第135話-6 あえて乗ってみるのもいいのかもしれない
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
アドレスは以下となります。
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宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、リーンウルネによる瑠璃、李章、礼奈、クローナ、ミラン、イルーナのためのリース案内が始まろうとしていた。セルティーもそれに巻き込まれるのであった。
一方、リースの城の中。
宰相代理室。
そこには、ランシュがいて、書類、雑務に追われているのだった。
(相変わらず多いな。一部の役職の人間は、アングリアの計画に協力したかどで、追放処分をせざるを得なかったが、これで、アングリアを中心とするラーンドル一派を完全に潰すことには成功したのだから―…。二年前の俺が完全にはできなかったことを―…。)
と、ランシュは、心の中で言う。
ランシュは、溜息なんて吐いている余裕もないほどに、書類、書類が大量に積まれているのだ。
そんな書類を見たとしても、手と目はちゃんと書類の処理のために力を発揮し、頭もしっかりとそのために尽力している。
だけど―…。
(リーンウルネ様は、今日はお休みになられて、リースの街へと―…。さらに、セルティーまで―…。こりゃ、ラーンドル一派も手をやくのがわかるというものか。そして、俺は、三人分のを片付けないといけないのか。トホホ。)
と、ランシュは、三人分の書類があり、心の中でげんなりとするのだった。
実際、書類はいつもの三倍の量あるのだ。リーンウルネが今日処理すべき分の業務量と、セルティーが今日処理すべき分の業務量とがランシュのところに押し付けられているのだ。
たぶんだが、ランシュにとっては、過去一の分量ではないかと思われるぐらいに―…。
そのせいで、思考自体が鈍ることはなかったが、追い詰められているような感じのものを感じていた。
その横で、
「ランシュ様。見逃しても良かったのですか。セルティー様やリーンウルネ様の今日の行動を―…。」
と、ヒルバスが愚痴のように言う。
ヒルバスとしては、リースの街中にいかれるのは別に構わないのだ。市井を見るだけでなく、声を聞き、それを政策に反映させるということをしっかりとすれば―…。
だけど、聞きましただけで、それ以上はする必要はないと思っている、いや、市井を見ました、聞きましたとかいうやっただけ演出に拘り、何もしたくないということになっては、最悪の結果になるし、余計にリースに住む人々との間に溝というものを形成することになる。
それでも、ヒルバス自身も知っていた。リーンウルネは、リースに住んでいる人々の声を聞くだけ、見るだけではなく、そこから何が今必要とされ、それがリースの利益および住んでいる人々の幸福に、本当の意味で繋がるのかを考えることができるし、それを実行する力を持っていたし、その実績もあった。
決して、すべてにおいて成功しているわけではないが、それでも、そうしようと頑張る姿を多くの者が知っているのだ。ヒルバスもその一人であるが―…。
それでも、今の業務量を考えると、さすがに、ここで、リースの街中に一日中行かれるのは―…、困ったものでしかない。
「たぶん、というか確実に、俺が言ったとしても、リーンウルネ様が止めてくれるとは到底思えない。」
と、ランシュは言う。
ランシュは、何となくだけど、リーンウルネという人間の行動を止めさせるのはかなりの確率で、難しいことでしかなく、労力に見合う結果を得ることはできない。
ならば、止めても意味はないのである。一種の諦めだ。
ランシュの言葉で、何となくヒルバスは理解し、リーンウルネの行動を止めることができないという諦めの境地にいたるのだった。
一方、リースの市街。
リースにある城の城門近く。
「ふむ、では、リースは、このエウユア大陸のロカッセンア半島の北部にある港を首都とする国じゃ。そして、今、お主らがおるのがその首都リースじゃ。リースは、アウリア大陸から来る商品のエウユア大陸の内陸へと運ぶための入り口の港として栄えた場所であり、そこに形成された都市国家が周辺地域を勢力下にしていく過程で、リースは王国となったのじゃ。まあ、そこには血生臭い戦いというものがいっぱいあったのじゃが―…。」
リーンウルネは、リースの成り立ちについて語る。
詳しく述べると、都市リースのある場所は元々、何もない場所であった。それが、ロカッセンア半島の中部で五百年前ほどに異民族からの海および陸からの双方の侵入に苦しめられたロッカシア帝国が滅亡したことにより、ロカッセンア半島の各地は荒廃し、その中で、荒廃しなかった場所がいくつかあり、その一つがリースのある場所だった。
このリースの地点がエウユア大陸における大きな山脈を越えたロカッセンア半島の人々においては向こう側という感じの領域と、海の向こうにアウリア大陸を結ぶ地点の中間にあり、かつ、人が多く住むことができる広さと同時に、ロッカシア帝国の首都の当時の人口の半分が暮らすことができるほどだったので、ロッカシア帝国の首都に住んでいた住民とこの地の近くに元々から住んでいた人々の手で建設されたのがリースだ。
その建設された都市ほどではないが、それに近い規模のリースは、中間交易の港として栄えるようになった。最初、リースは、王政ではなく、人々による直接民主制であったが、人口が多く、一々皆の意見を聞くために、皆を同じ場所に集めるわけにもいかないし、聴きに回ることもできないので、次第に、このリースで商業を生業としていた有力者の一人とその一族が統領という役職を与えられ、支配するようになった。
統領は、しだいに自らの商売をおこなっていくための時間をなくしていき、その息子の時代には完全に自らの商会を別人に譲り渡して、リースの統治を専業にしていくようにシフトさせていった。これが、リース王家の始まりとされる。
ここまでの歴史に、人の子として生まれたが狼に育てられた双子などのような神話は存在しない。あくまでも、ちゃんと歴史として記録されたものだ。年代記に―…。
そして、リースは交易で繁栄し、次第に、そこから生み出される富を欲した者たちが、リースに住んで商業で成功を夢見るようになった。その中から、ラーンドル商会やら台頭するようになったのだが―…。その商業とその周囲で利益を得ようとする者たちが引き寄せるように集まっていくので、都市リースの財政はかなり潤うようになった。
だが、ここで二つの問題が発生する。都市リースに住んでいる人々に食べさせることができる食料と、中間交易だけではない自らの土地で生まれたものがないということだ。
食料に関しては、アウリア大陸やエウユア大陸の他の地域から獲得しようとすれば可能であろうが、それは同時に、他国もしくは他地域に食料を依存するようになり、もしも食料の流通を止められでもすれば、リースは住んでいる人々とともに争い、治安悪化、さらには滅亡の危機に瀕することになる。
そうならないために、周辺地域を自らの領土にしておく必要があり、そこからリースに住んでいる人々が生きていくことが出来る分だけの食料を確保できるようにしておくことが解決策だった。
ゆえに、リースは周辺地域へと侵略を進めていったのである。食料を確保するために―…。その行動を受け入れるところもあったが、多くは抵抗する道を選んだ。そのために、悲惨な出来事もたくさん起こり、それを恨む者たちも戦後のしばらくの間にはいたそうだ。
だけど、リースは戦後、かつての周辺地域に対して、復興事業をおこなったり、産業の振興、同時に生き残った支配者に対して、リースを上とすることと税に関する以外はなるべく元々の支配者のやり方を踏襲した。その方が、住民の混乱を大きくしなくて済むからだ。
その後も、リースの生み出す富は、周辺地域にも波及するようになり、その地域の工芸品および農産物も遠くの地域へ輸出されるようになり、前よりも収入も生活も良くなった。これで、だいぶ悲惨な出来事への気持ちの緩和には繋がることになった。決して、完全に解消されることなんてあるはずがない。
そして、リーンウルネは話し続ける。
「それでも、リースは都市国家ではなく、国として発展していき、王国と呼ばれるほどの大きさにもなっていった。百年ほど前にラーンドル商会が当時、新興勢力であったサンバリアとの交易に成功することによって、莫大な富がさらにもたらされるようになり、ラーンドル商会はリース王国になくてはならない存在になり、商会における地位はリーストップへとなったのじゃ。その頃から、リース王国の当時の王の晩餐会にも呼ばれるようになり、王族との人脈をつくっていったのじゃ。だけど、ラーンドル商会の娘をリース王族のもとに嫁がせることは周囲からの反対でできなかったが、その勢力も次第に、ラーンドル商会の富の前に屈していくことになり、そこから十数年でラーンドル一派が形成されたのじゃ。その勢力拡大に対して、領主たちはあの手この手でラーンドル商会を追い落とそうとしたが、当時の当主はかなりの切れ者で、かつ、全体の利益をも考慮に入れることができるような人物じゃったから、領主たちの方が苦しい状況になってしまっての~う。結局、領主側がラーンドル一派に吸収されていったというのがオチじゃ。その後は、ラーンドル一派というのがリースで実権を握るようになったが、次第に代を経るごとに能力が劣った人間、いや、能力を鍛えるための経験や試練を受けることもできずに、その試練の前に怯え、逃げ出した者がラーンドル商会の中心になっていき、アングリアの前の代の後半から腐敗が進んでいくことになって、横暴な振舞いも多くなり、王家の人間もラーンドル一派に対処することができないどころか、飲み込まれていって―…。最後は、ランシュによる二年前の事件になってしまったというわけじゃ。」
と、リーンウルネは長い言葉で話す。
この言葉を理解しろというのは、なかなかに難しいことでしかないし、そもそも記憶する方が難しい。本などのように文字にされて読むのであれば、不可能なことではないのは確かだ。
(城門出てからいきなり、リースの歴史とは―…。というか、目的物を買う時間がなくなってしまうのよ。)
と、ミランは、心の中で不満を漏らすのだった。
ミランとしては、これからアウリア大陸へ行き、そこから砂漠越えをして、サンバリアへと行かないといけないのだ。
その砂漠越えは容易なものではないのは確実で、厳しいものになる可能性はあるのだから―…。まあ、実際は、商人たちの護衛をしながら、砂漠越えをしていくことになるから、厳しいものになる可能性に当たるのは商人たちがどれほどの砂漠に関する知識と経験を持っているかによる―…。
「ふむ、長くなってしまったの~う。」
と、リーンウルネは申し訳なさそうにする。
だけど、リーンウルネは話し始めると、長くなるということはなかなかに直しにくいということなのだ。
「お母様、そういう話は、朝食の時にすればよろしかったのではないでしょうか。ここでするような話ではないし、周囲の視線に困ってしまいます。」
と、セルティーは言う。
今、この場で、リーンウルネとセルティー、どっちが空気を読めているのかを周囲の人に聞けば、誰もがセルティーだと言えるのはわかりきったことだ。
つまり、リースの歴史の話の中で、負の面の話を言うのは、ここがリースである以上、リースに住む人々にとってもリースの領土内に住んでいる人々にとっても、あまり良い顔のできるものではない。
自らの国の歴史を聞いて感動したとか、素晴らしいとかの方が話としては、都合が良く、気持ちが良いものだ。
だけど、忘れてはならない。
善悪というものは、主観的なものでしかなく、その主観で判断された善悪という基準に対して、人々は善いと思われるものに気持ち良さを感じ、悪いものには気持ち悪さを感じるのだが、現実にはその善悪が多様に存在しているのだ。
だからこそ、人々の感じる気持ちの良い歴史とされるものは、翻せば、他者にとって気持ち悪く感じさせる歴史でしかない。
それに、付け加えるのなら、歴史を気持ち良い、感動したなどで語るのは一個人の感想でしかなく、それを誰もが共有することを強制するのは、ただの傲慢な奴の思想でしかない。
現実、歴史には、主観的には善悪双方があり、片方で決めつけられるものではなく、出来事に対する多様な角度で見て、その真実にどれだけ近づくことができるのかであり、完全に正しいということになることは決してない。歴史は解釈の仕方や新たな資料、証言などで変わってしまうことがあるのだから―…。
この歴史における脆弱性について理解せず、完璧で絶対的なものとするのは時として間違いというものでしかない。
だからこそ、リーンウルネは、この場によって空気は読めなくても、自らの属している国の悪い面も平然と言えるのだ。清濁を受け入れることができるぐらいに―…。
まあ、それをも飲み込み、未来にとってどういう選択が良いのかを考えることができるようになることが、過去をいかすという意味となる。
そして、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、ミラン、イルーナ、セルティー、リーンウルネはリースの街の中に本当の意味で向かって行くのだった。
第135話-7 あえて乗ってみるのもいいのかもしれない に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。