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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
364/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(18)~序章 アルデルダ領獲得戦(18)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿中。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


宣伝以上。

前回までの『水晶』のあらすじは、リース王国とミラング共和国は戦争状態となり、ミラング共和国はアルデルダ領に進軍する。その中、グルゼンがアルデルダ領の首都ミグリアドを包囲するのだった。

そして、集まったミグリアドの住民の代表とともに、エルゲルダのいると思われる館の中へと入っていくのだった。

一方、シエルマスの統領ラウナンの方は―…。

 一方、ラウナンは、

 (……………おかしすぎる。ここまで、グルゼンが姿を現わさないとは―…。あいつは、今回の遠征を利用して、逃げ出すつもりなのか。私のシエルマスから逃れられるはずがないのに―…。なぜ?)

と、心の中で、苦虫を噛みながら思うのだった。

 ラウナンは、グルゼンをかなり警戒していた。なぜなら、グルゼンという人物は、ラウナンの制御できるほどの人物ではないということを痛感させるし、ラウナンの言う事を聞かない、だが、反抗をしてこない。ゆえに、不気味に感じさせる。

 それでいて、軍人たちから信頼が高く、戦いの中でもかなり勝利を収めており、実力一本で将軍にもなった人物だ。

 そして、今度は、ミラング共和国軍を辞めようとしている。普通であれば、ラッキーだと感じられるが、それでも、グルゼンの人望を考えると、他国の軍人になっても出世し、その軍部の中心になることは確実であろう。それに、グルゼンという人材を放っておく、国がどこにあろう。

 グルゼンを雇って、ミラング共和国軍の弱点を探り、さらに、グルゼンに頼んで雇った国の軍事力を強化しようとするはずだ。覇権を握らなければ、貿易においても、自由に自らの要求を相手に呑ませることはできないのだから―…。いや、交渉の仕方次第では可能であるが、そのための譲歩すらしたくないのだ。たとえ、それが自らの破滅の選択肢であったとしても―…。

 まあ、ラウナンが考えていることは今のところ、妄想の類でしかないということは事実だ。

 グルゼンは、他国ではなく、ベルグの下へと向かおうとしているのだ。ゆえに、国家の軍事力の強化ではなく、ベルグという人物の私的軍事力の強化に目を向けるべきであろう。

 だけど、ベルグは軍事力の強化という面ではするかもしれないが、これは、他国を攻めるためのものではなくて、あくまでも、実験の邪魔をする勢力へ対処するためのものである。

 そのことを、ラウナンが思い至ることはないだろう。

 なぜなら、ラウナンはシエルマスを率いる諜報と謀略機関のトップであるが、それは、あくまでも国家間およびミラング共和国内を主な活動としており、ベルグという個人を対象とはしていないのだ。ベルグを調べる対象としたとしても、何も成果を得ることはできないであろうが―…。ベルグには、すでに、アババなどの有力な実力者が部下としているのだから―…。

 そして、話を戻すと、ラウナンはグルゼンという人物がどこかへ消えてしまっているのである。今回の戦争を利用して、軍隊ごと逃げ出したのではないかと推測するのだった。

 残念だが、それも違う。

 グルゼンはそのようなことは考えていない。まあ、できないことはないが、グルゼンの部下、全員をシエルマスに気づかれずに部隊を離れ、逃げるということはしない。どこかで目立つということを理解しているのだから―…。逃げ続けるのであれば、少人数の方が良いのである。優秀で腕の立つ部下、数名を引き連れて、という感じで―…。

 だけど、今回、グルゼンが目的としていたのは、別のところにあり、ミラング共和国側はグルゼンの軍での最後の戦争で、ミラング共和国側で利益をもたらす行動をしているのだ。リスクを少なくして、益を大きくする―…。

 そのことに、ラウナンは気づかないだろう。彼も馬鹿ではないが、先を見越すことよりも、自らの権力欲、支配欲に取りつかれているため、そのようなことができなくなっているのだ。他者との関係というものが、統治に関しても、人間関係においても重要なのだから―…。

 さて―…。

 (俺の部下を派遣して見張らせていたはずだが、誰も帰ってこないなんて―…。)

と、グルゼンは、さらに、今のグルゼンの状況を知ることができず、モヤモヤする。

 実際は、ラウナンの部下で、グルゼンを見張らせていた者たちは、すでにこの世にいない。グルゼンがすぐに見張っている奴が、ラウナンの手の者だと理解し、抹殺しておいたのだ。ゆえに、ラウナンの下には戻ってこないし、情報ももたらされない。

 グルゼンは、最初から、いろいろと警戒していたのだ。その中に、ラウナンとラウナンが率いるシエルマスを中心にして―…。

 ラウナンは、そのことを理解することはできたとしても、軍人風情が、裏のことに長けている者たちに勝てるはずがないと思い込んでおり、さらに、天成獣の宿っている武器を持っている者を見張りに送っていたのだ。それが、さらに敗れるはずがないという思いを強くさせていた。

 まあ、グルゼンは、天成獣の宿っている武器を扱う者と戦えるし、勝つこともできるぐらいの実力者なのだが―…。

 そのことをちゃんとラウナンは、把握できていなかったようだ。グルゼンにとっても、そのような戦いは見世物ではないと思っているからだ。

 そして、ラウナンは、グルゼンの見張りには失敗したが、それでも、これだけがラウナンの仕事ではない。ゆえに、一旦、グルゼンのことは後回しにして、これから攻めることになるだろうアルデルダ領の首都ミグリアドのことに注意を向ける。

 こっちの方が優先順位は高い。なぜなら、ミラング共和国の住民が、リース王国に恨みを持つように仕向けたのだから―…。まあ、仕掛けてきたのは、リース王国であるから、事実なので、完全に嘘ということはない。

 ゆえに、アルデルダ領をちゃんと征服していっているという証拠づくりをしておかないといけない。さらに、リース王国と戦っているということも―…。だけど、それが嘘であったとしても、シエルマスを使えば、誤魔化すことは簡単なので、そこまで苦労はしない。

 まあ、余計な事実を知られるのは良くないので、仕掛けた通りに動く。

 だけど、ラウナンは、諜報や謀略の専門家であるが、軍事の専門家でない以上、兵糧やらの分野に強いわけではなく、今の食糧難の状況や、食糧徴発によって発生しているミラング共和国内における食料価格の高騰に対して、危機感というものが欠けてしまっている。

 ゆえに、今の状況を完全に、どういうふうになっているのかを理解できない。

 (さて、ミグリアドに放った偵察兵は、どうなっていることやら―…。)

と、ラウナンが思っている時―…。

 「ラウナン様、お耳に入れて欲しいことがあります。緊急事態です。」

と、ラウナンの部下の一人で、ミグリアドに放っていたシエルマスの隊員の一人がラウナンへと報告を持ってくる。

 それは、緊急事態である。

 「何だ、言ってみよ。」

と、ラウナンは促す。

 「ミグリアドの領主の館がグルゼンによって包囲されています。」

 ……………………ラウナンには、驚きでしかなかった。

 グルゼンはこのミラング共和国とリース王国の戦争を利用して逃げているものと思いきや、すでに、ミグリアドに到着し、すでに、エルゲルダのいる場所を包囲しているのだ。逃げるどころか、一番の功績を手に入れるかもしれない、ということなのだ。

 (なぜ、グルゼンが!!!)

と、驚きながらも、表情に出すことなく、冷静に話を聞いているように見せるのだった。

 「で、どういうことだ。」

 「わかりませんが、私がミグリアドに到着した時には、すでにグルゼンはミグリアドに到着して、包囲をし、ものの数分でミグリアドの中に入り、エルゲルダの住んでいると思われる館を包囲、さらに、ミグリアドの住民を煽動している模様です。」

 ラウナンは、わかった。

 (そういうことか。グルゼン。お前の狙いは、我々の眼を盗んだうちに、ミグリアドを陥落させることで、今回の戦争における功績を手に入れたいというわけか。まあ、ミグリアドの陥落をしたとしても、今度は、さらに、リース王国の内側へ侵攻して、領土を奪えば良い。グルゼン、お前に一番の手柄を与える気はない。その功績さえも、書き換えることは可能だよ、シエルマスは―…。一番の功績を手に入れて、軍を辞めて、世間での人気獲得か。狙いは政界か、国のトップか。それじゃあ、俺が困るんだよ。それに、ファルケンシュタイロが許すはずがない。ミスをしたな、グルゼン!!)

と、心の中で、グルゼンの狙いを理解するのだった。

 だけど、外れだ。グルゼンの狙いは、先にアルデルダ領の領主エルゲルダを捕まえ、ミグリアドの住民に引き渡すことだ。それに、今回の戦争における第一の功績は狙っていない。グルゼンは、もうミラング共和国に用はないのだ。あくまでも、筋を通すために今回の戦争に参加し、適度に戦果を稼ぐことであり、それ以上でもない。恩返しに近いものである。

 そして、グルゼンに政界を狙う意図はない。ベルグの下にいくのだから、ベルグの命令の内容にミラング共和国のトップになれとか、政界で権力を握れというものがない限り、戻ってくることはほとんどないだろう。未来はどうなるか、人という存在では完全にわからない以上、完全に戻ってこないという言葉は使うべきではない。

 そして、グルゼンの意図を理解したつもりになっているラウナンは、グルゼンのミグリアド包囲およびエルゲルダの館を包囲したことに対して、アホな戦略だとしか思えなかった。

 グルゼンは知らないだろうが、ファルケンシュタイロはグルゼンに対して、嫉妬心を持っており、劣等感を抱いている。グルゼンはファルケンシュタイロよりも功績をあげており、ファルケンシュタイロとしては自らが軍事で一番じゃないことに苛立ちを感じていたのだ。兵士として、自分が優れていると思っていたからだ。幼い頃から体が大きく、強いということもあって、周りの大人たちにも圧倒的な力で勝負に勝っていたのだから―…。

 まあ、ファルケンシュタイロのことはこれ以上、述べても意味はないだろうが、今回のミラング共和国とリース王国との戦争で、アルデルダ領だけしか獲得できなかった場合、第一の功績となるのはミグリアドを陥落させたグルゼンとなり、ファルケンシュタイロにとっては面白い結果ではない。

 そのことばかりは、すぐに理解してしまうファルケンシュタイロのことだから、アルデルダ領を越えて、リース王国のさらに内部へと攻めていくだろうし、そこで、グルゼンよりも大きな功績を手に入れるまで戦争を続けるということだ。

 それに、そろそろリース王国軍が到着してくる頃合だろう。というか、アルデルダ領に侵入してこないことは怪しんでいるラウナンであるが、そうであるなら、チャンスだとばかりにどんどん奥へと攻めていくのは、十分に良い戦略であることを理解するのだった。相手がくれるチャンスはもらうべきだと―…。

 たとえ、それが罠の類であったとしても、問題はない。裏で仕掛ければ、シエルマスに勝てる軍など存在はしない。シエルマスは、謀略では周辺諸国の中で一番なのだから―…。

 そして、ラウナンは考える。

 (……………だが、念には念を入れておいた方が良いな。グルゼンにエルゲルダをやられる前にこちら側で確保しておいた方が良いだろう。エルゲルダを―…。エルゲルダを殺害した証拠をこちらが確保しておけば、グルゼンとてミグリアドでの功績を得たとしても、そこまで大きくはならないだろう。エルゲルダを取り逃がしたという口実も作れる。)

 ラウナンは念には念を入れようと考えた。

 さっきは、グルゼンのことを馬鹿にしたが、それでも、グルゼンにエルゲルダを殺させるわけにはいかなかった。なぜなら、エルゲルダの身柄を確保しておけば、いくらミグリアドをグルゼンが陥落させたとしても、エルゲルダを逃がした失敗ということで、恩賞を減額させることができる。それに、その前にグルゼンを始末して、シエルマス側でミグリアド陥落の話をでっち上げれば良い。ラウナンに都合が良いように―…。

 「ミグリアドに行って、全員に伝えろ。グルゼンにエルゲルダの身柄を渡すな。エルゲルダの身柄は我々の手で確保する。行け!!!」

と、ラウナンは、指示を伝える。

 「はッ!!」

と、ミグリアドからラウナンに伝えたシエルマスの部下は、すぐにミグリアドに戻り、同僚に伝えに行くのだった。

 統領からの指令だ。

 伝令をミスるわけにはいかないし、指令を失敗するわけにはいかないのだ。

 今回の失敗は、イコール自らの生の終わりに繋がるのだから―…。

 (私は、ミラング共和国を裏で操り、周辺諸国のどこよりも強くするのだ。私の謀略によって―…。だから、私の手に負えないグルゼンは排除しないといけない。私の脅威にしかならないのだから―…。)

と、心の中で、ラウナンは燃やす。

 自らの野望という火と、同時に、その火が邪魔者を燃やし尽くすことを―…。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(19)~序章 アルデルダ領獲得戦(19)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では―…。

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