番外編 ミラング共和国滅亡物語(42)~序章 アルデルダ領獲得戦(42)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、グルゼンVSランシュの戦いに決着がつき、一方で、ミラング共和国とリース王国における今回の戦争における停戦交渉がおこなわれるのだった。
ヒルバスは絶望する。
ランシュが、ミラング共和国軍の兵士に倒されたのだから―…。
だけど、ヒルバスがランシュのいる場へと向かうことができない。
「グルゼン親方の戦っている奴の味方なので、殺す気はねぇ~。親方が殺していない以上なぁ~。それに安心しな。親方が戦いの中で言ったことの大抵は守られる。今回は、守られるほうだ。」
と、一人の人物が言う。
その人物は、グルゼンの後を追ってやってきた人物であり、グルゼンの部下の一人である。
そして、ヒルバスは、グルゼンがランシュを殺していない以上、この目の前で戦っている人物を殺すわけにはいかないとは思っていないが、確実に、殺そうとすれば、返って、ヒルバスが返り討ちにされるのではないかと感じた。
ランシュと戦いながらも、自分の命を狙ってくるのではないか、という存在に徹底的にマークしているのだ。
それも、天成獣に選ばれたわけではない、生身の人間が―…。
(ランシュ様が勝てない存在なら、私が戦っても勝てるはずがありません。というか、天成獣に選ばれない人が何であそこまで強い。)
と、ヒルバスは、グルゼンを警戒する。
そして、同時に、目の前で対峙している人物は、ヒルバスより強いわけではないが、攻撃をあっさりと避けるし、最悪の選択をしていない。こういうのをやりずらいと、ヒルバスに感じさせるのだった。
「そうですか―…。服装を見たところミラング共和国軍の兵士のようですが―…。戦争中に敵兵を殺さないとは―…。よっぽどの甘ちゃんじゃないのですか?」
と、ヒルバスは絶望したとしても、今やるべきことを考えられるぐらいに、冷静になり、言う。
言い返すという言葉の方がより適切かもしれない。
ヒルバスにとっても、目の前に相手に負けていないと思わせるために―…。
それに、当たり前のことを実際に、していないのだから―…。
「甘ちゃんか―…。確かに、今回の戦争では結構の甘ちゃんをしているが、それでも、本気でやるべき相手というのはわかっている。それに、グルゼン親方は俺らのことをちゃんと評価してくれた唯一の指揮官であり、親分だ。この人の花道を汚すわけにはいかないのだよ。それに、親方は大丈夫だろうから、俺は、自分の居場所でも戻りますか。」
と、ヒルバスと対峙している人物は、ヒルバスに背を向けて、第二師団のいる場所へと戻っていくのだった。
ヒルバスは好機だと思っている銃口を構えようとするが―…、一瞬で、殺気を感じて、止めるのだった。
(グルゼン―…、ミラング共和国最強の兵士であり、指揮官。その人物の花道―…。ミラング共和国がグルゼンのような指揮官を手放すとは思えないが―…。まあ、今の私には関係ないことだから、目の前のことに集中しましょう。)
と、ヒルバスは、心の中で思い、ランシュの視界が入る場所で、ミラング共和国軍第四師団の兵士を銃撃していくのだった。
正確に―…、ミスなく―…。
ランシュとグルゼンがいる場所―…。
「はあ…はあ………はあ。クソ!!」
ランシュは、悔しそうにしながらも、呼吸はすでに乱している。
すでに、ランシュは、グルゼンの攻撃を受けて、戦闘をおこなうことができなくなっていた。
ランシュは理解していた。
(そりゃそうか。俺は、天成獣の宿っている武器の力を用いても―…、倒せなかっただけでなく、倒されたのだから―…。)
と、心の中で、嫌でも認めないといけないほどに―…。
一方のグルゼンは、まだまだ、余裕がある表情をしており、現実に、そうなのである。
「良く粘った。だが、まだ、鍛錬が足りないな。強くなるためには、休むことも大事だが、人一倍密の濃い鍛錬を積み重ね、誰もを近寄らせない雰囲気を鍛錬中に相手に思わせることだな。」
と、グルゼンは言う。
これはグルゼンにとって、アドバイスであろう。
部下の稽古をつけることが良くあるから、その癖というものがここで出てしまったのだ。
その時、グルゼンは、ヒルバスの殺気を放ち、こちらに攻めてこさせないようにする。グルゼンは、このようにランシュ以外のことに集中や警戒することができるぐらいには、ランシュよりも実力があり、それを示している。
(アドバイスをいつもの癖でしてしまった。まあ、言ったものは仕方ない。それにしても、ランシュに忠実の部下がいて、それなりの実力者になるかもしれない者を従えているのか。これも器か。)
と、グルゼンは、ランシュをそう評するのだった。
グルゼンは、ランシュのことを、実力がある者が集まってくることに、上に立つ者の素質を感じるのであった。グルゼンは気づいていないだろうが、グルゼンの部下もまたそのように―…。良き人材が集まるのは、時に人徳の一つとも言えるかもしれない。
そして、グルゼンは、戦いが終わったと理解し、剣を鞘の中に収め、ランシュのいる場所から立ち去るのだった。
そこに、取り残されたランシュは、
(クソ、クソッ!!! グルゼン親方とは、戦場で会うことはないのかもしれない。まあ、将来どうなるかはわからない以上、考えても仕方ない。)
と、ランシュは、悔しそうにしながらも、これ以降、会うことはないだろうと感じた。
だけど、そのような予感が本当に当たる可能性など、未来のある時点でランシュとグルゼンが戦って外れるまで、いや、ランシュかグルゼンのどちらかの生が終わるまではわからないことだ。
もし、これが物語であるのなら、きっと、この二人はどこかで戦うことになるだろう。
まあ、本当は戦うことになるのだが―…。
さて、話を戻して、ランシュは、
(だけど、これで俺は分かった。)
と、心の中で理解する。
「もっと、俺は―…、強くなりたい。」
と、自然と口にする。
今、ランシュが抱いている気持ちは、本音だ。
このような戦場―…、どこから、命を狙われるかはわからない。
そんななかにあって、ランシュは、自身が弱いことを理解し、より強くなろうと思う。強くなりたいと―…。そう、強さの基準ができたのだ。
その基準は、勿論、さっき戦ったグルゼンである。
そして、話はリース王国の本陣へと戻る。
時は、ランシュとグルゼンが出会う前だ。
「そうですか―…。すべてを断るということになると、交渉は平行線を辿るだけになって、停戦交渉ができなくなります。リース王国側が我々の要求に譲歩してくれるとありがたいのですが―…。」
と、ラウナンは言う。
ラウナンとしては、こっちが先に譲歩することは有り得ない。なぜなら、ミラング共和国としての面子というものがあり、今回のミラング共和国とリース王国の戦争は、ミラング共和国にとって、国民の不満を利用して起こしたものである。その原因に、リース王国のアルデルダ領の商品税の増税と通過税の新設によって、引き起こされたミラング共和国の物価上昇にあるのだから―…。
それに、ミラング共和国側、特にラウナンは、ラーンドル一派がリーンウルネに実権を奪われなければ問題はない。ラーンドル一派よりもリーンウルネの方が、リース王国の国民からの支持があり、リーンウルネにリース王国の実権を奪われると、リース王国の国民が団結して、侵入者であるミラング共和国軍に立ち向かおうとするし、リーンウルネはリース王国の騎士団を上手く扱うことができるだろうし、そのようにできる指揮官に任せるだろう。
類は友を呼ぶように、良き人材は善き君主の元に集まってくる。それが、リーンウルネには可能なのだ。
だからこそ、ラーンドル一派がこのまま、リース王国が滅びるその日まで実権を握っててもらうのが、ラウナンにとっては得策である。
駆け引きはすでに始まっているし、ファルアールトらではわからないような戦いが今、繰り広げられているのだ。
「受け入れるわけがない。こんな理不尽な要求、ミラング共和国にとって有利なものばかりを入れているのを、負けてもいないのに受け入れろというのは道理に合わない。シエルマスで諜報や謀略ばかりやっているのでわからないと思いますが、交渉の場で、誠意を見せないということは、信頼をなくすのですよ。わかっていますか?」
と、アールトンは煽るように言う。
アールトンは死にたいとは思っていないし、殺されたいと考えて、このようなことをしているわけではない。ミラング共和国側からの要求には誠意がないということを、ここで言いたいのだ。そう、通じないかもしれないが、ラウナンに誠意の大切を示しているのだ。そうしなければ、交渉は失敗するぞ、という感じで―…。
(………怖ぁ~。ここですぐに、殺されていないということは、このラインに関してはまだ大丈夫だという感じでしょう。譲歩をするにしても、まだ―…。アルデルダ領をミラング共和国側に割譲するのはまだ―…。それ以外は勿論、すべてではないが受ける気はない。)
と、アールトンは心の中で思う。
アールトンにとって、アルデルダ領をミラング共和国側に割譲することは、この停戦協定で盛り込むべきことである。必ず―…。
それでも、今すぐ、この交渉の場で、割譲するということを言うべきではない。粘った上での負けが大事なのだから―…。特に、ファルアールトの部下たちに、確実に、粘って負けたということを報告してもらうために―…。
(ふう~、誠意ねぇ~。私にそれを説きますか。まあ、リース王国側に誠意がないということもわかりますし、私にも誠意というものはありません。他国を武力や謀略、陰謀を仕掛け、支配して何が悪いというのですか。これは至極真っ当な権利だと思いますが―…。どんな国だって、自国が優れていると思っているのは丸わかりだ。なのに、平和や人権、やらの言葉で表面を覆って、さも善人であるように振舞いすぎなんだよ。そんな仮面も悪くはありませんが、やっぱり、欲望はちゃんと達成させないと―…。そう、ミラング共和国、いや、シエルマス、それを率いる私に誰もが服従するのが快感なのだ。……っと、余計なことを思ってしまいましたが、私が誠意がないごときで、自分が悪いと思うとお思いですか。そんなわけがない。誠意なくて上等!! まあ、もう少しぐらい駆け引きをしないとねぇ~。)
と、ラウナンは心の中で思う。
ラウナンとしては、自らが誠意のない人間であることを理解している。誠意がないことが悪いと問われても何? としか感じることができない。アールトンも誠意がないことを言ったとして、ラウナンに通じる可能性は低いと思っている以上、そこまでのダメージにはなっていないだろうし、ラウナンにとってはノーダメージという感じだ。
シエルマスの統領である以上、謀略や諜報によって、自国、ミラング共和国に有利にすることは自らの組織および自身の存在意義である。
そして、ラウナンは、他国を謀略や陰謀によって、ミラング共和国にとって有利な状態にし、かつ、支配すること―…、さらに、ミラング共和国内の裏の権力および自らの操り人形をトップにして、政治を操り、政策が失敗するようであれば、操り人形を変えることに、情熱を注いでいる。
そう、ラウナンの手の平の上に、人々が踊っていることに快感を感じるのだ。ラウナンは―…。
ラウナンがこのような人間である以上、ろくでもない奴だと、ラウナンの本性をここで理解できる人は、そのように思うし、危険だと判断することができる。
さらに、ラウナンは、欲望を、誰もが求める善人像で覆うことで、隠すことを嫌っていない。ラウナン自身、他国や国内を問わず、謀略や諜報をおこなっている以上、上の人間の善人面以外の面をたくさん見てきている。口では良いことを言っているが、裏では人格者とは真逆に位置しており、むしろ、自らの私欲にしか興味がなく、他人を蹴落として良いと思っている人たちを―…。
そんなのを見たから心を歪めたというよりも、やっと、人というものを知ることができて、むしろ、歓喜し、むしろ、こいつらを操ったらどれだけ楽しいか、まるで、玩具を発見した子どものように、興味が注がれたのだ。
そのような経験がラウナンを、他者は自らの操り人形でしかないことを認識させたのである。
さて、ラウナンの方は、もう少しぐらい駆け引きをしようと考えるのだった。
まだ、情報はこちらにもたらされていないようだが、ミラング共和国軍が有利に進んでいると思いながら―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(43)~序章 アルデルダ領獲得戦(43)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
あと、数回ほどで序章が終わり、第一章の内容に入っていくことになります。すでに、昨日から第一章の内容に入りました。戦後処理とか、権力争いとかが中心の内容となると思います。
序章で50回も費やすなんて―…。どんだけだ、と心の中で思ってしまいます。
では―…。