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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
361/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(15)~序章 アルデルダ領獲得戦(15)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿中。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


宣伝以上。

前回までの『水晶』のあらすじは、リーンウルネと元穏健派の亡命者との会話があった。その後―…。

 それから少しだけ時間が経過して―…。

 (フィーマルのことを儂も偉くは言えないの~う。じゃけど、本当の実力というものは、野望を持っている人間が恐ろしいのではない。一番恐ろしいのは、その野望が見えないことなのじゃ。ラウナンは自らが裏で実権を握って、国を操縦したいのがわかっておったし、それを自己顕示欲で見た目の雰囲気から察せられた。喋っている言い方がそのような感じを抱かせた。一方で、グルゼンは、面倒くさそうにしながら、目のところはそう感じさせなかった。グルゼンが、ミラング共和国軍を辞めるのかの~う。グルゼンなり、何かを見つけたということなのか、それとも、ミラング共和国に価値はなくなったのか。う~ん、推測では確定的な答えはでないようじゃの~う。)

と、リーンウルネは考え続ける。

 暇かと言えば、今の現状は暇に近い状況であるが、リースの中でいろいろと見て回るのは、今、危険な状況であるのは確かだ。

 フィーマルの保護に割かないといけない人員がいる以上、迂闊に、外に出ることはできない。

 保護している人物が攫われたり、殺されたりしたら、それこそ、自らの信頼というものに傷をつけかねない。これが、かなりの大出血となることがわかっているからこそである。

 ゆえに、動けない今回の経験を生かして、自らの味方となる人材を集めて、強化しておくことを考えるのだった。それを、心の中で言葉にすることはなく、後にそのような行動をとるのだから―…。

 そして、グルゼンという人間の考えそうなことは、リーンウルネでも完全に推測の域を出ることはない。だけど、政治に関わらせても、権力掌握後もおかしな行動をするとは思えないぐらいだった。このような人物はかなり珍しく、文民だろうと軍民だろうと、一度手に入れた権力というものを自らの手で手放すことを考える者はほとんどいない。というか、地位に固執する者の方が多いぐらいだ。

 権力というものが、自らの力として他者を動かせるからこそ、自らの劣等感という者もしくは権力を魅力的に感じる者にとって、手放すことがどれだけの損失かを理解して、それを他人に手渡して、自らが損失を被る、そう、美味しい果実を奪われて喰われてしまうことに怯えてしまい、執着するのだ。

 権力とは、そういうものだ。だからこそ、それを手放せるグルゼンという人物は、地位以外のもの、というか、自らの信念というものと、目的というもののためなら、誰もが欲しているものを捨てることができ、かつ、俯瞰した上で物事を把握できるのであろう。第三者という視点で感じになれるのだろう、権力に対して―…。

 ゆえに、リーンウルネにとって、敬意を払うことができると同時に、恐ろしさというものをグルゼンに感じるのだった。

 そして、そういうグルゼンだからこそ、ミラング共和国の未来というものがわかってしまい、そこに未来がないと感じたのであろう。

 それがどのような理由であるのかをまだ、リーンウルネは理解することはできていなかった。圧倒的な情報不足で―…。いや、情報はあるかもしれないが、それを繋げる糸というきっかけがないから―…。


 アルデルダ領の境。

 リースからそこに到着するのに、一週間という時間がかかった。

 それは、進軍スピードは兵の数が多くなっていることから、それを移動させるのにはどうしても、少人数のような意思疎通というものを完璧に素早くおこなうことは不可能であり、どうしてもそこでラグというものが発生するし、ペースを合わせるために、ゆっくりとしたものになる。

 そして、アルデルダ領の領境にリース王国の兵が到着した後、その境からリース王国のさらに中へと侵入される可能性がある場所のすべてに兵を配置するのだった。

 それでも、本陣にはかなりの兵を配置していた。

 そこには―…。

 「アールトンの策を再現しろだと!!! 俺はリース王国の元帥にして、軍人のトップのファルアールト様だぞ!!! 一介、商人ごときが!!!!」

と、ファルアールトは言う。

 ファルアールト、正式に言うのであれば、ファルアールト=フォンマエルである。リース王国における貴族の一人であり、元々は港湾の中の管理人をやっていた一族の出身で、現フォンマエル家の当主の三男であり、性格は短気である。

 能力に関しては、軍人としてそれなりの頭脳を持っており、策を練るのは得意だが、短気という性格のせいで、戦いとなれば、ファルアールトを追い詰めれば、簡単にリース王国に勝利することができる。まあ、軍事力が強いから、その敗北自体も簡単に巻き返すことができるのであるが―…、リース王国側は―…。

 まあ、ファルアールトの失敗の尻拭いは、リーンウルネ派に近い兵士が指揮官として担い、彼らがしっかりと勝利を挙げているのであるが―…。それをファルアールトは根こそぎ自分の活躍にしているのであるが―…。すべてではないが―…。

 「落ち着いてください、ファルアールト様!! 今回は、負ける戦いであるけど、ファルアールト様が責任を取るようなことはありません。だって、今回はリース王国騎士団の人間が責任を取ることになるんですから―…。というか、すでに、作戦は進行しているのですから、ファルアールト様はゆっくりと構えていてください。」

と、部下の一人で、お側付きの兵士イルマーレ=ナンダラが宥めるように言う。

 この人物は、中年の男性であるが、上司であるファルアールトに気を遣ったり、落ち着かせるのを仕事としている。なぜなら、ファルアールトの側付きはあまりにも人気のない仕事であり、イルマーレは出世できる可能性をわずかにでもあるなら、それに賭けて、この仕事をやっているのだ。平凡な能力しかなく、コネもない自分が出世するにはこのような方法しかないのだから―…。昔は尖っており、実力で認められようとしたが、この歳になってくると、自分の実力というものがわかってくるものだ。ゆえに、昔のような尖ったことはできない。劣っていることを自覚し、それを補うために地位を求めているのだから―…。

 ファルアールトは、少しだけ冷静になり、表情を少しだけ和らげるのだった。

 「そうだな。」

と、言いながら―…。

 今回、ファルアールトは、アールトンの筋書きに沿って、軍を動かすことになる。そう、リース王国はミラング共和国に負けて、アルデルダ領をミラング共和国に割譲するのである。このような価値のないアルデルダ領を―…。

 アルデルダ領の割譲に関しては、ファルアールトでもわかることだ。金にならないどころか、持っているだけで、自分達の収入を注ぎ込むことしかできずに、プラスにもならない場所をずっと持っていても意味がない。何も領土が大きければ良いというわけではないし、小さすぎても良いことはない。ちょうど良いという状態にしないといけない。

 ファルアールトは、そのことを弁えているが―…。

 (なぜ、俺が大将じゃないといけないのだ。こんな戦、ニナエルマのような騎士をトップにしても良いではないか。それだと、リース王国が負けることがバレて、邪魔されるからか―…。フン、気に食わないが、まあいい。リース王国のリーウォルゲの騎士団に無茶苦茶な指令を出せば良い。どうせ、騎士の数はいくらでも減らして良いんだろうし―…。)

と、ファルアールトは、心の中で思い、策を巡らすのだった。

 アールトンからの作戦の通達もあるだろうから、それによる制限というものは課されるだろうが、概ね、アールトンは軍事のことを知らない商売人だから、細かい作戦とかあまり考えてこないだろう、と思い、細かいところはファルアールトの思い通りになると考えるのだった。

 そして、その部下たちは、ただ、表情を崩さずにただ、上官からの命令を待つのであった。


 一方、リース王国の騎士団が守る場所。

 そこは、見晴らしの良い場所である。

 そこには、ランシュとヒルバスがおり、ランシュとヒルバスは同じ場所で守ることになった。

 そして、ランシュは、どういうことになっているのか、情報をもたらされていた。

 (アルデルダ領に入るためには三つの道があり、リース王国の別の領から入れるのは二つであり、その道を結ぶように兵を点々と配置するのだった。残りの一つはミラング共和国に繋がる道で、そこはミラング共和国軍が占拠しており、リース王国の騎士団だけで突破するのは不可能ではないが、多くの犠牲がでる可能性があった。奇襲などが良い戦法であるが、あまり騎士団の中では好まれないようだ。騎士である以上、正々堂々正面から突破するのが良いという考えが根付いているからだ。それでも、必要とあれば、騎士の精神を曲げてでも、する必要はあるのだから―…。リース王国を守るということが一番目標であり、王国に住んでいる人々の安全に繋がるのだから―…。)

と、心の中で考える。

 ランシュが心の中で言っている通り、アルデルダ領に入るために三つの道があり、二つが他のリース王国内の領主支配へと繋がる道であり、残りの一つがミラング共和国へとアルデルダ領を通って行けるというものだ。

 その残りの一つのミラング共和国に繋がる道を、ミラング共和国軍が占領しており、その数もミラング共和国に繋がるのが多く、リース王国の騎士団だけで突破することはできないわけではないが、強行突破すれば、犠牲が大勢でるのはわかっていた。そのような作戦は、重要な時で、確実にその強行突破が戦争における勝利できることに繋がる時に使われるものだ。ゆえに、普通ならば採られることのない作戦である。

 そして、そのような強行突破をしないとなると、ミラング共和国軍を奇襲して、撤退させる方法となる。だけど、リース王国の騎士団の方針としては、そのような戦法は、邪道という感じになっている。それでも、現実問題として、採用されないということはなく、過去にいくつか使われてはいるが、その作戦を提案および指揮した者は、騎士団内での出世から遠ざかることになる。方針に違反しているのだから―…。

 まあ、そのような作戦を採用する時は、騎士団としてもかなりの危機に立たされているということになるし、背に腹は代えられないという状態であることに間違いはない。

 それにしても、このようにランシュに思考させることができる理由は、一つしかない。

 「ふむ、暇だな。」

と、ラウナウは言う。

 ランシュ、ヒルバス、ラウナウは、一緒の場に配置されている。

 ラウナウとしては、到着してから、数日ほど、何も起こることはなく、ただただ、見張るという時間を過ごしている以上、暇に感じてしまっているのだ。

 そのため、ランシュも、頭の中でいろいろ考えながら時間を潰しているような感じなのだ。

 ラウナウのようにダレ始めているわけではないが―…。

 それでも、騎士として訓練を積んでいることから、警戒を怠っているというわけではない。そんなことをして、ミラング共和国軍が迫っていることに気づかなければ、自身が自らの生を終えるという結末を迎える可能性があるのだ。油断はしない。そういうふうに外から見えるとしても―…、だ。

 (仕事中ですよ~、先輩。)

と、ランシュは心の中で言いながら、口にすることはない。

 なぜなら、ランシュの方も、見張っている時間が多くて、少しだけラウナウの気持ちがわかってしまうからだ。

 そんななか―…。

 「ラウナウ、相変わらず暇が苦手なのですか?」

と、澱みのない、綺麗な声が聞こえる。

 それは、ラウナウに向かって発せられたものであることは、言っている言葉の中から簡単にわかることであり、ラウナウの性格を知っているからこその言葉であろう。

 ラウナウは、すぐに、声がした方向に顔を向ける。

 そこには、イケメンかはわからないが、爽やかな感じがして、清潔感のある印象を受ける。そして、この人を見た男は、多くの者が、女性にモテるだろうなぁ~、という印象を受けてしまうのだ。ランシュだってそのような感情を抱かせるのだ。

 そして、ラウナウはその人物の顔を見て、名前を思い出し、言い始める。

 「ニナエルマか。」

 そう、ラウナウに今、話しかけてきたのニナエルマだ。

 彼は、リース王国の騎士団に所属している騎士であり、騎士としてよりも、対外交渉方面を担当している人物だ。騎士団に属しているが、リース王国の中でも頭の回転が速く、賢い人物である。ゆえに、ラーンドル一派からは警戒されている騎士の一人でもある。それに、ニナエルマもラーンドル一派を好んではいない。

 (………ほお~、彼が―…。)

と、ニナエルマは、ラウナウに視線を向けながらも、ランシュの方を見る。

 ランシュがどのような経緯で、騎士団に入団したのかをしっかりと把握しているからだ。そう、ランシュがニナエルマを知っているように、ニナエルマもランシュのことを知っている。

 二人の面識はこの四年間ほどんどなく、会話もしたことがないほどだ。

 それでも、変わった特徴みたいなものがあるからこそ、互いの存在を認識することができた。

 そして、ニナエルマがランシュの方を向いて、言い始める。

 「はい、そうです。彼がベルグ様の推薦で入ってきたランシュ君ですか、二年前に騎士団への入団試験を受けて合格もしたという稀有な経歴の―…。それがラウナウの元で教育を受けているのですか―…。まあ、ラウナウは適当なところはありますが、人として悪い人ではないので、大丈夫だとは思いますが―…。」

 これは、ランシュに向かってニナエルマは、ラウナウは悪い奴ではないと言う。だけど、ちゃんとランシュにラウナウの欠点を指摘することも忘れずに―…。

 それと同時に、ランシュがどのように入って来たのかという経緯を言う事で、良からぬことを企んでいるのであれば、すぐにでも察知するぞということも示す。

 (ランシュ君、根は悪そうな子ではないが、何かを目的としているのだよなぁ~。何か私の勘が告げています。証拠のないうちは、余計な疑いをかけるべきではないか。)

と、心の中で、ニナエルマは考えるのだった。

 余計な疑いをかけるのは良くないが、疑う可能性はあるよということは示しておく必要はある。ニナエルマにとって、ベルグという存在は、かなりの有能な存在であることは間違いないし、宰相としても歴代の中でもかなり上のできる方の部類に入るだろうし、彼が宰相のままで居続けるのなら、得は多いだろう。リース王国にとっては―…。

 だけど、ベルグからは同時に、危険な何かを感じしまい、自らが知らぬうちに何か良からぬことを達成して、リース王国をどん底に落とす可能性があるのではないか、という恐怖があるし、ベルグを武力で倒すことはリース王国の誰もができることではないと思った。それほどに、実力者であることを理解してしまうのだ。人としての魅力も優れているからこそ、よりヤバい存在だ。

 ゆえに、ベルグの紹介で、リース王国の騎士団に入団したランシュという存在が危険であると思っても不思議ではない。ニナエルマは、ベルグがランシュを使って何かをしようとしているのではないか、と感じて―…。

 現実は、ニナエルマの言っていることの一部は合っている。ベルグは、ランシュの復讐に協力しており、かつ、大がかりの実験をおこなうことができ、誰にも気づかれない場所を探しているのだ。それをクルバト町の虐殺事件で見つけたし、それと同時に、クルバト町の虐殺関連で、宰相として辞任を強いられたというベルグにとっての幸運が重なり、姿を消すことが上手くできたのだ。変に行方を探されずに―…。

 さて、話を戻して―…。

 「相変わらずだなぁ~。だが、俺も暇だと思いながらも、見張りはちゃんとしている。だけどよぉ~、なぜ、アルデルダ領に入ることが禁じられているんだ?」

と、ラウナウはニナエルマに向かって、自身が思っている疑問をぶつける。

 それも急に―…。

 ランシュは、ラウナウの疑問に関して、理解することができる。

 (確かに、疑問に感じることだ。何で、アルデルダ領の領主自らが領内に侵入者がいるのに、リース王国の介入を拒む必要がある。援軍としてはありがたいはずだ。もし、ありがたくないのなら、リースの中央で権力を握っている奴らと対立していることを考えないといけなくなる。)

 そう、ランシュが思っていることはある意味で合っているのだ。現に、ラーンドル一派は、アルデルダ領の領主エルゲルダのことは好んでいないし、邪魔者だと思っている。

 リース王国の王レグニエドは、エルゲルダに対して、尊敬の念を抱いており、そのせいで、エルゲルダのやりたいことが、困っていることに対して、ラーンドル一派に向かって、国家予算を使ってでも、支援するように強く要請してくるのだ。

 たとえ、リース王国の中央の権力を握っているラーンドル一派であっても、レグニエドに同調されてしまえば、ラーンドル一派でもかなりダメージを受けることになり、他の派閥の台頭を許すことになり、ラーンドル一派が失脚することだってあり得る。さらに、今まで、私腹を肥やしてきたので、それがバレるとラーンドル一派全員がピンチになるか、リース王国からの追放、逮捕されたりすることもある。そのような結果になりたくない以上、最大限に、ラーンドル一派にとって邪魔者は確実に排除するのだ。

 そして、今、その邪魔者を排除する機会が、ラーンドル一派に訪れているのだ。その機会を利用しないということは有り得ない。目の前にチャンスがあるのなら、やるべきだ。失敗することを考えても意味がないのだから―…。

 と、そこで、見張りに集中していたヒルバスがニナエルマとランシュ、ラウナウが会話しているのが気になって会話に加わるのだった。

 「私も疑問に感じています。」

と、ヒルバスは言う。

 ヒルバスとしても、アルデルダ領の中に入って戦うことができないことに、疑問を感じていたのだ。ここに四人全員が思っていることになる。

 そして、ヒルバスの声を聞いたニナエルマは、

 「ヒルバス君か、天才だと聞きました。では、私が聞いて、推測できることを話しましょう。ただし、推測なので、公式な見解にされると困りますが―…。」

と、ヒルバスにも話かける。

 ヒルバスが加わることは、間違ったことではないとニナエルマは判断した。なぜなら、ヒルバスは、天才と称されるほどに、頭も良く、騎士としての戦いもでき、事務仕事も上手い。ゆえに、ニナエルマとしても、騎士だけじゃなく、ある程度歳を得て、体の方が衰えたのなら、行政職などに鞍替えすることができるだろうし、ラーンドル一派より確実にリース王国にとって良き政策を実行することができるからだ。

 まあ、だからこそ、改めて言う必要のないことであるが、ニナエルマがこれから言おうとしていることは、あくまでも推測の域を出るというものではない以上、確実に当たっているわけではないのだ。ゆえに、外れる可能性をしっかりと示しておく必要がある。

 そして、ニナエルマは、話し続ける。

 「今回のミラング共和国のアルデルダ領への侵入は、アルデルダ領で外国の商人に対して課された関税の過剰な増税が原因です。これは、リース王国の中央で権力を握っているラーンドル一派とアルデルダ領の領主エルゲルダの結託によるもので、外国の商人に対して高額な税を課し、そこから得られる収入で、エルゲルダの懐に入っていた税収の減少分を補おうとしたみたいです。外国の商人はアルデルダ領から手を引けばいいのですが、ミラング共和国の中の対外強硬派が昨今の軍備縮小の世論をなくさせるために、リース王国のアルデルダ領の税問題を引き合いに出兵を強行させたようです。ミラング共和国には、このアルデルダ領への出兵のために、大量の嘘情報をばら撒いて、住民を煽動していたそうです。」

 そう、エルゲルダが課した通過税の創設と、商品税の増税のことである。

 そして、ニナエルマの言っていることは概ね正しく、ここまで良く正確に情報を収集し、分析したものだと思える。ニナエルマが対外交渉を任されるのも頷ける。適材適所というものか。

 一方で、ニナエルマの話を聞いたラウナウは、ニナエルマの言っていることに納得する面があった。

 そのニナエルマの言っていることに確実性を持たせるために、

 「ああ、確か、俺の実家もミラング共和国には商売で言っているから、そのような話を聞いたことがある。ミラング共和国は、その対外強硬派が二カ月前に、実権を掌握してから、軍事費の増額へと動いているようだ。国民の一部のなかにも軍事費増額に反対しているようであるが、最近はその話も聞かない。兵器の開発もしていて、社会保障の方が疎かになっていて、一般住民の窮乏化が始まって、貧困状態になるものが増加しているが、対外強硬派がそれを隠しているようだ。隠しきれていないが―…。まあ、窮乏化は、エルゲルダの馬鹿政策をした時から始まっているようだし、そこばかりをクローズアップさせている。まあ、事実だから否定はできないが―…。ミラング共和国が勝ったとしても、社会保障費を疎かにしている奴らが、元の状態に戻るとは思えないが―…。」

と、付け加えるように言う。

 ラウナウは、商売関係の家の出身であり、実家に顔を出すと、商売に関する話を聞いたり、最近の対外情報を聞いていたりした。

 なぜなら、商売は情報が命であり、跡継ぎになる可能性のあるラウナウは、このように騎士として戦う上でも、情報の一つで勝敗を分けることになるということはわかっている。ゆえに、情報の確実性を騎士団内で共有することは何も間違っていないどころか、しっかりとしておくべきことだと認識している。

 この話の途中、ランシュは、

 (リース王国も王国だけど、ミラング共和国も共和国だな。自分たちが守れるための戦力は必要だが、必要のない戦力を持つのは国の寿命を縮めるだけだ。遠征ばかりして、国庫を空にしてしまった王様の死後に、大きな混乱を呼んで国を衰退させることがあるのだから―…。)

と、心の中で言う。

 ランシュとしても、周辺諸国の歴史については、勉強している。途中であるが、戦争に関しては、間接的に関わっている方が儲かるが、当事者になることは、決して、得になるとは限らないし、建物や耕作地に被害が出たり、人々の甚大な被害がもたらされれば、復興のために、かなりの金銭を消費し、返って、そのせいで国力を弱らせてしまうことがある。その例を何例か見ている。具体的なことまで触れる必要はないだろう。現実世界でも同じように存在するものであろうから―…。

 (愚かな国ですね、ミラング共和国、対外強硬派は―…。)

と、ヒルバスも心の中で、ミラング共和国の対外強硬派に関して、あまり良い印象を抱けなかった。

 確かに、今回のことはリース王国の方に非があるのは事実だし、そのことは認めないといけない。だけど、同時に、そうであったとしても、ミラング共和国を戦争に駆り立てるのは良いことだとは思えない。なぜなら、戦争によって勝つとは限らないし、今回なら、周辺諸国を味方に付けることは可能であり、そこからの圧力をリース王国にかけることで、対処できる可能性が存在しただろうに―…。

 いくらリース王国が、この地域で、実力のある国家だとしても、完全というわけではなく、いくつかの弱点を抱えているのは事実であるし、そこをしっかりと付けば良いのだ。別に、戦争という手段を用いなくても良かったはずだ。

 まあ、実際、人はある一定の時間内で考えられる限りの選択肢の中から選ばないといけないという意思決定を必要としている以上、さっきのような答えに辿り着ける可能性が存在しているとは限らない。当事者だから見えないというものも存在する。まだ、それにヒルバスは気づいていないようであるが―…。

 「住民も窮乏化していることと、貧困という社会問題のせいで、視野が狭くなり、そのはけ口をアルデルダ領に向けています。そのように対外強硬派が誘導しているのですが―…。まあ、見事に成功し、ミラング共和国は、国民共々、アルデルダ領への侵入を大手を振って、歓迎しています。そのせいで、リース王国を拠点に内陸貿易をしている商人が肩身の狭い思いをしています。本当に、両国の政治をおこなっている人々に対して、呆れてものが言えません。トップを真面な人物に交代して欲しいものです。そして、リース王国のラーンドル一派としては、このミラング共和国の遠征は寝耳に水ですが―…、好機だと思っているようです。そう、貧しく、税が集まらないアルデルダ領を見捨てるということです。そのために、我々リース王国騎士団の敗北を狙っているかもしれません。最後の方は私個人の推測でしかありませんが―…。」

と、ニナエルマは言う。

 最後の方は、ニナエルマの推測でしかないと言っているが、ラーンドル一派の腹積もりを理解していないからこそ、推測ということになるが、正確にラーンドル一派の考えていることを理解している。実際に―…。

 そして、同時に、ニナエルマは、アルデルダ領の領主エルゲルダを守ろうとする気持ちはない。アルデルダ領の住民を守る気はあったとしても、今の自分ではどうしようもできないことはわかっている。今回の戦いの指揮は、ラーンドル一派の人間が握っているのだから―…。

 一方、ランシュは、

 (俺は一応、アルデルダ領の出身ということになる。アルデルダ領の領主エルゲルダは嫌いだし、復讐の対象の一人だ。俺の生まれ育った町を燃やし、住民を殺したのだから―…。だけど、俺が生まれ育った町が、他の国の領土になるのは好きになれそうにない。それでも、俺は今のところは―…。)

と、心の中で思っていると、ラウナウがランシュの何かを察したのか言い始める。

 「ランシュ、どんな悔しくても動くなよ。お前の武器は、このようなしょうもない場で引き抜くものではないのだからな!!」

と。

 ランシュの心の中で思っていることはわからないが、あることはわかっている。ランシュが、何か気持ちを昂らせて、アルデルダ領を守ろうとしていることを―…。エルゲルダを守りたいとは思っていないだろうが、住民の方は―…。

 まるで、そこが故郷であるかのように―…。

 まあ、ラウナウは、

 (ランシュの感情の高ぶり、アルデルダ領に何か関係があるのか。教えてと言っても、教えてもらえるわけではないだろう。それよりも、今は、目の前のことだな。ランシュを暴走させないように牽制だな。)

と、心の中で思う。

 ランシュも気づいている。ラウナウはランシュを牽制していることを―…。

 ランシュは、自身がアルデルダ領を守るようにしながら、すぐにでもエルゲルダへと復讐しようとしていることを―…。あの日、クルバト町の虐殺を思い出しながら、無意識にこのような自らの故郷の人々を苦しませているエルゲルダという残虐で、暴虐な領主をこの手で、今すぐにも殺したいと―…。

 だけど、理性でランシュは、その気持ちを抑える。今は駄目だと―…。感情だけで、行動してはいけないと―…。

 一方で、ヒルバスは、ランシュの感情の高ぶりで、暴走しないように、警戒するのだった。

番外編 ミラング共和国滅亡物語(16)~序章 アルデルダ領獲得戦(16)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では―…。

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