番外編 ルーゼル=ロッヘのその後とある店主の店の再建(4)
『水晶』以外にも、以下の作品を投稿中。
『ウィザーズ コンダクター』(カクヨムのみ):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」とカクヨムで投稿中):
(「小説家になろう」);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(「カクヨム」);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
私自身としては、自分なりの表現ができていると思います。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、トリグゲラと裏で繋がっていたモートレットン公は、イルターシャらによって、不正が暴かれるのだった。そして、気絶させられ―…。一方の、ルーゼル=ロッヘの公的機関の職員は―…、さらに、庁舎の外にいる人々は―…。
ルーゼル=ロッヘ。
モートレットン公が庁舎として使っている場所に入り口。
「モートレットンよ、ルーゼル=ロッヘを去れ!!!」
『去れ!!!』
声が響き渡る。
彼らは、ルーゼル=ロッヘのトップであるモートレットン公を追放しようとしていた。
数にして五千人。
立派なデモ行為である。
ルーゼル=ロッヘの人口が十万足らずというところから、その五パーセントぐらいがこのような行為をしていることになる。
ルーゼル=ロッヘに選挙でトップを選ぶという方式があるわけではなく、リースのトップから任命されて派遣されてくるシステムとなっている。そのため、ルーゼル=ロッヘの住民が選ぶということはできない。
ただし、一部のルーゼル=ロッヘの有力者がリースのトップに口利きをすることにして、有力者にとって都合の良い人物を派遣してもらえることは可能だ。
あくまでも、口利きというものができるが、確実にそのようになるわけではない。というか、その判断を下すのがリースのトップ、いや、リースの実権を握っている者もしくはその勢力ということになるので、彼らのどう考えているのかということになる。
そして、ある村では、ランシュの配下であったが、ラーンドル一派へとも繋がっており、表向きはランシュの部下として振舞っていたようだ。さらに、情報を遮断して、ランシュやその部下には都合の良い情報のみが伝わっていたようだ。
その噂に関しては、ここでは関係ない。
そして、ルーゼル=ロッヘの住民が統治に関して不満がある場合は、公的機関に訴えるか、もしくは今のように、人々が集まってデモを起こすのだ。黙ったままでいれば、ルーゼル=ロッヘのトップやその公的機関の好きなようにされてしまうのはわかってしまうのだから―…。
そうさせないように、黙らせるように、普段から、ルーゼル=ロッヘの住民の我慢の無さとデモすることは普段から仕事をしていない者がおこなっているということをオピニオンリーダーを使って広めることに、モートレットン公は周到に進めていた。
口の大きい奴と信頼されていると思われている人物の言葉が、実際の世論には影響力が大きいのだから―…。人々の意見を個人、個人で聞く時間というか暇など存在しないのだから、そのような結果になっても仕方ない。
だけど、忘れてはならないことは、人の意見というものは必ず自らが有利になる意図というのが多くの面で含まれているのだから―…。合理的とされることも、非合理的である時も―…。
ゆえに、自らの意見というか、芯というものを持ちつつも、時に必要とあれば変化させていくという柔軟性を持ち合わせないといけない。人はすべてにおいて、それぞれが完全に同じような思考できるのではないのだから―…。
取り囲むルーゼル=ロッヘの住民は今日の仕事をサボっていることには間違いないが、それでも、トリグゲラによって苦しめられ、彼が逮捕されたのだから、それと繋がっていることが噂で十分に分かっていると思われるルーゼル=ロッヘの現トップであるモートレットン公に視線が向くのは当然の結果である。
モートレットン公から金銭を貰っていたオピニオンリーダーは、このような状況では彼の言葉など意味をなさないし、そのような存在は目の敵の対象になる。
そんな覚悟など、オピニオンリーダーにあるはずもない。美味しい汁を吸うことに夢中になるあまり、周囲が見えなくなってしまっているのだから―…。まあ、このような事態になれば、気づくし、どう取り繕うかを考えないはずはないが、もうすでに遅く、ろくな結末になることがないし、ここで語る必要はない。
話を戻そう。
庁舎を取り囲もうとしている人々は、声を掲げ続ける。
木製のプラカードに、リース周辺で使われている言語で、「モートレットンよ、ルーゼル=ロッヘから去れ」と書かれている。勿論、まだ識字率は、自分の名前を書けるという基準であれば、高いとも言えるが、それ以外の本の文章を読んだり、文字を書いて相手に伝えることを基準とすれば、かなり低いと言わないといけない。
ゆえに、木製のプラカードにその文字を書くことができるのは、かなりの教育を受けている人物が書いたことは間違いないし、このデモに加わっている可能性は高いということがわかる。
そして、訴え続ける。
一方で、この「モートレットよ、ルーゼル=ロッヘを去れ」というデモを目の当たりにした、庁舎で働いている職員、公的機関の職員と言っても良いは、この出来事に動揺するしかなかった。
「おい、これは―…。」
「まずいんじゃないか。ほら、モートレットン公とトリグゲラが繋がっていたことがバレたんじゃないのか。」
「いや、バレるって何も―…。内部文書でしか分からないようになっているし、住民には一切、公開しないようにしていたはず。モートレットン公はそういうところは用心深かったし―…。」
「どうするも何も―…。いや、バレるよ。私たちには聞こえないように噂話している人々がいて、モートレットン公とトリグゲラが繋がっているって―…。ただの噂ですぐに消えてしまうと思っていたけど、消えていないなんて―…。」
これは絶望と言ってもおかしくはないだろう。
公的機関の職員である以上、トップであるモートレットン公の命令は絶対であったし、そうでないと公的機関というものが成り立たなくなるのだ。そうであれば仕方ないと思えなくもないが、それでも、人々を苦しめることに間接的に加担している以上、彼らに同情の余地というのはあまりないだろう。
だけど、彼らも今の状態に対処しないといけないということはわかっている。
だが、だが―…、その対策が思い浮かばない。
「どうする、というか、モートレットン公に指示を仰ぐしかないでしょ。」
「そうよね、というか誰が行く。」
誰もモートレットン公の元へとは行こうとはしなかった。
なぜか?
(モートレットン公は世間では善人であるけど、俺らの失敗に関してはかなり厳しくあたってくるから、嫌なんだよなぁ~。行きたくない、行きたくない。)
(行きたくないなぁ~。誰か行ってくれよ。)
というような感じになっている。
より詳しく言うと、モートレットン公はルーゼル=ロッヘの住民に対して、善人であるように接しているのは事実だ。そうすることで、ルーゼル=ロッヘの住民からモートレットン公自身への信頼というものを獲得して、ルーゼル=ロッヘの基盤を確立して、ルーゼル=ロッヘの交易によって得られる収益を得ようとしているのだから―…。
さらに、最終的にはルーゼル=ロッヘのトップを自らの息子へと世襲させようと考えているのだ。そのための信頼を獲得しておく必要が存在することをモートレットン公は確実に理解していたし、そのようになるために行動し、誘導してきた。誤算など存在しないとモートレットン公が思えるぐらいに―…。
だけど、公的機関の職員への信頼はあまりない。
というか、ルーゼル=ロッヘの統治の内容を知っているがために、あまり信用できる人物だと思われていなかった。公的機関の職員のミスに対して、かなり厳しく、モートレットン公の気分次第では、簡単に職をクビにされることがあるのだ。実際にその例がいくつか存在したのだが―…。
そういうことがわかっているからこそ、今の状態で、モートレットン公のところに行けば、クビにされてもおかしくないし、職をなくして、次の職を探すのは大変なことをオピニオンリーダーが言っている以上、今の職を辞めさせられるわけにはいかない。
そうしているのも、モートレットン公の策であった。職を辞めることによって世間の厳しい現実が存在していることを嘘か本当かわからずとも吹き込むことで、職を辞めないために、モートレットン公に公的機関の職員が従順になることを予期したものである。
ゆえに、こういう危機になると、クビになりたくないと思い行動することができない。
そんななか、一人の人物、公的機関の職員であることは確かである、が向かってきて―…。
「何か一人、新人の奴が部屋の中に入っていったぞ。そいつが今の状況を知らせてくれているかもしれない。モートレットン公に―…。」
そう、モートレットン公の部屋に、最近、ルーゼル=ロッヘの公的機関で働くことになった職員である。その職員は、行政に携わった経験があるのか、すぐに仕事を理解して、即戦力と言ってもいいぐらいに活躍してくれている。
この公的機関にとって、有難い存在なのだ。その存在がいなければ、ルーゼル=ロッヘの統治は回らない可能性すらあった。モートレットン公によってクビにされた人を中心に、ルーゼル=ロッヘの公的機関で働かない方が良いという噂を流して、中々、人が集まらない状況が続き、人材不足に陥っていたのだ。
ゆえに、その新人の仕事がかなりのものであるのは、感謝こそすれ、罵声を浴びせたり、虐めたりすることはない。勿論、新人に仕事を押し付けるということはやっているので、新人の方からは恨まれそうな感じではあるが―…。
「そうか、ならば―…。」
「優秀な人材で惜しいかもしれないが、俺たちがクビにされるよりも、新人の方が次の職を見つけるのは簡単であろう。」
(すまねぇ~。だけど、俺には妻と子どもがいるからクビになるわけにはいかないんだ。)
(………クビになんてされたら―…。私のような年齢では、次の職に就ける可能性はゼロだからなぁ~。)
それぞれに、新人職員のことについて反応する。心の中や口にしながら―…。
そのどれもが、新人の職員がモートレットン公に今、庁舎の外で起こっていることを伝えて、そのことに対して、モートレットン公が怒り、無理矢理にその新人職員をクビにしかねないということだ。
それを止められるほどの力など、ここにいる公的機関の職員にはないし、新人職員をかばったがために、自身がクビになってしまえば、路頭に迷うのは確実なことなのだから―…。次の職を見つられる可能性は、若いほど高いのだから―…。技術的なものでもあれば、話は別となるが―…。
そういう意味で、ここにいる誰もが、新人職員がモートレットン公の怒りを買い、クビにされると思うのだった。
だけど、実際は、その新人職員がレラグであったことには、気づいていないようだ。
ランシュの部下で、そこそこリースの行政関係では有名なはずなのに―…。名前を聞く機会ぐらいはあっただろうに―…。
そして、庁舎の外の声が止む。
「あれ、声が止んだ。」
「そうね、外で何かあったんでしょう。もしくは、デモを妨害するモートレットン公派の人間が現れたのだろうか。」
「モートレットン公を倒せる人間なんて武力以外に、いるはずもない。」
それぞれに、モートレットン公の権力の強さとそのバックを理解した上で、モートレットン公の体制を崩壊させるのは不可能だと感じている。
公的機関の職員として、直接に働き、モートレットン公と接してきている以上、わかってしまう悲しい現実であった。
だけど、庁舎の中にいる幾人かの公的機関の職員は、庁舎の外に出るのだった。
そして、驚くことになる。
番外編 ルーゼル=ロッヘのその後とある店主の店の再建(5)、続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ふう~、疲れが出ていますが、年末と年初にはちゃんと休めるように、頑張っていきたいです。正月は休むんだ。
では―…。