第25話-2 造られた竜
今回は、第25話の後半部分です。
竜がでてきます。
空は黒。
朝のような青ではなく、真っ暗な夜の黒。
黒は周りの視界を覆ってしまう。
しかし、人の夜目は、そんななかでも、ある程度の距離に何かあるのを見えるようにしてくれる。
そんななかで、光る星空の中、意思を強くする人物が一人いた。
それは、その人物にとっての縛りであったかもしれない。
それに、決め事だったのかもしれないし、自らの確信であり、他者にとってはアホなことでしかなかったかもしれない。
ゆえに、意思を強くする人物であるフードを被った一人の人物は、
(俺は負けない―…。
負けてはいけない……。
負けるはずがない………。
俺は…俺の力は最強なんだ…………。
俺は……誰にも負けない才能を持って―……………。)
と、思い、心の中で言葉にする。言葉にしながら、フードを被った一人の人物は、腹部の手でおさえていたのをやめた。そうすると、その出血した血の一部が、徐々に夜空へと向かっていった。決して夜空のある星や月には届くことはない。
血は、森の木より少し高いところのフードを被った一人の人物の真上という位置で、球状になり始める。それは、これから絶望という現実を開始されることを予感させるものであった。
アンバイドはただ見ていることしかできなかった。何か嫌な予感がしたからだ。迂闊に触れてはいけないような感覚がしていた。
フードを被った一人の人物は、
(俺……は、どうしてこんな惨めなことになっているんだ。
どうして、俺が最も嫌う状況に……。
敗北に………。
なぜ……。
いや。)
と、心の中で続け、
(俺は……………………
最強でなければならない、俺は―…
。)
と、呟く。そう、意思を意志に変えて―…。
ゆえに、フードを被った一人の人物は、成長する自分を感じていた。アンバイドからの受けた傷を負いながらも―…。
フードを被った一人の人物の上空で、球状になり始めていた血は、徐々に大きくなっていた。それは、上空へ上がった血の量という物理的な量を無視して―…。
球状の血は、その大きさをフードを被った一人の人物の大きさの何倍もの大きさになっていき、そこに達すると大きくなるのをやめた。
フードを被った一人の人物は、
「現れろ…。闇の竜。」
と、決して大きい声ではなく、かすれそうな声で言う。それに反比例するように、意志は強いものへとしながら―…。
球状となり、より大きくなった血は、卵から雛が孵るように、ピキッと何度も音をたてながら、2つに割れたのだ。
そして、割れた血の塊は、生まれた雛のように感じさせた竜に、吸収されていった。
竜は、空が夜のために黒くみえるが、目の瞳孔以外の部分(人では白の部分で、血管の流れているところは赤く見える)は、黄色であったのだ。それゆえ、その部分は誰の目からみてもはっきりと見えた。体の皮膚の色は、日中であれば、紺色に見えながらも黒がより強いものであったと思われる。
翼をはためかせ、口を大きく開け、竜は叫ぶ。
「オオオオオオオオ―――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と。その声は、ルーゼル=ロッヘの町に大声として届くぐらいのほどであった。
そのため、アンバイドや、瑠璃、李章、礼奈、クローナにとっては、ものすごくうるさすぎて、両耳を塞ぐほどだった。
竜の叫びは、数分続くこととなった。
一方、ルーゼル=ロッヘの町。
すでに、夜も深まり、人の影すらほとんどなかった。
この時間帯になると、犯罪者も出没するだろう。
それは、酔いつぶれた者から財布を巻き上げるためとか、夜遅く道行く見た目が弱そうに見える人を誘拐したりとかなどが行うために―…。
しかし、今日は、それができなかったのだ。
竜の叫びが大声でルーゼル=ロッヘの町へと響いたからだ。
そのため、ルーゼル=ロッヘに住む者は、眠ることができず、両耳を塞ぎ、窓から外を眺めるのだった。
その一例が、
「あれ…なんだよ…、黄色…?」
と、一人の人物が低いトーンの声で驚きながら言う。その人物は男性で、30代後半から40代前半といったところだ。見た目すでに、おじさんへと近づきつつあったが、見た目は30代前半に見えるぐらいの若さをみせていた。しかし、そう思わせる表情も、竜の叫びを聞いてしまったは崩さざるをえなかった。
また、通りでは、
「今度は何だ!!」
と、ルーゼル=ロッヘの警備隊の一人の隊員が言う。
そして、同僚の一人が、
「あの黄色のは…何だ。」
と、竜のいる方向を指さし、驚き、震える。指している指から肩までの範囲で…、プルプルと……。
それに気づいた、一人の隊員が指さしている奴の方向に目を向ける。
同僚の一人と同様に驚いた。
そして、
「オオオオオオオ――――――――――――。」
と、竜が叫ぶ大声が聞こえた。
それに対して、二人は両手で耳を塞いだ。
(これは何だよ!! 一体どうなっているんだ、向こうでは…。)
と、一人の隊員が思うのであった。
竜の叫びは止んだ。
そして、瑠璃、李章、礼奈、クローナは気づく。
フードを被った一人の人物の真上に竜がいることを―…。
「あれって、ドラゴン…?」
と、瑠璃が言う。
「そう…、それっぽい…。」
と、礼奈が言う。
(? 竜です…か。異世界では、竜が本当にいるのですか?)
と、李章は思うのであった。
一方で、アンバイドは、
(あんな、でっかいのをだしてくるとは……ッ!! これだから召喚獣つきは…、厄介なんだよ。ディアガルデみたいなのとは違って、今度は竜か。)
と、心の中で呟く。今、フードを被った一人の人物の真上にいる竜を倒すための策を考え始める。
(こうなったら―…、奥の手の一つを使うしかないか…。)
と、アンバイドはすぐに策を決めて、それを実行すべきときが来るように行動を起こそうとする。
一方で、フードを被った一人の人物によって展開された竜は、口を大きく開き、小さい球状のようなものをつくり出す。それは徐々に大きくなっていく。
それに気づいたクローナは、
(これは、竜の攻撃の特徴!! 最大の攻撃で対処しないと!!)
と、心の中で思い、自らの武器に最大限の風を展開する。
そして、白の水晶の能力で守るには範囲が広すぎると判断して、天成獣の力のよる攻撃によって防ぐことを決めた。
ほんの数十秒の時間が経過し、竜の方も、クローナの方も攻撃の準備を完了させた。
闇の竜は、口近くで展開した球状のものを、攻撃準備をしていたクローナに向けて、回転してからそこに向いて、発射した。
それは、クローナに向かっていた。もし、この竜の攻撃を一撃でも受けてしまったのならば、即時にこの世から強制退場となってしまうだろう。それほどの威力であった竜の攻撃であった。
クローナは両手に持っている武器を横へとそれぞれ振り、竜に向けて風の攻撃を放った。
それは、ほぼクローナと竜の中間の位置で衝突する。
そして、大きな衝撃波を周囲一辺に起こすことになる。衝撃音とともに―…。
種撃音は、ドーンと、その波に乗って伝わっていく。
それは、ルーゼル=ロッヘの町にも伝わるだろう。
ルーゼル=ロッヘ。
竜のいる方向を見ていた警備隊の隊員の二人は、今度は衝撃音を受ける。
それは、彼ら二人にとっては、両手で耳を塞ぎ、衝撃波に対応するために体を屈めたのである。
そのとき、ルーゼル=ロッヘでは、多くの建物の窓のカラスが衝撃波によって割れてしまったのである。
このとき、窓ガラスの破片による怪我人は、ルーゼル=ロッヘの住民の10%~20%前後であったといわれる。
ゆえに、衝撃波が終わると、ルーゼル=ロッヘの住民の誰もが、そして、ここに来ていた人々もみな竜のいる方向を見た。恐怖とともに―…。自らの生命の危機を感じながら―…。
衝撃波は止んだ。音もそれとともになくなった。
ルーゼル=ロッヘの近郊にある森の中で、広くなっている場所。
あたりは煙のようなものが発生していた。
煙のようなものの上に、竜はいた。
竜は、周囲の地上一体を眺めていた。煙のせいで、見えないところもあったが―…。
煙は徐々に薄くなっていった。
そこから、最初に目についたのは、瑠璃、李章、礼奈がいる場所であった。
竜は、瑠璃、李章、礼奈の目を合わせる。瑠璃、李章、礼奈は、一切ダメージを受けていなかったのだ。
竜は、今見えている瑠璃、李章、礼奈に狙いを定めるが、
「!!」
と、何か嫌なものを感じた。そして、視線を真上に向ける。
そこには、竜と同じ大きさぐらいの大きな空間と別の空間をつなぐ、黒いものがあった。
そう、これは、赤の水晶によって展開されたものだ。
そして、瑠璃は、
「征け」
と、言うと、別の空間から黒いものを通って、雷が竜に向かって落ちた。
その威力に竜は、
「ガアアアアアア――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、叫ぶのであった。その表情は苦しいものであり、悲鳴でもあった。竜自身にとっても自らの命に関わるかもしれないと感じさせるものであった。
そして、この瑠璃の放った雷は、ルーゼル=ロッヘの町の誰もがその場面を見たのだ。
おまけであるが、そのとき見た雷は、ルーゼル=ロッヘにいるすべての人が神が雷を落として、町を救っているのだと思ったという。
語りを戻して、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドのほうはー…。
瑠璃の雷の攻撃は止み、竜は自らの体のあちこちから煙をだしていた。
(やったの。)
と、瑠璃は心の中で思っていた。しかし、ここで断定することはできなかった。竜が完全に倒されたと思われる状況になるまで、何が起こるのかわからなかったからである。そんな予感を瑠璃はしていた。
李章は、
「たぶん、瑠璃さんの雷でも倒せていないと思います。水晶の能力を使ってみたのですが、危機は一切、なくなっていない。」
と、言う。
「「…………。」」
と、瑠璃と礼奈は思いつめる。特に瑠璃は、あれで倒せないとなると、今の現時点の実力ではさっきの雷の攻撃よりも強い威力のものをだすことはできないと感じた。ゆえに、どうすべきなのかを悩み始める。
瑠璃の雷の攻撃を見たクローナは、あることを思い出す。
それは、時間を戻す。
クローナとローが村から出たとき、そして、空間移動の術をローが発動する段階で―、
「クローナ…、これから探すのは三人じゃ。彼ら…いや、彼女らは、儂の水晶をそれぞれ渡してある…。お主の白の水晶のようにのう~。」
と、術を発動させながらローが言う。
「はぁ~。では、どのように探せばいいのですか? 私が見つけたとしても、わからなければ―…。」
と、クローナはローに問う。
「そうじゃのう~。たぶん水晶という言葉と、渡した水晶の能力について説明したほうがいいかのう~。」
と、ローは言う。
(水晶の能力ではなくて、特徴を教えてください。人物の特徴についてですよ~、ローさ~ん。)
と、クローナは心の中を涙目にしながらローから、瑠璃、李章、礼奈の持っている水晶について説明した。
そして、時間を現在に戻る。
(結局、渡した水晶の能力しか説明してくれなかったなぁ~。)
と、クローナは思い出したことに少し涙を出したなっていた。
しかし、なぜか、水晶の説明が役に立ったのである。
(ローさん…、これを予想して…言ったってことはないですね。)
と、クローナは心の中で呟く。そう、瑠璃が雷を攻撃するときに、自身の前と竜の真上の空間を繋げたのである。それをクローナはしっかりと目で見ていた。ゆえに、ローの説明にあった、赤の水晶の能力である空間移動を思い出したのだ。
だから、しなければならない行動がわかっていた。
クローナは、瑠璃、李章、礼奈のいる場所へと向かった。
そして、
「あの~、すみません。さっき、赤の水晶を使っていましたよね。」
と、クローナは言いながら、瑠璃を見る。
「はい。」
と、瑠璃は返事をする。そして、心の中では、
(この人がクローナさん…。っというか、今は水晶のことよりも、あの竜のほうをどうにかしないと―…。)
と、思っていた。焦りと危機感を瑠璃は抱きながら―…。
アンバイドは、竜をみていた。
そして、やるべきはわかっていた。
だから、
(そろそろだな。)
と、アンバイドは心の中で呟いた。
「竜よ。こっち向けよ!! 俺にとっての雑魚が―。」
と、アンバイドはフードを被った一人の人物によって、展開した竜に対して、挑発しながら言う。
竜はそれを理解できたのか、アンバイドを目で見ることのできる方向へと体を回転させる。そう、アンバイドのさっきの挑発に怒りを感じたからだ。
そして、アンバイドの方に向き終えると、竜は口を開け、叫ぶ。
お前みたいな雑魚が俺を雑魚と呼ばわりしたのを後悔させてやる、という意味を込めて。
その声に、周囲にいたものは、フードを被った一人の人物以外が両手で耳を塞ぐ。
一方で、フードを被った一人の人物は、すでに気を失っていた。
それは、闇の竜が誕生した叫びを聞き、これで勝てた思い、一気に気を緩めてしまったからである。
フードを被った一人の人物の気絶には、今現時点において、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドは気づいていなかったのである。竜に対応するために集中していたためである。
竜の叫びは数十秒の時間の経過とともに、終わりを告げた。
そして、アンバイドは、竜を見ながら、
「闇の竜に見せてやるよ。闇の竜を倒すための反射鏡をなぁー。」
と、声を竜にも聞こえるように言った。
そして、アンバイドの武器である三つのものが消えていた。
【第25話 Fin】
次回、アンバイドが繰りだす反射鏡とは? あれ、説明するとややこしく長くなる同じ武器の三つがないのですが、大丈夫でしょうか?
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
あともう少しでルーゼル=ロッヘでやる内容が終わります。ルーゼル=ロッヘが終わるとかなり長い章になると思います。