けることもできる。権力ってのは怖ぇ~ものだよ。ある程度のことは何でもできるのだから、行使する者はその魔力に取りつかれて、可笑しくなるだけだ。その恐怖を知らない者は特に―…。さて、本題だ。俺は、独断で第四師団を撤退させた。現にそうだ。だからこそ、ナックルオーバーは、ラウナンおよびシエルマスに撤退のことに関して、問い詰められるようなことがあれば、俺から脅されたとでも言え。それに、聞いているであろうシエルマスはこのように報告する。」

と、グルゼンは言う。

 この言葉は、わざとシエルマスに聞かせている。

 なぜなら、この言葉をそのままラウナンに報告してくれるからだ。この場面において、グルゼンはシエルマスという組織を信頼しているのだ。ラウナンはその報告からグルゼンという人間を分析するのだと―…。

 その分析の結果までは、グルゼンにしても読むことはできないが、それでも、ナックルオーバーが殺されることはない。グルゼンが独断で第四師団をリース王国の騎士団との戦いから引かせたのだから―…。グルゼンが、この戦争を終わって、ミラング共和国軍を辞めてしまう以上、少しでも優秀なのは残しておく必要がある。

 そうなってくると、平均的なナックルオーバーを殺すという選択は、アホなことでしかない。自らの軍事力を弱めることでしかないのだから―…。

 (………………何を言っているかは分からないが、グルゼンが優秀な軍人であるのは、誰もが認めるところ。こうなってしまった以上、シエルマスに始末される可能性も覚悟しないといけないとは―…。悲しきかな。)

と、ナックルオーバーは心の中で思う。

 グルゼンの意図を理解することができないわけではない。グルゼンの独断だから、ラウナンの方もナックルオーバーを殺すという方法を選択することはないだろう―…と。だけど、完全にそのようなことになるとは限らない。

 そして、ナックルオーバーは、最悪のことを想定して、自分の死というものを考え、覚悟を決めるのだった。死にたいとは思わないし、生き残れるのであれば、生き残りたい。

 ナックルオーバーは、人生がままならないことに、悲哀を感じるのだった。

 「そう落ち込むことはないだろ。それに―…、一番、この戦争で叩かれるのは俺なんだから―…。対外強硬派としては、味方にならなかった俺のことを目の上のたん瘤とでも思っているのだろう。俺がミラング共和国軍を辞めるから、いつ、どこかで暗殺でもしてやろうとかでも考えていそうだ。しょうもない。他国に、俺が取られるのを恐れてのことだろう。別に、俺はどこかの国に仕えることはしないのだが、なぁ~。じゃあ。」

と、グルゼンは言うと、第四師団の本陣から外に出て行くのだった。

 そのグルゼンを姿を見て、

 「何を考えているんだ、グルゼン(あいつ)は―…。」

と、ナックルオーバーは言うのだった。

 その言い方は、溜息混じりであり、グルゼンの行動力に呆れるのと同時に、自分もそのようにできたらという羨望の眼差しがあるものだった。グルゼンという上司がいれば、自分も軍隊の指揮もやりやすいと思ったのだろうが―…。それはもう二度と叶わぬものであり、そのような現実を受け入れるしかないと思うのだった。

 ナックルオーバーは、あくまでも普通の指揮官であるが、ファルケンシュタイロと違い、真面な感性をもっている面で、ファルケンシュタイロより優れているのだと言えよう。


 リース王国の本陣。

 交渉は続いている―…。

 「あなた方は私に誠意というものを説きますが、私も裏の仕事をしており、たくさんの要人に関して見てきました。だけど、その全員が、国民に対して表向きは綺麗事ばかりで、美辞麗句を並べ、媚び(へつら)っており、裏では国民のことを馬鹿にし、やる事は自らの私欲ばかり―…。そのような者たちの言葉の一体、どこに、誠意というものがあるのでしょうか? 誠意というのであれば、私の言っていることのすべてを実行に移してくれなければ、その言葉に何の意味もございません。そう思いますよね、リース王国の交渉担当をしているラーンドル商会のアールトンさん。」

と、ラウナンは言う。

 ラウナンは、ラーンドル一派のメンバーを全員知っている。その顔に関しては、一致させることはできないが、今回参加している総大将がファルアールトであることを、アールトンの名前からどの人物を指すかを理解し、さらに、軍服を着ていないが、それでも、総大将とも対等な関係を気づいている以上、その人間がアールトンであると推測できたのだ。

 そして、ラウナンは、ラーンドル一派が誠意という言葉を使うのも片腹痛い勢力であることを十分に理解している。シエルマスの一部をリース王国の内情を探るために、派遣している以上、ちゃんとした情報はすぐに入ってくる。だって、覗かれているし、見張られているのは確かだ―…。メタグニキアの方も探っているが、何回かメタグニキアの私設部隊に見つかり、処分されているので、メタグニキアの方に関しては、そこまで情報がない。

 だけど、ラーンドル一派に関しては、メタグニキア以外はかなり情報が集まっている。これは、メタグニキアが自ら以外の人間の監視をおこなっているが、他国から探りにはそこまで自分以外の存在には注意を払っていないからだ。

 要は、メタグニキアがアホなのは確かなことだ。それに、私設部隊の者たちが従っているのだ。哀れとしか言いようがない。

 (人なんて生き物は誠意とか他者に示しつつ、自分の得とか、利益とかしか考えられない生き物なのですから―…。本性なんてそんなもの。)

と、ラウナンは、心の中で思う。

 ラウナンもまた、このような人間であることを自負しているし、そのような人間であることを素晴らしいとすら思っている。理解したという恐ろしい一面を見せつけられている感じだ。

 さらに、ラウナンの言っている、誠意をラウナンに示すためには、ラウナンの言っている停戦交渉の要求をすべて飲まないといけない。ラウナンがそのように提示したからだ。

 これを飲むことなどリース王国側にはできない。

 (アルデルダ領を割譲するぐらいだけなら、その要求のみ飲むことはできるが、それ以外の要求なんて飲めるか!! 誠意なんてものは、シエルマスの統領に言われなくても、ないことぐらいは分かっている。だけど、それはテメーらも一緒だろうが!!! ………落ち着かなければな。冷静さを欠いては、交渉を有利に運ぶことなどできない。)

と、アールトンは心の中で思う。

 そして、言葉による反撃を試みるのだった。

番外編 ミラング共和国滅亡物語(44)~序章 アルデルダ領獲得戦(44)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では―…。

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