第132話-1 生きるという道に終わりがあるのだとすれば、この世の生を終える時だ。だけど、今ではないはずだ
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
アドレスは以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、アングリアが競技場ごと爆破させようとするが、それが失敗に終わり、リーンウルネが登場するのだった。
第132話も文章量と内容の追加や変更により、分割させていただきます。
時は戻る。
第十回戦第六試合が終了した後から時間がそれなりに経過した時。
場所は、修道院の中。
「顔を見ればわかる。勝ったのは、少女の方じゃな。」
と、リーンウルネは言う。
「なぜリーンウルネのような人が、このようにリース王国に忠実な者を捕まえて、尋問のような真似を―…。」
と、ハルギアに伝令を伝えるよう命じられたこの人物が言う。
この人物にとっては、リース王国の王族であり、二年前にレグニエドがランシュによって暗殺されている以上、アングリアとはランシュを倒すという観点では協力してもおかしくない。
それに、この人物はアングリアの命を受けてハルギアに伝令を伝える役割を担っているとわかっているはずだと思っていた。
だけど、リーンウルネはそのようなことを知っていたとしても、アングリアの味方になることはない。
たとえ、ランシュによってレグニエドが殺されたとしても―…。
「お主に残念な事を教えておこう。私としては、夫であったレグニエドが殺されたからと言って、身内感情のためにリースの国益を失うような判断をする気はない。それにの~う、アングリアが政権を奪取してしまえば、かつてのラーンドル一派が牛耳るリース王国の再来となり、リース王国に住む人々はしだいに生活環境を悪化させられ、国にとって危険な状態になる。国を救うとのようなことを言い始め、他国や他領を悪者にして、防衛という名を隠れ蓑にして侵略を開始、他国や他領に住む人々を虐げるような状態になる。それは、リースにとっても、他国や他領にとっても、決して良い結果にはならない。だから、儂は、アングリアの味方をせず、今回、リースを新たな体制に移行させる。」
と、リーンウルネは言う。
これは、リーンウルネの覚悟からなせるものである。
リーンウルネは、夫であるランシュのことを許せるという気持ちが存在するわけではない。いつか、その気持ちが爆発して、復讐へと走ったとしてもおかしくはないであろう。だが、それでは、結局、ランシュとやっていることに変わりはなく、復讐の連鎖を作り上げてしまうだけで、何も双方にとって良い結果になることはない。
復讐をせず耐えるというのは、結局は、物凄く辛く、精神的に苦難に満ちた選択でしかない。人は、勇敢な行動を褒め称えがちであるが、このように情けないと見えるかもしれない選択肢が実は損を最小限にすることがあり、そのことに対しては、褒めないどころか、罵倒さえする。
だからこそ、人は、他者の選択した背景をしっかりと理解しないといけないし、そういった面をある程度理解した上で、人の選択を評価しないといけない。
話がズレているように感じるが、リーンウルネの選択肢とはそういうものだ。
だけど、リーンウルネにとっては、ランシュの勝利よりも、瑠璃という少女が大将のチームの勝利の方が都合が良い。自らのなすべきことをする上では―…。
リーンウルネは、アングリアからハルギアに伝令を伝えるように命令されたこの人物の目の前に行く。
「リーンウルネ様。そのようなことをすれば、あなたの身に―…。」
と、修道院の中にいる、一人の人物が言う。
この人物は、最近、リーンウルネに接するようになった人物で、リーンウルネの持っている武器に宿っている天成獣のことを知らない。ゆえに、心配して言ってしまうのであるが―…。
「大丈夫じゃ。儂に危害を加えることはできない。毒であってもの~う。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネは、近づき―…、
「お主が輝ける場所は、アングリアの所ではない。新たな体制のもとで、だ。安心せい。お主が殺されることはない。殺すことが目的ではないしの~う。そして、ラーンドル一派は今日、崩壊するのだから―…。」
と、続けて言う。
リーンウルネは、確実に、今日、この日をおいて、ラーンドル一派は確実に崩壊すると思っている。未来のことを確実というのは、可笑しなことというか、確定しているかのように言うのは不自然なことでしかない。人が未来を覗き見ることはできないのだから―…。
だけど、リーンウルネにはそうなるような勘がしてならなかった。根拠というものを示せと言われれば、私の勘としか示すことはできず、証拠にならないと思われるのが関の山だ。
そういうわけで、証拠を示せと言っても、示すことはできないし、信じてもらうことはできない。まあ、リーンウルネに協力している者たちは、別であろうが―…。
「何を言っているのですか。ランシュは倒されましたし、ランシュの率いているチームの体力も―…。」
と、この人物は言う。
この人物は、実際に瑠璃チームとランシュの率いるチームの第十回戦の試合を見ている以上、ランシュが戦える状態ではないし、ランシュ以外のメンバーも戦闘をおこなうことはほぼ難しいし、ラーンドル商会が雇った傭兵を用いれば、ランシュなんて簡単に殺せてしまうほどになっているのだ。
「重要な点に気づいていないようじゃな。儂は、こう思うておる。セルティーはアングリアの側につかない。最近、リースの城の中に、魔術師ローがいるようじゃし―…。ならば、ローとそれに近い者たちは、クルバト町の虐殺の本当の原因、ランシュのレグニエド王への復讐の動機をしっかりと知っている者たちがおるから確認をとることはできるの~う。儂が、セルティーにランシュがレグニエド王を殺そうとした原因であるクルバト町の虐殺の本当の理由を教えている。一回だけ、儂のところにセルティーが来たのだから―…。その点を見過ごしてしまうとは、ラーンドル一派も馬鹿としか言いようがない。悪い意味での。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネは、実際に、セルティーと瑠璃、礼奈が一度、この修道院に訪れていることを知っている。セルティー、瑠璃、礼奈が誰を目的に修道院を訪問したか明白だ。そう、リーンウルネである。
そして、どのようなことを聞いてくるのかのうちの一つに、レグニエドを暗殺したランシュはどのような理由でそのような行為に及んだのか。それぐらい簡単に想像ができるだろう。
だけど、その情報がアングリアへともたらされることはなかった。もたらされるはずはないのだから―…。ラーンドル一派の中に裏切り者がいるのだから―…。リーンウルネとこの時期からすでに協力関係にあったのだ。
そして、この人物は、ラーンドル一派がどうして馬鹿にされるのかはいまだにわからない。
だが、それも分かる時が来る。
「まだ、わからぬということじゃの~う。お主は最初から、儂のところに来ることになっていた。手荒な真似であるのは致し方ないことだが―…。そして、アングリアの味方は競技場の中にはほとんどいない。傭兵すら敵なのじゃからの~う。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネは、ラーンドル一派の裏切り者たちと協力関係を築いているので、ラーンドル一派がどのように行動をとるのかその人物から簡単に情報が流れてくるのだ。
流れてきた情報の真偽も確かめてはいるが、その真偽の結果は、真実であるということであり、情報を流してくる者は信用できる。
そして、ラーンドル一派の裏切り者から流された情報で、ハルギアが集めた兵を用いて、第十回戦終了後、弱りきったランシュを狙って、襲い、殺すことによって、アングリアたちが再度、リースにおける実権を掌握するという計画があることを知った。
そこで、リーンウルネは、自らの知り合いであり、かつ、昔、リーンウルネがリース王国に嫁ぐ前に一緒に遊んだ弟分が隊長を勤めている人物をアングリアやハルギアたちの計画に組み込むように、ラーンドル一派の裏切り者に話を持ち掛けたのだった。
そして、ラーンドル一派の裏切り者もそのリーンウルネの話を受けて、それをアングリアに進言し、採用されるにいたったのだ。
(傭兵すら敵って―…。まさか―…。)
と、ハルギアに伝令を伝えるように命じられたこの人物は心の中であることに気づく。
「競技場の中にいる傭兵は、全員―…。」
と、この人物は言葉にし、リーンウルネはこの人物がようやくあることに気づいたことに対して、微笑むのだった。
その微笑みは、アングリアの下にいるべきではないな、ということを確信させるものであったが―…。
「そうだ。競技場にいるのは、アングリアのような奴の味方ではなくて、敵だ。」
と、リーンウルネは言い、続けて、
「じゃが、時間もない。さっさとハルギアのいる場所を教えてくるかの~う。有無は言わさん。」
と、言う。
だけど、リーンウルネの周りにいる者たちは、心の中で―…、
(いや、リーンウルネ様の話が長すぎるんですよ。)
と、ツッコミを入れるが、誰も意見を言わなかった。
リーンウルネの話が長いのは、いつものことであり、そのことで、失敗することは今までに一度もなかったのだ。
時間が必要な時は、さっさと用件を尋ねるだろうし―…。脅しともとられても仕方ないものを―…。
そして、ハルギアへと命令を伝えるように命じられたこの人物は、
(ここで嘘の情報を教えても良い。だけど、それで、私の命のピンチを切り抜けることはできない。どうする―…。)
と、心の中でこの人物が思っている時、セルティーはこの人物のところへと近づき、言うのだった。
「ラーンドル一派の裏切り者は―…。」
「えっ。」
リーンウルネの一言に、驚くしかなかった。
この人物にとっては、あり得ないことであった。まさか、あの人物がラーンドル一派を裏切るなんて―…。
だからこそ、この人物は―…、
「話します。ハルギアはリースの港湾にある倉庫街のラーンドル商会が所有している場所に、ハルギア自身が兵とともいます。」
と、ハルギアの居場所を吐くのだった。
この人物にしてみれば、動揺でしかないこともあるが、同時に、ラーンドル一派を裏切った者がどうして裏切ったのか、その理由を考えるので、頭がいっぱいだったのだ。
その頭の混乱は、簡単に、おさまるものではないのは明らかだ。
「そういうことじゃ。イロール、お主はリースの騎士団の一部を率いて、さっき自白したハルギアがいるという場所に向かってくれ。くれぐれも、無茶せず、手堅い方法でハルギアを拘束および部隊の鎮圧を―…。そして、私とともに、リースの騎士団団長、フロッドは、リースの競技場へと急いで向かうぞ。」
と、リーンウルネは言う。
そして、フロッドというのは、ハルギアに伝令へと伝えるように命じられたこの人物の名である。
なぜ、リーンウルネがフロッドの名前を知っているのか。それは、リーンウルネがラーンドル一派の裏切り者から情報を得ていたからだ。そう、伝令を送る可能性が高い人物を―…。
リーンウルネは続けて、
「真相はその目で確かめるに限っておろう。アングリアとか言う人物がどれだけ愚かで、他者も未来を破滅させかないかの~う。」
と、言う。
この言葉の言っている意味のすべてを理解することは、フロッドにはできなかった。
リーンウルネという人物は、他の人よりも先を見ることができるということに長けているせいであろう。
そして、リーンウルネ、リースの騎士団団長、フロッドは、リースの競技場へと向かうのだった。
イロールは、ハルギアのいるとされる港湾の倉庫街へと騎士団を率いて行くのだった。
(フフ、ランシュ様ではなくて、あの少女の方が勝ったみたい―…。どうなることやら―…。)
と、イロールは心の中で言いながら―…。
「なぜ、貴様がここに―…。」
リースの競技場。
その中でも、観客席の中で一番高い場所にある貴賓室。
そこには、今日の第十回戦が始まる前からアングリアたちがいる。
そして、今、ここに新たな人物が現れるのだった。
そう、リーンウルネである。
そして、リーンウルネは、アングリアのさっきの言葉の一部を繰り返す。
その言葉をリーンウルネが言った後、少しの間を開けて、言葉を続けるのだった。
「それは、聞いたからじゃ。親切に自白してくれた伝令役の人からの~う。」
と、リーンウルネは微笑みながら言う。
その笑みは、アングリアという存在を馬鹿にしたものであった。リーンウルネにとっては、アングリアの存在に、絶対に権力を握らせるようなことをしてはならず、もしも権力を握らせてしまえば、ろくな結果にならないのはわかりきっている。
それに、アングリアという存在は、可哀想なぐらいに、アングリアにとって成長するために必要な経験をさせてもらえなかったのだろう。いくら才能のある人物であっても、その才能に気づき、磨かなければ、決して、その才能は本当の意味で開花することはないのだから―…。さらに、付け加えるなら、人は自らのことを全部知ることはできないであろうし、知らないということも同様にできないし、他者が自分というものにおいてもそうである。
「クソッ!!」
(捕まってんじゃねぇーぞ!!! 俺がランシュからリースの権力を掌握した暁には、ぶっ殺してやる。)
と、アングリアは、悔しそうな表情をするのだった。
そして、リーンウルネとアングリアは、対峙するのだった。
【第132話 生きるという道に終わりがあるのだとすれば、この世の生を終える時だ。だけど、今ではないはずだ】
第132話-2 生きるという道に終わりがあるのだとすれば、この世の生を終える時だ。だけど、今ではないはずだ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第132話は、第131話よりも分割量が多くなるのではないかと思います。ハルギアとの間のねぇ~。というのもあり、長さを感じています。それでも、何とか必死なのかわかりませんが、頑張っています。私自身の感覚では―…。
『水晶』の投稿も300回を超え、良くここまでできた私ながらに思います。最初は、色々あって、なかなか毎日投稿するようなことはできませんでしたし、今もできてはいませんが―…。毎日投稿は、カクヨムの『ウィザーズ コンダクター』との関係で、これからもほぼ無理だと思っています。それでも、『水晶』の最終回までは無理せずに頑張って仕上げてみたいと思います。このままいくと、『水晶』の総文字数が軽く1000万字を超えるのは間違いなさそうです。何十年かかることやら―…。
『ウィザーズ コンダクター』の方は、200万から300万文字数の間で完結させることはできると思いますが―…。
『水晶』のネームも進めていくペースがゆっくりだなとも最近は思っています。十数年前だったら、三時間ぐらいで一話という感じで書けていますが、集中力が続かず、一時間で二から三ページぐらいになる時が最近は多いです。他との兼ね合いもあるので、ひと月に一話できれば良い方な感じになっています。
執筆の文章量が想定よりも増加していることにより、ネームに追いつくペースは緩やかになっているので、判断が難しいですが―…。
さて、『水晶』のリースの章も佳境に入り、あと100回の更新はかからずに終わると思いたいです(番外編も含めて―…)。次の章から、新たな大陸へ―…、そして、ある人物の活躍も描けます。残酷な話も含めて―…。次の大きな章が終われば、第1編の最終章です。
ということで、後書きが長くなってしまいましたが、『水晶』に関しては、ゆっくりかもしれませんが、無理せずに自分なりに頑張っていきます。
では―…。