第128話-9 復讐のための準備
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
アドレスは以下となります。
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前回までの『水晶』のあらすじは、アルデルダ領にミラング共和国軍が侵入し、その領境にリース王国の騎士団が配置されるのだった。
だけど―…、それは―…。
そして、三日が経過した。
一切、待機の命令が解除されることはなかった。
ずっと、アルデルダ領の領境に居続けるのだった、俺たちは―…。
その間に、アルデルダ領はミラング共和国の軍によって支配されていくのだった。
領内の兵は、エルゲルダの私欲のせいで、正規兵の練度は弱く、さらにアウトローなどの兵士は、そもそも盗賊のような奴らで、兵力自体はあるが、形勢が不利と分かればすぐに裏切るような人たちだ。
忠誠心も重要だけど生き残るためには、裏切ることが必要な場合もある。
リース王国の騎士団の騎士にとっては、理解しがたいことだけど―…。
俺は、ある意味、アウトローの思考のすべてに賛成できるわけではないけど、理解はある程度できる。
ただし、彼らのようになりたいとは思わないが―…。
「一体、いつになったら、アルデルダ領に入って、防衛することができる。」
俺はそう言ってしまう。
俺としても、こんな他国によって自らの復讐対象の一人であるエルゲルダが殺されるのは我慢ならないことである。
だけど、騎士として命令を受けている以上、ここから離れるわけにもいかないし、ベルグとの約束でまだレグニエドへの復讐を実行すべきではないとされているからだ。
復讐にだって準備は必要だ。
たとえ、長い期間となったとしても―…。
「ランシュ君、今は動くべきではないですね。リース王国の中央がどういう考えでやっているのか、ニナエルマさんの言葉で推測はつきますが、ルール違反の行動は私たち騎士には許されていないのです。ランシュ君、目的を見間違えないでください。」
ヒルバスに注意される。
「そうだな。」
ヒルバスの言葉によって、少しだけ冷静になることができた。
俺は、我慢というか、忍耐というものが足りていないのではないか、と思ってしまう。
というか、俺の故郷があったクルバト町がある関係で心配してしまっているのかもしれない。
落ち着け、落ち着け。
弾む心を宥める。難しいことでしかないが―…。
「本当に、リース王国はアルデルダ領を見捨てるつもりですね。」
「ああ、アルデルダ領の領主もクソだが、リース王国の中央もどっちもどっちだな。」
「あんまり、そういうことを表立って言わない方がいいですよ。」
「そうだな。」
本当、愚痴でも言っていないと精神を安定させることもできない。
こういうのを見ていると思ってしまうのだ。
善意でも悪意でも、愚か者が時代というものを読まないでこんなことをすれば、その代償は、俺たちのような下の者にやってくる。
リース王国の住民にもな。
この地域の宗教にこんな言葉があった。
―神に対する罪は、その者の命と災いによってのみ償わなければならない―
この言葉は王が神が定めたルールを犯して、人殺しをしたので、神が王を裁いたという話からきている。
だけど、本当の意味はそういうものではなく、ここでの人殺しとは社会を衰退させ、人々の生活を壊し、人を死の危機に直面させたことを意味する。
そういう意味での人殺しが罪であり、それを犯した王は、自らの命と災いによって償わされることになる。因果応報。
この教えは、王が良き世にしているのであれば、起きないことであるが、逆にすれば起こってしまうという教訓という意味で開祖がある王との謁見の時に説いた説法が由来だそうだ。
まあ、そんなことを知っているのは、宗教関係者の中でも一部しかおらず、この言葉を直接の字面だけで受け取っている者も多い。
俺がなぜそれを知っているかって―…。
騎士団の図書館で、そのようなことを書いてある本を読んだからであり、メルフェルドもこの地域の宗教の研究者からたまたま話を聞く機会があり、知っていたのだ。
俺らが日頃から知っている事にも、嘘というもの、いや、誤解されているものが混じっているのだと思ったものだ。
まあ、こういうふうに暇に見張っていると、このような思考をしてしまうようだ。
暇は何か重要なことの発見の機会を提供しているのか。
それよりも、見張りだな。少しだけ、ここから集中するか。
さらに一週間が経過した。
やっぱり暇としか言いようがないし、食事自体も楽しむことができないほど悲惨な状態になっていた。
なぜか、リース王国の騎士団への食糧を担っているラーンドル一派の商人が、盗賊に襲われたそうだ。
本当かどうか疑わしい。
そのせいで、俺たちの食糧事情は日に日に悪くなる一方だった。
リーウォルゲ騎士団長はお気の毒としか言いようがない。
だけど、最近、一部の騎士がなぜか、食事の時間に持ち場を離れるようになっていた。
どういうことだ?
そして、先輩もヒルバスも怪しんでいた。
そこにニナエルマが戻ってくるのである。
「かなりこちらがヤバくなっています。」
どういうこと?
「どういうことだ、ニナエルマ。」
「ラウナウ。ラーンドル一派の商人がリース王国の騎士団の騎士の数人を買収しています。それも、食糧を渡すかわりに、リース王国の騎士団の団長をリース王国の中央で権力を握っている奴らの子弟にしようとしています。」
「何だと!!!」
ニナエルマの一言に、先輩は動揺をみせる。
「ああ、推測ではなく、買収された一人の騎士がそいつらと話していた内容だ。騎士団のトップをあんな奴らにしてしまったら、リース王国の防衛に大問題が生じてしまうし、騎士団内が分裂して、最悪の場合は、他国に侵略されてしまう。何を考えていやがる、リース王国の中央で権力を握っている奴らは―…。」
ニナエルマの言うことを聞く限り、騎士団にとって良いことではないのは確かだ。
騎士団というのは、派閥抗争とかもあるかもしれないが、だけど、リース王国の防衛に関して、協力しなければならない時にはしっかりと協力できるだけの信頼がないといけない。
たとえ、対立したとしても、対立側の意見を理解したうえで、対立側にも敬意を払うようなことを―…。
だけど、リース王国の中央で権力を握っているクソどもは、対立側に対して、徹底的に潰し、自分の考えイコール正しくて、普遍的であるという馬鹿な思い込みのせいで、自らの間違いを修正を正してくれるような意見を言う善人を潰すに何も抵抗感がないのだ。
そのような人々を潰したがために国が崩壊したと書かれた物語の話のように、リース王国もその騎士団も倒されるもしくは破滅する時まで暴走し、それはリース王国に住む人々にとっての悲惨な不幸にしかならない。
よくもこんなことを考えるものだ。
自らの安寧のためか?
「あいつらのやることは簡単だ。自分たちの権力を永遠不変にすることしか頭がない。不変的なものなど存在しないのに、な。馬鹿には、求めても手に入れてはいけないものがあることを知らないようだ。」
先輩が何か、難しいことを言っているようだ。
まあ、不変的なものは存在しないわけではないが、それを探し、見つける方が難しいだろうし、人が不変的と言っているものはどこかで変化するもの。
「そうだな。こうなってくると、騎士団内から暴走する奴らが出てくる。そいつらに警戒して欲しい。騎士団すら敵であるかもしれないというふうに、な。」
ニナエルマは警告する。
俺もヒルバスも、すぐに頷き、警戒する。
そう、騎士団すら本当の意味で味方ではないのだ。
なぜに、侵入がある時に、敵ではなく、味方側であるはず人々を敵視しないといけないのか。
もう少し、場の状況というものを考えて欲しい。
それから二日が経過する。
「最近、騎士数人が昼の時、待機場所からいなくなっているな。」
先輩が不信に思いながら言う。
騎士団に対する食糧は昨日、全員分届けられたが、それでも盗賊に襲われる可能性があるので、護衛の兵士の数を増やすことがアルデルダ領への侵入してきたミラング共和国の軍に対処するためにできず、日数を減らすことが通達された。
三日に一回から一週間に一回という―…。
だけど、俺も先輩の命令で少しだけ、昼の時に待機場所にいなくなった奴らをつけたことがあるが、そいつらは昼に商人から食事の提供を受けていたのだ。それを昨日、俺は現実に見てしまったということになる。
それを先輩に報告している。
―そうか。リース王国の中央で権力を握っている奴らは一体何を考えているのかはわからんが、俺らを貶めても、お前らが牛耳っている国を弱らせるだけだというのに―
先輩は、俺が報告した後に、そんな言葉を言っている。
ちなみに、俺は奴らに買収はされていないし、話かけてもいない。
「まあ、食糧を商人から―…、提供を受けているのだろ。日に日に数が増大している。」
「それだけ、飢えというものは怖いですからね。戦場での楽しみは、食事ぐらいになってしまいますから―…。」
俺とヒルバスは話し合いながらも、質素な昼食をとるのだった。
本当に、味方で足の引っ張り合いとか止めてくれよな。
「そうだな。本当に、もう少し周りのことを考えて欲しい。」
「そうですね。」
事態は、俺らの知らない所で、徐々に起ころうとしていた。
それから二週間が経過した。
その日の夜。
俺、ヒルバス、先輩は、ニナエルマとともに自分のいるべき場所で見張りをするのだった。
「今日は、あまり人がいませんね。」
「そうだな、明らかに何かおかしいな。」
と、俺とヒルバスは何かおかしな違和感というものを感じるのだった。
騎士と言っても、一日中、夜も含めて見張りをしているわけではない。交替しながら、夜に仮眠をする時間を設けている。
そうしないと、俺らの体がもたず、ミラング共和国軍とその時に衝突してしまったら、十分に力を発揮させることができない。
そういうことにならないためだ。
「明らかにおかしいです。ラウナウ、嫌な予感がしませんか?」
ニナエルマは、先輩に問う。
「そうだな。陽気に笑えるようなことにはならないだろうな。何をしてくるまでかはわからんが、ニナエルマの言う嫌な予感というのは、俺も同様にしている。」
先輩が言い終えた時―…。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。』
と、小さいけど、叫び声が聞こえるのだった。
その声は、俺、ヒルバス、先輩、ニナエルマを警戒させるのには十分だ。
「ランシュ、ヒルバス、天成獣の宿っている武器をいつでも使えるようにしておけ。」
先輩が言う。
「わかりました。」
「わかっています。」
ヒルバス、俺の順で先輩の言っていることに返事をする。
ヒルバスは、二丁拳銃とか言われる武器を出し、俺はブレスレットの中に宿っているトビマルと念話する。
〈トビマル。敵がくるかもしれない。借りられる最大限の力の量のすべてを頼めるか。〉
〈わかった。〉
そして、すぐに、長剣を構え、戦闘の準備をするのだった。
それからすぐに―…。
「ミラング共和国軍、アルデルダ領の領を越えて侵入―――――――――――――――――――――――――!!!」
リース王国の騎士団の騎士と思われる声が聞こえるのだった。
「クッ、ミラング共和国軍は、すでにアルデルダ領を完全に征服したのですか。そして、欲をかいてリース王国を征服に!!!! 対外強硬派の奴らが考えそうだ!!!!!」
ニナエルマが叫ぶように言う。
その間に、馬の蹄の音が聞こえる。
敵か!!!
「さあ、リース王国の騎士を倒せ―――――――――――――――――!!!!!」
と、叫び声が聞こえる。
それに呼応して―…。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。』
雄叫びが聞こえる。
そして、軍馬に乗った軍勢が姿を現わすのだった。
「暗くてみえないが、たぶん、ミラング共和国の軍だ。」
ニナエルマがミラング共和国軍と断定する。
そして、軍馬に乗った軍勢が松明を掲げていて、見えた姿は俺でも習ったことがあるミラング共和国軍の衣装だ。
つまり、敵の登場だ。
「どうする、ニナエルマ。この場合、騎士団長の命令を待っている時間はないぞ!!」
先輩は、状況を冷静に判断しているのか、どうするのかをニナエルマに言うのだった。
たぶん、ニナエルマの方がこの状況を冷静に判断を下せるのだろう。
「ランシュ、ヒルバス。天成獣の力を使っても構わないから、ここは、一気に倒そう。私とラウナウが討ちもらしたのを捌く。二人には期待しています。」
俺たちは首を縦に振り、ニナエルマの指示に賛成の意を示す。
ヒルバスは、二丁拳銃の右手で持っているのを構え、一番先頭を走っている兵士に向かって、銃を放つ。
そうすると、相手側は、俺たちが上手く見えなかったのか、一番先頭を走っている兵士の頭にヒルバスの放った銃が当たり、馬から転げ落ちるのだった。
ヒルバスに打たれた兵士が生きていることはありえないだろう。自らの軍勢の馬にひかれてるから余計にその可能性が高い。
そして、俺は、長剣と自らの足に力を纏わせ、高速移動をする。
もちろん、向かってくるミラング共和国軍に向かってだ。
〈トビマル、いくぞ!!〉
〈俺の力なら、この程度の兵ごとき存在、腹ごしらえにもならんわ!!!〉
トビマルにとっては、それほどに今、俺たちに向かってきている兵士は弱いのだろう。
そして、俺は、兵士を横一直線に長剣で馬ごと斬りながら、斬撃を放つのだった。
範囲は前に五メートル前後ぐらいにして―…。
そして、そこには多くの赤が夜という黒に沈んでいたが、噴き出すのだった。
第128話-10 復讐のための準備 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
長くなっている第128話ですが、そろそろ完成も近いかなとは思います。
次回の投稿は、完成しだい、この部分で報告すると思います。
では―…。
2022年1月28日 次回の投稿分が完成しました。次回の投稿は、2022年1月29日頃の予定です。