第18話-2 ルーゼル=ロッヘ(1)
第18話の後半部分です。
前回までのあらすじは、希望の声が出現した。
声の主は、ゆっくりと居酒屋もしくはバーの騒動に集まっている群衆をかき分けながら騒動の場所へと近づいていった。このとき「あの~、すみません。通してください。」と、言って、申し訳ないという気持ちも含んだ言葉であった。
騒動のある場所へと声の主はでてきたのである。
「あの~、すみません。」と言った後で、
「ここって港町のルーゼル=ロッヘですか?」
と、言う。その言葉は、明らかにルーゼル=ロッヘに来たことのある人や、ルーゼル=ロッヘに住んでいる人ならば、絶対に言うことがないものだ。それゆえに、声の主の言葉に、周りは、
(今、この状況で言うこと。バカなの。)
(うわ~。この子、今とんでもない奴が騒動を起こしているなかで―…。はぁ~。)
(これ以上、ことをややこしくしないでくれぇ~。店長の店がぁ~~~。)
などと、思う人々がいた。そう、この港町での厄介な人物であるゼルゲルが目につけられて、自分にも被害が及ぶことを恐れていたのであり、その原因になりそうなことを声の主が言っていたために、声の主に対する怒りと、被害を受けたくないという気持ちと関わりたくないという気持ちが含まれていた。
声の主に気づいたゼルゲルは、そこに目をやる。そのときのゼルゲルの気持ちは、何だこの空気の読めねぇ餓鬼は~、ということであった。完全にその声の主をゼルゲルは、少女を見下したのである。
そして、その声の主は、クローナであった。
なぜ、クローナがもうここにいるのかというと、魔術師ローによるものであった。魔術師ローが、クローナがいた町から少し離れたところで、瞬間移動を使ったからである。この能力は、たぶん、この世界のこの時代においては、ほんの少しのものしか使用することができない。使用することができる人間は、異質的な能力をもったものである。
「はあ~、ここがルーゼル=ロッヘだよ。今、俺はこいつと大事な話をしてんだ。話かけてくるなよ。」
と、ゼルゲルは自らが脅迫している男を指を指しながらクローナに向かって言う。
「はい、ありがとうございます。それで、そちらの方は怯えているようですが、どうなされたのですか。」
と、クローナは言う。
クローナが今のこの状況を理解していないと勝手に自ら結論づけた脅迫されている男は、
「君…、この状況がわかっているのか。」
と、その表情は呆気にとられており、よりゼルゲルからの恐怖が増したのではないかという気持ちになっていることを表していた。
「ええ。あなたが、たぶん、ゼルゲルに何か脅されているということぐらいは―…?」
と、私は当然に理解していますよ的に答えるクローナであった。さらに、言葉の途中でゼルゲルに指を指してもいた。
その答えにさらに呆気にとられてしまった脅迫されている男は、
「は……はははは。」
と、言いながら、
(クローナは本当の意味でバカなのか、それともクローナが言っていたようにルーゼル=ロッヘについて尋ねていたように、始めてここルーゼル=ロッヘに来て、ルーゼル=ロッヘのことについて本当に何も知らないのか?)
と、思っていた。その表情は、心の中では冷静さを保とうとしているが、クローナに対する驚きと、ゼルゲルがこれからとんでもなく被害がでることをするのではないかという恐怖にさらされていた。周りの人々も同様にそういう似た気持ちであった。
一方で、ゼルゲルはクローナから無視され、指を指され、自らのプライドをズタズタにされたと感じた。ゆえに、
「クローナ~…、この俺を無視したうえに、指指してくれたなぁ~。今日の俺はとにかく機嫌が悪いんだ。俺様の思い通りにならねぇ~からなぁ~。」
と、ゼルゲルは怒りが徐々にゆっくりと頂点に達していたのか、低い声で言う。
ゼルゲルの異様さに気づいたのかクローナは、脅迫されている男に、
「今、あっちの方に集中していいですか。」
と、尋ねる。
その質問、今しますか? わかりますよね、雰囲気で、と思うゼルゲルに脅迫されている男であった。そして、クローナの向かって、
「私に話しかけなくていいから、すぐにゼルゲルと話しをしてください。」
と、言う。ゼルゲルに脅迫されている男は、人としてはクズに分類されるがゆえに、ゼルゲルがクローナに標的を定めていてくれたほうがありがたい。そして、クローナを使ってゼルゲルが自らの不機嫌を解消してくれることを心の底から祈っていた。だから、クローナが自らゼルゲルへと対象を向けたことに対して、喜びを感じていた。これで救われる可能性がでてきたのだから。
「あの~、怒っている表情されているのですが、何かありましたか?」
と、クローナがゼルゲルに方を向いて尋ねる。
「俺のことを無視してくれたなぁ~。もう我慢できん! 殺れ!! お前ら。」
と、ゼルゲルは途中で声を大にして自らの部下たちに対して命令する。
それは、この騒動を偶然近くで遭遇した者たちにとって地獄の宣言であった。
騒動を見ていた群衆の中から五人が群衆から前にでてきて、クローナに目掛けて銃口を突きつけたのである。そして、ゼルゲルに脅迫されていた男に銃口を向けていた人物も同様に、向ける対象をクローナに変更した。つまり、クローナは六つの銃口を突きつけられてしまったのである。
クローナは辺りを見回す。人々が今から起こるであろう少女殺しの現場を見てしまうという出来事に―。それは、同時にゼルゲルという男に逆らうことがどういう結末を辿るのかを嫌というほど聞いてきたし、見てきてもいる。ゆえに、絶望と恐怖は辺りの人々に広がっていった。
クローナは辺りを見回し終えると、
(なるほど、銃は六つで、人は六人。白の水晶はここで使うべきではない。たとえ防御壁を展開したとしても、次の瞬間、たぶん、ゼルゲルは怒りに身を任せて何をしだすかわからない。なら、ここは私の天成獣の属性を使って倒すのが一番。私ならできる。)
と、考え、実行することを決めた。
六つの銃は、六人のゼルゲルの部下によって放たれようとしていた。六人のゼルゲルの部下にとってもクローナのような少女を殺すことに罪悪感がないわけではない。しかし、ゼルゲルに逆らうことが何を意味するのかを理解していた。ゆえに、自らの命の可愛さとゼルゲルの部下によって得られた優越感のためにクローナを殺す。銃の引き金を引くことによって―…。
「風」
と、クローナは声を小さく言う。ゼルゲルや彼らの部下に聞こえることがないように―。
風が放たれる瞬間に、ゼルゲルの部下たちは銃の引き金を引き終えようとしていた。
しかし、風の方が早かった。銃の引き金は引かれることなく、銃を持っているゼルゲルの部下たちに風の攻撃が当たり、全員後ろへと倒れていくのである。群衆は彼らと接触しないように後ろへと下がっていった。ゆえに、ゼルゲルの部下たちは、頭を店の床にぶつけて気絶するのであった。また、クローナはゼルゲルの部下たちが倒れていくごとに威力が強くなるように風を放ったためでもあった。
その惨状を見た人々は、驚愕するしかなかった。少女一人がルーゼル=ロッヘで最も恐れられているゼルゲルの部下に銃口を向けられながらも、一瞬で倒してしまったのだから。どうして倒したのかを理解することができずに―…。
部下を倒されたゼルゲルすら驚愕するしかなかった。なぜ、そうなったのかを考えても答えをだせなかった。クローナが手を出すことなく、いつの間にか部下たちは倒れていったのだから―…。やっとの思いでゼルゲルは声をだす。
「くっ…、ど……どういうことだよこれは―…、……こんなにあっさりと俺様の部下が………倒される…なん…………て、……………そんな~……ありえない。」
と、ゼルゲルの言葉は途切れ途切れになっていた。それは、唖然とした気持ちを表してもいた。
そして、ゼルゲルはある結論に至る。
(いや……、あいつらはとても弱かったんだ。だから、少女の気か何かに当てられて倒れたんだ。)
と、的外れな答えと自らの部下が一人の少女によって倒されることが信じられないという心情が織り交じったものであった。ようは、現実逃避した思考に陥ったのである。
しかし、ゼルゲルはそれでも自分がこのルーゼル=ロッヘで恐ろしい人物であることをこれらも証明し続けるために、この少女クローナに向かって、
「なあ~、クローナさぁ~。俺様の仲間になってもらえないか!! タダでとは言わないさ。クローナがもし仲間になってくれたら~、お前の願いを何でも叶えてやるぞ。そうさ、クローナが嫌いな奴を殺してもやろう。俺様の力だったら可能だ。だから、お願いだ。俺様の中になってくれ!!」
と、言う。その言葉は、あまりにもクローナを自身よりも下として見ていた、いや、見下してもいた。現に、手をクローナに向かってだしながらも、表情は完全に俺様は上で、クローナは下だと言わんとしていた。一方のゼルゲルは、自身がかなり譲歩したものだと思っていた。ここまで、俺様が譲歩してお願いしているのだから、言うことを聞かない奴はいないと実際に思っていた。
周りはざわざわしていた。このゼルゲルの部下を一瞬で倒したクローナという少女がもし、もし仮にゼルゲルの部下になったら、自分たちは更なる恐怖の中でルーゼル=ロッヘで生きていかなければならないと考えると、顔を青ざめてさえいる人もいた。もし、ゼルゲルになることを断ったら、ゼルゲルが何をしだすかわからないが、それはきっととんでもない被害に巻き込まれるのではないかということが想像できた。ゆえに、雰囲気が不安とピリピリを醸しだしていた。そして、周りの人々はクローナの言葉から目を離さないようにするために、視線を向けていた。
その周りの人々の視線に気づいていたクローナは、そんな周りの期待に意に介することなくゼルゲルの仲間への勧誘に対するクローナ自身の考えを言う。
「その話ですが―……、お断りさせていただきます。」
と。そして、ぺこりと頭をクローナは下げて、ごめんなさいをする。
「な…なぜだ……、俺様がこんなに…お願いしているのに………、なぜだ。」
と、ゼルゲルは言う。どうして自分のお願いでクローナという少女は言うことを聞かねいのだ。ありえないと。そして、それはクローナへと怒りへと変わっていった。そう、ゼルゲルは自分の言うことを聞かない人間などたった一人のあの人以外にあり得てはならないのだから―…。
「俺の言うことを逆らっていいのはあの人だけで~、それ以外は許されねぇ~。」
と、ゼルゲルは怒声をあげる。そのゼルゲルの言葉の中で、クローナは、
「飛ばせ。」
と、ゼルゲルに聞こえることのない声で…、いや聞こえるはずもないのであるが……。ゼルゲルはさっきの言葉を続け、
「てめぇ~も、俺様に従わせて…ッ!!!!」
と、ゼルゲルの怒りの怒声はいきなりとまる。
ゼルゲルは胴体にクローナの風の攻撃を受けていた。そう、クローナは自らが「飛ばせ。」と言いながら、素早く自らの武器を手に握って、横に振る動作をすることでゼルゲルに向けて風の攻撃を放ったのである。
ゼルゲルは少し後ろへと進んで、後ろへ向けて倒れた。クローナの風の攻撃の威力が強かったが、相手が吹き飛ばないようにしたからである。それは、ゼルゲルの背中にも向けて風を回転させて放っていたのだ。そうして、倒れたゼルゲルは気絶していた。
この一連の出来事を見た辺りに人々は、唖然し、若干であるが希望を抱いたのである。ゼルゲルを倒せるほどの実力が、この町のルーゼル=ロッヘに現れたこと。そして、もしかしたら、ルーゼル=ロッヘからゼルゲルらの集団を追い出すことができるのではないかと。
そして、クローナは辺りの人々にお願いして、ゼルゲルとその部下を店の外で運んでもらった。そして、辺りに人々を離れさせて、
「いきますか。」
と、言って、クローナは自らの武器を下から上へと動かし、近くあったゼルゲルとその部下たちを遠くへと吹き飛ばしたのである。そのとき、ルーゼル=ロッヘ近辺の森に向けて―…。
【第18話 Fin】
次回、ゼルゲルの怒りは頂点に達する!? かもしれない。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ユニークの合計が100人超えていた。