第132話-4 生きるという道に終わりがあるのだとすれば、この世の生を終える時だ。だけど、今ではないはずだ
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中(現在、一か月休んでいる最中です)。
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前回までの『水晶』のあらすじは、リーンウルネとアングリアが対峙するが、一方で、ハルギアの方は―…。
時間を戻す。
リーンウルネがリースの競技場に向かっており、かつ、到着した後の時間幅の頃。
リースの港湾工事現場の一角にある倉庫。
ラーンドル商会が持っているとされる倉庫のことである。
ここには、ハルギアと傭兵が数多くいる。
(来たな。)
と、ハルギアは心の中で言う。
そう、ハルギアにとって、第十回戦の勝敗の行方を伝える使者が―…。
事前に、アングリアから第十回戦の試合終了後に、この場所に向かってくるのように言っていたのだ。
だから、ハルギアにとっては、都合の良いことが聞けるのではないかと思いながら―…。
そして、一人の人物が入ってくるのだった。
その恰好は、リースの騎士そのものであり、顔はどこかで見たような気がするのだ。性別は女性であろう。ハルギアの判断基準からそのように判断することができた。
(女、まあ、リースの騎士には女の騎士もいるしなぁ~。まあ、下で使われるのが精一杯ということだしなぁ~。美しければ、手籠めぐらいにはしてやったがなぁ~。)
と、心の中で下衆なことをハルギアは言うのだった。
ハルギアの基準では、女の顔は普通というか、自分の女にしておく必要はないほどであった。このようなハルギアの心の中のことをもし、世間の女性が聞くことができるのであれば、相当な批判を喰らうのは間違いない。
まあ、近くにいる傭兵隊の女指揮官に手を出すことはない。なぜなら、その女は、ハルギアよりも強者感を出しているが、それも、ハルギアが追い詰められれば、そのようなことを感じる余裕はなくなることであろう。
そして、リース王国の時の事情を知っているからか、リースの騎士団に所属する女性の騎士という者たちがどのような役割を担うのかを理解している。伝令、治安や警備、事務などである。戦争や戦闘の前面に立つことはないというか、かなり限られた例になるほどだ。
ゆえに、指揮官として、騎士としての才能があるメルフェルドがあまり前線にでることができないのは、そのためである。
(ふ~ん、あれが今のハルギアね。プライドだけが高そうだけど、何というか、危機察知の能力だけは一流というところだね。二年前のレグニエド王暗殺事件の時に真っ先に逃げ出していて、私たちが優利になると、すぐにいなくなって、このランシュ様が企画したゲームでランシュ様が直接戦えば、弱ることを見越した上で、その隙を突いて、リースの政権を取り戻そうとする。まあ、卑怯と思われるかもしれないけど、策としては真面ね。だ…け…ど、ハルギアは上にいるのね。本当、偉い人は上にいたがるよねぇ~。そんなことよりも、私たちの大将を守らせてもらいましょう。)
と、倉庫の中に入ってきた人物が心の中で言う。
この人物は、想像がつくのであれば、あの人物であることに間違いない。
「競技場の方へと向かえという知らせか。」
と、ハルギアは言う。
それ以外に、何があろうと言うのか。
ハルギアは、アングリアが再度リースの実権を掌握したのなら、宰相の職に就くことは可能であるどころか、確実にそうなっているだろう。
そういう意味では、目的達成を目の前にして、達成後のことが頭の中から離れないのだ。離れるわけもないか。
「ええ、その知らせを受けました。試合の方は、瑠璃チームの勝利に終わり、ランシュチームは敗北したことになります。」
と、倉庫の中に入ってきた人物が言う。
言っていることは、第十回戦の結果であり、事実だ。何も嘘もない。
「おお、意外な結果になるとはなぁ~。まあ、結果なんてどうでも良い。それよりも競技場へと向かうぞ。このチャンスを逃すわけにはいかない。」
と、ハルギアは意気揚々に言う。
ランシュが敗北したのだ。これほどに嬉しいことはないだろう。ランシュが敗北したのだから、戦闘不能の状態であり、かつ、容易に実権を奪うことが可能。そして、ランシュを葬り去り、ラーンドル一派に敵なしの状態にすることも―…。
さらに、セルティーを操り人形にするのはあまりにも簡単なことであると思えば、こんなにテンションの上がらないということがどうしてできようか。
(これで、二年間もの期間、逃げ隠れしながら過ごす日々は終わり、私は大手を振って、外を歩き、私を馬鹿にした者たちを扱き使ってやれる。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、笑えてく…。)
と、ハルギアが心の中で言いかけた時―…、一つの剣がハルギアの首の前側の近くに向けられる。
一歩でも動けば、ハルギアの首に突き刺さってもおかしくはない状態である。
「…………どういうつもりだ。」
と、ハルギアは言う。
ハルギアには、理解できなかった。
アングリアの命を受けて派遣されてきたのなら、確実に、ハルギアに対して、このような真似をすることはありえない。だって、ハルギアは、アングリアと同じラーンドル一派に所属し、かつ、アングリアとの間に協力関係を完全と言えるかはわからないが、強固な人脈を築いているのは事実だ。
(何で、この私が―…。というか、この女は、さっきまで、倉庫の入り口におったのだぞ。私との間までには、それなり距離というか、階が違うのだぞ。簡単に到達できるわけが―…。だが、それを、ほんの一瞬でやってのけたのか―…、まさか!! 天成獣が宿っている武器を扱うことができるのか。そういうことなら、アングリアは俺を裏切ったのか。あり得ないだろう。)
と、心の中でハルギアは、考え始める。
ハルギアは、ここで二つの可能性を頭の中に思い浮かべていた。
一つ目の可能性は、アングリアがハルギアを裏切ったことだ。だけど、その可能性は高いとは思っていたけど、あり得ないことでしかない。アングリアとは、運命共同体とまでは言えないが、ハルギア以外の誰を宰相にして、リースを運営しようと考えるのだろうか。ランシュが政権を掌握して以後、ランシュへの恭順をしていった者も多く、ラーンドル一派の政治家はほとんどが追い出され、かつ、宰相に近い経験をしたのがハルギアしかいないのだ。
他の奴らは、あまりにも仕事をしないで、利益を貪っていたのだから―…。
二つ目の可能性は、アングリアの身に何かがあったのだろう。危機的な状況が―…。
この場合、アングリアはリースの競技場にいる以上、ランシュかそこに属する奴らによってであろう。だけど、瑠璃チームが勝利をしている以上、アングリアにとっては有利な状況であり、ランシュがリースの実権を奪うのに絶好のチャンスかもしれない。その要素があるのに、ハルギアがこのようになり、アングリアの身に何が―…。
と、そこでハルギアは気づくのだった。
「セルティー王女の懐柔に失敗でもしたのか。」
と、ハルギアは口にする。
ハルギアは可能性の一つとしては、あり得ないことではないと思っていた。風の噂程度であったし、そこまで気にする必要がないが、セルティーが一回だけ、リーンウルネがいる修道院へと向かったという話がある。リーンウルネごときに何ができるのか。そう当時は思っていた。
(まさか―…、セルティー王女の懐柔失敗に、リーンウルネが関わっている。ならば、このような状況は―…。)
と、ハルギアは心の中で思う。
ハルギアとしては、正解だという確信を抱くことはできなかった。
だけど、これは部分解における正解である。風の噂程度のことが、事実であり、そのことが原因かどうかまで判定できないが、セルティーがリースの実情を自分から改めて調べるようになった。王室以外やラーンドル一派と繋がっていた人以外から―…。
その結果、ランシュの身柄を引き渡すことを拒否しているのだ。
ランシュの身柄の引き渡しを拒否しているのは、ハルギアが今の時点で知らないことであり、その情報は頭の中に入っていない。
「その顔は、わかったみたいだね。後、私―…、リーンウルネ派ではないのよ。」
と、剣をハルギアに向かって突き刺している女が言う。
その言葉は、女は敢えて正直に発したのだ。勿論、理由はある。理由がなければ、そういうことを言う気はない。ハルギアという存在は、女にとって、何度も追いかけていたが、ハルギアは不利を悟るとすぐに逃げており、捕まえることができなかったのだ。
女は、ハルギアに恨みはないが、それでも、リースにとって良くないと判断することはできる。
一方、女の言っている事に、ハルギアは驚くのだった。
(リーンウルネではない。どういうことだ。)
と、ハルギアは、心の中で動揺する。
そりゃそうだろう。ハルギアの今の状況における可能性の中に、リーンウルネという存在がセルティーを唆したのではないかと思われることがあり、それが一気に崩れ、アングリアが裏切ったのかということになるのだから―…。
だが、女は、さらに、可能性を消すようなことを言う。
「あと―…、アングリア様は、ハルギア様のことを裏切っていませんよ。」
と、女は言う。
「あ?」
と、ハルギアは、不良のように言うのだった。
メンチをきっているのではないかと思われるほどに―…。まあ、そのようなハルギアの表情に、女が恐怖を抱いたり、ビビったりすることはないのであるが―…。そんな表情をされたとしても、戦闘経験や駆け引きでそれ以上のものに何度も、何度も出会っているし、対峙しているのだから―…。
今更、その程度で、という感じしかしない。
「疑問に思われるのは当然のことだと思います。すでに、アングリア様からハルギア様への伝令は、向かう途中でリーンウルネ様の私的な存在によって捕まり、かつ、アングリア様を裏切り、すべて自白されましたよ。だから、アングリア様も終わると思いますよ。そして、リーンウルネ様の方は気づかなかったでしょうが、今回、ハルギア様を捕らえるのが、ランシュ側の人間であるということを―…。」
と、女は言う。
女にとって、そろそろ自分の正体を現わすことには、何も問題はないのだ。現に、ハルギアのいる倉庫へと到着した騎士団は、倉庫を包囲したままであるし、女を味方だと思っているのだから―…。
そして、女は、今回ハルギアを確実に捕縛することができると確信しているのだ。そこにいる傭兵が全員、リーンウルネ側の傭兵であることを―…。
だけど、ランシュ側という人間の言葉を聞いて、ここで指揮している傭兵は驚くのだった。
(ランシュの味方など誰も作戦の中に組み込んだ覚えはない。そして、今回は、完全にリーンウルネ様と同じ側の人間しか―…。いや、あの人物がいれば確実になすことができる。イルターシャ。)
と、心の中で結論にいたる。
そう、港湾労働現場の倉庫に入ってきた女は、イルターシャであり、伝令は直接、ちゃんと受けてきているのだ。リーンウルネ側に自らが味方だと思わせて―…。
「どういうことだ!! リーンウルネはランシュと結託しているのか!!!」
と、ハルギアは声を荒げるが、その答えをイルターシャは否定する。
「結託などしていない。将来、どうなるかはわからないけど―…。後さぁ~、傭兵の皆さんは、ハルギアがここまで動いていないのに、どうして捕まえないの?」
と、イルターシャは言う。
イルターシャにとっては、こんなに剣を向けられている存在など、捕らえるのが簡単で仕方ないはずだ。なのに、誰もハルギアのことを捕らえようとしないのだ。不自然なぐらいに―…。
その言葉にこの場の傭兵を率いる者たちが、
(えっ、どうして…って。そうだ、剣を突きつけられた時点で慎重になるが、それでも隙がなかったわけではないはず。じゃあ、私たちはどうして―…。)
と、心の中である疑問が浮かび上がる。
その疑問は、心の中で言ったことにも表れており、どうしてハルギアを捕らえようとしていないのか、だ。そう、イルターシャに剣を突きつけられていたとしても、その剣を突きつけられているのはハルギアであり、傭兵たちではない。ならば、隙を突いて、捕らえることなんて、簡単にできたことであろう。
なのに、それがなされていない。
(なるほどね。そういうこと―…。ならば、私にしかハルギアを捕らえることができないのでしょう。)
と、イルターシャは心の中で言う。
イルターシャは、ハルギアという存在がどうなっているのかを理解するのだった。そう、どうして、二年もの間、逃げ切ることができたのか?
「それは、私のことを味方だと思っているからだろう。傭兵という存在で護衛の任務、いや、ここでは私という存在とともにリースの競技場へと向かい、逆賊ランシュを討ち、私に仕えたいという思いがあるからでしょう。」
と、ハルギアは言う。
だけど、イルターシャにはわかっていることだ。嘘は通じないということを―…。
「天成獣の中にいるのよねぇ~。人の思考をおかしくするのが―…。そう、私も文献ぐらいでしか知らないけど、そういうタイプが存在するって―…。だけど、同じ幻同士、良い戦いになりそうね。」
と、イルターシャは言う。
イルターシャの言葉は、確信があるものだ。天成獣の中の幻の属性をもつものは、相手を錯覚させたり、視覚をおかしくしたり、惑わせたりと、直接攻撃というよりも精神的な攻撃を主にしている。そして、イルターシャも幻の属性である以上、幻に関してはある程度知っているのだ。その中に、こういうように相手の考えを誤認させることを得意とし、思考を支配するような方法をとるのが―…。
「クククククククククククク、気づいているのかよ。ならば、お前を洗脳させてしまえばいいだけのことだ。」
と、ハルギアは逃げるのではなく、戦う姿勢を示すのだった。
逃げるという選択肢はないわけではないが、自らが不利だと悟ってはいないのだから逃げる理由が存在していない。
そう、女がイルターシャであることに気づかないままに―…。
第132話-5 生きるという道に終わりがあるのだとすれば、この世の生を終える時だ。だけど、今ではないはずだ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
『水晶』の第132話流れ次第で、最終章の流れが少し変わりそうです。私個人のことでしかありませんが―…。
では―…。