第131話-4 目的達成したと思っていたけど
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
アドレスは以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ハルギアへ伝えられる命令は、何者かによって遮られたように感じるが、別の人物(?)が辿り着くのであった。一方で、アングリアは、セルティー向かって、ランシュの身柄引き渡しを要求するのであるが―…。
次回で、第131話は完成します。
時が数十分ほど戻る。
一方のとある場所。
すでに、一回、前に登場した場所。
そこでは、情報を聞き出されていた。
「うむ、お主を別にとって食おうとしてわけでも、殺したいわけでもない。お前は、元々、ハルギアのようなところではなく、儂の所へ来ることになっていた。」
と、修道女の服を着た女が言う。
そして、このハルギアへと伝令を伝えるように言われた人物は、その修道女の服を着た思われる女の存在があまりにも有名すぎることに、驚くのだった。
「何で―…。」
と、この人物は驚きと、動揺を見せる。
「じゃあ、どっちが勝ったかのか。ランシュか、それとも勝負を受けた少女の方か―…。」
と、女は言いながら、笑みを浮かべるのだった。
ランシュは強いし、瑠璃チームが勝てる可能性はかなり低いものであるが、結果はむしろ逆になるのではないかと思っていた。
その結果、今は知らないが、当たりなのではないかと推測するぐらいはできる。
そして―…。
リースの中にある競技場。
「ほ~う、俺の要求を断るということですか。セルティー王女は―…。」
と、アングリアは冷静に言う。
だけど、その冷静さとは裏腹に、苛立つ表情を隠すことはできないでいた。
アングリアは、セルティーがランシュを恨んでいることを知っているので、ランシュから実権を奪おうとするアングリア側の味方をするのかと思っていた。
そして、セルティーの方へと、イルーナがやってきて、
「あ~、アングリアの誘いを断って正解。私も聞いたことがあるんだけど、実はかなり裏で人には言えないことをしているみたいよ。後、性格も最悪かな。我が儘で、何でも自分の思い通りにならないとすぐに、文句を言ってきそうで―…。こういう奴の所で成功するのは一部だし、セルティー王女がこれから統治していくリースに一番いらないと思う。」
と、耳打ちするどころか、大きな声で言うのだった。
アングリアに聞こえるように―…。
これは、明らかな挑発だ。それ以上の言葉にする必要はない。イルーナとしては、このような人物が、ろくでもない奴だということは感覚的にわかってしまうものだ。さらに、イルーナは、リースの状況に関しては、第九回戦と第十回戦の間に、リースの最近の動向がどうなっているのかを調べたり、ローから聞くことによって、大体把握することができた。
要は、リースは、商業国家であり、二年前に王であったレグニエドがランシュによって暗殺されて以後、ランシュがリースの実権を掌握していたが、商売という面での経済的な実力はラーンドル商会が強いことに変わりがなかったということだ。
さらに、ラーンドル商会のトップであるアングリアの噂は、ろくでもないものが多かった。それは、露店を経営している商人から会話、次いで、コソコソ話から仕入れることができた。まあ、どこでもここでもラーンドル商会に与する人間が見張っているわけではないのだから―…。
そういう意味では、噂というものを広げることは可能であり、その恩恵をイルーナが受けたとも言うことができる。
その噂とローの話、見た感じの雰囲気から判断すれば、完全にろくでもない奴だし、リースにとっては邪魔な存在でしかないということは、はっきりと理解できてしまう。
それは、イルーナが人を見る目があるという、超能力ではないが、それでも人として生きていくうえで必要な能力を持っていることに起因することを排除することはできないし、大きな役割であると言えば、肯定せざるをえない。
そうであるが上に、イルーナは、同時に、こういう人物には大きな声で言って、煽っておく必要があるのだ。簡単に暴発するのだから―…。
「はあ、ありがとうございます。」
と、セルティーは、イルーナに感謝する。
セルティーとしては、どうして、自分の行動を褒められているのかを完全に理解することはできなかった。それでも、褒められるのであれば、嬉しい気持ちになるし、感謝もしたくなるものだ。
「それに―…、理由をはっきりと言ってやりなさい。その方が、ああいう奴には、効果てきめんだから―…。」
と、イルーナは言う。
イルーナは、アングリアのような人間に、おべっかを使ったとしても、一文の得にならないどころか、返って、損しかしないということは勘ではあるが、わかってしまうものだ。アングリア、警戒、という意味で―…。
「はい。私は―…、これまで二年前、お父様が殺された時、どうして私の護衛であったランシュがお父様を殺したのか理由を探ろうとしませんでした。お父様が殺されたという出来事のショックで、恨みだけが募り、その気持ちが先行して、いつの日か、ランシュに復讐しようとしていました。だけど、瑠璃さんにそのことを話し、その後、お母さまのいる教会へと行って、実際に、ランシュがどうして父を殺そうとしたのか理由を知りました。ランシュは、クルバト町という十数年前、私のお父様が討伐の命令を出し、無実の罪で滅ぼされた町の唯一の生き残りです。そう、お父様は当時のアルデルダ領の領主で、後にミラング共和国のトップの座に就いたエルゲルダの讒言に乗せられてしまったのです。だからこそ、お父様が殺されたことは仕方ないという思いもあるけど、ランシュには人を殺した罪を背負ってもらいます。その罪を課すのは、ラーンドル商会のトップであるアングリアでも、私のお父様であるレグニエド王でもありません。そして、私でもありません。罪を科すのは、ランシュ自身です。王族とラーンドル一派がクルバト町の事件に関係している以上、ランシュを裁く資格などありはしません。そうである以上、ラーンドル商会にランシュを引き渡すつもりは断固としてありえません。理解のほどお願いいたします、アングリア。」
と、セルティーは、言っている言葉が終わると、アングリアに向かって頭を下げる。
セルティーの気持ちは、あくまでも、ランシュに罪を科すことができるのはランシュ自身でしかない。
なぜなら、ランシュがレグニエドを殺そうとしたのは、クルバト町をエルゲルダによって燃やされたことによるものであり、レグニエドがそれに協力したことによるからである。そうなってくると、その原因を作ったリースがランシュを裁くというのは、結局は、報復でしかなく、決して、クルバト町の虐殺による問題を根本から解決したことにはならない。だからこそ、ランシュ自身に罪を科すということをセルティーは選択するのである。これからの未来において、双方が納得いく結果を手に入れるために―…。
それに、ラーンドル商会、いや、アングリアにランシュを引き渡したとしても、アングリアが報復として、殺すことはわかっている。
セルティー自身も、言葉だけでなく、自身でこっそりとリースに関して、再度学んだのだ。メイドに気づかれないように―…、第九回戦以後、ローから聞いて―…。修行の中でもあったので、多くの時間をそのことに費やすことはできなかったが―…。
その姿をあまりセルティー付きのメイドであるニーグとロメに見せないようにしていた。しかし、二人はしっかりと聞いており、止めようとも考えたが、セルティーの雰囲気から無理だと判断して止めなかったのだが―…。それをセルティーが知っているわけがないし、これからも知ることはないのかもしれない。
セルティーが頭を下げているのを見て、アングリアは―…、
(何だ、気持ち悪い。何がお願いしますだ。ランシュは、お前の父親を殺した大罪人であり、かつ、俺からリース王国の実権を奪いやがったこいつを、こいつ自身で裁かせるだと!! 馬鹿だろ、こいつ。ランシュが自らを裁くわけがないだろ。まあ、俺様の言葉で、セルティーぐらい説得することは可能だろう。)
と、アングリアは心の中で言う。
アングリアに打算が働いていた。
アングリアは、セルティーの言葉の中にあるランシュの罪をランシュ自身で裁かせるということを馬鹿らしいと思っていた。
これは、ある意味で正解というものである。だけど、セルティーは同時に罪を科すことはリースにもアングリアおよびラーンドル商会、さらにその範囲をこえてラーンドル一派にもできないということだ。それは、当事者もしくは当事者の親族、関係者である以上、ランシュに罪を科せば、それはただの報復にしかならないと、言っているのだ。
そう、第三者で公平な立場で見ることができるものか、もしくはランシュしかレグニエドの暗殺を裁くことはできないのだ。だけど、ランシュが自分の都合の良いようにすることを否定することはできない。
それでも、ここに第三者というものが本当の意味でいたとしても、ランシュを裁くことに積極的に参加するわけではないと思われるので、結局、ランシュ自身で裁くという結論になるし、罪を科すことになるのだ。
ランシュが、もしこの場面を意識を持って聞いているのなら、償いに関しては厳しくしていた可能性の方が高いだろう。ランシュは、罪滅ぼしという意識はもっていないが、ヒルバスとの約束で、レグニエド暗殺以後、リースの実権を掌握し、リースの繁栄のために、尽力はしているのだ。ラーンドル一派のように、過剰に自らの富にしないようにしながら―…。リースの多くの人々がその富に与れるように―…。
アングリアは言い始める。
「セルティー女王様。ランシュを我々に渡していただけなければ、確実に、女王様にとって不幸なことにしかなりません。ランシュは、必ずやセルティー女王様を殺しにきます。それを防ぐために、ランシュを我々に渡してくれれば、確実にランシュを二度と復讐させないようしますし、真っ当な人間になるでしょう。我々は、リースのためにずっと貢献してきているのですから―…。」
と。
アングリアは、ランシュの身柄が自らの所に引き渡された後、どうするのかはすでに決まっている。真っ当な人間にする。それは、ラーンドル一派にとって都合の良い展開に利用すると言う意味に他ならない。
(ランシュの身柄は、我々に引き渡された後は、我々の手で裁き、我々のために利用されねばならない。真っ当な人間になったので、自ら死にました、ということに―…。)
と、アングリアは心の中で言う。
これは、ランシュを真っ当にする気などアングリアにはなく、ランシュを殺し、真っ当な人間になったので、責任を感じて、命をもって自らの罪を償うようにしましたと、偽装することがアングリアの真の目的である。
本当に、都合よいようにするのに懸命というわけだ。
そういう目的であることは、すでにセルティーにも、イルーナにも、というか、ギーランやロー、アンバイドも気づいているのだ。
(たぶん、アングリアに引き渡せば、ランシュは無惨にも殺されるのは確実です。そこに裁判というものはなく、あるのはアングリアやその人たちにとって都合の良いことでしかありません。)
と、セルティーは心の中で思うのだった。
瑠璃に自らのランシュへの復讐と父親であるレグニエドが殺された二年前のことを話したことを契機に少しずつ変わっていたのかもしれない。というか、かもという言葉はここではいらないものであろう。
そして、イルーナがセルティーに今度はアングリアに聞こえないようにコソコソと言い始めるのだった。
「セルティー王女。あいつの目的は、ランシュの身柄を自らの手中にして、ランシュを殺して、その死因を偽装すること。だから、あの貴賓席にいる馬鹿の言う事は絶対に聞かないこと。今回は、毅然とした態度の方が一番上手くいきます。」
と、イルーナは言う。
イルーナは、アングリアがランシュの身柄を欲しがる理由が推測できるので、セルティーにランシュの身柄を渡すなと、言うのだった。セルティーがアングリアがランシュの身柄を欲しがる理由がわかっていない可能性も考慮して言ったのだ。
だけど、セルティーは、アングリアがランシュの身柄を欲しがる理由がろくでもないということには気づいているので、杞憂な事でしかないということなのだが、確認という意味では十分に意味のあったことであった。
「ええ、わかっています。」
と、セルティーは、アングリアに聞こえないようにして、イルーナに言うのだった。
「よかった。で、これから、この傭兵たちをどうやって切り抜けますか。私は戦えるけどこの数をギーランとアンバイドで戦うと言っても、なかなかに難しいし、あの貴賓室にいる傭兵の親玉と言える人物は、三人のうちの一人が確実に相手にしておかないといけないので、実質二人しか動かせません。」
と、イルーナは言う。
イルーナも戦闘経験がないかと言えば嘘になるし、戦うことには普通に慣れている。ここ十数年ほど、戦闘することがなかったので、感覚という面では鈍っているかもしれないが―…。
それでも、わかることは、傭兵隊長に対しては、確実に一人を割かないといけないし、動けるのはイルーナ、アンバイド、ギーランしかない。瑠璃、李章、礼奈、クローナは、ランシュチームとの戦いもあって、直接に天成獣の能力を用いて戦わせるわけにはいかない。水晶の力なら使わせるかもしれないが―…。一方で、アンバイドは少しだけ本気を出したということなので、十分に傭兵たちとも戦うことは可能であろう。アンバイドは実力者なのだから―…。
「そうですか―…。」
と、セルティーは、複雑な表情をするのだった。
その中で、一人の少女は冷静に今の状況を俯瞰していたのだ。
第131話-5 目的達成したと思っていたけど に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ここからはほぼネームとは違う内容となっており、次の章との接続が大変になっているような気がします。それでも、大きな変更ではないので、軌道修正は可能だと思っています。次の章のネーム以上の文章量の追加になりそうな予感がします。すでに、どこにいくかのヒントはかなり出ているのですが―…。
次回の投稿は、2022年5月18日頃を予定しています。理由は、その日になってみないと投稿できるかどうかが分からないからです。すでに、第131話-5はほぼ仕上がっており、執筆は第132話の方に入っているので、投稿しないということはほぼないと思います。急な予定変更があるかもしれないので、そこのところは了承をお願いいたします。
では―…。