第135話-9 あえて乗ってみるのもいいのかもしれない
カクヨムで、『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
アドレスは以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、リーンウルネによって、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、ミラン、セルティー、イルーナはリースを案内されるのであった。
クローマス街。
そろそろお昼の時間になりかけている頃。
瑠璃たちの砂漠越えのための準備もそれなり進んでいた。
ルドレドアが勤めているフードやローブを売っている店を後にした後も、食料や調理器具、テント、方位磁針、もしもの時のためのサブの武器などを購入した。
まあ、購入した物は、瑠璃の持っている赤の水晶の中に収納されており、その収納しているシーンを店にいる人間が見せてしまったがために、能力者ではないかと瑠璃が疑われるほどだった。
だが、瑠璃は能力ではなくて、そういうものを貰っていて、それを使っており、これは世界で珍しい物だから渡せるものではないと言った。
そのことのせいで、狙われるかもしれないが、それは李章がちゃんと撃退するだろうし、瑠璃もそれぐらいのことはできる。だって、瑠璃はランシュに勝利しているほどの実力者であることがリースでは知られているのだから―…。よっぽどの馬鹿でない限り、そのような行動をするとは思えない。自信家なら話は違ってくるだろうが―…。
まあ、そのような相手が接近する前に、リースのリーンウルネやセルティーを護衛している者たちによって、簡単に捕縛されていく結末を迎えるのであったが―…。
「う~ん、そろそろ昼になる頃合いじゃの~う。買い食いというのも良いが、久々にあの店にでも行って、食事をするかの~う。」
と、リーンウルネがぶつぶつ小さな声で言う。
リーンウルネは、そろそろ昼の時間になるなということに気づいていた。
理由は、今の場所がクローマス街の中でも、海が見える場所であり、海の方向に向かって太陽が真上に達すると、ちょうど昼の時間であることを知っていたからだ。さらに、昼の鐘も鳴れば、確実な証拠となる。
リースにおける、いや、この時代のエウユア大陸の多くの場所では、時計という時間を知るための道具が一部の権力者や富裕な者しか持てなかったからであり、かつ、時を支配するということが権力者として重要な権威の正統性の一つの要因になっている以上、今がどういう時であるかを知らせることは重要な役割であり、知らせない時は何かがあったのではないかと思われるのだ。
まあ、これは都市においてそうであるが、都市以外の農村などのような場所では、時間の観念は季節であり、暦が中心であり、昼の時間を告げることに重きはあまりおかれていない。同時に、暦については都市にとっても重要なものであることには変わりない。それらの点には注意が必要だ。
「あの店って―…。」
と、イルーナがリーンウルネに尋ねるのだった。
「ああ~、あの店っていうのは、儂が修道院で隠居していた時期に買い出しの中で、偶々見つけたお店での~う。そのお店は、大衆向けのお店だから、この時間はお客が多く混雑しておるから席を取るのが難しかったりもするが、別口ならば―…。」
と、リーンウルネは答える。
リーンウルネとしては、これから行く飲食店が昼の時間帯に多くの人々が訪れるのだ。今日は、現実世界で言うところの平日に該当し、多くの労働者が訪れることになっている。
そのために、セルティーやリーンウルネのような王族がその店を訪れてしまえば、どういうことになるのか。大変な事になるのは確かだ。
だが―…、だが―…。
二年前に隠居してから、たまたま買い出しで外に出た時に、昼に寄ってみて、何度も通うようになったのだ。まあ、理由は後に知ることになるから、今、言うことでもないだろう。
そして、あの店は、リーンウルネが来ていることも知っており、かつ、店のある場所の地域の労働者とも知り合いにはなっている。
最初は、互いに話しかけるきっかけというものは持てなかったが、それでも、リーンウルネ側があの店に通っているうちに、次第に話すようにはなった。
そして、王族として訪れるということになると大変なことになるし、具体的には、人に囲まれたりするかその逆で、ひかれるということになり、お店の営業に迷惑をかけてしまうのではないかということだ。
それぐらいのことを空気も読めずに向かうことは、リーンウルネにとっては可能なことであるが、今回はセルティーもいるのでそれが難しいぐらいだ。セルティーが驚いてしまうのではないかと思うし、人との交流で恨まれているのではないかと思い―…。
「取り敢えず、行ってみれば分かると思いますよ。」
と、イルーナは言うのだった。
この言葉は、適当に言っているのではないかと思えるかもしれないが、イルーナにとっては、あまりにも簡単なことでしかない。考えることも大事だが、行動することも大事。
要は、リーンウルネの行こうとしている店に行けば、リーンウルネの抱いている不安が正解なのか不正解なのか確実にわかるのだから―…。
「そうじゃの~う。」
ということで、瑠璃たちは、リーンウルネの行こうとして店へと向かうのだった。
一方で―…。
アンバイドが宿泊している部屋の近くの廊下。
(そろそろ行くとするか。)
と、アンバイドは心の中で言う。
アンバイドとしては、もうリースにも、瑠璃たちにも用はない。
なぜなら、アンバイドの目的であるベルグの居場所はわかったのだから―…。それに、そろそろランシュが企画した時の戦いでの疲れも完全に解消されたであろうし、本格的に、ベルグのいる場所に向かって、ベルグへの復讐の準備を進めていけば良いと思っているのだ。
そのように考えているからこそ、リースの城の外に出ようと一歩踏み出そうとすると―…。
「アンバイド、お前はいい加減に死んだ者の後を追うべきじゃないな。復讐なんてつまらないことは止めた方が良い。」
と、一つの声が聞こえる。
この声に対して、アンバイドは苦々しい表情をするのだった。
それもそうであろう。
アンバイドに声をかけてきた人物は、アンバイドの目的を知っており、かつ、それは無意味だと言ってくる存在だ。
アンバイド自身、自らの妹であるイルーナがこの声をかけてきた人物と同様に、アンバイドの復讐を止めようとしてきていた。だけど、アンバイドはそのような言葉に納得する気もない。気持ちとは、感情とは、理性では割り切れないというものだ。それが己の不幸と終わりへと向かうことであったとしても―…。
そして、アンバイドは呆れながら、その声をかけてきた人物の方へと視線を向ける。
そこには―…。
「ギーラン、テメーか。」
と、アンバイドは、声をかけてきた人物の名を言う。
そこに友好的な関係であると判断できるようなものは存在しない。するわけがないだろ。
アンバイドにとって、自らの復讐を止めようとしている者は敵ではないとしても、邪魔者であることに変わりはない。
そんな奴に友好的な関係になれという者がいたなら、アンバイドはそんな奴に対して、こう思うだろう。
偽善者が―…、そのようなことを―…。
誰もが仲良くなれるようであるのなら、この世に戦争も紛争も、喧嘩も、諍いも起こりはしないのだから―…。
人は他者の違いを完全に受け入れられないほどではないが、それにも限度というものが存在する。その限度を超えると、人はその違いを受け入れることができなくなり、区別をして、自らと別のものとして割り切るか、敵として認識し、侮蔑することさえある。
その結果が、悲惨な出来事という悲劇を生むことになるのだろう。
一方で、このような誰もが仲良くなれるようにするということは、より良い利益を得る可能性を多くの者に満遍なく手にする可能性は存在する。最大は全員がということになるが、それは天文学的に可能性の低いことであるのだが―…。
だが、人は相手より多くの利益を得たいと考えたりするから、このような考えを利用して、自らの得を増大しようとする。結果として、誰も仲良くできる者が損をし、周囲も損をし、自らの得を相手よりも上になろうと望もうとした者だけが得をするという結果となる。まあ、すべてにおいて正しいかどうかと言えば、肯定することはできない。理想と現実、人の望みと欲というのは何とも難しきものであり、人は欲を完全に排除することはできないのだから―…。自らが生き残るために欲は必要であるが、同時に、その欲が自らの生き残る可能性をも潰すこともありうることなのだから―…。
これ以上、話が逸れても意味がない。
話に戻ろう。
「ああ、アンバイド…、お前はベルグのいる場所へと向かうんだな。」
「そうだが―…。」
ギーラン、アンバイドの順で言う。
その中で―…、
(ギーランの言おうとしていることぐらいわかっている。どうせ、俺の復讐を止めようとしていることだろ。テメーの説教は聞き飽きているんだ。)
と、アンバイドは心の中で思いながら、ギーランに向かって、呆れから、睨みつけるように見る。
ギーランもそのことに気づいたのだろう、一方で、一回、目を瞑り、すぐに目を開け、真剣な表情でアンバイドを見るのだった。
理由としては、アンバイドという人間のベルグへの復讐のための意志というのはかなりのものであり、それに対して、ナヨナヨしている態度を見せるとなると、返って、アンバイドに舐められる印象を与えると感覚的に理解したからだ。
だけど、アンバイドにとっては、そのようなギーランの行動さえ、舐めているのかと思わせるのに十分であった。ギーランがそのことには気づいていないが―…。
「アンバイド、お前は復讐をもう止めて、お前の子どもたちと一緒に―…。」
ギーランとしては、アンバイドと殺されたアンバイドのパートナーとの間に、子どもが二人いることを知っている。今は、アウリア大陸の砂漠の中に居住しているある一族の所にいるのだから―…。二人とも―…。
その子どもがいるのだからアンバイドは、もう二度と殺されてしまったアンバイドのパートナーの復讐をするのではなく、彼女との間に生まれた子どものことを大事にして欲しい。
だけど、そんなことを考えることができるほど、アンバイドはあの日の出来事に泣き寝入りすることはできない。
だから、このギーランの一言はアンバイドの気持ちに障るのだった。
「二度とそういうことを言うな。これ以上、俺の復讐を邪魔するのなら、お前らさえも殺して、ベルグに復讐を果たす。」
アンバイドの復讐の意志は、もう誰にも止められない。
わかりきったことである。
だけど―…。
「ベルグの後ろには、ローさんと同じ実力を持つあの存在がいる可能性が高い。そうなると―…。」
「知ったことか!!!」
ギーランの言葉を遮る。怒声をもって―…。
そのアンバイドの怒声は、リースの城の中で地震が起きれば、アンバイドが起こしたのではないかと思わせるぐらいには、十分な迫力というものを持ち合わせていた。
さすがのギーランもビビッてしまう。人の意志の強さとは、このようなに他者を圧倒することがある。まるで、威圧感とは恐怖だ。
ベルグという人間の後ろにいる存在は、ローと同じほどの実力を有している可能性が高いと考えられているし、実際にそうだ。
そうなると、アンバイドが一人でベルグに復讐をすることなど不可能と言った方がいい。ゆえに、ギーランがアンバイドの復讐を止めるのは理に適った行動ではあるが、アンバイドがそれに対して聞く耳を持つわけがないし、復讐を止めようと自発的に思うわけがない。
それゆえに、ギーランの言葉など、アンバイドの中では意味を持たないし、アンバイドにとっての最悪の結果は、約束までここで断言することはできないが、良くない方向に向かっているのは確かだ。
「だが!!」
と、ギーランは、アンバイドの怒声にビビりながらも、それでも、アンバイドの復讐が無意味であり、アンバイドの子どもたちのために反論しようとする。
「また、言おうとしやがって―…。ギーラン、お前のような幸せ者たちに俺の感情が理解できるはずがない。じゃあな、伝えとけよ、俺はリースから出ていくと。」
と、アンバイドは去っていくのだった。
そのことに、ギーランはもう一度、ベルグへの復讐を止めるように何かを言おうとしたが、不意に現れたある人物によって止められるのだった。
「あれはの~う、止めるのは相当に難しいことじゃ。それにの~う、アンバイドの本当の気持ちまではわからぬが、死に場所でも求めているのかもしれないの~う。自らの大切な人たちやもの、本当の意味でそういうのを理解することも、気づくこともできなくなってしまっておるのじゃ。だから―…。」
と、ローは最後に口を噤む。
アンバイドの復讐を止めることは誰にもできない。
わかりきったことである。
もうすでに、ベルグへの復讐がアンバイドのアイデンティティであり、使命となってしまっているのだ。
それほどに、愛していた女性を失ったことはショックであった。そこに、アンバイドを囚われさせるようにするぐらいの―…。
だからこそ、アンバイドを止めたければ、アンバイドという者の人生をギーランの手で終わらせるか、ベルグによって終わらせてもらうのが確率の高いこととなるのだ。
まあ、それ以外の解決方法良いというのは、言う必要もないぐらいに分かり切っていることだ。
「そうですね。」
と、ローの言っていることがわかったという返事をして、ギーランは無理矢理に自身を納得させるのだった。
第135話-10 あえて乗ってみるのもいいのかもしれない に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
新作の方は、第2話でかなり困難で、難しいものに直面しています。設定というか、理由の説明がビックバンとかが出てしまっていて、纏めるのが大変な感じになっています。プロットにはそこまで書いていないのに―…。プロットと実際に執筆するのでは違いがあると、かなり印象強く認識させられています。『ウィザーズ コンダクター』の第7部のあの時以来の苦難です。
そこに加えて、パソコンがいきなり画面が黒くなってしまったりしたので、混乱していました。パソコンに関しては、現在、完全に直っています。なので、ご安心ください。
最後に、次回の『水晶』の投稿に関しては、次回の投稿分が完成次第、この部分で報告すると思います。
では―…。
2022年9月14日 次回の投稿分が完成しました。次回の投稿は、2022年9月15日頃を予定しています。