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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
384/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(38)~序章 アルデルダ領獲得戦(38)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国のシエルマスの統領であるラウナン=アルディエーレは、今回のミラング共和国とリース王国の戦争を、リース王国のラーンドル一派を生かした上で、リーンウルネに実権を握らせないようにするため、停戦交渉へと向かうのだった。ラウナンには、いつの日かリース王国を完全に支配する考えがあり、その達成の時まで、ラーンドル一派が支配している方が望ましいと判断したからだ。

そして、ラウナンは、リース王国の本陣へと到着し、リース王国軍の中枢と接触するのだった。

 「停戦交渉をいたしたい。」

と、ラウナンは言う。

 ラウナンの狙いは、今回のリース王国とミラング共和国の戦争における停戦協定を成立させることだ。

 その理由は、すぐに、リース王国の深部へと攻めることをしないということだ。リーンウルネに実権を握らせないために―…。

 そのラウナンの今の言葉は、ここにいる者たちを驚かせるのだった。

 一瞬の間、数分も時間が止まったのではないかと思わせるほどに、静寂になる。

 …………………。

 言葉は発せなくても、思考は時間が止まったと思わせるような状況でも、しっかりと動いているのだった。

 (はあ、何を考えているんだこいつは!! 今、有利なのはミラング共和国軍の方だろ。それを、ここで!!! 何か裏がある!!!)

と、ナラナは心の中で思う。

 ナラナは、軍人としては、調子に乗せられやすいが、一般常識がないわけではない。ゆえに、ラウナンの言っていることの意味がおかしいと思うのだった。

 実際、ラウナンが言っていることは事実であり、ラウナンの思っていることである。

 ナラナの裏のあるという言葉は、この場合、意味のないことになる。

 人とは、思っていることが完璧に実現されるという予言をすることができない以上、このように外すという未来を避けられないのだ。

 (……………………シエルマスの統領―…。ただの停戦交渉ではないことは理解できるでしょう。だが、どうにも腑に落ちない。停戦交渉は不利になっている人たちもしくは戦争が行き詰っている場合が定石のはず。ということは、ミラング共和国には、これ以上勝ち続けると良くないことがある。そう、リース王国にはそのような要素があるということだな。それに、こちらもこれ以上、失うわけにはいかないのですよ。アルデルダ領はミラング共和国に割譲するので、それで引き下がってもらうとしますが、簡単に引き下がるわけにはいかない。いろいろと無理難題をかけて、どこで妥協するかを探った方が良い。例え、シエルマスが相手であろうが、ここで一歩引くという選択をするのは、危険なことでしかない。)

と、アールトンは、心の中で思う。

 アールトンとしては、素早く交渉を終えることが気分的に良いことはわかっている。だけど、そんな簡単な交渉がどこにも存在しないことを理解している。

 リース王国の行政職員なら知っているだろうが、実務者どうしの話し合いはかなり細かいところまでおこなわれており、条件のすり合わせなどのように、とにかく時間のかかることが多い。

 そうなってくると、今回の交渉は、細かいところまで条件をすり合わせる必要が生じてくる。実務者協議というのはないと思わざるをえなかった。停戦交渉であるが、事前の打ち合わせはない以上、そうなってもおかしくない。

 アールトンは、その可能性が高いと思いながら、一度のミスも許されないことであるということを理解するのだった。この交渉に失敗は許されない。簡単に早く、妥協するのはもってのほかだ。

 ゆえに、大量の無理難題をラウナンにぶつけ、そこから、ラウナンの意図を探り、リース王国のラーンドル一派として最大にして、かつ、相手から非難されないところを見極め、その部分を停戦協定の内容にしないといけない。

 だからこそ、ここから言い間違いなど、もってのほかだ。

 (…………そこにいるリース王国軍の総大将ファルアールトは、駄目だね。彼は軍人としても、指揮官としても使えませんし、交渉にはかなり不向きで、かつ、リース王国の中央で権力を握っている方々への意見を伝えたとしても、我々の意見が反映されることはありませんねぇ~。だけど、今回は、ラーンドル商会の対外交渉担当のアールトンが、交渉相手ということになるでしょう。考えていることは実に簡単。すでに、どこまでのラインで譲歩可能かはわかっており、かつ、私の意図を確実に探ってくるでしょう。無理難題を言いながら―…。まあ、これは、互いの腹の探り合いという感じでしょう。いいでしょう。時間をかけてのらせてもらいますよ。ラーンドル一派が潰れないところまでで―…。)

と、ラウナンは心の中で言う。

 アールトンが考えていることは、お見通しであった。まあ、この場で考えられることを想定すれば良い。そうすれば、相手がしそうなことぐらいわかってくるものだ。その判断材料のために、情報は必要であるが―…。

 それゆえに、ラウナンはこの場で考え、何がミラング共和国にとって、いや、自身の今後にとって都合が良いかという答えを導くのだった。

 そう、今回の狙いは、リース王国軍とミラング共和国軍を戦わせながら、リース王国軍の失態が、リーンウルネが実権を掌握しない程度まで弱らせ、かつ、ミラング共和国軍の損害を最小にするぐらいの時間を交渉に当てようと考えるのだった。

 まあ、犠牲者数のことをラウナンは損害だと判断しておらず、一番、重要なのは、シエルマスと国にとっての財政における損害を考え、かつ、ラウナン自身にとっての損害である。

 それでも、ラウナンは、シエルマスを使い、自分の意のままにすることは簡単なのだ。

 「交渉に関しては、私がいたしましょう。」

と、アールトンが返事する。

 そのアールトンの言葉に、

 「何を俺様のことを無視していやがる!!! 交渉事をいきなりおこなう!!! 仮にも今そこにいるのは、シエルマスのトップだ!!! こいつと交渉したところで、一体、何の得があるという!!! この交渉を利用して、油断したところを殺す気なんだ!!!」

と、ファルアールトは怒声を浴びせながら言う。

 ファルアールトとしては、自分がまるで、さっきから除け者扱いされているのだ。ラウナンもファルアールトにはほとんど視線を向けないのである。

 そう思ってしまうと、面白くもないとファルアールトは感じてしまうのだ。自分が総大将なのに―…。

 だけど、ファルアールトは馬鹿だとしか言いようがない。むしろ、目立たなかった方が、今の状況では良かったというのが、気持ちの中では重要なのだ。

 (シエルマスは怖いが、ここでビビってしまえば、リース王国の中央の奴らから降格処分を下されるかもしれない。それに、シエルマスだ。油断した隙を狙って、俺を殺しにくるかもしれない。ここにいる兵どもじゃ無理なのは分かる。とにかく、舐められねぇように―…。)

と、ファルアールトは心の中で思うのだった。

 ファルアールトは、自らの命と地位、名誉を守るために、怒声を浴びせる。焦りという存在を無意識に抱きながら―…。

 「ファルアールト様!! ファルアールト様は、交渉の経験はございませんでしょう? それに、ミラング共和国軍のトップは来ていない。ということは一番上の人間が交渉しては、相手国側に舐められます。ファルアールト様はリース王国軍の中で一番偉いのだから、どっしりと構えていてください。」

と、アールトンは言う。

 ファルアールトを宥めるかのように―…。

 いや、実際に、宥めているのだ。

 (ファルアールト、あなたが今、ここで喋ってもらっては困るのですよ。軍人は戦っていさすれば良いというのは間違いでしょうが、それでも、交渉のイロハも知らない奴がしゃしゃり出ないで欲しい。ここは、リース王国にとって重要な場なんですよ。)

と、心の中で怒りを露わにする。

 アールトンにとって、今、シエルマスの統領ラウナンとの交渉が今、重要なことであることを、ここでいる誰よりも理解できている。この交渉は成功させないといけないのだ。そうすることで、リース王国の今後、ミラング共和国に対して、優位になることがあり得るのだから―…。

 運命の分岐点。そのような表現が最も似合う場面なのだ。

 実際、ファルアールトは、交渉のイロハを知っているわけでもないし、交渉の多くは部下にさせており、その成績は良いというものではなかった。操りやすいから、何となく、失敗も帳消しにされて、出世することができたのだ。

 要は、ファルアールトの実力ではないということは確かだ。

 (こっちの総大将も軍事のこと以外知らない馬鹿なのでしょう。軍事力は国力だが、謀略なくして、国力になりうることはない。ファルケンシュタイロと同じだと思っていれば良いのか。こっちの商人の方が話せる。)

と、ラウナンは心の中で、見定めるのだった。

 すでに、決まっているのであるが、それでも、今のやり取りで確認できてしまうのだ。ファルアールトではなく、アールトンが最適であるということを―…。

 そして、同時に、交渉相手はアールトンになることを―…。

 (チッ!! 今回の戦争が終わったら、アールトン(こいつ)の悪口を上に言ってやる。どうせ、こいつは戦争が終われば、死ぬのだから―…。死人に口なし。権力なき者の言葉など、何も通じやしない。お前なんか、ラーンドル一派の一角であったとしても、お前より上がいるのだよ!! 精々、バラ色の時でも楽しんくれ。)

と、心の中でファルアールトは言う。

 ファルアールトとしては、すでにアールトンの未来は決まっている。すでに、あの作戦を言った時から、未来など―…。この世には、偉くなったとしても、権力が実質上、奪われれば、何も反抗することも、想定通りの幸せや名誉があるわけではないのだから―…。

 ああ、今は、アールトンより権力が弱くとも、アールトンより上の人間からはファルアールトは信頼されているのだから―…。

 「わかった、勝手にしろ!!」

と、ファルアールトは、苛立ちながらも、アールトンに交渉を任せるのだった。

 そのように、アールトンが抱くだろうと想定して、言うのだった。

 ある意味では、アールトンよりここでは優れているのではないかという面を、ファルアールトは示すのだった。

 「そちらの方も、こちらへの交渉してくださるということですね。」

と、ラウナンは言う。

 (さて、交渉の時間だ。時間は長くなりそうだが―…。)

と、心の中で思いながら―…。

 「ええ、良き交渉になりますように―…。」

 (………………相手はシエルマス。言葉には、いつも以上に慎重にならないとな。暗殺を得意とするとも聞いているから。)

と、アールトンは、心の中でより警戒するのだった。

 言っている言葉とは裏腹に―…。


 一方、ミラング共和国の首都ラルネ。

 その中のトップの住む屋敷。

 シュバリテが眠っている部屋。

 シュバリテは、女性をこのような部屋に連れ込むことはなく、一人で眠っているのであった。そして、部屋の入り口には、護衛の兵士が複数人で、交代制で見張っている。さらに、屋敷の周りは大量の兵士がいて、不審者が侵入しないようにしている。

 だけど、このようなことをしたとしても侵入を許してしまう。

 そして、目的地であるシュバリテの部屋の中に、簡単に侵入する。

 そこで、シュバリテを起こす。

 「シュバリテ様、ラウナン様より言伝です。」

と、シュバリテの寝室に侵入した人物が言う。

 シュバリテは、その声を聞き、浅い眠りであったのだろうか、すぐに目ぼけた感じで目を覚ますのだった。だけど、侵入した人物の言葉を聞こえないほどのような状態ではない。

 そして、このような部屋に簡単に侵入してくるのは、決まっている。

 ラウナン様と言っていたことから、侵入してきたのはシエルマスの一員である。ラウナンに頼まれた。

 「何用だぁ~。」

と、シュバリテは言う。

 「シュバリテ様、ミラング共和国とリース王国における此度の戦争、ラウナン様はアルデルダ領より先を攻めず、ここで手打ちとする模様です。ラウナン様が交渉を締結次第、それを承認してくださいますように―…。」

と、シエルマスの一員は言う。

 これは、ラウナンが、シュバリテに向けた、脅しであり、承認以外の選択が存在しないものである。このことを、シュバリテが理解できないわけではない。仕えているように見えるが、一番危険な存在とみなしている。

 だけど―…、

 「何!!!」

と、シュバリテは驚く。

 「軍部からの報告では、アルデルダ領よりも先を攻めて、リース王国を完全に倒す…と。なぜ、急に!! 説明しろ!!!」

と、シュバリテは言う。

 シュバリテとて、理由がわからないわけではないが、それでも、ラウナンの意図というものを確認しておく必要がある。ラウナンは危険人物であるが、それでも、有能なので、使わないという選択はない。シュバリアを陥れるためには必ず必要であったのだから―…。

 「シュバリテ様ならそのように言うとラウナン様は、おっしゃっていました。ラウナン様は、リース王国軍の総大将がラーンドル一派の息のかかった人間であり、彼を必要以上に敗北させると、ラーンドル一派と敵対している王妃リーンウルネの一派に、リース王国の実権を掌握され、ラーンドル一派と戦う時よりも多くの戦費を消費し、合理的でない。リーンウルネ王妃は、リース王国では、一番の尊敬されている人物だということであり、かつ、騎士団すらも彼女に完全に従うと―…。」

と、ラウナンの意図を言う。

 そして、シュバリテは考え始めるのであった。

 (…………………リーンウルネか…。あの女が出て来てはまずいな。戦線が長くなるのと同時に、騎士を有効的に投入してくるのは確かだ。ラーンドル一派だからこそ、騎士を上手く扱いこなしていないが、あの女は危険だ。ラウナンの言葉には一理あるな。だけど、決まっているのだろ。)

と、シュバリテは結論を下す。

 「ラウナンの好きにしろ、そう伝えろ。承認する。」

と、シュバリテは侵入してきたシエルマスの一員に伝える。

 「はっ。」

と、言うと、消えるのだった。

 (ラウナン、私はいつまでも、お前の操り人形だと思うなよ。)

と、心の中で、対抗意識という火を燃やしながら―…。

 そして、シュバリテは眠りにつくのだった。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(39)~序章 アルデルダ領獲得戦(39)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


読んでくださっている方、評価してくださった方、ブックマークしてくださった方、本当に感謝しかありません。

どうぞ、今後とも、『水晶』の方をよろしくお願いいたします。

PV数が増えますように―…。

では―…。

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