第132話-2 生きるという道に終わりがあるのだとすれば、この世の生を終える時だ。だけど、今ではないはずだ
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
今日の投稿で、第6部が完結します。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、リーンウルネがリースの競技場に登場し、アングリアと対峙するのだった。
「悔しそうな顔をして―…。二年間の努力とやらがさぞ残念な結果になったことじゃろう。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネにとっては、ざまぁみろ、と言った感じだ。
アングリアは、これまで自らの生まれた家の地位に胡坐を欠き、何も自分を成長させることができなかったのだ。そんな人間が、結局、相応しくない地位に就けば、その属している組織をも衰退させかねない。
だが、そのようなことが発生していないということは、ラーンドル商会という組織がアングリア程度の雑魚だけでものともしないともいえるが―…。
だけど、アングリアに対する不満が溜まっていくということは避けられない。
「残念な結果―…。そんなわけがない。現に、俺は、この競技場にいる者たちを傭兵と俺らのいる場所以外は確実に殺せるほどの兵器を利用させてもらった。だから、リースの競技場は、貴賓席と傭兵以外は誰も生き残っていない。残念だったな。俺は競技場の外に出て、ランシュが第十回戦に負けた腹いせに兵器を用いて自爆したということでも外に言えば―…。ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、これで、俺がリースの実権を握る。リーンウルネのような田舎もんごときが俺様に対抗することなんぞできやしない!!! 誰がレグニエド王の妃にした!!! 誰がお前の家の領土を賑わせるようにしたぁ~!!! それは、俺のラーンドル商会だろうが!!! わかってるのか!!!! 逐一、反抗しやがって―…。」
と、アングリアは言う。
アングリアは、勝利を確信している。
リーンウルネは今、一人でしかいないのだから、アングリアにいくら反抗的なことをしようが、説得力などありはしない。ゆえに、リースの実権はアングリアの元に戻ってくるのだと思っている。
さらに、リーンウルネのような存在をアングリアは気に食わなかった。リーンウルネがリース王国の国王であったレグニエドとの結婚ができたのは、ラーンドル一派がおかげであることに間違いはないし、追加して言うのであれば、リーンウルネの実家が栄えるようになったのはラーンドル商会が領主に対して、莫大な婚資を渡したからだ。そのように、アングリアは思っていて、リーンウルネの前で言葉にしてしまっているのだ。
だけど、リーンウルネはレグニエドとの結婚後、その恩を仇でも返すかのように、ラーンドル一派に対抗する勢力を気づきあげてきて、あろうことか、反抗してきたのだ。アングリアにとっては許せることではない。そのような気持ちがアングリアに存在し、リーンウルネがアングリアの言うことを聞かないことに苛立つを本人目の前にぶつけるのだった。
だけど、アングリアの抱いていた勝利に対する都合の良い希望というものは、簡単に砕かれていくものでしかなかった。
「そうか、儂では対抗できない。というか、爆発したところで、この競技場の中にいる観客が死ぬことはないじゃろ。」
と、リーンウルネは言う。
これは、確信を持って言えることだ。
自信満々という表現も可能なぐらいに―…。
そして、リーンウルネ対するアングリアの悪口の方は、無視して―…。
「いやいや、何を言っているんだ。リーンウルネ。頭でもおかしくなったのか。俺の使った兵器で、特別な道具を持っていなければ防ぐことはできない。なのに、観客が死ぬことがない。ふざけたことを言うのも大概にした方がいい。やっぱり歳をとったのだな。早すぎるがボケが始まってる。修道院の中で隠棲するのをお勧めする。」
と、アングリアは嘲笑いながら言う。
アングリアにとって、リーンウルネのさっきの言葉はまるで意味のないものと感じさせる。なぜなら、アングリアが使った兵器は、説明によれば、防ぐ道具がなければ、人など簡単に爆発で死んでしまうほどなのだ。
その説明を信じるか信じないかを決めるのはアングリア自身であり、アングリアは、自らにとって都合が良いので、その説明を受けた時に信じたのである。
そして、見事に爆発力を発揮しているので、成功したと確信している。リーンウルネが何を言おうとも、負け犬の遠吠えでしかない。
だからこそ、リーンウルネをアングリアは、ボケてしまったのだと思い、馬鹿にするのだった。
だけど―…、
「何を言っているんだ。儂はボケてはいないぞ。それに観客席や中央の舞台の方をしっかりと見た方がいい。アングリア、お主が使ったものがちゃんと効いているのか、を―…。」
と、リーンウルネは挑発するかのように言うのだった。
リーンウルネにとっては、アングリアは大事な点を見落としていることに気づかないほどのアホだということを、改めて思ってしまうほどだった。
そして、リーンウルネに言われたアングリアは、リーンウルネを警戒しながら、観客席や中央の舞台の方へと視線を向ける。
そうすると―…、
「!!!」
と、アングリアは驚くのだった。
驚かずにはいられるはずがない。
アングリアが望んでいたことは、セルティーがランシュの身柄引き渡しの要求を断ってきて、意見が変わらないので、リースの競技場ごと破壊して、それをランシュの自暴自棄によってなされたことにし、セルティーがそれに巻き込まれて亡くなったことにもして、アングリアがリースの政権を握るというものであった。
セルティー以外の王族を探すという手間が、この場合かかってしまうだろうが、見つからなければ、アングリア自身が王のように振舞えばいいのだから―…。
そう、その望んでいる結果になっているとアングリアは、思っていた。
そんなことはあり得なかったのだ。
「………………何で、何も……………破壊………されて……いない……………………ん…………だ。」
と、アングリアは、やっとことで口を動かし、喋る。
動揺以外に何をすれば良いというのか。
そう―…、
「どうして競技場は、何も破壊されていなんだ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
と、アングリアは叫び出す。
アングリアの思い通りになっていない。なるはずもなく、失敗と言っても過言ではない結果になっていた。
「ふむ。」
と、リーンウルネは言いながら、アングリアの横に来て、中央の舞台や観客席の方を見やるのだった。
そして、リーンウルネは言葉を続ける。
「儂が天成獣の宿っている武器を扱うことは知っておるはずじゃの~う、アングリア。儂がレグニエド王の所に嫁ぐ時には、すでに、扱っておったからの~う。ラーンドル一派は、知っておるはずじゃ。儂の天成獣の能力は、攻撃をすることは一切できないが、何者からも守ることに長けているのだということを―…。」
と。
リーンウルネは、自身の天成獣は相手に攻撃するということはできないが、守ることに関しては、絶対的な強者とも言ってもおかしくない力を発揮する。多くの天成獣を扱っている者たちが、攻撃を防御するのに力の量の消費を平均一だと仮定した場合、リーンウルネは同程度のことを二十分の一ぐらいの消費量で済む。
そのリスクなのかはわからないが、攻撃することはできないという感じになっているのだろう。
そして、リースの競技場は、リーンウルネの天成獣の力を用いて、バリアを形成し守ることに成功したのだ。
これは、リーンウルネの勘にほかならないし、瑠璃が勝利した時点で、アングリアが何かを仕掛けてくる以上、バリアを張っておく必要がある。そのために、フロッドから居場所を聞き出した後、素早く競技場へと移動したのだ。そこに、王族のイメージで浮かびそうなお淑やかさなど存在せずに―…、天成獣の力をフルに使って―…。
そして、何とか爆発する前に到着し、光るのを見て、勘で危険を判断し、バリアを張ったというわけだ。
さて、話は貴賓室の場面で、アングリアの動揺している所だ。
(クソッ!!! リーンウルネは天成獣を扱うことができた。修道院ですっかりと大人しくしていたせいで、完全にどうでも良いことの方に分類してしまっていた。ランシュ失墜への準備の方に時間をかけすぎた。)
と、アングリアは、少しずつ心の中で、冷静になるのだった。
だけど、悔しさが抜けるということはなかった。
一方で、中央の舞台。
「何、さっきの爆発!!! 死ぬかと思ったぁ~。」
と、瑠璃は言う。
瑠璃としては、急に爆発したために、赤の水晶を展開するという判断を下すことができず、自らの生を終えたのではないかと思っていたのだ。折角、血の繋がった両親や姉に再会することができたのに―…。瑠璃としては、初めて意識的に会うということになるのだが―…。
そして、瑠璃は、爆風の後、視界が開ける段階で、自らの生の終わりということがないかと、右手で指を抓ったほどだ。痛みがあったので、生きているという感じを抱くことができた。
瑠璃は、そして、ある透明なものに気づく。
「あれは―…。もしかして―…、あの透明なのがバリアの役割をしたの?」
と、瑠璃は言う。
その疑問に関して、クローナが答えるように言う。
「瑠璃の言っていることは正しいと思う。私も白の水晶でバリアを展開しようとする瞬間に、爆発したから、私以外守れないのではないかと思った。それよりも、どうして、こんなに大きなバリアを展開することができたの。爆発する前はなかったはずなのに―…。」
と。
クローナとしても、瑠璃が疑問に思っていることに対して、答えることは可能であるが、どうやって、このバリアが発生したのかはわからない。リースの競技場の中にあるシステムの一つかもしれないし、誰かバリアを形成することができるかもしれない天成獣を使ったのかもしれないし、ローが何かをしたのかもしれない。
このように、可能性として考えられる方法は、いくつかあろう。クローナが思い浮かぶのは、以上の三つであったが―…。
「私としても、危機を感じていましたが、どうすることもできないうちに、爆発してしまいました。」
と、李章は悔しそうな表情をする。
李章としては、緑の水晶を用いれば、すぐにでも、このような危機に気づいて、何とかすることはできると思っていた。
だけど、アングリアの持っていた光るものは、ローが過去に戦っているデータの中に、予知したかのように攻撃してきたことの理由を考えて、研究を重ね、緑の水晶が反応できないほどの爆発物を作ったのだ。光という視線を一時的にでも向けてしまうものを―…。
これは、李章の戦闘経験の不足によるところでもあり、これからの課題であることに間違いはない。
「しょうがないよ、李章君。今は生き残ることができたのだから―…。それに、今は、これからの状況を見守るしかないよ。」
と、瑠璃が言うと、李章、クローナは、貴賓席の方を見るのだった。
一方で、礼奈は、
(……………私たちは何とかあのバリアで命を守られたけど―…。一体、誰が―…。私たちには、私たちが知らない味方がいるということなのだろうか?)
と、心の中で考える。
礼奈は、バリアを張った存在がリーンウルネであることを知らない。リーンウルネに関しては、礼奈も会ったことはあるが、リーンウルネが天成獣が宿っている武器を扱うことができるということは知らなかった。その情報を得る機会が存在しなかったのだから、仕方ないことである。
礼奈は、どこかにバリアを張った人物がいるのではないかと思い、周囲を観察していくのであった。
四角いリング。
そこにいたセルティーは驚くのだった。
驚かずにはいられない。
なぜなら、
「お母さま―…。どうして―…。」
と、セルティーは、貴賓室の方に視線を向けながら、自らの母であるリーンウルネがいるのを見つける。
そして、アングリアが用いた爆発物からどうして、自分達が生き残ったのかを理解する。
そう、
「お母さまが、天成獣の力を使われて、守ってくださったのです。」
と、セルティーは言う。
セルティーは、リーンウルネが持っている武器に宿っている天成獣の能力が防御に特化していることをリーンウルネから直接聞かされていたし、それを忘れることはなかった。
「ほぇ~、こんなに大きなバリアを展開できるなんて―…。よほど強い天成獣なんだ。だけど、これほどだとデメリットとかありそう―…。」
と、イルーナは言う。
イルーナは経験上のことでもあるし、知識としてもあるのだが、天成獣の能力が強力であればあるほど、制限みたいなのが存在したりする。イルーナの武器に宿っている天成獣は、そういうようなものはないので、実際に、他の天成獣の宿っている武器を扱っている者から聞くことしかできないが―…。
そして、ここで、例をあげるのであれば、瑠璃であろう。瑠璃の持っている仕込み杖に宿っている天成獣のグリエルは、技の威力が強力になるために、徐々に成長や、力のコントロールが可能な度合いでしか雷や光を出せないようにしている。これは、グリエルが自発的にしていることであるし、リーンウルネの天成獣のように特化しているのとは、違った一面で制限を科すこともあるというわけだ。
ここで、イルーナが考える制限とは、リーンウルネのように特化しているもののことである。
「お母様が言うには、攻撃をするための技がなく、攻撃ができないということです。その分、防御に関しては、私が知っている中で、一番上かもしれません。」
と、セルティーは言う。
セルティーは、リーンウルネの天成獣の力が防御に特化しており、どれだけ強力かを知っているので、経験上の説明をすることができる。
クローナの白の水晶も防御に関しては、強い力を発揮するが、それでも範囲という観点から言うと、リーンウルネの天成獣の方が上というのは事実だ。
まあ、それは、水晶には天成獣が宿っているわけでもなく、完璧な防御ということを念じられて、作られたわけではないのだから―…。攻撃から守ることができる、という願いを込めて作られているというのだから―…。
(これだけのバリアで、私たちの命を守ってみせた。アングリアとは比べるのが烏滸がましいほど、人の上に立つ器。)
と、イルーナは心の中で言う。
イルーナは、リーンウルネの人としての器量というものが、途轍もないものであることを認識するのだった。
第132話-3 生きるという道に終わりがあるのだとすれば、この世の生を終える時だ。だけど、今ではないはずだ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。