番外編 ミラング共和国滅亡物語(14)~序章 アルデルダ領獲得戦(14)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿中。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、十数年前、ミラング共和国とリース王国の戦争が始まろうとしている中、リースの城の中に当時のラーンドル商会およびラーンドル一派のトップがリース王国の宰相と話を交わすのだった。一方で、リーンウルネの方は、とある人物を自らの執務室へと呼び寄せるのだった。その人物とは―…。
遠征を開始した後、リース王国の兵士の方も遠征を開始した。
その様子を一人の人物が城から見ているのだった。
(…………どうにか、愚か者たちのために、未来のある者が死なないといけないというのは、どうも心が痛むの~う。)
と、悲しそうな表情をしながら、リーンウルネは思う。
権力を握り、それを把握するということは、時に、心苦しい選択しなければならないことはあるだろう。だけど、それを認めた上で、さもそれを正当化して、自分は悪くないと思うのは間違っている。
そういう奴らは、犠牲というものが自分に及ばず、自らの利益だけしか考えておらず、仕方ない犠牲と考えながら、積極的におこなっているだけだ。犠牲を要さなくてもよいことにまで、犠牲を膨らませようとして―…。
リーンウルネは、犠牲を出すことに対して、正当化する気はない。そこは、自らの至らない部分であることは間違いないし、自らの失態という認識である。完璧ばかりを求めることは大切なことだが、そればかりだと気が滅入るし、余計なプレッシャーで、返って、ミスをしたりする可能性が存在する。
良い結果をもたらさなければ、過程自体が完全に無意味になるとは限らないが、望んでいない結果というだけに悔しい思いをするし、やるせない気持ちにもなる。
人生とは、簡単に普遍的に思っていることに対する不変性があることはないのだから―…。
そして、今日は、ある人物をリーンウルネの自らの執務室に招いていた。
このリース王国の兵士の出陣というものを見せるために―…。
そう、リーンウルネは、城の中におけるリーンウルネの執務室から今のリース王国の兵士の出陣を見ていることになる。ガラスの窓から―…。
そして、この部屋には、リーンウルネのお付きの人が二人おり、招いた客人がリーンウルネの暗殺を狙う刺客であったとしても、それを防ぐぐらいは可能であるし、リーンウルネ自身が天成獣の宿っている武器を持っており、守りに特化していることから、万が一ということ自体は存在しないのだが―…。一応、形だけでも見せておく必要はある。形で初めてわかる人間がいるのだから―…。
「さて、見ていただいたがの~う。今回のリース王国とミラング共和国の戦争はどういう結果になると思うか、フィーマル=ファウンデーション。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネとしては、自らがリース王国とミラング共和国における戦争がどういう結末になるかは予想できる。そして、ミラング共和国とリース王国で、どのようなことが起こるのかも―…。
ゆえに、フィーマルがどこまで読んでいるのか、あえて聞くのであった。
ここで、説明を加えないといけない。
フィーマルは、ミラング共和国から穏健派が対外強硬派に選挙で敗れ、命からがらリース王国側へと逃げ出してきたのだ。この時、アルデルダ領を領主に気づかれないように通り、通過税を支払わずに抜け、リースという都市の近くで、リーンウルネの派閥に属している私的部隊に保護され、その後、ラーンドル一派も知らないリースのとある場所に家族ともども、匿われているのである。
フィーマルの身はリース王国におけるラーンドル一派も利用価値があるとして狙っており、リーンウルネ側としてはラーンドル一派よりも早く保護しておく必要があったし、奪われるわけにはいかなかった。
リーンウルネ側としては、利用価値というものはそこまで高くはないが、いろいろとミラング共和国の内情について情報を探っておく必要があるため、保護するし、ラーンドル一派を有利にしないためにも、と言った感じだ。
そして、リーンウルネの今の言葉に対して、フィーマルは考えるのだった。
(ここで、リーンウルネ王妃が求めている解答は、ミラング共和国の勝利というものではないはずだ。リース王国の勝利だ。だけど、この王妃は油断ならないというか、こちらの考えを読んでくる。というか、そのように思わせる視線を向けてくる。さて、話を戻せば、今回のミラング共和国とリース王国の戦争、リース王国は勝利しに行く気はないはずだ。アルデルダ領はすでにリース王国の中で完全にお荷物であり、ラーンドル一派も放したがっていた。あるだけで、迷惑だし、リーンウルネ王妃もそう思っているにすぎない。………嘘を言うことは可能だが、絶対に成功しない。ここは、正直に言うしかない。)
と、フィーマルは意を決して言うのだった。
「今回のミラング共和国とリース王国の戦争は、リーンウルネ王妃にとっては申し訳ございませんが、リース王国の勝利はないと思います。」
と、フィーマルは言う。
その言葉を聞いたリーンウルネは、フィーマルに自らの心中を見せないようにしながら、心の中で「そうか」という感じで頷き、
「どうしてそう思うのじゃ?」
と、その理由を聞こうとする。
「それは―…、リース王国がアルデルダ領はあるだけで、リース王国の財政の足を引っ張るほどに産業に乏しく、さらに、治安も悪化していることから、ここで、アルデルダ領をミラング共和国から守ったとしても、今後の不利益を考えるなら、ミラング共和国に勝利してもらって、ミラング共和国にアルデルダ領を押し付けた方が後々、リース王国としては得だと考えます。アルデルダ領以外の他国の領土には、アルデルダ領以上の生産性に富んだ地域はたくさんあるので、そちらを征服した方がリース王国にとって、得が多いのは確か―…。そして、今回、ミラング共和国の勝利は、体制側の強化と同時に、国民からの指示に繋がるでしょう。だけど、増税などの政策を解除する可能性は低く、これは、戦時における負債と手に入れる可能性のあるアルデルダ領の復興に要するからであり、その費用を賄うためにしばらく続け、一部の金は体制側の強化のために使われ続けるだけでしょう。政治というものは、とにかく金がかかりますから―…。そして、ミラング共和国における国民の不満増大はあるが、戦争に勝利したということもあり、軍隊を怖れ、大人しくなるでしょう。さらに、リース王国では、敗戦のため、ラーンドル一派、いや、今回の指揮もしくは今回の計画を立案した者はかなりの厳重な処罰を受けると思います。リーンウルネ王妃の派閥もただ事では済まない可能性があるのは確かです。その後は、リース王国の側はアルデルダ領のこれまでに支払わないといけなかった支出がなくなるので、貿易投資および他国との戦争による領土獲得のための資金に使うことができて、リース王国側にとっては万々歳という結果でしょう。以上が、私の見立てですが、それでよろしいでしょうか。」
と、フィーマルは言い終える。
彼にとって、今回のミラング共和国とリース王国における戦争に対して、情報を収集していたり、推測ということになるが、このような結末になることは自信をもって言うことができる。
一方で、リーンウルネはこの話を聞いて、ある程度は納得できる解答であった。
(……穏健派の後継者とされていたことはあるの~う。シュバリアの目利きはそこまで悪いというわけではない。だけど、大まかなところは合っているだろうが、大事な面というものを見落としている。)
同時に、心の中でフィーマルにないものを理解するのだった。
「フィーマル、お主の言っていることは大まかには合っておるの~う。じゃけど、重要なところを見落としている。」
と、リーンウルネは話し始める。
リーンウルネの言葉に、フィーマルは安心という感じもありながらも、同時に、見落としているという点がすごく気になり始めるのだった。
なぜなら、見立ては大まかで合っているのなら、見落としている点に関して、指摘する必要はほとんどないが、重要なところを見落としているというリーンウルネの言葉に、フィーマルは、大事なところを言う理由がわからなかったので、深く考え込まされるのだった。
(……………?)
と、フィーマルは心の中でも結論は出てこないようだ。
リーンウルネは質問する。
「お主、ミラング共和国の中でも、政治家を代々輩出してきた家の出身じゃったな。なら、小さい頃はどんな遊びをした、誰と?」
「?」
リーンウルネの質問に対して、リーンウルネの意図をフィーマルは読み取ることができずに、疑問に思うのだったが、ここで嘘を付いても意味はないだろうと思い、素直に答える。
「小さい頃は、家の執事やメイドたちに遊んでもったり、ディマンドとも遊んでいた。それに、執事やメイドの子どもたちとも―…。」
「なら、お主が有利になるようなことはあったかの~う。」
「……………確かに、ディマンドがいる時は違いますが、いつもそんな感じです。それが何か?」
フィーマルには理解できない。当たり前と思っていることに関して、疑うためには別の視点というか常識というものが必要になるからだ。
リーンウルネは何となく、フィーマルの幼少期がどのような感じなのかを大まかに予想する。だからこそ、言える。
「そういうことか。フィーマル、お主、何もミラング共和国に住んでいる者の本当の気持ちを分からず、育ったのじゃの~う。ゆえに、自らの部下や役人から上がってくる情報だけで、ミラング共和国というものを見ておったのじゃ。だからこそ、お主の言葉には国民という言葉が簡単に出てくるが、一人一人のミラング共和国に住んでいる人々の顔が浮かんでこないのじゃろう。違うか?」
と、リーンウルネは指摘する。
フィーマルというのは、優秀な人間であることは事実であろうが、重要な欠点を孕んでいるということである。
その欠点とは、温室育ちで、あまり家の外に出て、ミラング共和国に住んでいる人々ととか、中小規模の商人や職人とかに会ったことがないのだろう。会ったとしても、公務ということだけでしかなく、やりましたという演出のためだけに会っており、その気になっていただけである。
ミラング共和国の国民に関する情報は、自らの部下と役人たちから上げられるものだけなのだろう。要は、実情を目で直接見ているわけではない。
リーンウルネはすぐに、フィーマルの言葉から判断することができた。国民というか、フィーマルには政治関連での知り合いはいても、それ以外に知り合いも、実情を細かく知るための見分という経験がないのだろう。推測の域を出ないが、何に苦しんでいるのか字面の理解に留まっていて、彼らの本音というものに接していないということだ。
「だけど、私は、ミラング共和国の公務で―…。」
「公務だけで、何をお主は自らの生まれた国のことを知った気になっておる。儂だって、リース王国のすべてを把握できておらぬし、これから将来、現実上、リース王国を完全に把握なんてできないと思うておる。お主の今思っていることは、ただの傲慢であり、偉ぶっただけの自己顕示欲の意思表示でしかないの~う。それでも、儂は、リース王国の公務だけでなく、住んでいる者、商売している者、すべての者の本音と、同時に、彼らを破滅へと導く者に対して、彼らでは対処できない時に対して、儂は救いの手を差し伸べるぐらいの傲慢はしてみたいと思っておる。」
リーンウルネは、フィーマルの言葉を途中で遮って言い始める。だって、フィーマルが言いたいことはすでに理解できているのだから―…。公務でいくら国民との接触を持とうとも、それは、作られた様式というものを抜けきれないのだ。アピールでしかない。本音を聞くことはかなり難しいことだ。
人々の本音というものは、決して、政治だけに関わっている人間には、見えにくいものであり、利権を牛耳る者たちや組織が見せないようにするからだ。利権を牛耳る者たちや組織にとって、都合の良いことにしか見せないのは、彼らの利というものをより多くしたいからだ。それが行き過ぎれば、彼ら自身の首を自らで締める結果にしかならないが―…。
(自分で傲慢とか言いますか。)
と、フィーマルは訝しそうにリーンウルネを見る。
「はあ~、では、私の重要な欠点を指摘して、何が言いたいのですか?」
と、フィーマルは、リーンウルネの本音というものがわからなくなった。
なぜなら、このようなことを指摘したとしても、何かが解決されるわけではないからだ。現に、ミラング共和国とリース王国の戦争を止められるわけでもないし、ミラング共和国の勝利を変えられることはない。
「言いたいことか。儂は、ミラング共和国の怒りの原因は、リース王国にあるのは事実じゃ。エルゲルダという馬鹿を超えた危険な領主が支配し、人々がエルゲルダに逆らえないようにしておるし、逆らう者は殺し、エルゲルダの要求や命令に拒むということはできないようにしておる。そして、政策は恣意的であり、かつ、自らの利権しか考えないものばかりじゃ。さらに、愚か者であり、教養もなく、視野が狭く、自らを本当の意味で苦しめることになる意見にしか耳を傾けない。こんな者のために、アルデルダ領の住民は生活を脅かされ、命の危険に晒されている。儂も王には言っておるが、聞く耳を持ってもらえないがの~う。必要な時に、必要な影響力がないのは何とも空しいものじゃ。じゃからこそ、今回の戦争で、儂がラーンドル一派に一切介入しないのはの~う、アルデルダ領の住民が今回のリース王国とミラング共和国との戦争で、エルゲルダが葬られて、解放されることじゃ。じゃから、お主には、ミラング共和国の対外強硬派だったか、そいつらを破って、再度、実権を掌握して欲しい。かなり至難の業じゃがの~う。ミラング共和国でトップになるのなら―…。」
と、リーンウルネが言いかけたところで、フィーマルが反論する。
「逃げるだけでギリギリだった。それに、私はミラング共和国のシエルマスに対抗できるほどの実力はない。リーンウルネ王妃は、シエルマスのことを侮っている。あいつらの情報網と謀略への能力がそこら辺の裏の人間を遥かにしのぐものだ。シエルマスの統領ラウナンは頭のキレる男で、私のような存在を殺すことは簡単なことだ。それに、ラウナンは対外強硬派についている。」
フィーマルは、ミラング共和国の本当の意味で恐ろしいのは、シュバリテではなくラウナンということはわかっている。彼ほどに頭がキレ、自らの野望に満ちた存在を知らない。
そいつがシエルマスのトップであり、今回、フィーマルが逃げられたのも偶然の賜物である。ゆえに、シエルマスのトップと対峙しても、フィーマルが暗殺などで殺されるだけであり、何も目的を達成できないのは確かだ。まあ、未来のことなので、確実というのはおかしなことであるが―…。
「そうかの~う。儂は、ラウナンは確かに頭のキレそうな男じゃが、昔、パーティーの中にいたグルゼンの方がよっぽど、恐ろしく、かつ、真の強さを持ち合わせた人間に見えたがの~う。」
と、リーンウルネは思い出しながら言う。
ラウナンは過去にパーティーに表立って参加しており、その時は、諜報謀略関係ではなく、一高級役人のフリをしていたが、リーンウルネにとっては何か胡散臭く、野望だらけのように感じられた。
一方で、同じパーティーに参加していたグルゼンは、面倒くさそうにしていたが、体がしっかりとしていただけでなく、受け答えもしっかりとしており、目から、何か人を見透かすような感じがあった。まるで、自らの本当の主人を探しているのではないかと、思えるぐらいの―…。
ゆえに、ラウナンよりもグルゼンのような人間の方が恐ろしく、ミラング共和国側の立場であれば、対外強硬派、穏健派には属さず、グルゼンをトップに担ぎ出していた。こういう対外危機の時は―…。
「グルゼン将軍ですか。彼は、我々とも、対外強硬派とも距離を置いており、かつ、もう、ミラング共和国軍を辞めることになっています。そんな人が恐ろしいなんて―…。」
と、フィーマルは言う。
グルゼンは、素晴らしい将軍であることに変わらないが、政治の局面で役に立つとは思えない。政治と軍事は違うのだから―…。そのように、フィーマルはグルゼンを評価しているし、その評価がリーンウルネに何かを言われたとしても、変わるわけではない。
「そうか、お主はまだまだじゃの~う。これ以上、話してもお互いの話は平行線で終わるじゃろう。じゃから、お主のことはこれからも保護するし、家族を含めて守ることにするが、お主自身ももう一回、自らというものと世の流れというものを見直してみた方が良いの~う。」
と、リーンウルネは言う。
ここで、リーンウルネとフィーマルの会話は終わり、フィーマルは城から馬車に乗って、保護されている家へと送られるのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(15)~序章 アルデルダ領獲得戦(15)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回に関しては、文字数が1万を超えており、長くなる予定です。すでに、見直すだけとなっておりますが、これは、第128話の内容を第三者視点で入れたがためです。その前にも入れているのですが―…。
現在、執筆状況は、やっと、グルゼンとランシュが対峙する時の戦いが開始されたという感じであり、かつ、グルゼンとランシュの戦闘描写に関しては、最終章の方でしっかりと書くと思います。すでにネームは仕上がっています。
ネームの方は、最終章の中で盛り上がりが出るところの感じです。ベルグの腹心達VS瑠璃らという感じで―…。「ら」に関しては、まあ、いろいろとネタバレになってしまうので自重します。
そして、再度、言っておきますが、次回の投稿する部分は、1万字超えのものとなる予定です。ほぼ確実だと思います。
では―…。