番外編 ミラング共和国滅亡物語(20)~序章 アルデルダ領獲得戦(20)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿中。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(「小説家になろう」);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(「カクヨム」);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
以上、作品に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、グルゼンは、自らの部下とミグリアドの住民の代表とともに、エルゲルダの館の中へ侵入するのだった。
一方で、グルゼンの側は―…。
「ここか!!!」
と、グルゼンがドアを開けるとそこには、エルゲルダがいるのだった。
「見つけたぜ、アホの領主エルゲルダか。」
と、エルゲルダを見つけたグルゼンは言う。
グルゼンにとって、エルゲルダという存在は領主のような責任者の地位に就くべき人物ではなく、むしろ、どこかに幽閉して二度と外の世界に出すべきではない。
だって、エルゲルダは権力を恐怖にしか利用できないのだから―…。自らの地位にしか興味がなく、自らが一番でないといけないのだ。
(見ている感じ、体形が悪いわけではないが、動きが良くない。贅を凝らした生活ばかりして、知識を知る、体を鍛えないまでも、動き、人々と触れ合うということをしてこなかったのだろう。本当の意味で、弱き男だ。)
と、グルゼンは心の中で思う。
グルゼンは、所作から何となく、エルゲルダという人間がどういう人生を送ってきたのか、ぼやけるという感じで理解する。まあ、すべてを見たというわけではない以上、そのようにしかならないのだが―…。
「アホの領主、お前はどこの者だ。下賤な奴らが私を侮辱するような口で言うな!! 私はリース王国の中で、レグニエド王から敬意を払われているアルデルダ領の領主エルゲルダ様だ!!! お前のような厳つい存在なんかが勝手に会って良い存在ではないのだ!!!」
と、エルゲルダは叫ぶように言う。
エルゲルダは、グルゼンやその部下たちが、勝手に室内へと入って来たことを自身に対する侮辱であると怒りを露わにしていた。その感情を隠すことなく。ゆえに、グルゼンもエルゲルダが怒りの感情を抱いているのを理解できたし、自身にその怒りが向けられていることがわかる。
さらに、エルゲルダは、自身が高貴な身分の存在であることを自覚している。自分が偉いというのが当たり前のことであり、レグニエドから尊敬されていることが、そのことに余計に拍車をかけているのであるが―…。
エルゲルダは、ゆえに、何もかも下の者を自分の思い通りにして良いと思っているのだ。高貴な身分であり、それは自身が優れているからであるという妄想のせいで―…。それを形成させたのは、劣等感と同時に、それをアババと協力することで、一族の後継者として有力な者たちを殺していって、アルデルダ領の領主になったという成功体験があるからだ。
まあ、そのようなことを知ろうがあろうが、今の状況をエルゲルダの有利に変えられることはない。
グルゼンは、そんな甘い人物ではない。
「そうか、まあ、どんな威厳とか正統性とかを主張したとしても、実が伴っていなければ何も意味がないことだけどな。まあ、エルゲルダにはわからないことだろうなぁ~。」
と、グルゼンは冷静に言う。
その言葉、冷たい圧というものを感じさせるものだ。そして、エルゲルダが逃げられないように鋭い目つきで、恐怖を与える。グルゼンの部下も心の中で何かを思っているかもしれないが、それでも、それを言葉にすることはない。なぜなら、この場は重要な場であることを理解しているからだ。
そして、グルゼンは、どんな高貴な存在とか周囲で言われていたとしても、実というものを伴っていなければ意味がない。正当性を保障したければ、周囲に常にそう思われるように、そう思っても良いと思えるぐらいの行動をとらないといけない。そこに不満というものは少しだけあると思えるが、それでも、従うことイコール生死の危険をともなうことはあってはならないのだ。
さらに、正当性や威厳の関係のない外部の存在に対しては、エルゲルダの権威など意味を持ち合わせない。今はそのような状況である。
「貴…様。…………どれだけ……高貴な私を―………………。」
と、エルゲルダは言いかけるが、それをすべて言わせてもらえるほど、グルゼンは甘くない。
すでに、エルゲルダの首筋には、グルゼンの抜いて剣の先が突きつけられているのだから―…。
「俺の言葉を理解できないようだなぁ~。威厳とか正統性というものは実が伴っていなければ意味はない。それに、お前の威厳はアルデルダ領の領民には通じるのかもしれないが、外部の俺にはそれに何の価値があるのかはわからない。わかるためには、実力というものを示さないといけない。武力もしくは知力などの力をなぁ~。それも、この場で求められている―…。後、エルゲルダ。お前はお前の裏の人間を使って、俺を殺そうと考えているようだけど、そんなことを想定していない人間がどこにいる。俺の部下は、裏の人間にも対処できるように鍛えている。」
と、グルゼンは言う。
嘘ではない。確実に、裏の人間に対する対処法に関しては、精鋭ほど鍛えている。なぜなら、裏の人間が戦いの中ですることは、天成獣の宿っている武器を持っている者もしくは指揮官、軍の中の実力者の暗殺だ。大将を殺したとしても、次の大将を決めていて、それを実行できれば、大勢を立て直すことは可能であろう。だが、現実には、時間の消費を免れることはないので、必ず生じるラグが隙という面を作り出す。暗殺した裏の人間が属する者たちにとっての有利を導く可能性のあるものである。
ゆえに、多くの軍では、裏の人間への対処のために、重要な場所には裏の人間や護衛というものを配置していたりする。
だけど、グルゼンは、自らの実力で守れなければならないという考えがある。護衛がいないというわけではないが、護衛が完璧に大将や指揮官、守るべき対象を守ってもらえるという保証はどこにもない。
ゆえに、自らで対処する術を身に付けておく必要がある。そうすれば、一人になっている時でも、裏の者の暗殺を防げる可能性が高くなるからだ。
それでも、腕の高い者の前では、無意味となってしまうだろうが、対策をしておかないのと、おくのとでは差が出るのは確かである。
「グッ……。」
と、エルゲルダは言葉をほとんど発せられなかった。
グルゼンは、まるでエルゲルダがしようとしていることを読んでいたのだ。
(なぜ、俺がグルゼンを裏の者に使わせて殺そうとしていることがバレている。たかが、軍人のクセに!! なぜ、こんな軍人に俺は追い詰められないといけない!!! 俺はリース王国のレグニエド王から尊敬されるアルデルダ領の領主のエルゲルダだ!!! なぜ、このような目に遭う!!! ふざけるな!!! ふざけるな!!!! 私は―…。いや、あるな。)
と、エルゲルダは心の中で憤るが、それでも、最後の希望は残されていた。
そう、あの希望が―…。
「貴様のような一介の軍人にはわからないだろうなぁ~。だけど、私に対してこのようなことをすれば、リース王国の国王、レグニエド王が黙っているはずがない。お前らは、レグニエド王により派遣されたリース王国軍によって、一人残らず殺されるのだ。私は、レグニエド王から一番に信頼されているのだから―…。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、無駄だったな。今頃、リース王国軍がこのミグリアド、私のいる場所へと軍を向かわせており、ミグリアドに到着している頃だろう。残念だったな。軍人ごときが私を殺そうとするからこんなことになるのだ。ざまあみろ!!」
と、エルゲルダは言う。
エルゲルダが見えているものは、景色としてではなく、未来という射程であるのなら、エルゲルダの窮地を聞いたリース王国の現国王レグニエドが軍を率いて、エルゲルダを助けに来てくれるというものだ。
そして、エルゲルダを窮地に追いやっているグルゼンを殺して、葬り去ってくれるだろうと―…。
エルゲルダは自信をもってそのように言うことができる。
なぜなら、リース王国は、周辺の諸国家の中で一番の軍事力と経済力を持っているからであり、現に、そうなのだ。だからこそ、このように攻めてくる国は、リース王国より弱く、簡単に倒すことができ、果ては、攻めてきた国の破滅である。
リース王国の力というものをわからないものしか攻めてこないという思い込みがエルゲルダにはあり、それを言っているにすぎない。
「そうか、エルゲルダ、お前は勘違いしているようだ。確定とは言えないが、お前を助けることはないだろう、リース王国は―…。レグニエドとかいう王の心情はわからないが、それでも、実質の権力を握っているのはラーンドル一派であり、ラーンドル商会を中心とする勢力だ。その勢力は権力欲の思考が強い。レグニエドに信頼されているエルゲルダのことを嫉妬している方が可能性として高い。さらに、エルゲルダ、お前の支配しているアルデルダ領が財政的にピンチなことを考えると、このまま切り捨てた方がリース王国にとって得策だと考える奴がいるだろう。現に、今回、お前がおこなった商品税と通過税に対する増税は、ミラング共和国がアルデルダ領に攻めてこさせ、アルデルダ領を切り捨てるための工作として利用されたのだよ。いい加減、気づけよ。お前は、リース王国の実質権力者に嫌われていたのだ。」
と、グルゼンは冷静に言う。
グルゼンは、冷静に今回のミラング共和国とリース王国との戦争ということに対する顚末を予想していた。その筋書きの中に、アルデルダ領は見捨てられ、エルゲルダは排除されるということを―…。
別に、ここでエルゲルダを救う気はない。というか、救ったところで、ろくなことにならないのはわかっている。実力がないというよりも、人として、トップに立つ者として、必要とされること、理解しないといけないことを何も学ばず、それどころか、権力という魔力に取り込まれた哀れな人を救えるほど、グルゼンも善人ではない。聖人でもない。
だからこそ、グルゼンに絶望を突きつけて、反抗しようとすれば無効化し、ミグリアドのエルゲルダの館に集まっている者たちに、エルゲルダを渡すのだ。
その後、エルゲルダがどのようになったとしても、興味はない。自らが蒔いた種なのだ。受けるべきだろう。この世に理不尽が存在しているのならば、少しだけでも本当に向かうべき者たちにその刃が向くように―…。
グルゼンは、感情を崩すこともなく、ただただ、可能性を突きつける―…。エルゲルダが信じるかどうかはわからないが―…。無理矢理にでも言うことを聞かせることぐらい簡単だ。
「そんなことは―…、お前の言っていることは―…ッ!!」
と、エルゲルダが言いかけたところをグルゼンは、手とうでエルゲルダを気絶させるのだった。
もう、これ以上話を聞いても意味をなさないということを理解したからだ。グルゼンも話し合いのできる相手であるならば、いや、主張がしっかりとしている者ならば、話し合いの中で、何らかの点でグルゼンも緩和した対応をとっただろう。
だけど、エルゲルダという存在は、グルゼンが聞いたエルゲルダの像と変わらなかった。愚かで、自らが優れているという自分にとって都合の良いことしか見えない奴で、自分の思い通りにならないと気が済まないのだ。ゆえに、エルゲルダに逆らう者を、邪魔となる者を排除してきたのだ。
そう思えば、エルゲルダは、グルゼンにとって価値のない存在でしかない。ゆえに、これ以上話すよりも、さっさとミグリアドのエルゲルダの館に集まっている者たちに、エルゲルダの身柄を渡した方が得策だと判断するのだった。
(最初から、そうすれば良かったか。希望なんてものは自分勝手に抱くからな。今の俺もそうか。)
と、グルゼンは心の中で思いながら、指示する。
「エルゲルダを外へ運べ。」
と。
そして、グルゼンの部下数人で、エルゲルダを運ぶのであった。勿論、運んでいるのは天成獣の宿っている武器を扱う者たちであり、エルゲルダの体は贅沢な生活をし、脂肪分などの油の食事をしていたのか、太っていた。グルゼンとしても部下たちに、怪我があっては困るので、天成獣の宿っている武器を扱う者たちに運ばせたというわけだ。人よりも力が強いのだから―…。
その後、グルゼンは、エルゲルダの部屋を部下とともに出て、館の外へと向かうのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(21)~序章 アルデルダ領獲得戦(21)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
頭の痛みよ、治れよ!! (追加) 生活は一応できるので、そこまで気にしていませんが―…。ちなみに頭と言っても、一部分、片側よりも小さいものであり、心配されるものではありません。
では―…。