番外編 ミラング共和国滅亡物語(24)~序章 アルデルダ領獲得戦(24)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿中。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、シエルマスはエルゲルダをミグリアドの住民から奪取することに成功し、そのトップであるラウナンは、目を覚ましたエルゲルダと交渉を開始するのだった。一方的な―…。そして、ラウナンにとって、シュバリテのスペアを確保するのだった。
一方、ミグリアド。
その中のエルゲルダの館の中の、執務室。
そこでは、ファルケンシュタイロがいた。
ファルケンシュタイロは、シエルマスの一員で、エルゲルダをシエルマス側が確保したことを伝えた者の報告を聞いた後、考え始めるのだった。
(さて、やるべきことは、エルゲルダではなくなったということか。そして―…。)
と、ファルケンシュタイロは心の中で思いながら、ある人物が執務室へと連れてこられるのだった。
「ガハッ!!」
と、雑な扱いを受け、執務室へと入る時に、投げられ、体を地面にうつのだった。
手を後ろに縛られていることも影響したかもしれない。
ゆえに、体のバランスが取れなかったのだろう。
「私を誰だと思っている!! 私は、アルデルダ領の財務長であるぞ!!! このような扱いをされて良いはずがない!!!」
と、アルデルダ領の財務のトップの人物が言う。
こいつが、今回の商品税の増税の主犯である。ただし、通過税に関しては、エルゲルダ自身が発案したものである以上、この財務のトップは関係ないのだ。
まあ、エルゲルダの通過税の新設に従っている以上、責任がないと言えば、嘘となる。
だけど、その責任を取りたいとは、この財務のトップはこれっぽちも思ってはいない。というか、思うわけがない。なぜなら、彼は、アルデルダ領の財政が悪化しても、責任を取ろうとせず、商品税の増税の案に逃げたのだ。そんな人物がここでも責任を取ってくれることはない。というか、そのように至る改心があるわけではない。
そして、自らがアルデルダ領で偉い存在の一人であることを自覚しているし、このような軍人ごときに従う謂れはないと思っている。
現実は、アルデルダ領はミラング共和国によって支配されてしまっているのが現状だ。
そのことをまだ、この財務のトップは理解できていないようだ。残念なことに―…。
たとえ、馬鹿であったとしても、優秀な人材の使い方を心得、かつ、しっかりと人材を扱って、待遇を良くしていれば、人の良さで何とかなったであろうが、エルゲルダである以上、そのようなことは望めない。ゆえに、結果は決まりきっているのだ。ろくな奴が出世しないということを―…。
「誰だって、知るか、そんなこと。俺は、お前らなんかの領主の一子分ごときが簡単に会えるような人物じゃない。俺は、ミラング共和国の議員であり、かつ軍事関係のトップだ。この戦争のトップでもある。トップ直々に呼んだのだ。このような態度をとられるとは、心外としか言いようがない。そして、お前は、負けたんだよ。俺らに―…。お前らの生死の権限は俺が持っているんだよ。理解しろ。」
と、ファルケンシュタイロは言う。
今のアルデルダ領の財務のトップがさっき言った言葉など、今、この状況においては、何の意味を持たない。
すでに、実態という面では、生殺与奪の権利はこの場にいるファルケンシュタイロに移ってしまっているのだから―…。権力というか、実権というものを永遠に自らのうちに留めておくことなどできやしない。人という生き物は、まず、死という運命から逃れることができないのだから―…。
ゆえに、権力が一人の人に留まるということがあり得ない一つの証明が成り立つのであり、他の角度からも証明をなすことは可能である。
例えば、権力というものは常に闘争にさらされるものであるし、さらに、事やケースによっては別の人間が掌握している場合もある。権力を持っている者がある事柄に関して、興味がなく、その部下が実質の判断を下している場合など―…。権力は複雑なのだろう。
そして、財務のトップは、ファルケンシュタイロの言葉によって、無理矢理、自らの状況を理解してしまうのだった。
(…………今、こいつらに逆らったら不味い。私は、殺されたいなんて思わない。ここは別の奴に―…。)
と、財務のトップの頭の中は思考の沼へと導かれる。
これから、ファルケンシュタイロらのミラング共和国軍に対して、自らを殺すことがお前ら側にとって不都合なことであることを理解させないといけない。
そのために、考え続けるのだ。
商品税の増税を思いついた時のように―…。
成功は、時として、正当化し、他の方法を考えるという選択を霧の中に隠す。そして、その霧に気づかない。いや、気づこうとしなくなる。成功する方法は知っているのだから―…。
だけど、成功体験のすべての要素が、次の成功を保証してくれることも、自らが成功し続ける未来を保障してくれるわけではない。ゆえに、人は成功しても考え、いろんな方法を求めなければならない。可能性が存在する限り―…。
そして、この不利の状況で考えながら、今、助かる可能性のある方法を見つけようとするのだった。
時間制限はわからないが、存在している中で―…。
考えている間に―…。財務のトップを連れてきた兵士の一人が、ファルケンシュタイロに耳打ちをするのだった。
「この人物が、商品税の増税をエルゲルダに進言したようです。かつ、通過税の新設はエルゲルダの思いつきだ、そうです。」
と。
この耳打ちは、財務のトップには聞こえない。
聞こえるはずもないだろう。
なぜなら、これは、財務のトップに聞こえないように言っているのだから―…。
この言葉を聞いたファルケンシュタイロは、にやけた表情をしながら、あることを思いつくのだ。
人は残酷で、優しい。その中の、ある一面を示すように―…。
因果応報? 自己責任? そのような言葉が似合いそうな結果を―…。
人に自己責任だとか、と言っている者たちは、全員ではないが、それでも、問題に対して、何も考えないために、問題と関連している人物たちを自己責任と言って、その問題から逃げようとする。だけど、押し付けたとしても、逃れることはできない。自己責任なんて、すべての要素を集めないと完全に判断することなどできやしない。思考停止状態で言われた自己責任という言葉ほど、無責任な言葉はないと思わせるほどに、空虚なものはない。
だけど、今回の場合は、集められる限りでは、そのような感じなのだろう。
でも、もし、財務のトップに対して擁護できる点を挙げるとすれば、エルゲルダという恐怖政治をおこなう人物がおり、その人物によって責任を取らされるという面であろう。まあ、財政悪化の原因の一助に財務のトップにも問題があるので、完全に擁護もできないし、それなりの罰を受けないといけない存在であることに間違いはない。
そして、財務のトップの悲惨な終わりが始まるのだ。
「ありがとう。」
と、ファルケンシュタイロが言うと、さっき報告した財務のトップを連れてきた人物は、下がっていくのだった。
ファルケンシュタイロとしては、これからやることは決まっている。楽しい、楽しい、お遊びの時間だ。
玩具は、目の前にいる男。
どうやって、希望を抱かせ、絶望で終わらせるか。
(フフフフフフフフフフフフフフ、さあ、どう鳴いてくれるかな。)
と、心の中で思いながら、待つ。
そして、財務のトップが言い始める。
「いや、私は財務に関して、トップではあったけど、それでも、私が財務関係を掌握することはできなかった。それは、エルゲルダ様がすべてに干渉してきて、私は判を押さなければ、エルゲルダ様の影の者たちによって、歴代の財務のトップのように殺されてしまう。それが、怖くて、怖くて―…。」
と、財務のトップは演技をする。
その演技は、嘘くさくも見えるが、それなりに、自分が可哀想な存在であることがわかるだろう。見ている者たちから―…。
だけど、嘘であるということは、見ただけでわかってしまう。
そこまで、ここにいる者たちは甘くない。
ファルケンシュタイロにしてもそうだ。
ファルケンシュタイロは、このような尋問に何度も、何度も立ち会ったことがあるし、何回も自らで尋問をしたことがあるのだ。何十回と言っても良いだろう。
ゆえに、簡単に、財務のトップの嘘演技を見破ることに、苦戦することはなかった。
「そうか、怖いか。怖いよなぁ~。恐怖政治がアルデルダ領でおこなわれていたのだから、そのように怖くなってしまうのも仕方ない。私も鬼じゃない。人だ。だからこそ、お前の気持ちがわからないわけではない。」
(あ~、こいつ演技が下手すぎ。俺みたいな演技をしないと―…。軍人として鍛えられなかったから、このようになるのだ。文官は文官だな。俺みたいな優秀な軍人によって支配されるのが、お似合いだ。軍事力こそが国力なのだ。さて、こいつをいつ……。あ~、楽しみだ、絶望を見せるのが―…。)
口に出している言葉では、まるで、財務のトップに寄り添うような感じで言うが、心の中では、財務のトップが希望から絶望に落とされていく表情をどのようにしたら見られるだろうと楽しみで、楽しみで仕方ない。心の中では、きっとニヤけていることであろう。
財務のトップ以外の者たちは、ファルケンシュタイロのある性格を知っているというか、噂されているので、恐怖でしかないし、これからの処分に困るのだった。本当にこういうのは、証拠が残りやすい場ではして欲しくないものだ、と感じていた。新人にとっては、吐き気を催してもおかしくなほどのことだが―…。
知らぬは、財務のトップのみ。
まあ、それは仕方のないことだろう。だって、財務のトップでは、生き残るか自らの生を終えるかという選択肢とその選択による未来がかかっているのだ。自らが生き残るという未来をかけて―…。
そして、このファルケンシュタイロの言葉を聞いて―…。
(何て、寄り添ってくれる人なんだ。エルゲルダと大違いだ。この人を利用して、今度こそ、私は―…。)
と、財務のトップは、税の政策をエルゲルダのせいにすることを決めて、話し始めるのだった。
「エルゲルダ様に逆らうことができず、私は、こんな罪深いことを犯してしまいました。申し訳なく思っております。だけど、私にはやらなければならないのです。どうか、チャンスを―…。お願いいたします。」
と、財務のトップは、チャンスをくれという。
罪という意識はないわけではないだろうが、それはほんの少しでしかなく、涙に見える訴えの中にはほとんど存在しなかった。
それよりも、これからファルケンシュタイロによって、自らの命が助けられ、また、どこかの役職という職にありつける未来を一瞬、本当の意味で起きて欲しい未来の結果に酔いしれそうになる。
だけど、現実は残酷だ。
(ここだ。)
ファルケンシュタイロは、心の中で笑うのだった。
最高の瞬間だ。
こうやって、こっちがわずかばかりに相手に寄り添い、希望の可能性というものを与えてやったら、こんなに簡単に生きるという希望に縋ろうとしてくるのだ。
なんて愉快なことだ。楽しいことだ。人という生き物がどうして、そのような希望に縋りつくのか疑問をファルケンシュタイロに抱かせるように―…。
だからこそ、見たいのだ。希望から絶望に落ちる表情を―…。
絶望の一言を―…。
「そうか、逝きたいのか。」
「ええ、生きたいです。」
そう、互いにおける認識の違いだと思いたいが異なる。
勿論、財務のトップにとっては、「生きたい」のであり、自らの生を終わることを望んでいるわけではないのだ。
だけど、その財務のトップの気持ちを理解した上で、ファルケンシュタイロは生へ執着する財務のトップにその反対の運命を与えるのだ。
「そうか、良かった。」
と、ファルケンシュタイロは言いながら、自らの剣の柄に手をかける。
これでようやく、財務のトップは理解できたであろう。自らの運命を―…。
これは、逃れることのできない運命というものを―…。
決まっていないのだから、運命という言葉を使うのはおかしいと感じるかもしれないが、これは運命と言っても差し支えない。なぜなら、財務のトップに、体が動かすことはもうできないのだから―…。
希望から絶望へと落とされ、諦めが財務のトップの頭の中を支配したのだ。これに逆らえるのは、よっぽど、冷静に物事を判断できるか、ファルケンシュタイロのことを理解した上で、かつ、実力がともなっているかということだ。ここでの実力というのは、戦闘力であり、個人の武力だ。
そして、絶望は、財務のトップを生の終わりへと連れていくのだった。
「俺は好きだぜ。希望を与えて、絶望にしてやる気分は―…。最高だ。じゃあな、二度と会えないが―…。」
と、ファルケンシュタイロは言い終える頃には、剣を抜き終え、財務のトップを斬るのだった。
そう、財務のトップの頭と胴体を二度と繋げられないようにして―…。
なぜ、ファルケンシュタイロはそのようなことに喜びを見出したのか。
それは、グルゼンへの劣等感というものがあり、かつ、下の者を自由にできるという全能感などが組み合わされた結果なのかもしれない。今、ファルケンシュタイロがそのことに気づいているのかはわからない。
そして、ファルケンシュタイロは恍惚な表情をし、希望から絶望に陥って、最後に、始末された哀れな存在を見下し、快感を得るのだった。
「誰か、見苦しいこいつを処分しておけ。」
と、ファルケンシュタイロが言うと、
「ハッ!! 畏まりました。」
と、部下の一人が返事をするのだった。
その後、ファルケンシュタイロは、エルゲルダの館の別の部屋へと向かうのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(25)~序章 アルデルダ領獲得戦(25)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
指先が冷えるほどに寒いです。最近、パソコンで執筆していると手が良く冷えます。
そんな感じで、何とか執筆できています。
ストックも減ってきていますが、執筆しているので、減りは少しだけ遅いという感じです。
『水晶』の今回の番外編は、そろそろランシュとかを登場させられるところまで進んでいくと思います。番外編どれくらいの長さになるか見当もつかないほどに長くなってしまい、確実に、序章だけで、30回分を超えるのは確実で、40回を超えそうな気がします。そうなると、この番外編だけで100回以上は投稿しないといけないのではないかという不安が過ぎってきます。
なるべく、無理はしない程度に頑張っていくと思います。ストックがなくなり次第、ゆっくりと投稿していく予定です。
寒い中、皆様も無理はしないでください。
では―…。