番外編 ミラング共和国滅亡物語(17)~序章 アルデルダ領獲得戦(17)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿中。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ファルケンシュタイロらミラング共和国軍の主力がアルデルダ領に侵入している頃、グルゼンは、アルデルダ領の首都ミグリアドを包囲しているのだった。そして、ミグリアドの住民からも協力を得つつ。このグルゼンによる首都ミグリアドの包囲は、ファルケンシュタイロにとって予想外の行動でしかないが―…。
一方、ミグリアドの領主の住む城とも思えるぐらいのもののなか。
エルゲルダが執務をおこなう部屋の中。
そこでは―…。
「どういうことだ。どうして、城門を突破された!!!」
と、エルゲルダは怒りの声をあげる。
それは、グルゼン率いる軍団が、ミグリアドの城門の前に出現し、それも、町を囲む城壁で戦闘することなく侵入しているのだ。
グルゼンは、すでに、裏側からアルデルダ領の兵を買収し、かつ、エルゲルダを倒すための兵へと変わらせており、エルゲルダの住む場所の包囲に利用しているのだ。
さらに、ハウナーらを利用して、エルゲルダとその軍団に勝つ可能性を確実にする。
それは、エルゲルダの軍団の多くはすでに、グルゼン以外のミラング共和国軍の方にかかりきりであり、多くの軍団をミグリアドに回すことができない。
それに加えて、グルゼンは、エルゲルダの使者を捕まえて、何をしようとしているのか問い詰めている。別に、答えなんてわからなくても、やり方はいろいろあるし、推測することはできるので苦労はしない。念のためという感じであり、かつ、エルゲルダの使者によって、情報が直接に漏れるのは良くないと判断してのことだ。
「いや、それが―…、何も情報が入ってきません。」
と、エルゲルダの部下の一人が告げる。
そう、この部下は、本当の意味で情報がもたらされていないのだ。さらに、情報を手に入れるために、何人か使いを出しているのが、誰一人帰ってこないのだ。
これは、グルゼンに捕まっているので、帰ってくることは不可能であるが―…。
そうである以上、この場所に、今の状況を正確に把握できる情報がもたらされることはない。詰みである。
「どうなっている!!! 我が治める土地にミラングの野郎ども!!! 私がどれだけお前らに恩恵を与えてやったと思っていやがる!!! ミラングは人の道理というものを弁えないクソどもだ!!! さっさと追い出せ!!! 血祭りに上げろ!!!!!」
と、エルゲルダは声を荒げる。
その怒声は、誰もがビビるほどのものであった。というより、ミスをすれば殺されるかもと思い、殺されたくないためにとにかく、今の事態を打開しようと考えるのだった。
だけど、思いつくはずもない。
エルゲルダもエルゲルダの部下も―…。
すでに、詰みなのだから―…。
いくら考えようとも―…。
もし、仮にこのようなエルゲルダの不利な状況を突破できる方法があるとしたら、それはエルゲルダやその部下たちにはできないことであり、今、ここでやれと言っても不可能だ。その思考に至ることはないだろうし、実行することもできないのだから―…。
世界は、残酷であり、優しい。
それでも、エルゲルダは足掻く。
「はい!!!」
と、エルゲルダの部下はこのように、返事をするしかない。
もう、引き返せない。愚かな選択は、時に、自らだけでなく、その周りの生をも終わらせる。そのことを理解しようともせず、自らの欲にのみ溺れ、それを快楽だと言い換える。それは、結局、破滅という結末を導き出す。
因果応報とは、このことだろうか?
そして、エルゲルダの命令を受けて、破滅することになろうが、今の現状をどうにかしないことにはどうしようもない。命令を守らないことによって、エルゲルダに殺されることになるのだから―…。その未来を回避するために―…。
(クソッ!! こんなところで終わって溜まるか~。すでに、侵入してくるとわかった時には、リース王国のレグニエド王に援軍派遣を要請しているんだ!! そこまで持ちこたえてくれれば―…。)
と、エルゲルダは心の中で思う。
エルゲルダとしても、ミラング共和国の軍勢と戦うには不利だということはわかっている以上、リース王国に援軍を要請することはしている。それに、レグニエドは、エルゲルダのことを尊敬しているのだから、尊敬している人がピンチなのだから、助けてくれると―…。
だけど、実質の軍隊を動かすのは、レグニエドではなく、ラーンドル一派およびその一派の息がかかっている連中なのだ。エルゲルダという存在は邪魔であり、エルゲルダを排除して、自分達の権力をより強して、さらにリース王国の実権を掌握したいのだ。
だからこそ、今、リース王国がアルデルダ領の中に入り、エルゲルダの今の状況を助けてくれるとは限らない。むしろ、助けてはくれないだろう。価値もないアルデルダ領なんて、いらないのだから―…。金の成る木ではないことはわかりきっている。
そして、エルゲルダの絶望はこれから続くのだ。しばらくの間―…。
一方、グルゼンのいる側。
そこには、数々のミグリアドの住民が集まっていた。
おのおのに、武器が与えられているわけではないが、その数は、周囲を圧倒することができるのは確かだ。
「すごい数だ。こんなにも―…。」
(こんなにも、エルゲルダに対する恨みがすごいなんて―…。一体、何をすればこうなるのですか?)
と、グルゼンの右腕であるフォルマートは言いながらも、途中から、心の中で言うことにした。
なぜなら、これ以上は、口にして言うことが余計なことになるのがわかったからであり、さらに、心の中で、ここまでエルゲルダに対する恨みというものが存在したのだと思い、一体、どうすればここまで―…。
まあ、エルゲルダへの不満を表わす人々の蜂起へと煽ったのは、自分たち側である以上、ちゃんと責任を持って、エルゲルダを倒さないといけない。
そして―…。
「エルゲルダ、あいつは住民たちによって殺されるな。こういう結末は好きではないが、ケジメぐらいはしっかりとつけてもらわないとなぁ~。ここまで、領民を蔑ろにしたんだ、それに対する責任というものがある。フォルマート、見ておくが良い。政治で馬鹿をするということは、こういう結末を迎えるのだと―…。」
と、グルゼンは言う。
グルゼンとしては、この会話がアルデルダ領のミグリアドの住民に聞こえても全然、問題ないと思っていた。
なぜなら、このような言葉で、エルゲルダを倒す気がなくなるとは思えないのだ。それほどに、エルゲルダに苦しめられたということだ。
ゆえに、グルゼンは、
(本当に、愚かで、馬鹿を加えた存在は、人々の怒りにさえ気づかない。これが、エルゲルダ―……、お前のしてきたことだ。)
と、心の中で言う。
そして、ここからは仕事モードである。演技というものは、自らがそうであると信じ込まないといけない。もしも、そこに、自分は演じているという気持ちが存在すれば、疑われかねないのだ。人々は、演技だと気づかないのは、その演じている人の一面しか知らないだけであり、かつ、何がしかの違和感というものを感じる力が弱いからである。
グルゼンは、今、自分がなるべき人間、言葉を思い浮かべ、成りきるのだった。
「良く集まってくれた!! 私は、ミラング共和国軍の将軍の一人、グルゼンだ!!! これから私は、アルデルダ領を支配するかもしれないが、私と私の部下は、ミグリアドの住民に危害を加える気はない。むしろ、アルデルダ領に蔓延る悪政の象徴たるエルゲルダをこの住民の場に引きずりだそうではないか!!!!」
と、グルゼンは高らかに言う。
それは、これからおこなわれることをミグリアドのこの場に集まっている者たちに告げ、確実に成功し、ミグリアドの住民にとって利益になることだと宣言する。
かつ、同時に、グルゼンとその軍団は、ミグリアドの住民に危害を加えないということも言う。もしも、危害を加えることになってしまえば、それ即ち、一気にエルゲルダの有利な結果となってしまうのだ。それが前例となって、ミラング共和国軍の侵略に対する、住民の反抗に直面することになる。住民の抵抗は支配する時に、余計な費用をかけることになって、得られる旨味はないどころか、マイナスしかない。
だからこそ、ミグリアドの住民には心地良く、グルゼンの軍団を受け入れてもらうために、彼らの望みを叶えるのだ。決して、エルゲルダと同様の悪政をしないようにしながら―…。
「出陣!!」
と、グルゼンは言うと、自らの少数の部下、ハウナーなどの住民の中の代表とともに、エルゲルダのいる城の中へと入っていくのだった。
グルゼンが目指すのは、エルゲルダである。
ファルケンシュタイロは、エルゲルダ領の中にいる。
それも、ミラング共和国側から入って、二つ、三つ目の村の辺りに―…。
そこでは、住民が抵抗していることはなく、すでに、遠くへと逃げてしまっている。
ここに残っているのは、ミラング共和国軍が来ることを知らなかった者たちと、逃げ遅れた者、そもそも逃げることができない者たちである。
彼らは、ファルケンシュタイロの命令で、全員、無惨に殺され、女性であれば、その前に―…、言わない方が良いだろう。だけど、悲惨であるということに変わりはない。
これをグルゼンが見ているならば、止めている光景であろう。
最悪の場合は、ファルケンシュタイロを裏の人間を使って、暗殺していたに違いない。
このような、余計な争いと抵抗を生みかねない行動を許してしまえば、ミラング共和国にとって不利益になることは確実なのだから―…。
悪政ならば、善政で対抗するのが、信頼を得るためには一番であり、マイナスを少なくし、利益を手に入れられるというものだ。軍事だけばかりを学び、経済やら心理やら、政治という観点を欠いては、良き結果など得られないのだ。
ファルケンシュタイロは軍事だけの馬鹿であった。
「たったこれだけか。」
「ええ、ファルケンシュタイロ様。すでに、ほとんどの者は、逃げております。我々が略奪や虐殺をおこなっていることが知れ渡っているのかもしれません。さらに、ここまで、リース王国軍を見かけることはなく、ほとんどがアルデルダ領の領兵ばかりです。」
ファルケンシュタイロは、辺りの焼け野原を見ながら、兵士たちが集められた食料が一人がやっと一日を食つなぐことができる量しかなかったのだ。誤算である。
食料に関しては、計画として、少しだけ用意していたのであるが、それでも、長期戦をおこなえるものではなかった。運が良い面を言うと不吉なことでしかないが、アルデルダ領の領兵を主体とする軍隊と戦い、ミラング共和国軍の側にも死者を出していたことだ。その数は、アルデルダ領の戦死者全体の数の半分の数であるが―…。
そのことにより、少しだけ食料を長く持たせることができる。
本当にちゃんとした戦争をしようとするなら、食料に関しては、十分な量を用意しておく必要があるし、それを運ぶための手筈と護衛に関して、しっかりと計画しておくべきであった。ファルケンシュタイロは、アルデルダ領を素早く支配できると感じて、ほとんど用意しなかったのだ。それに、食料の値段が高騰していたので、ケチって、食料をほとんど調達しなかったのだ。
まあ、そのせいで、高い食料物価がさらに上昇するという最悪の結果になっているが、それをリース王国のせいにしているので、今の所は大きな問題にはならない。ファルケンシュタイロは食料確保のことしか考えていないが、ここでの問題はそれ以外にも存在する。
実は、食料価格の高騰と同時に、ミラング共和国とリース王国の戦争が長引けば、厭戦気分が広がるようになり、さらなる食料価格の高騰もあることから、ミラング共和国の住民が反乱を起こす可能性がある。
それは、事態が打開せず、生活状況も改善しないことに対する、不満と苛立ちである。
ゆえに、ファルケンシュタイロは、ミラング共和国での反乱を阻止するためにも、ミラング共和国とリース王国との間の戦争を早く終わらせないといけないのだ。そのことにいつになったら気づくのだろうか。
(リース王国の兵はいない。見捨てたのか。俺らを誘い込んでいるのか?)
と、ファルケンシュタイロは、心の中で疑い始める。
そう、ファルケンシュタイロが想定していたのは、リース王国側がアルデルダ領を征服されるのに抵抗して、王国軍を派遣し、リース王国とミラング共和国の辺りで戦い、勝利を収めるということであった。
だけど、現実はそうなっていない。
ゆえに、怪しむ。
だが、リース王国としては、アルデルダ領は必要のないものであるし、ミラング共和国に譲って停戦するという方針である。その意図を、ミラング共和国側は理解していない。
ラウナンにおいてもそうであるように―…。
「そして、次の村へと行くぞ!! ミグリアドへ進め!!!」
と、ファルケンシュタイロは、アルデルダ領の首都ミグリアドへと向かい、兵をさらに、進めて行くのだった。
ファルケンシュタイロとしては、罠であったとしても、その時に対処すればよいのだと思っているのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(18)~序章 アルデルダ領獲得戦(18)~
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
グルゼンによるミグリアド包囲戦―…。第128話ではランシュの視点であったために、書くことができなかったところです。思い付きの一面もありますが、予想以上にここに文章量を注ぎ込んだと思っています。ランシュたちの行動に関しては、しばらくの間、戻れるような感じではありません。
そして、この包囲戦は、短くで終わらせるつもりでしたが、以上にも書いたように、かなりの量となりましたし―…。
これから、数回ほど続く感じだったと思います。この話を執筆していたのが、2022年の後半頃だったので―…。
さて、話は別の方向に戻すと、『水晶』のこの番外編、序章だけで30部分を超えています。やっと、第128話の夜襲の方へと話を執筆のところでは、至っているような感じです。40部分を超えるかもしれないという感じになっている状態です。いや、短くなると思う。一部分のあたりの文章量が増加して―…。
………………………………………無理しない程度に、頑張っていくことにします。
2023年中に、番外編が完成しますように―…。
では―…。