番外編 ミラング共和国滅亡物語(39)~序章 アルデルダ領獲得戦(39)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、リース王国軍の本陣に現れたミラング共和国のシエルマスの統領であるラウナンは、停戦交渉を持ちかけるのだった。そして、話し合いが始まる。
話は、リース王国軍の本陣。
「では、交渉を始めましょう。ただで、停戦協定を結ぶわけにはいきません。こちらも王国を背負っているので―…。」
と、アールトンは言う。
そう、この交渉はリース王国の今後を背負っていると言っても過言ではない。
その場であるから、緊張するし、慎重になるし、交渉相手を警戒する。
(この男の方が、そこの総大将とやらよりも優秀なのはわかる。私と同じ匂いを僅かだけど感じます。まあ、彼は自分の属している集団のためという感じで、私は私と私の属している国のため―…。それに、リース王国軍を実質動かしているのはアールトンでしょう。さあ、どう攻めましょうか?)
と、ラウナンは心の中で思う。
ラウナンとしては、いくつかの案を用意していないわけではない。だけど、その案通りに上手くいくかと言えば、違う。用意していない時よりも、対策を打ちやすい。
それに、これからの交渉次第では、ミラング共和国にとっても、有利になるのか、不利になるのかが決まるのだから―…。
「ええ、お互い、国は違えど、国のために働いているのですから―…。」
と、ラウナンは言う。
(国のためねぇ~。ラーンドル一派は、己の一派の利益のためであろう。まあ、私も否定はできませんが―…。)
と、心の中で思いながら―…。
「ええ、お互いに苦労が絶えないものです。下から上がってくる意見は、時にはどうしようもないものが多かったりするのですから―…。」
(……………本当に迷惑なものもある。この男を見た感じ―…、国のためなんて考えているの嘘だな。自分以外は傀儡だと思っている匂いがプンプンする。いくら言葉で取りつくろうとも無駄だ。)
アールトンは、ラウナンという人物を自らの欲望に従う野心家であるとみている。
というか、そのようにしか感じられない。
なぜなら、アールトンはラーンドル商会で対外交渉を担当していることもあり、交渉の現場に出ることも多いのだ。調子に乗った傲慢だと思わせる性格を外に出すことは禁物なのだ。そのようなことをしてしまえば、相手側の信頼を無くすのは確実であり、良い印象を与えない。商売にとって良い結果に結ばない。
ゆえに、相手に誠意があるように見せるのだ。たとえ、心の中に傲慢性という気持ちを持っていたとしても―…。
アールトンは、さらに、相手側の心のうちというものを読まないといけない。これも、交渉をしていく上で重要となる。自らの利益ばかりを押し付けて圧力をかけるやり方は、いつか、自らの力が弱まった時に、酷い仕返しを受けることに繋がるので、避けないといけないことだ。
それを理解できるラーンドル商会の人間は、最近、めっきりと減ってきたものだ。そう、傲慢な人間が増えてきたのだ。ラーンドル商会のトップもそのような感じなので、類が友を呼んでいるのである。そこに関しては、アールトンも憂慮している。
さて、アールトンは、自らがこれまで鍛え上げてきた交渉のスキルを用いて、ラウナンという人間を見て、ラウナンが野心家だとしか思えないと判断する。それは正解だ。ラウナンとは、そのような存在なのだから―…。
そう、権力のトップに立つのではなく、それを裏から操り、不都合なことがあれば、トップという人形を変えて、何度も何度も自分の手で裏から操るのだ。そう、自らの責任を取らず、自分のしたいように自由に国を操って、楽しく人形遊びをするように―…。纏めると、ろくな人物ではないことは確かだ。
「そう言っていただけるとありがたい。私もあなたのような人物に出会えて、この出会いを神に感謝しているぐらいです。そろそろ、交渉の中身へと移りましょうか。」
と、ラウナンは言う。
ラウナンは、心の中で思っていることは、
(なかなか私の良い条件を出すのは、難しそうですが、上手くやれば引き出せる感じだな。さて、どれぐらいの要求を出しますか。)
で、ある。
ラウナンは、先攻で条件を出す気はないようだ。敢えて、後手を選ぶことによって、アールトンの要求を探ろうとしているからだ。
そのことを理解できたか、分からないが、アールトンの方が交渉の要求を出すのだった。
「我々、リース王国側としては、まず第一に、アルデルダ領からミラング共和国軍の撤退をしていただきたい。それに、アルデルダ領での被害を我々で試算しますので、その額をミラング共和国側は賠償していただきたい。第二に、二度とリース王国の領土側に攻め込まないようにするように―…。第三に、ミラング共和国がリース王国にとって不都合のことをしている場合、我々、リース王国側の指示があれば、その不都合の部分は止めるように―…、すぐさま。第四に、この戦争によるリース王国の住民に対して、謝罪をし、ミラング共和国側の非を認めること。第五に、ミラング共和国からのリース王国に入る関税の増税の承認およびリース王国側からミラング共和国に入るすべての商品における関税の撤廃をすること。第六に、ミラング共和国議会で次期総統を総統選挙の時に選び、その次期総統をリース王国側に差し出すこと。第七に、ミラング共和国はリース王国からの要求には必ず従うこと。これを受け入れるなら、ミラング共和国側の停戦協定を受け入れましょう。」
と、アールトンは言う。
アールトンとしては、無茶苦茶な要求であることはわかりきっている。このような要求の一つでも持ち込まれるようなことがあれば、十分に成果と言っても過言ではないほどのことを入れている。
そして、このような要求は、あくまでも交渉の場では当たり前のことであるとアールトンは自負している。ラーンドル商会を舐められないようにするために必要なことであるのは確かだ。舐められれば、どんなきつい要求をされるのかわかったものではない。
アールトンは、自らに商売交渉を教えてもらったラーンドル商会の先輩から学んだことであり、その先輩の教えは、交渉でもかなり役に立っている。
(このような要求を出せば、このシエルマスの統領とて、一瞬、怯むはず。)
と、アールトンは、心の中で思う。
そう、アールトンの最大の狙いは、ラウナンがアールトンの要求を聞いて、一瞬ではあるが、表情を怯むところを見るためだった。怯めば、その要求のまま交渉をしていけば良いし、ラウナンがビビれば、この七つの要求がミラング共和国側に受け入れられる可能性はかなり高いものとなる。
ここは戦場だ。
交渉とは、戦争だ。
直接、人を殺さないだけで、国をも傾けることもあるほどの言葉と駆け引きの戦いだ。
ルールと道理、知識、経験、そのすべてを動員して―…。
戦いは、物理的な暴力だけではないということを、まさに、この場で示している。
この雰囲気は、ラウナンとアールトンの間に誰も付け入らせない、まさに、一騎打ち。
喰うか食われるか。
そんななかで、アールトンは、ラウナンの表情を見て―…、
(怯まない。さすが、一国の諜報機関を率いる長だけある。味方であれば心強いことは確かだ。だけど、敵―…。ならば、厄介極まりない。この七つの要求をすべて、飲ませることは無理だし、私も望んでいない。)
と。
そんな沈黙が続く中―…。
(…………………おいおい、黙って聞いていれば、あいつがシエルマスのトップだとわかっているのか、アールトン。あんな強気で言ってしまえば、この陣に全員を殺しかねないんだぞ。どうしてくれるんだ。だけど、俺は言えねぇ~。)
と、ファルアールトは心の中で怯える。
ファルアールトは、怯えている気持ちを表情に、出さないように気をつけている。そして、アールトンの言っている言葉に驚き、恐れるのだった。交渉相手は、ミラング共和国の諜報および謀略機関シエルマスのトップ、ラウナンである。
ラウナンのご機嫌を損ねさせるようなことになれば、この陣にいる者たちは、簡単に全員、殺されてしまうだろう。現に、ラウナンならこのようなことは可能である。
そのことを、少し前の簡単にファルアールトの中で剣術が一番と目される人物の隙を突き、あっさりと寸止めをしてのけたのだから―…。恐怖としか言いようがない。
それは、周りも同様である。
ゆえに、言葉を発することができない。
そういう意味では、アールトンは度胸があると言っても良い。その度胸の使い方をラーンドル商会のために使わなければ、彼の運命は良い結果をもたらしたかもしれないのに―…。決して、そのような結果になったとは限らないが―…。
その中で、ラウナンは、楽しそうに考えるのだった。
(リース王国の交渉役の要求は、七つであり、それも分かりやすく要求してきている。う~ん、一つ一つ、丁寧に見ていくとしますか。第一の要求、ミラング共和国のアルデルダ領からの撤退。そして、撤退後に、アルデルダ領の被害の損額をミラング共和国側が賠償すること。そして、その損害を算出するのはリース王国側であること。かなり無茶な要求をしてきますねぇ~。まず、これは、私を怯ませるためのものだと考えてよろしいでしょう。この要求に関しては、勿論却下という方針だ。我々の面子から考えて、リース王国の領土が手に入らないのは、ミラング共和国の住民が納得しないし、シエルマス、ひいては対外強硬派の政治基盤を危ういものにしてしまう。そう、外国に逃亡した穏健派どもが嬉々として、ミラング共和国の実権を我々から奪いにくるでしょう。その時、他国からの干渉がないということはない。他国にとって、今の指導部で、貸しを作り、その貸しを基にして、協力した穏健派どもは、自らの利益を今の指導部から得ようと考えてくるでしょう。有力候補のリース王国では、穏健派の誰かが亡命しているとされており、その存在が誰なのかまったくわかっていない。これは良くない。だけど、ラーンドル一派であるなら、それはかなりまずいことになる。たとえ、戦争に勝ったとしても、領土を得なければ、ラーンドル一派が送り込んだミラング共和国の穏健派は、確実に、かなり不利な条件を結んでおり、無理矢理でもその条件をラーンドル一派側が実行させるように圧力をかけてくるでしょう。それ以外、特に、リーンウルネとかいう王妃の場合は、どうなるか予想がつかない。あの王妃が何を考えているのかは、わからない。)
ラウナンは、アルデルダ領を獲得しないことの条件を考える。
そうなると、対外強硬派の基盤が危うくなるし、それによって、周辺諸国に亡命したとされる穏健派たちが、その周辺諸国からの何らかの条件を提示された上で、ミラング共和国の中で対外強硬派から実権を奪うはずだ。
そのなかで不味いのは、周辺諸国からの何らかの要求である。こいつは、誰もがわかるように、周辺諸国にとって利益になると思われることでしかないのは確かだ。特に、要求は、ミラング共和国側にとって不利になる可能性が高いものと思われ、国力の弱体化に繋がる可能性が高い。
ゆえに、アルデルダ領を手に入れないという選択肢はなく、さらに、リース王国の何かしらの領土を得ないのは、ミラング共和国に住んでいる者たちが納得するはずがないだろう。だって、彼らを扇動している以上、勝利と戦利品を求めるのだから―…。特に、兵士として参加した者たちにも報酬を支払わないといけないのだ。兵士に報酬を支払わないのは、こちらにとって不都合な事実を噂として広められることになる。
(次に、アルデルダ領の被害の損額を支払うことに関しては、ミラング共和国としては、アルデルダ領を得ることを確実だとして考えるならば、飲むべき要求ではない。というか、その復興費用をリース王国側が支払ってもらいたいものだ。不可能であるが、これは要求しておく必要がある。弱気であることをリース王国側に見せないために―…。)
と、続ける。
ラウナンは、アルデルダ領を撤退し、リース王国側に返還する気はない。そうなれば、なぜ、アルデルダ領における復興費用をリース王国側に支払う必要が出てくるであろうか。普通に考えたとしても、あり得ることではない。ゆえに、この部分の要求を飲むことは一切ない。
むしろ、リース王国側がミラング共和国へと賠償金を支払って欲しいものである。ミラング共和国を戦争に駆り立てたのは、リース王国側がアルデルダ領におけるエルゲルダの政策を容認したからである。つまり、戦争を煽ったのがリース王国側なのである。
だけど、戦争を煽ったことに関しては、ラウナンは感謝しているぐらいだ。むしろ、戦争に勝つことによって、軍事力として強国であると周辺諸国にアピールすることができる。ラウナンにとって、これほど喜ばしいものはない。
リース王国側から、今回、賠償金を手に入れることは不可能だと感じている。リース王国側は、賠償金を支払うほどに負けていると感じていないし、負けを認めることはない。むしろ、ミラング共和国側に勝ったのだとさえ、思っている可能性がある。
ただし、リース王国側は負けを認めることはないが、アルデルダ領に関しては、ミラング共和国にさっさと割譲したい。それとは逆に、リース王国側は相手に負けないほどに交渉を粘ったということを示さないといけない。これが難しいのだ。人の判断を完全にコントロールできるわけではないのだから―…。
そして、ラウナンは第二の要求に対して、考え始めるのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(40)~序章 アルデルダ領獲得戦(40)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。