第127話 悲劇の始まりは本人にとっては突然に感じられる
新年あけましておめでとうございます。
2022年最初の『水晶』の投稿です。
その前にカクヨムで、『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
こっちの方は1月1日からずっと投稿していますが―…、投稿時間を年末に設定して―…。
興味のある方は、読んでみてください。
アドレスは以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、第十回戦第六試合の勝者が瑠璃に決まる。その一方で、敗者のランシュは意識を失っていく中で、自らの過去を思い出すのだった。
ランシュの意識はしだいに、別の映像へと変わる。
それは、始まりから二年前までへと進行していく。
そう、悲劇の始まりから二年前へと、ランシュの視点で―…。
【第127話 悲劇の始まりは本人にとっては突然に感じられる】
~ランシュ View~
「えっ……、クルバト町が燃えている。」
俺は驚いている。
この時は、そうだった。
そのようにしか感じられないだろう。
俺は、この日、自分たちで食べる分の山菜を確保し終えて、ヒーナや母さんのいる俺の家に帰ろうとしていた。
その前に、俺の住んでいる町、クルバト町の全景を見ようとした。
クルバト町の少し離れた場所に良く見える町の人も知らない場所がある。
そこからの景色は、当時は好きだった。今は―…。
この日の出来事のせいだ。
そして、俺はその場所に到着して、クルバト町の方を見る。
見てしまった。
クルバト町が燃え上がっていたのだ。
あり得ない光景、一体何があった。
俺は思い当たるふしを考える。
理由を探そうとする。子どもであった俺でも理由を考えないわけがない。
そこで思い出す。
大人たちの会話を―…。
―我が町に対して領主が増税を!!―
―そんな馬鹿な!! こっちだって、他よりも生活は豊かだが、それも領外の人たちが買ってくれるからで、リーンウルネ様の宣伝や買ってくれることも―…。最近は、領内での売り上げが減っていく一方だ。領主様は、この領のためには何もしてくれない―
―そういうことを言うんじゃない!! もし領主様側の人間に聞かれたら!!!―
当時の俺にはわからなかった。
だけど、成長してからわかったことだが、当時、クルバト町の町長とアルデルダ領の領主エルゲルダが増税を巡って対立をしていたそうだ。
まあ、ここで詳しく言っても意味はない。
わかっているのは、領主の人間がクズで、自分の名誉や地位、権力のことしか興味がなく、領主として自らの領民および領地の発展を蔑ろにしていたということ。
自分のためなら、自らの領民および領地の発展に尽力して、優秀な人間を上手く使えばいいのに―…、思ってしまう。
が、人という生き物は、自分を大切に他者が損しても構わないという思う人間もいるのだ。常時、そのように思っている人間が―…。
時には、他者に対して配慮することができないときはある。それはしょうがないことだが、そのしょうがない時でもないのに、そうしようとするのだ。
そういう奴は救いようがない。
俺がこんなことを思っても、クルバト町が燃えたことも、家族が亡くなったことも変わるわけがない。
俺は急いで、クルバト町の方へと走っていったんだ。
どうして、どうして―…、と心の中で思いながら―…。
クルバト町の入口に辿り着く。
だけど、何か人がいる気配を感じて、草陰の中に隠れて、町の様子を見ることにした。
それが正しかった。
何だよ。どうして、領の兵士がクルバト町まちを燃やしているんだ、と俺は動揺する。
わけわかんねぇ。
大丈夫か、ヒーナ、母さん。
!!
何をしているんだ。
燃えているのを確認している。
そう、この時、俺はそのように思いながらも、本能的に気づかれるわけにはいかないと思っていた。
今は、息を潜めるように、自分という存在を気づかせないようにする。
とにかく、クルバト町の中に入って、家の様子を見なきゃ。
それには、こいつらにバレないように侵入しないと。
だけど、この時の俺でも理解できることがあった。
俺は自らの領の兵士に気づかれないようにしながら、辺りを何度も見回し、何とか侵入できないかを探す。
でも、ここまで、領の兵がいると侵入できない、そう、思うのには時間がかからなかった。
それに領の兵士とは異なるどこかの大きな国の兵士がいるのだ。
ここだと、リース王国?
何となくでしかなかったが、リース王国の兵士ではないかと、勘であり、当てずっぽうである感じで思う。
たぶん、今の俺なら、このような時、気持ちとして焦るようなことはない。
だけど、まだ、子どもであり、やっと年齢が二桁になったばかりなのだ。そんな子どもがこの場で冷静にいられることの方が珍しい。俺もこの頃は例に漏れず、普通の子どもであったわけだ。
こうして、絶望している時、一つの影が俺の方に近づいてくる。
敵か、敵なら―…、俺の命は―…。
そう、わずかではあるが、この時、絶望してしまったのかもしれない。
そして、その人物は、俺に話しかけてくるのだった。
「どうしたんだい。」
誰!!?
その人物を見た時の感想は、そんなものだ。
これが俺とベルグとの初めての出会いであった。
また、急に声をかけられたのだから、驚くに決まっている。
そいつは、偉い人物が着てそうな高価な服を着たという感じだった。
何でそんな人物がここにいるのか?
もしかして、この領の兵士とは別の装備をしている奴らの関係者か?
そう思っていると―…、何か言い始めるのだった。
「ああ~、こういう時は、名前を名乗ったほうがいいのか。そうすれば怪しい人には思われないか。」
独り言?
何、この人。頭おかしいのか? ここは、適当に話を聞き流そう。
こういう奴に関わるのは、危険だ。
逃げる準備をしておかない、と―…。
そして、俺が警戒していることに気づいたのか言ってくる。
「俺の名は、ベルグ。まあ、どっかのしがない国で宰相を務めている。だけど―…、本当に残酷なことをするなぁ~。」
自分の名前を名乗ってきやがった。
本当に、こいつの名前か? 怪しいなぁ~。
だけど、ここで、怪しんでいるという気持ちを悟られるわけにはいかないな。
と、俺に話かけてきている奴が、急に燃えている俺の生まれ育った町を見始める。
何を考えているんだ?
わけがわからない。
そして、少しだけ考え終えると―…。
「じゃあ、クルバト町の中に入るか。」
えっ、燃えている町の中に入るのか。
あいつらに見つかるぞ。何を―…!!!
だけど、俺はそんなことをじっくりと考えることができる時間などなかった。
このままだと火が回ってしまい、どうしようもできなくなる。
ベルグとかいう頭のおかしな奴の力でも借りないといけないと思った。それはもう、直感的に―…。
だから、覚悟を決めるとか関係なく、
「連れていってくれるか。俺―…、クルバトこの町のこと知っているから、役に立つ。」
俺のような子どもを真面な大人なら、このような状況では絶対に危険な場所へと連れて行くことはないだろう。
だけど、ベルグとかいう変な奴なら、俺を連れて行って、ヒーナと母さんの場所へと運んでくれるかもしれない。ベルグの気分しだいだろうが―…。
これは、俺の賭けだ。
俺の今、ベルグという関わらないという本能的な気持ちよりも家族が大事なのは比較のしようがない。
決まっている。家族の方が―…。苦労して、俺とヒーナを育てている母さんと俺の妹のヒーナの方が―…。
俺の言葉を聞いたのか、ベルグは、俺を見た後、言ってくるのだった。
「そう、なら、一緒に行くとしよう。ランシュ、お前は、面白そうだからな。」
ヨッシ!!!
これで、ヒーナと母さんの無事が確認できる。
そして、条件はしっかりと相手側に示さないと―…。
「それと、その代わりに、俺の家に寄ってもらう。いいな。」
「いいよ。」
ベルグは、あっさりと同意する。
つ~か、そこは悩まないのか。
まあ、深く考えても意味がない。
ベルグの気持ちが変わってしまっては意味がないし―…。
ふぇ!!?
何、何か持ち上げられて―…。
ど、どうなってる!!?
「では、行こう。」
!!!
俺の視界がぼやけるのだった。
叫んでいたと思うが、声すらなっていない―…。わからない。
この時、俺は知らなかったが、ベルグが後に言っていたことによると、俺を片手で抱えて、高速移動でクルバト町の中に入っていたのだ。
クルバト町を包囲している兵士たちに気づかれないほどに素早く。火すら体に付着させずに―…。
クルバト町の中では、町の人たちと、何か悪い恰好をしている人たちが殺し合いをしていた。
そんななか―…。
「ランシュ、きみの家はどっちの方へ行けばいい。」
こんな光景の中でも、ベルグはいつも通りと思わせる感じだ。
この状況に何も感じないのか。
そんなことを思っていても仕方がないことはわかっていたので、聞かれたことに答えるだけだ。
「あっち。」
右の方に俺の家があるとわかっているからだ。
あの真ん中にある時計塔の時計が見えるのとは、反対方向に俺の家はあるのだから―…。
「わかった。」
ベルグは返事すると、俺が指さした方向に、向かっていく。
つ~か、やっとこのスピードにも目が慣れてきた。
それにしても酷すぎる。
町の人が血を流しながら、倒れている。
殺されたのかな。
あの汚い恰好をした人々によって―…。
どうか、無事でいて欲しい、ヒーナ、母さん。
俺の家に到着する。
「ここが、ランシュ、きみの家か。狭いが、悪くはない。俺も昔はこんな感じの家に住んでいたし。」
狭くて悪かったな。
それにしても、ベルグという奴が自分のことを語っている。会って、数分しか経っていないだろうけど―…。そこそこベルグに関する情報が集まるな。
だけど―…。
「そんな感想はどうでもいいから、中に入るよ。」
今は、とにかく、ヒーナと母さんの無事を確認しなくちゃ。
俺は自分の家に入って、見てしまった。
そのことを知らないというのが幸せだったと思うのは、このことを体験しない人間だ。この時の俺は気づいていないが、今ならそう言える。
俺にとって、想像もしたくない最悪の結末が―…。
「母さん―…。」
声なんて、ほとんど出るはずもない。
あり得てはならない光景を見ているのだから―…。
震えないわけもないし、感情がついてこない。
…アッ………アッ…。
そして、辺りを動揺しながら見渡すと―…。
「ヒーナ。」
ヒーナが、ぐったりと血を流しながら倒れているのだ。母さんもそうだ。
俺は動けなかった。
その中、ベルグが動いて、ヒーナと母さんのところに向かい、腕をあげ、何かをするのだった。
この時の俺には、わからなかったが、脈をはかっているのだ。
生きているのか、死んでいるのかを確かめるために―…。
そして、ベルグは、冷静に告げてくる。
「残念ながら、ランシュ、きみのお母さんとヒーナちゃんは死んでいる。」
えっ!!
どうして……、どうして……、母さんとヒーナは殺されないといけなかった。
どうして、俺が何をやったって言うんだ。
神は…、神様なんていないのか。
じゃあ、じゃあ―…。
俺は絶望の色に染まっていく。
俺たちは、リース王国の中にある一つの領土であり、リースで信仰されている教えがこの地域でも信仰されているのだから―…。
リースとは、少しだけ違いというものがあるけど―…。
俺は、ヒーナと母さんが死んでしまった事実からこの時、動揺してしまい、何も考えられない状況になってしまった。
その中で、声が聞こえてくるのだった。
「………………………………………………エルゲルダ………レグニエド…。………恨み…………復讐…協力……。」
そう、聞こえた。
俺は自然と、声の言葉を繰り返すのだった。
……エルゲルダ……………レグニエド………………。………恨み………復讐……………協力……。
俺は理解する。
俺の家族を殺したのは、エルゲルダ、レグニエド。こいつらが俺の復讐対象…。
ベルグ、あいつは俺の復讐に協力してくれる。
そうだ、このクルバト町、いや、ヒーナと母さんの命を奪った奴らに復讐してやる。
俺の人生は決まった。
俺の人生のすべてを捧げてでもすべきことを―…。
「ベルグ、お前は、協力してくれるのか。俺の復讐に!!!」
証拠をとっておかないと、約束を守ってもらうことができない。
俺は再び、ベルグの方を見ると、彼は、微笑んでいた。
面白いものを見るように―…。
「ああ。俺は今、最高に興奮している。ランシュ、君の復讐の結末を知りたくなったのだ。そのために、協力しよう。ランシュの復讐のためには、まず、クルバト……この町を脱出しよう。今、町の周囲は火で覆いつくされているだろう。だから、少年、私に掴まってくれ。大丈夫だ。私は、天成獣が宿っている武器を扱うことができる。さあ、行こう。」
俺はあることを悟ることになる。
この世の中は平等だ。
それは、嘘で、そんなものなんてない。
俺はこの時、そう思った。
だから、この自らの失ったかけがえのない者を奪う不条理なことは、奪った者たちから奪わないといけない。
その不条理をもう二度と繰り返さないために―…。
だから、俺は復讐者になった。
【第127話 Fin】
次回、復讐を成功させるためにも準備は必要なんだよ!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ここから、ランシュの視点で過去の話しが始まっていきます。長くなるかはわかりませんが、とにかく書き進めていこうとは思います。
次回の投稿に関しては、完成しだい、この部分で報告すると思います。
では―…。
2022年1月8日 次回の投稿分が完成しました。次回の投稿は、2022年1月9日頃を予定しています。