番外編 ルーゼル=ロッヘのその後とある店主の店の再建(6)
『水晶』以外に、以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(カクヨムのみ):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138(第7部完結)
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ルーゼル=ロッヘの後日談、ついに、モートレットン公を追放することに成功するのだった。
デモをしている人々は驚く。
リースの行政関係の重要な地位にいるレラグが頭を下げたのだ。
驚かない方があり得ないことだろう。
人々から見て、支配者とは堂々としているものであり、傲慢であり、謝罪をするということはよっぽどのことがなければしないものだ。
なぜなら、支配に権威やら威信やらが必要だと思っているからだ。それが、一番大切だと思っているのだ。
だけど、それは必要ではあるが、すべてはないということである。
一番必要なものは、住民の信頼と支配する者たちがいかに住民のことを理解し、その利益に供与できるかということだ。ここでの利益とは、本当の、という言葉を付け加えた方が良いだろう。
さらに、住民にとって欲しがっている物であるかどうかも重要になる。
怖いのは、住民を支配者の思い通りにコントロールすることは可能であるが、一方で、彼らの生活を破壊していけば、それは同時に支配者の基盤にも簡単に跳ね返ってくることだ。そのことを理解しないと、騙されたと気づいた住民は、支配者たちに大きな牙を持って、支配者の築き上げた体制を食い殺すこともある。
本当の恐怖を理解しない者は、何もそのことに気づかないのだ。権力という道具が諸刃の剣という性質を持っていることに気づかないのと同じように―…。
そして、ルーゼル=ロッヘでデモをしている住民は、レラグのその態度に、怒りと同時に複雑な気持ちを抱くのだった。
それは、解放されるのか、ということを―…。
だけども、モートレットン公の治世に戻りたいかと思えば、そうではない。
完全に合理的でない、比較が始まる。
(まあ、二年間も放置してしまっている以上、簡単に住民が我々の行動を受け入れられる可能性は低い。人を完全コントロールできないからこそ、多様な判断ができるというものかもしれません。ヒルバスの言う通りの結末になるだろうか?)
と、レラグは心の中で思う。
このルーゼル=ロッヘにおけるモートレットン公の追放の計画者は、ヒルバスである以上、ヒルバスがこの計画におけるシナリオを描いていることになる。
だけど、計画とは自らが思っているように動くことはない。重要な場所とずれても修正が可能な場所を判断しないといけないのだ。人は完璧ではなく、完全でもないのだから―…。
レラグの方もこれ以上、言う言葉を持ち合わせてはいない。
事務的な報告が自身による仕事だと割り切っている。
一方で―…、イルターシャは、
(これは、早めにルーゼル=ロッヘにおけるモートレットン公の追放が受け入れられそうね。だけど、ルーゼル=ロッヘの統治者を私たちの任命した者での統治を受け入れてくれるかは、わからないわね。基盤がない以上、不正なことをすれば、最悪、すぐに別の者に変更しろと要求するか、ルーゼル=ロッヘがリースから独立をするという選択をしかねないわね。かなり難しい仕事になったわよ、レラグの部下は―…。)
と、心の中で思う。
イルターシャとしては、ルーゼル=ロッヘでデモをしている住民の感情を完全に把握することはできない。それでも、大まかなところでは、ルーゼル=ロッヘの、自分達にとって、利益になるための政策を求めていることだけは確かであろう。
だからこそ、ルーゼル=ロッヘに基盤がない、これからルーゼル=ロッヘの統治のために派遣されてくるレラグの部下は、僅かばかりの不正すらできないような状態なのだ。さらに、そのような不正があると疑われてはならないのだ。
ゆえに、イルターシャは難しい仕事になると思うのだった。
実際、レラグの育てた部下は優秀ではあると思うが、この場合の統治はそれでも難しいということに変わりはないのだ。難易度はかなりもので間違いはない。
そして、以後、簡単な説明はあったが、デモは解散されることになった。
あくまでも、信頼ではなく、様子見という感じで―…。
一方、マルガウの店の跡地。
「だけどよ―…、今日、モートレットン公がルーゼル=ロッヘから追放された。」
と、常連客の一人が言う。
マルガウにとっては、驚きではあるが、それで、何か? という感じだ。
現に、何度も、何度も思うが、トリグゲラが逮捕されようが、モートレットン公がルーゼル=ロッヘから追放されようが、マルガウの店が戻ってくるわけではないからだ。
「だけど―…。」
と、マルガウの言う事を妨げるようにして―…、常連客の一人が言う。
「リースの行政なんたらが言っていたんだが、トリグゲラに無理矢理金を貸された者たちは、トリグゲラの差し押さえた事務所の金から分配を受けられるようだし、さらに、マルガウの店なら、確実に再建費用まで出して貰える。そう、言ってた。俺はちゃんとその場で聞いていたからな。」
と、常連客の一人が言う。
そう、この常連客の一人は、今朝のルーゼル=ロッヘの庁舎の周囲でおこなわれたデモに参加していたのだ。トリグゲラが捕まったのを知り、それと繋がっていると知っていたことから人々を動員してデモをおこなったのだ。
このマルガウの店の常連客であり、かつ、元々は公的機関で働いていたのだから―…。その時は、優秀な副官という感じであったが、モートレットン公に反論したかどで、クビにされた経緯をもつ。さらに、その後は、何とか港湾の日雇いの仕事を見つけ、最初は力仕事をしていたが、文書処理やら事務の仕事ができたりしたので、今では、事務でなくてはならない人になっているほどに、信頼されていた。
就職するのには苦労したが、それでも、何とかなっているのだ。
そして、常連客の一人に、マルガウが詰め寄るのだった。
「本当……な………の……………………か。」
と、マルガウは涙を流しながら言う。
その表情は、希望なのか、それはという感じだった。
希望というものを、完全には確信できるものではなかったが、それが本当ならばどれだけのものだろうという期待はある。
だからこそ、希望であって欲しい、希望でなければならないと心の中で強く思ってしまうのだった。
「ああ、本当だ、本当。さっきも言ったが、俺はちゃんと庁舎でのデモの中にいたから、ちゃんと聞いている。」
と、常連客の一人が言う。
その言葉を聞いたマルガウは、心を落ち着けて、表情を綻ばせて―…。
「これで俺の店が――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
と、叫び出すのだった。
周囲の人物が驚くほどに―…。
その中で、一人の女性が現れるのだった。
「あの~、すみません。マルガウさんでしょうか?」
と、マルガウに尋ねてくるのだった。
マルガウはそのことに気づき、視線を女性の方へと向ける。
その視線に女性はすぐに気づき、微笑みを浮かべるのだった。
「私がマルガウだが、何の用だ。店に関しては生憎、トリグゲラの部下ゼルゲルによって、昨日、壊されてしまい、営業なんてできるような状態ではない。来る時は―…。」
と、言いかけたところで―…。
「お店の状況とマルガウさんの表情と、さっきの会話でわかります。私の用事は、ルーゼル=ロッヘのトップモートレットン公が追放されたことと、同時に、私の知っているリースのお偉いさんからの言伝です。」
と、女性は言う。
その言葉にリースのお偉いさんということからラーンドル一派のことを頭に浮かべるが、ラーンドル一派がルーゼル=ロッヘに来て、このような場所で食事をとるとは思えない。
なぜなら、彼らは、噂でしか聞いたことはないが、ルーゼル=ロッヘの最高級の飲食店を貸し切りにして、女性を連れて、どんちゃん騒ぎを起こすのだ。ここでは言えないこともいっぱいしている。実際に、噂ではなく、そうなのだ。
ゆえに、大衆店であるマルガウの店に来て、食事ということがありえなく感じるのだ。
そうなると、リースのお偉いさんということになると、考えられるのは―…。
ふと、マルガウの中で一人の青年が思い浮かぶのだった。
(そうなってくると、ランシュとかいう奴か。いや、あいつの顔は知っているが、一度も見せに来た覚えはないが―…、まさか―…、あいつか? 確か、リースの騎士の格好をしていたし―…。出世でもしたのか?)
その思い浮かべたのは、ヒルバスであった。
ヒルバスが過去にルーゼル=ロッヘに来たことがあるのは言ったが、その時に、このマルガウの店に偶然寄っているのだ。その時に、雰囲気と料理の味が気に入ったのは確かである。
だけど、マルガウがヒルバスが出世したなんてことは思いもしなかったが、ランシュの側に味方して出世したのかと思うのだった。
「我々も二年の間、ルーゼル=ロッヘのことに構うことができず、モートレットン公の悪政を放置してしまったことを申し訳なく思っております。それに、もし、モートレットン公の支配で被害を受けて―…、いや、受けたのであれば、モートレットン公も追放されたので、今度こそちゃんとルーゼル=ロッヘの公的機関からの事業再開のための支援がちゃんと受けられますよ。それに、そのための紹介状を渡します。これを見せれば―…。」
と、女性がヒルバスからの手紙と同時に紹介状を渡そうとしたのだが―…。
「そんなものはいらねぇ~。モートレットンのやつは追放されたのだろ。それに、さっき、俺の近くにいる常連から聞いたが、公的機関が支援してくれるんだろ。なら、一回来ただけの客の紹介状を使ってではなく、俺自身とルーゼル=ロッヘの俺の知り合いに助けてもらうことで、立派に再建してみせる。それに―…、そいつに言っておけ。もしも、申し訳なく思っているのなら、今度、ルーゼル=ロッヘによることがあるのなら、俺の店に顔を出し、飯でも食って行けと―…。」
と、マルガウはきっぱりと言うのだった。
マルガウとしては、その紹介状があればどれだけ楽に店を再建できるかはわかる。それでは、自分はもし大変なことになってしまう、そのお偉いさんの伝手に依存してしまって駄目になるだろう。そんな状況追い込まれれば、プライドをかなぐり捨ててもするだろうが―…。
それでも、ルーゼル=ロッヘは今日、モートレットン公が追放された。それに、このリースのお偉いさんが絡んでいることは勘ではあるが、理解できた。
ゆえに、もう助けられたのに、これ以上助けられるのは癪にあわない。
だからこそ、今度は、別の公的機関および自らの知っている周りの人物の力を借りて、店を再建し、今度はお礼として、お店に来て欲しいのだ。そして、飯を食い、話し合えば良いんだから―…。
一方的に頼る、頼られる関係は良くない結果しか生まない。恩を返し合う仲でないと―…。
「わかりました。そのように伝えておきます。」
と、女性は受け答え、去って行くのだった。
その後、マルガウは公的機関からゼルゲルから無理矢理させられた借金の返済がなくなり、かつ、支援を受けられるようになり、建物崩壊による賠償も支払われることになったのである。
そして、二カ月の時が過ぎた。
今、瑠璃たちがランシュが企画したゲームも続いており、ルーゼル=ロッヘにも情報は流れてきていた。
その中で、二年前に殺された王の娘がアンバイドとチームを組んで戦っていることも―…。
瑠璃たちの存在は、まだあまり有名にはなっていない。
そんな中で―…、
「お~、再開か~。待ちくたびれたぜ。」
と、常連客の一人が言い、店に並んでいた者たちも一斉に声を出して、祝福するのだった。
「ありがとう。ということで、店を再開する。支援してくれてありがとう。今日は、少しだけだけど、サービスしとくよ。」
と、この店の店主マルガウが言う。
そう、マルガウは店を再建することができた。
後は、店を経営して、支援されたお金を税金として納め、さらには、店に来る客に美味しい食事と、癒しの場を提供するだけだ。
マルガウのその後は、ルーゼル=ロッヘで有名な大衆店として数十年の間、経営され、他の町にも知られるようになり、繁盛したとさ。
一方、時を戻し、リース。
ランシュのいる場所。
そこでは―…、
「ヒルバス、あなたが気にしていたルーゼル=ロッヘのモートレットン=クラベリンスキー体制を終わらせたし、後はレラグの部下が上手くやってくれるわ。」
と、イルターシャは言う。
「ありがとう。それと―…。」
ヒルバスは言いかけるので、何を言おうとしているのか、すぐにイルターシャは思い出す。
「あのお店なら大丈夫。店主の人が、あなたの紹介状がなくても店を再建してみせると言っていたわ。それに、ヒルバス、今度、あの店に食事に来いと!! 一応、店主の言伝、しっかり伝えたわ。」
と、イルターシャは言いながら、去って行くのだった。
ヒルバスに報告すべきことはもう終えたのだから―…。
イルターシャからの報告を聞いたヒルバスは、
(………そうですか。私の紹介状はいらないと―…。暇ができるのはしばらくだけかかりそうですね。)
と、心の中で思い、自らのすべき職務をおこなうのだった。
そして、ランシュはその話を聞きながら、
(こいつも、人のことを心配するんだな。)
と、心の中で思いながら、ランシュを弄ってくるので、ヒルバスが心配するという気持ちがあることを忘れてしまうのだ。
そして、これからリースにやってくるであろう瑠璃、李章、礼奈を討伐するためのゲームの最終準備をおこないに競技場へと向かうのだった。
【番外編 ルーゼル=ロッヘのその後とある店主の店の再建 Fin】
次回、もう一本、番外編を投稿します。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
もう一本の番外編は、まだ完成しておらず、20以上のストックはできているのですが、まだ、ランシュとグルゼンの最初の戦いのところまでいけておらず、かなり長いものになると想定できます。
そして、私自身の集中力が完全になくなってしまっており、無理しないために、次の番外編は、一日休んで、2022年12月15日に投稿する予定です。申し訳ございません。
疲れたので、では―…。