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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
354/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(8)~序章 アルデルダ領獲得戦(8)~

『水晶』以外に、以下の作品を投稿中。


『ウィザーズ コンダクター』(カクヨムのみ):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138

『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。

前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国内では、リース王国のアルデルダ領での商品税の増税と通過税の新設によって、穏健派が対外強硬派に追い詰められて、リース王国との戦争をおこなう法律が可決され、それに対して、シュバリアが議会を解散するのだった。

結果は―…。

 一か月後。

 ミラング共和国の議員を選出するための選挙は終わった。

 結果は日の目を見るより明らかだった。

 シュバリアが住んでいる公邸。

 その中で、シュバリアは絶望の眼をしていた。

 「……………どうしてだ―…。どうして、私が負けたんだ。」

と、シュバリアは、心ここに在らずの状態になっていた。

 そう、穏健派はミラング共和国の議員選挙に完全に敗北したのだ。三分の一にも届かず。

 理由は、シュバリアが予想した以上に、ミラング共和国の国民の不満は溜まっており、シュバリアの穏健派では解決できないだろうと思い、別の勢力に自らの生活などの運命をかけたのだ。

 「父さん…。負けたのは仕方ありません。だけど、気をしっかりしてください。」

と、シュバリアの息子が、シュバリアを心配して、声をかける。

 だけど、反応すらできないほどだった。

 (……これは、もう―…。)

と、シュバリアの息子は、シュバリアはもう駄目だと思うのだった。

 シュバリアの息子は、自らの父親の頭の良さ、賢さを知っており、何でもできるものだと思っていたが、今回の選挙でも上手く立ち回り、対処できると思っていたが、結局、駄目だった。これがシュバリアの大きな挫折であり、優秀すぎたせいで、挫折する経験がなく、この歳での挫折が初めてであったため、かなりショックを受けているようだ。気力が湧くことは二度とないのかも、と思いながら―…。

 その様子をたまたま来ていた女性が見ていた。

 「ミールザ様。シュバリア様は優秀な方です。だけど、優秀すぎるがゆえに挫折した時の回復の仕方を知らなかったのです。もう政治家としては―…。」

と、女性は言う。

 女性の方はまだ若く、十代も中盤に差し掛かる辺りであり、すでに、ミラング共和国において受けられる教育のすべてを終えており、世間では軍人の幹部候補生とまで目されている。

 (………これはかなり最悪なことになっています。私は、シュバリア様から貰った天成獣の宿っている武器があり、それで何とか対外強硬派のゴロツキたちには対処できるでしょう。目立たないように―…。たぶん、このままだと、ミールザ様も命を狙われる可能性が高い。すでに、軍部の上級職の人間の何人かが行方不明になっている。いや、シエルマスに殺されたと思った方が良い。ラウナンは対外強硬派と関係があるようだし、ファルケンシュタイロが軍部大臣に就任するという話も出てきている。)

と、女性は、その後の言葉を紡ぐことはせず、心の中で、今の状況を考える。

 最悪と言って良い。

 だけど、これはどうしようもできないほどの最悪の状態だった。

 誰かが自らの命を賭して、対外強硬派、荒れ狂う国民を止めないといけなかった。その方法が、決して、許されるようなものではないことだとしても―…。

 それぐらいの緊急事態になっているのだ。

 ルールというものが時に、事態を最悪の方向へと傾けることだってある。だけど、ルールは誰もが生きるために、必要なものであることには変わりない。それに、ルールがあることにより、どうすることが良いのか悪いのかを判断することができる参考を手に入れることができる。社会的慣習もそのようなものだ。

 だけど、ルールの善悪は存在するが、善悪というものが主観的なものである以上、そこには何かしらの善悪の価値観というものが持ち込まれるし、そのルールを定めた者たちにとって都合が良いという善悪になることは避けられない。

 さらに、環境の変化によって、優位であった存在が、同じルールのままに劣勢になることがある。それぐらいの変化が存在する以上、ルールも完全ではないということになる。

 人という存在が完璧になるが完全にできない以上、人が定めるルールが完璧であることがないし、そのようになることはできない。

 だからこそ、ルールは人たちの手によって、変更が加えられていくのである。そう、自らの都合の良い方向が時代によって、変化していくのだから―…。

 だからこそ、穏健派が生き残るためには、ミラング共和国の将来の繁栄に繋ぐためには、緊急事態を理解し、ルールに囚われない行動が必要だったのだ。

 だけど、ルールの変更を上手くおこなうのは、そんな簡単なことではないと理解しているから、シュバリアが国のルールの前に、何もできなかったということをその女性は理解していた。

 そして、ルール変更のための既成事実を作ろうとして、その女性を無理矢理軍部の幹部候補生にしたのだから―…。

 しばらく間があくことになったが、それでも、その女性の言葉に対して、返事をする。

 「わかっている、イルターシャ。父がもう政治家として活動できることが不可能であることを―…。私は、父よりも優れて、優秀ではないし、シュバリテら対外強硬派に対抗できるわけではない。亡命する。お前はどうする。」

と、ミールザは言う。

 そう、シュバリアは一人の息子がおり、今、この場にいるミールザである。

 シュバリアの妻は、数年前に病気で亡くなっており、父とお手伝い一人、息子のミールザが公邸で暮らしていた。

 そして、公邸は、シュバリテの物になることは確かなのだ。だからこそ、荷物を纏めて出て行かないといけない。だけど、そのようなことを許してもらえるわけがない。見せしめに一族郎党、殺してくるのはわかっている。

 「私は、ミラング共和国に残りますよ。だけど、私の持っている武器は盗まれないようにしますし、すでに、軍部とシエルマスの全員に幻をかけて、私を抱くべきではない女だというふうに認識させています。安心してください。」

と、イルターシャは言う。

 ちなみに、シエルマスが監視できないように、幻をかけているし、シエルマスの統領ラウナンであっても、今、現時点のイルターシャを暗殺することはできない。ラウナンも天成獣の宿っている武器を扱うことができるが、才能というか、扱い方の差で決定的に差が広がっているのだ。生の属性の中に存在する幻を無効にすることができる希少種や、イルターシャよりも強い者たちを除いて、イルターシャを暗殺することはできないということだ。

 「そうか、安心した。後はお手伝いのマルさんに言ったら、私はこの国を出て行く。」

と、ミールザは言う。

 (父さん、ごめんなさい。)

と、心の中で申し訳なく思いながら―…。

 ミールザは、父の行動を非難する資格はないと思っているし、自分の命を守るために、父であるシュバリアを見捨てるのだから―…。酷い息子だと、思いながら―…。

 そして、ミールザは、逃げている時にシエルマスに遭遇してしまえば、命はないので、荷物を軽くし、素早く国境の外に出られるように、すぐにでも行動するのだった。

 「さようなら、イルターシャ、あなたの無事を遠くから祈っているよ。」

 「ええ、ミールザ様も、ご無事に長生きしてください。」

 こうして、ミールザは、お手伝いのマルさんに会い、その後、ミラング共和国の外に亡命するのだった。その時、シエルマスは追ってこなかったのか、何とか上手く、国境の外に出られるのだった。

 だけど、実際にはシエルマスが追ってきており、それを、イルターシャが撃退することによって、ミールザの国外脱出をサポートしていたのだ。ミールザに黙って―…。


 一方、総統執務室。

 そこには、ミラング共和国の政権を奪取した男がいた。

 「シュバリアに、ついに勝ったのだ。」

と、シュバリテは今日、最大の大きな声を出す。

 これは、ずっと、何もかもで勝てなかったシュバリアに、ついに、勝利することができたので、長年の夢が叶い、その思いが溢れてしまったのだ。

 むしろ、シュバリアには叶わないと思って、諦めたとしても攻められることはないほどの期間、シュバリア打倒のために頑張ってきたのだから、その執念というものは半端なものではないことがわかる。

 「おめでとうございます、シュバリテ様。さて、穏健派がこのまま黙っているとは思えません。どうしますか?」

と、シュバリテの後ろに、平伏すように、ラウナンが姿を現わすのだった。

 (気味が悪いなぁ~。急に、そういうことは止めて欲しいが、こいつが有能なのは確かだ。)

と、シュバリアは心の中で、そのように思いながらも、顔に出すことはなく、ラウナンのいる方向に体が正面になるように向ける。

 向け終えると、ラウナンに視線を合わせ、命じる。

 「決まっている。穏健派で主要を成している者たちを始末しろ。そして、それ以外は、不遇の扱いとして、儂に多額の献金を支払った者たちのみ、不遇の扱いから解除する。これから、運営していくのにも、金が今よりももっと、必要になるのだからな。」

と、シュバリテは言う。

 シュバリテは、自らの活動のためには資金というものが必要であると理解しているというか、常識だと思っている。現実にはそうであるし、それを否定することはできない。

 それに、ミラング共和国の実権を掌握したとしても、すぐに、ミラング共和国の財源を身勝手に使えるわけではない。そのためには、法律を変えたりしていかないといけない。

 さらに、その政治工作のための資金を確保しておく必要があるし、ミラング共和国の議会の議長へと献金をしっかりとしておかないといけない。ああいうのは、金払いさえ良ければ、政策が何であれ、味方になってくれるのだから―…。金に溺れた存在と言った方が正しい。中立性なんてものは、その議長には一切、存在しない。

 そして、シュバリテはそのことを理解し、穏健派の中で主要ではないメンバーからは、金銭の負担で、許すということをしているのだ。元穏健派からは恨みをかうかもしれないが、それでも、資金を確保しなければ、議会工作、そして、リース王国へとフェイズを上手く進めていくことができない。

 穏健派の中でも主要な者たちに関しては、金銭の負担を求めることは返って、危険な選択肢となる。

 なぜなら、穏健派の主要な者たちが一人でも生きていれば、シュバリテにとって寝首をかかれる可能性を与えることになる。穏健派の主要な者たちの一人を担いで、反シュバリテの勢力を形成するかもしれないし、シュバリテが何かの要因で政策ミスをした時、その担がれた者の存在が目立つようになり、シュバリテの体制を簡単に崩壊させていくのだ。

 ゆえに、シュバリテは、自分に敵対する勢力を、二度とシュバリテに対抗できないようにするのだった。

 「畏まりました。すぐに、そのように行動いたしましょう。」

と、ラウナンは言うと、スゥ~と姿を消すのだった。

 その様子を見たシュバリテは、

 (気味が悪く感じるから、普通に消えて欲しい。)

と、心の中で思うのだった。

 そして、シュバリテは、これからのリース王国との戦争に向けて、準備を進めていくのだった。


 公邸。

 ラウナンは、シュバリテの命を受けた後、すぐに、ここに向かった。

 (シュバリアが一番先に逃げる可能性が高い、その一族含めて、殺しておくことが得策。我々、シエルマスに敵など存在するはずがない。ゆえに、我々を敵に回すということが、我々と敵対した者たちの滅亡という末路のみが約束されるのだ。……着いたな。)

と、ラウナンは心の中で思いながらも、慎重に誰かに見つからないように行動する。

 すでに、シエルマスの他のメンバーにもシュバリテの屋敷に向かいながら、副官にシュバリテの命令をしていた。今頃は、他のメンバーにも指令が伝わっており、穏健派は他国に亡命する前に暗殺される結果となるだろう。

 そして、公邸に到着すると、すぐに、公邸の中に入り、シュバリアを探す。

 キッチン、バス、トイレ、寝室、これらにはシュバリアがいなかったがリビングに向かうと―…。

 (見つけた。)

と、ラウナンは見つける。

 そして、今回はあえて、シュバリアにもわかるように、気配を出すのだった。

 「この気配は、ラウナンか。久しぶりだな。お前は勝ったのだから、始末しにきたのか?」

と、シュバリアは、覇気のない感じで言う。

 ミラング共和国の総統時代は、覇気というものを強いというわけではないが、それなり持っており、ミラング共和国の総統とわかるぐらいであったが、そのような面影はない。

 ただ、ただ、絶望した一人の男がいる、という感じにしか感じられない。

 (落ちぶれてしまったな、シュバリア(こいつ)は―…。)

 ラウナンは、シュバリアの姿を見て、かつてのシュバリアというものを連想できないほどであった。だが、殺すべき対象であることを認識することは可能である。

 「ああ、最後にお前の敗因でも説明してやろう。お前は、この俺が頑張って、他国の弱点を探り、攻めるためのアシストを無視したのだ。裏の存在に不満を抱かせることをしたのだ。だから、我々、シエルマスを敵に回してしまった。シエルマスは、ミラング共和国の総統よりも事実上、力を持ち、偉いのだ。ゆえに、お前ら総統どもは、我らシエルマスの言う事を聞き続けないといけない。ミラング共和国の国民どもなど、我々にとってはただの駒にすぎない。我々の誘導には簡単に引っかかってくれるし、それを嬉々として受け入れてくれる。こんな都合の良い存在はない。だからこそ、国民もシエルマスの味方をする。我々に勝てない存在などありはしない。残念だが、シュバリア、お前はここで終わりだ。最後に言い遺したことを言うだけの権利をあげよう。」

と、ラウナンは言う。

 ラウナンは、この終わることが決まっているシュバリアに対して、いくら本性を出したとしても、問題は何も存在しない。それに、シュバリアが殺されることを止められるものなどいるはずがない。

 ゆえに、油断するのだ。その隙を突かれることもないから―…。

 ラウナンは、シュバリアを見下しながら、これまでのシュバリアに対する不満とシュバリアの敗因を言い連ねるのだった。ラウナンが思っていることを―…。

 「そうか、だが、私の人生はここまでだ。もう、選挙で負けたのだから、希望もあったものではない。だけど、シュバリテには伝えておいて欲しい。政治というものは、都合の良いようには成り立っていない。その重みがこれからわかってくるだろう。その重みは、私さえも乗り越えられなかったのだ、シュバリテには余程の覚悟というものがなければ無理だろう。そして、ラウナン。お主のような存在がミラング共和国を滅ぼすのだ。国民という存在を舐めつくしたお前のような腑抜………。」

 「五月蠅い、敗者が!!!」

 ラウナンは、シュバリアのラウナンに対して発した言葉に頭がきたので、持っていた剣でシュバリアの首に目掛けて、斬る動作をしたのだ。

 結果はわかるだろう。シュバリアの生は終わるのだった。

 シュバリアは言葉の最後の「国民という存在を舐めつくしたお前のような腑抜けがな」ということを言えずに、その生涯を閉じることになったのだ。

 そして、それは、ラウナンの怒りによって迎えられた。

 (敗者ごときが私を馬鹿にしていいわけではない。私はミラング共和国の最強の機関であり、その機関の長だ。お前らごときが私に逆らっていいわけがない。………だが、これで、首のすげ替えは完了していくことだろう。私は、新たな玩具を使って、今度こそミラング共和国を最強の国に、いや、私と組織に逆らえないための国家にして、どんどん支配してやる。)

と、ラウナンは心の中で思いながら、シュバリアの遺体を処分するのだった。

 そう、その後、外に出た、ラウナンは公邸を燃やすのだった。証拠隠滅と同時に、シュバリアが自ら火を放ち、自殺したと周囲に思わせることができるために―…。

 その火を見ながら、ラウナンは、

 (始まる、私の時代が―…。)

と、心の中で思いながら―…。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(9)~序章 アルデルダ領獲得戦(9)~

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


さて、最後のシュバリアの言葉が意味するものとは―…。まあ、第129話を見ている人は結末はわかっていると思います。それがどういう経緯なのか、より詳しく、長編みたいな感じになるのですが、わかってくると思います。

では―…。


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