第133話-3 後始末
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
アドレスは、以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ベルグはアババに対して元研究所でラーンドル商会で研究している研究者とアングリアを暗殺するように指令を出し、前者の方の指令を終え、アングリアがいる場所へと到着し、アババはアングリアに話しかけるのだった。
「そうだな。俺は、アングリアに聞きたいのだよ。リースの権力を握った時のことを―…。」
と、アババは言う。
アババは知りたかったのだ。アングリアという存在がリースにおける実権を持っていて、その中で、権力を行使して、どういう気持ちでおこなったのかを―…。
(あ? 俺がリースの権力を握った時のこと? 言いたいことは分かるが、俺がリースの権力を元々握っていたわけではなく、親父がすでに握っており、それを受け継いだだけだが―…。まあ、俺の自慢話を聞きたいようだ。聞かせてやろう。)
と、アングリアは心の中で考え、話し始める。
「俺は親父からラーンドル商会を受け継いだから、権力を握ったということはわからねぇが―…。ラーンドル商会のトップ、ラーンドル一派のトップにいる気持ちは心地よいことばかりじゃないぜ。俺に嫉妬する奴らが、俺のなそうとしている政策に反抗してくるわ、俺の思い通りにすべてさせてもらえなかったんだよ。だが、まあ~、多くは俺の思い通りになったし、リースの民から集められる富が俺の手に入ってくるのは快感だった。金が増えれば増えるほど、もっと欲しくなったんだ。そう、際限のないぐらいなぁ~。その富を、俺様のために使って何が悪いというんだ。俺様が稼いだ金だというのに、リースのために使え!!? 俺様のために使うことがリースのためなんだよ。俺はリースの支配者であり、そこに住む民どもは俺様のために年がら年中働くのは当たり前のことだ。使えなくなれば、捨てれば良いのだ。変わりはいくらでもいる。俺のために、俺に納める金を稼げばいいんだ。俺様がしっかりと使ってやる。今度は、リーンウルネもセルティーも、ラーンドル商会を奪った忌み子のニドリアを―…、見せしめにして、リースの民どもの目の前で殺してやる。そうすれば、民どもも、俺のためにしっかりと働く良い人々になる。そうだ、そうしよう。」
と、アングリアは、次第に興奮してくるのだった。
ゆえに、言葉も次第に大きくなっていき、興奮のために、気持ちが舞い上がるのだった。アングリアをラーンドル商会のトップの地位から追放し、こんな牢屋のような場所に入れたリーンウルネ、セルティー、ニドリアに対して、これから復讐し、今度こそ、アングリアのためのリースにしようと考えるのだった。
そう、アングリアには、自らがラーンドル商会のトップにいることは当たり前のことであり、どうしてその地位を追われないといけないのか、理解することはできなかった。
アングリアのせいで、どれだけのリースの人々が生活の面で次第に窮乏化させられていったのか。リース王国およびリースに対して思う未来を暗くしていったのか。
そのことに気づくはずもなく。自らの行動が完全にリースのためであり、アングリアのために働き、貢献することがリースに住んでいる人々およびリースという国のためになっているのだと、本当の信じているのだ。疑うことなく―…。
人は決して、完全に正しくなるということはできない。できるはずもない。人は完璧な存在になることはできないことが定められているのだから―…。いや、生物に関しても、物質もそうであろう。
だけど、完璧にも完全にもなれないからこそ、成長するということと、退化できるということができるのだ。そのことを理解することができないアングリアは、決して、自らの過ちに気づきはしないのだ。そう、自ら世界を拡大するという成長にも退化にも繋がることに対する冒険もせずに、囚人になることに満足しているのだ。今のアングリアの状況のように―…。
囚人には終わりがある。
「はあ、アングリアのために尽くすことがリースのためになるのですか。それに権力を行使するのは快感というわけか。勉強になるなぁ~。」
と、アババは言う。
別に、アングリアと同じ思考になる事を好んだわけではない。アババは、アングリアという人間に唾棄してやりたいという気持ちに駆られる。ここまで愚か者であったということを―…。
だけど、アババは気づくことができた。
(ふん、なるほど。人という生き物は、自らの地位を確立したり、譲ってもらったりすると、増長し、自らが完璧だと思い、何でも自分の思い通りにしてしまおうとするのか。アバ。まあ、それでも良いですが、結局は、力、権力というものをずっと保持し続けることをしないと簡単に崩れ去ってしまうもの。そして、奢れる者は権力という海に溺れ、溺死する。まさか、アングリアにとっては、まさに当てはまることだ。さて、そろそろいいかなアングリアの気持ちを聞くことができたし―…。アババババババババババ。)
と。
アングリアが権力を持って自由にできた時の本人の気持ちをある程度知る事ができた。完全に知ることはできないであろう。その時の気持ちは―…。一人の気持ちというのは、自分でわかっている自分の気持ち、自分が知っているが相手が知らない気持ち、相手が知っているが自分が知らない気持ち、自分も相手も知らない気持ちを考えることができる。ゆえに、最後の自分も相手も知らない気持ちというものが存在するので、ある程度しか知ることができないのだ。
それを理解しているのであれば、これ以上、踏み込んだとしても意味をなさないということは簡単に気づくことであろう。
「そうか、勉強になるのか。俺様のようになるのは簡単なことではない。家柄が良くなければまず駄目だ。生まれというのは、人の品性にすぐにでも関わってくるのだ。金持ちや権力者の家に生まれた者の品性というのはかなり高く、リースで一番の力を持っている俺は一番品性というものが優れている。まず、間違いない。だからこそ、俺様に仕え、俺様のために働くことで、俺様の素晴らしく高い品性を学び、下々の者たちは高い品性を身に付けていくのだ。だからこそ、俺様はここにいてはならないのだ。俺様は、このような醜い場所を脱出して、ラーンドル商会を再度掌握し、リースをも―…。」
と、アングリアは言う。
アングリアとしては、自らの存在自体が高尚なものだと思っているというか、確信している。当たり前であるというように―…。
理由は、ラーンドル商会のトップを務める家に生まれたということによる―…。人は実力者や権力者の家に生まれること自体が品性の優れたものであり、トップに相応しいものを持っていると思っているからだ。
だけど、そんなことで品性が優れているということは判断することができない。品性というものは、元々、主観的なものでしかなく、決められた基準というものが時代や場所によって異なったり、変化したりするのである。だからこそ、品性が高いと言ったとしても、客観性というものがほとんど存在しないだろうし、他者からの多くがそう思えるということがないといけない。
現に、アングリアの品性の基準というものは、リースの多くでは受け入れられないものである。品性が高いと言えるのならば、王族という存在以外は、一般的なその地域における所作を理解し、実践しており、かつ、見た目などの要素が良いということが必要であろう。
あくまでも、このリースにおいては、であるが―…。まあ、それでも品性が高いからと言って、権力を握っていいだとか、そういうことにはならない。
リースにとって誰もこの人をトップにしたいと思うのは、リースの人々の生活にとって真の意味で、収入が増加し、それを誰もが享受できるということができる人なのだ。そのことに気づいておらず、自分勝手なアングリアが本当の意味でリースに住んでいる人々から尊敬されることはない。ラーンドル商会やラーンドル一派の権力に対して、恐れられることはあったとしても―…。
「もう話さなくていいよ、アングリア。君の話はわかった。だからこそ、言おう。アバ、アングリア君には死がお似合いだ。さようなら―…。」
と、アババは言う。
アングリアは、何も言うことができず、反応することもできずに、一つの生を終えさせられた塊と化していた。首を斬られたのではない。少し細い針で、首より少し上を後ろから刺され、そこから、脳の呼吸や心肺に関係する器官を老化させて、機能停止するまでにいたらせたのだ。
ゆえに、アングリアがどのようにして殺されたのかを、わかりにくくさせたのだ。このように、人体の構造に関しては、ベルグからちゃんと学んでいるのだ。アババは―…。
そして、アババは、ラーンドル商会にいた元研究所のメンバーの殺害と異なる方法を選択したのは、同一犯に見せないようにするためでもあった。まあ、堂々やったとしても、アババの犯行であることに気づかれることはない。アババの持っている武器に宿っている天成獣の属性を理解し、かつ、アババという存在を知っていなければ―…。
「うん、静かなる死、寂しい死、まさに、アングリアには似合いそうだ。では、行こう。」
と、アババが言う。
そして、アババは消えるのだった。まるで、そこに最初からいなかったように―…。
ここに、リース王国から続く、悪政の象徴である人物の一族における直系の一つ終わるのだった。
リースの中のある旅館の上。
「ベルグ様。あなたの言われた通りに、ラーンドル商会にいる研究所の元研究者およびラーンドル一派のトップ兼ラーンドル商会の元トップであるアングリアを暗殺し終えました。」
と、アババは報告する。
その報告は、通信機を用いておこなれており、さっきベルグがアババへと指令を出した時に、使ったものと同じである。色は夜の黒に染まってしまっているが、光があれば白であることがわかる。
そして、ベルグに向けて、命令の遂行が完了したことを言う。
その言葉を聞いたベルグは、
「そうか、アババ。君はやっぱり期待にいつも応えてくれる。本当に感謝しかない。……で、どういうふうにして殺したんだい。アングリアを―…。」
と。
ベルグとしては、アババが自らの指令をしっかりと果たすことはわかっていた。
それは、アババに対する信頼が揺るぎないということでもあるが、同時に、アババの実力を認めているということだ。
そして、同時に、アババがローやギーラン、アンバイドらの実力者たちに気づかれることなく、アングリアらを殺すことが実行できるということは朝飯前だと、わかっているのだ。
アババの天成獣は、属性の力が暗殺にも向いているのだ。普通では、確実に不可能と思わせる方法で―…。特殊能力ではなくて、考え方や性質の理解によるところが大きい。アババはそれだけ頭が良く、賢いということである。
「それはですね―…。」
と、アババは、これまでの暗殺の経緯を話すのだった。
それを聞いたベルグは、ほ~お、と感心するのだった。
「あ~、アングリアの暗殺はかなり難しいように感じるし、脳の一部を老化させるのか。本当に人という者の可能性と同時に、恐ろしさというものを感じるよ。アババは、俺にとってなくてはならない存在であることがここでも証明されたというわけか―…。うむ、ありがとう。アババは、アジトに戻っておいで―…。」
と、ベルグは言うのだった。
ベルグとしては、アババという人間の可能性と同時に、恐ろしさもしっかりと兼ね備えているのを確かめるのだった。別に、ベルグにとっての脅威になることはないことを理解している。なぜなら、アババのベルグに対する忠誠心は本物であることはわかっているのだから―…。
そして、ベルグは、アババの指令も終わったので、拠点に戻って欲しいという。
そのことを聞いたアババは、その場から消えるのであった。
そう、拠点に一瞬のうちに、それもベルグのいる場所へと戻ってくるのだった。
「うぉ!! いきなり!!! これはいつも驚くなぁ~。君の移動方法を知っているから、まだ、驚くだけで済むけど、初見の人は確実にビックリどころか、奇襲だったら一発で、何もわからずに死んでしまうのだよ。本当に俺の部下であってくれて助かっているよ。」
と、ベルグは言う。
ベルグもアババの戦闘方法や手段を知っていなければ、何もできずに殺されていたことであろうし、生の終わりを体験していたとしてもおかしくはない。それぐらいに、アババという人間の戦闘、特に、奇襲という面に関しては、対処方法を知っていないと生の終わりから逃れるということはできないのだ。
まあ、対処方法を知っていたとしても、この異世界のこの時代における人間でアババの奇襲に対処できるのは、ほとんどいないと言ってもいいだろう。
だけど、それを知らずに対処する人間が後に現れることは、この時のベルグもアババも知らない。
「はっ、これはありがたきお言葉です。」
と、アババは言うのだった。
そして、アングリア暗殺から数時間後。
看守が特別管理階にやってくる。
アングリアの様子を監視するためだ。
特別管理階に侵入するのは、かなり難しいし、現に、今まで、ここに侵入されたことは一度もない。
油断していたとしてもおかしくはないが、それでも、侵入されたことはないのだ。より警戒したとしても―…。
だから、この看守が見る光景は、驚きでしかなかった。
(アングリアは―…。昨日みたいに叫んでいなければ良いが―…。本当にウザいんだ。少しは、自分のおこなってきたことに対して反省して欲しいものだ。まあ、そうしたとしても、処刑は免れないだろうが―…。)
と、心の中で思っていると、そこに大人しく動かないアングリアがいるのだった。
(!!? おいおい、変な寝方するなよな。檻の柵を掴んだまま―…。頭、おかしくなったんじゃないか。)
この看守は、アングリアが檻を掴みながら、まるで、誰かに助けて、と言っているのがわかるような態勢なのだ。
さらに、そこに声がないというのが、この看守にとっては、不気味に感じさせて、アングリアは精神に異常をきたしたのではないか、と思わせるのだった。
そして、この看守は、アングリアの目の前に到着し、アングリアの状態を見る。
アングリアは、目を見開いており、瞳孔が一切動かず、この看守の存在に気づかず、まるで、アングリアだけが時が止まっているような安直な表現が似合うぐらいの感じだった。
(気味悪い―…。どうかしちまったんじゃないだろうな。)
と、心の中で言いながら、少しだけ、アングリアに触れる。
そうすると、少し押すと、アングリアが綺麗に何の抵抗もなく倒れるのだった。
「えっ!!」
と、やっとの思いで声にする。
言葉を出すことができる状態ではない。双方ともに―…。
この看守は、あまりのアングリアの様子の可笑しさに驚き、アングリアはこの世から別れを告げさせられたことにより―…。
そして、この看守は感触で理解するのだった。
(冷えてる―…。俺が―…、俺が―…、殺してしまったのか!!?)
と、自らがアングリアを殺害したのではないか、思い、恐怖に震えるのだった。
その後、この看守は、アングリアが死んでいることを報告するが、自分がアングリアを殺したという真実における間違いを報告することなく。現に、アングリアを殺したのはアババなのだから、この看守は本当の意味で無実であることに、真実の面では確定的事実でしかないが―…。
第133話-4 後始末 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の投稿に関しては、次回の投稿分が完成次第、この部分で報告すると思います。
では―…。
2022年7月5日 次回の投稿分が完成しました。次回の投稿は、2022年7月6日頃を予定しています。