第131話-3 目的達成したと思っていたけど
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
アドレスは以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝以上。
前回までの『水晶』は、ランシュが企画したゲームは瑠璃チームの勝利で終了することとなった。だけど、終了後、競技場では、ラーンドル一派がリースの実権を再度掌握するために行動を起こそうとしていた。その中心が、ラーンドル一派のトップであるアングリア、かつての副宰相だったハルギアであった。
場所は変わって、競技場の中。
ランシュチームの控室ではない。
厳密に言うと、競技場の中の関係者以外入れない場所の控室の一つ。
その中へと、メルギエンダの命を受けた者が、入っていく。
ここに傭兵隊長がいるからだ。
すでに、彼の部隊は、配置済みであり、この傭兵隊長の合図があれば、今すぐにでも動くことが可能である。
「メルギエンダ様の命でやってきました。」
「わかった入れ。」
傭兵隊長の声は、低く男性の声であり、渋く感じさせるものであった。声だけでも威厳があるのではないかと思わせるほどに―…。
そして、メルギエンダの命令を受けた者が、控室の中に入っていく。
そこは、白い壁が一面を覆っており、中央に机が一脚と、椅子が四脚あって、その椅子の一つに傭兵隊長は座っていた。
「今日の試合の方の決着は着いたのか。で、どっちのチームが勝利した。」
と、傭兵隊長は言う。
(現に、戦局を考えるのなら、ランシュチームの方が強いのは確定だろうし、勝敗を予想するのであれば―…。特殊ルールの採用のせいで、最終決戦まで勝敗が分からなくなってしまっているが、俺の予想に反して瑠璃チームの方が優位に進めているはずだ。ということは―…、考えるまでもないか。俺の予想と反した結果になったのだろう。)
と、心の中で考える。
傭兵隊長は、傭兵隊に入った時から戦闘の経験をかなりのほど積んでおり、権謀術数や、戦うべきことと回避すべき時を十分と言ってもいいほどに弁えている。そうしないと、戦争や戦闘では簡単に死んでしまうのだ。勇敢だけで生き残れるなら、どんだけ簡単な仕事であろうか。そんなわけない。
「瑠璃チームです。」
と、メルギエンダの命を受けた者は、今回の第十回戦の勝利チームを告げる。
その言葉に対して、傭兵隊長は素早く思考を巡らせ、作戦を考えるのだった。
(ったく―…、瑠璃チームが優位に進めているから、最初から作戦が狂っているんだよなぁ~。だけど、悪い方向の狂いではない。それに―…、アングリアとかいうラーンドル商会のお偉いさんの依頼か。まあ、あの人の勧めで引き受けたんだけどな。そして、あの人の作戦が実行に移される頃だろうなぁ~。あの人の方が、俺にとっては都合が良いのは確かだな。)
と、心の中で傭兵隊長は言うのだった。
この傭兵隊長が何を考えているのか、アングリアも理解できていないだろう。
すでに、事は始まってしまっているのだから―…。
王を裁くための神から下した天罰が―…。
そして―…、
「わかった。作戦はある。行こう。」
と、傭兵隊長は言うと、アングリアのいる場所へと向かうのだった。
メルギエンダの命を受けた者も、傭兵隊長とともに、アングリアやメルギエンダのいる貴賓室へと向かうのだった。
中央の舞台。
ランシュの治療がおこなわれている。
ランシュの治療をしているのは、ローである。
「ふむ、そろそろ治療の方は終えられるしの~う。それに、ベルグの居場所をこちらが把握しておく必要があるからの~う。後ろにいる―…。」
と、ローは言う。
「ボケてんじゃねぇ~よ。歳なんだから、冗談のボケでも本当にヤバいのではないかと思われるぞ。自分のことがどう見られているのか理解した方がいい。」
と、アンバイドは、治療中にローに向かって、さっきも似たようなことを言っているのではないか、とツッコミを入れるのだった。
アンバイドとしては、ローがボケていると困る者たちが多いのが事実であることを知っているし、このローという存在が例外的すぎるという理由が分かっている以上、どうしても本当の意味でボケられると困るのだ。ある能力を持っているがために―…。
(本当にこの婆は―…。存在そのもののが化け物と言ってもおかしくねぇ~。だけど、ローがいなければ俺らは存在できなかった。本当に―…。)
と、アンバイドは、心の中で思う。
詳しく述べることはここではできないが、アンバイドにここでの嘘というものの思考はない。アンバイドも嘘を付くことがあるだろうが、心の中での考えや思い巡らすことに関しては、ほとんどと言っていいほど嘘というものはない。
「そうじゃの~う。儂はあの存在を倒すまでは、死ぬ方法を見つけて、死ぬことすらできないのじゃ。いや、あの存在を倒す時に―…、儂は―…。」
と、ローは言う。
この言葉が何を意味するかは、今ここで教えることはできないが、ローという存在が人の中ではかなり特殊であり、ロー以外にできないということも数多くあるということだけは事実である。
ローの存在については、いずれ分かることだ。
「そういうことは俺の知ったことではない。治療の方はもう少しで終わるのか。」
「そうじゃの~う。もうそろそろという所じゃな。」
ローとアンバイドは、会話していった。
その近くでクローマは、ランシュが治療されている姿を眺めるのだった。
そうこうしているうちに、目を覚ましたヒルバスが向かってくるのだった。
「クローマ。試合の方はどうなりましたか。」
と、ヒルバスは声をはっきりとさせながら、早くクローマに尋ねるのだった。
そこに焦りというものが存在したことを否定することはできないだろう。
「俺らの負けだ。そして、ランシュは相手チーム側の老婆によって、治療中だ。」
と、クローマは第十回戦の勝利チームを告げる。
そして、同時に、第十回戦第六試合はランシュが負けたということをも間接的であるが、そうなのであるということを伝えるのだった。
その言葉を聞いたヒルバスは、
「そんな―…、ランシュ様が負けるなんて―…。」
と、嘘であってほしいという気持ちになり、クローマの方を見るが、クローマは首を横にふる。
そう、クローマはヒルバスが思っていることを察し、それを否定したのだ。結果は、ランシュが瑠璃に敗北したのであり、その事実はそこから過去のある一点を本当の意味で変えられないということなのだ。過去を間違ったように変えることは可能であるが―…、そのように逃避していくような考えが、決して、良い結果を招くことはないだろうということは、クローマも推測することができることであった。
それを信じ込ますことで、逃避したとしても、それを世界というものが許してくれるはずがないのだから―…。
そして、クローマは、
「事実は受け入れるしかない。むしろ、敵側に情けをかけられている以上、俺らはその善意に対して、敵の本当の意味での利益のために報いざるをえない。」
と、言う。
クローマとしては、自らが敗北している以上、勝者に何をされても文句を言えないということがわかっている。だけど、敵があまりにも横暴なことをしてくるのであれば、必死に抵抗していたことであろう。
だけど、敵である瑠璃チームの側は、敵の利益のためであろうことは確かだが、それでも情けというのかは分かれるところであるが、ランシュを治療されている以上、その恩には真の意味で報いる必要があるのだ。
恩を仇で返すことはもちろんできるであろうが、そのようなことをすれば、どこで自分達に返ってくるのかわからない。それなら、恩を仇ではなく、恩で返す方が最悪の結果を和らげられるというものだ。
人を殺すことがあったとしても、善意がないというわけではない。好きで殺人を犯しているわけではないのだから―…。それなら、自分の利益のために人を殺すことを命令している人たちの方が、よっぽど殺人を好んでいるのかと、クローマは思ってしまうぐらいだ。
「………。」
ヒルバスは言葉にすることができなかった。
心の中で葛藤があるのだろう。ランシュが負けたはずはないとか、瑠璃が卑怯なことしたのだとか―…。
それでも、瑠璃チームがそのような事をしてくる可能性は低いと思える。なぜなら、これまでの戦いを見ている限り、卑怯な事をして勝利をしたということがない以上―…。
ランシュの敗北は、ヒルバスによってショックな出来事でしかない。それは、間違いのないことだ。
「すぐに受け入れるのは難しいか。ヒルバス、お前はランシュとかなり昔から仲が良かったからなぁ~。ランシュの異常な強さを目の当たりにしているのだ。」
と、クローマは、ヒルバスの気持ちを察する。
そうこうしているうちに、メルフェルドもやってくる。
「ヒルバスさん。ランシュさんが敗北したのは事実です。卑怯な事もしていません。私も見ていましたから―…。」
と、メルフェルドは言う。
メルフェルドもランシュの敗北には、衝撃的なものを感じているが、それでも目の前で敗北を見た以上、否が応でも認めざるを得ないということを突きつけられたのだ。そういうことなので、ショックという衝撃的な映像を残すことになるが、前を向くことができている。
メルフェルドの性格によるものと言われてしまえば、その通りとしか答えるしかない。
「そうですか。」
と、ヒルバスの方も受け入れるしかないと理解するのだった。
そして、ランシュがどうか無事であることを祈ることしかできない。
そんななかで、ローは治療を終えようとした時―…。
「あ~、野郎ども。そろそろ動いていい時間だぜ。こっちとしても一般人を人質としたくはないんだがな。ということで、大人しくしてもらって、目立ちたがり屋の依頼主の要求を聞き入れてもらうぜ。」
と、何かの声がする。
その人物は、アングリアのいる貴賓室からだ。
そして、一斉にその人物へと視線を向けると、競技場のすべてに声を響き渡らせることができるものを持った傭兵隊長の姿があった。
その傭兵隊長の言葉とともに、観客席の中にいた傭兵隊たちが、素早く剣や槍などの武器を構え、それを純粋に今日の試合を観戦していた観客たちに向けるのだった。
それでも、彼らは、あくまでも威嚇行為で抑えており、本気で殺すような動作もしていないし、観客に触れない程度に構えていた。
そして、観客は、叫び声をあげようとするも、威嚇のせいで、声をあげることすらできないでいた。
「アングリア様、要求を―…。」
と、メルギエンダが言うのだった。
アングリアは、中央の舞台および四角いリングの方へと視線を向け、声を発するのだった。
「瑠璃チーム、ランシュに勝利をしてくれてありがとう。ランシュの回復をやっているだろうが、それは無意味だ。リースの実権は我々のものへとなった。そして、セルティー王女、いや、女王、即位おめでとう。二年前、無念にもそこにいる逆賊のランシュを一人の少女によって、あなたの父上、レグニエド王の無念を晴らすことが見事にできました。だから、今度は我々がリースの実権を握り、リース、いや、リース王国の繁栄を築いて見せましょう。では、反逆者ランシュをここで殺してしまいましょう。さあ―…、さあ―…。」
と、アングリアはセルティーに向かって言う。
アングリアとしては簡単なことだ。
ランシュは、二年前にリース王国の国王であるレグニエド王を殺し、不法に実権を掌握した逆賊にすぎず、ラーンドル一派にとってはランシュという存在が邪魔で仕方ないのだ。そして、ランシュが倒されたのを機に、一気にリース、いや、リース王国における実権をラーンドル一派のもとへ戻したいということだ。
これは、ちゃんとリースの歴史を知っている一部の者たちであれば、しっかりと理解できることだ。
だけど、そのようなことを知らない者たちにとっては、ランシュこそ逆賊だと見なし、ラーンドル一派は忠義に厚い者たちに見えてしまうであろう。
セルティーは、
「………………私は―………。」
と、言いながらも、黙り込んでしまう。
(あの男は、アングリアか。ならば、考えられることはリースにおける実権を再度、自分達のものにすることだろう。また、好き放題にリースの富を搾取する気か。どこまで、腐っているんだ。)
と、ギーランが心の中で言う。
ギーランとしては、アングリアという人間どういう人物であるかは、ローとともに旅をしていた関係で知っていた。アングリアの評判が決して良くないということは知られていた。横柄な態度とか、我が儘だという性格が、アングリアの評判をマイナスにしているのに―…。それをアングリアは理解しようとしない。ギーランはそのようにアングリアのさっきの言葉から、よりそのように思うことができるし、かつ、リースの人々が稼いだ富を搾取して、自分のために使うということが予想できるし、確定と言ってもおかしくはないのだ。
ゆえに、アングリアという人間性が、どうしようもなく救いようがなく、腐っているとさえ心の中で言ってしまうほどなのだ。
一方で、アンバイドは興味なく、アングリアを見るのであった。
(ふ~む、あやつがリース王国で二年前まで実権を握っていたラーンドル何たらかんたらのグループを率いている首領か。馬鹿じゃの―…。)
と、ローは心の中で言う。
ローも長い人生で経験を積んでいることもあるが、その経験の内容というものが国の情勢や栄枯盛衰などのような面に直接もしくは間接にも実際に見てきている以上、ある程度の経験則というか人を見る目というものは養われている。
そうしなければ、最悪の場合、どれだけの被害が自らにおとずれるのかわかったものではない。それに、死という運命を一つに絞られていたとしても、辛くて苦しい結果になるということはあり得る。
だからこそ、アングリアのような存在は、利益になると判断したとしても、近づくべきではない相手であるし、敵対するのであれば、さっさと倒した方が良い存在であるということは理解できる。
ゆえに、ローは、ランシュの治療をしながらも、アングリアへと視線を向け、治療行為を止めるようなことはしなかった。
アングリアは、要求を一回でも聞けば、さらに、厳しい要求をしてくることになるだろう。
そして、セルティーは悩むのだったが、数秒後に答えを出す。
第131話-4 目的達成したと思っていたけど に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。