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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
248/747

第118話-1 友の敗北に感情を露にする者

カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。

興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

アドレスは、以下となります。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


宣伝以上。

前回までの『水晶』のあらすじは、第十回戦第五試合、李章がヒルバスに勝利するのだった。

第118話は分割することになりました。

 【第118話 友の敗北に感情を露にする者】


 ヒルバスの体は、地面へと落下する。

 その様子を見たランシュは、ヒルバスをキャッチする。

 この時、ランシュは、高速で移動したのだ。

 自らの側近であり、ナンバー二であり、長年接してきた友である。

 ゆえに、友人が今の落下で死ぬのではないかと思い、必死だったのだ。後先考える余裕もなく―…。

 その様子は、観客席にいる者も、中央の舞台にいる者の全員も、ただ、言葉にせずに見守るのだった。

 彼らは、ランシュの今の行動を憎んでいるわけではない。

 今ここで、勝利の歓声をあげるのは、この場の雰囲気に相応しくなく、自分という人間の卑しさを感じてしまう。そんな人間で自分はいいのか、そう思えてしまうからこそ、言葉を発さないのだ。

 そして、中央の舞台にいる者の全員もそれが理解できているから、瑠璃チームの人間でも声を発することなく、ランシュと気絶してしまっているヒルバスの方へと視線を送るのだった。

 だけど、ここに一つだけ、場の空気すら理解できずに笑う者がいた。

 そう、観客席の中にある貴賓席からだ。

 「アハハハハハハハハハハハハハ、何てざまだ。ヒルバスが負けたとなると、後は、ランシュのみ。互いに大将は出てきていない以上、ランシュが勝利したとしても引き分けにするのが背一杯で、ランシュは勝つために二戦も戦わないといけない。瑠璃(あの少女)が負けたとしても、アンバイドが再度出場すれば、ランシュは負けるということだ。勝ったも同然。後は、ランシュが弱ったところを―…、なぁ~、メルギエンダ。」

と、アングリアは言う。

 アングリアは、この十回戦の今の結果から、どういう結末になるかを予測できないほどのあまりにもできないほどの馬鹿ではないようだ。それでも、周りの人間がどのように考えているのか、理解できないほどの馬鹿であることに変わりはない。

 アングリアは、ランシュが瑠璃に勝ったとしても、ランシュ率いるチームと瑠璃チームの勝利数は同じになるだけであり、ランシュは勝つためにもう一試合しないといけない。

 そうなってくると、瑠璃チームの側は、そのチームの中で一番強いアンバイドが出場する可能性が高くなるし、そのようになることは確かに近いと言ってもいいだろう。

 アングリアは、ランシュとアンバイドを比較した場合、アンバイドが強いということを理解していた。メルギエンダの情報や功績から判断すると、アンバイドの方が強いというのは、戦いの経験のないアングリアでも理解できるほどだった。

 さらに、今日の第一試合でアンバイドが本気を出して、リークを圧勝したシーンを見ている以上、余計にそう思ってしまう。まあ、現実でも、事実のことでしかない。

 ランシュがアンバイドに追いつきたければ、強くなるしかないし、ランシュにはその可能性は存在していた。生半可な道のりではないが―…。

 そして、アングリアの想像の中では、ランシュが瑠璃に勝ち、引き分けにしたうえで、アンバイドにやぶれると考えていたし、このリースの競技場にいる者たちはそう思うのが大半であろう。

 ゆえに、アンバイドによってやぶれたランシュは確実に弱っていることがわかり、確実に始末することができるだろうと判断したのだ。

 そして、アングリアの支配が確立されるだろう、と―…。

 「ええ、そうでございます、アングリア様。」

と、メルギエンダは表情を変化させずに答える。

 メルギエンダは、ほとんど表情を変えることはない。感情面での起伏がないというわけではない。普段からの知り合いに接する時は、表情にしっかりと出して、話すことはある。

 今は仕事中であることから表情に出さないという感情面での変化をなくすようにしている。そう、表情を変えないのはメルギエンダの日頃からの注意と気を付けることによってなしえているものであった。作り上げれたものであると言った方が正しい表現にもなろう。

 メルギエンダは、アングリアの言葉に返事をしながら、心の中で、

 (まあ、普通にそういう面では頭の回転はしっかりとしていますか。しかし、この試合、私は戦闘経験者といっても毛がはえた程度でしかなく、天成獣の宿っている武器を持っているわけでも、軍事やその戦いに通じているわけでもありません。だから、素人の判断でしかないが、このランシュと後残りの少女、噂によれば、ランシュ様が企画されたゲームに参加することを表明したということですが―…。名を松長瑠璃と言いましたか。私の情報網によると、どこの出身かはわからないということですが―…。まあ、そんなことを知ってもたぶん意味はない。今、重要なことは、このランシュと松長瑠璃の戦いは、誰も予想しない結果になるかもしれません。あの瑠璃という少女からは、何か別の意味で強さというものを感じてしまう。さっき、戦っていた少年とは違う何かを―…。オーラというべきであろうか。)

と。

 メルギエンダは、冷静に次の試合がどうなるのかを観察する。その中でランシュと瑠璃の試合がどういう結果になるのかは予想は誰もが思っている、そう、アングリアが思っているようなランシュが瑠璃に勝つということではないと感じている。

 これに根拠を与えろと言われれば、瑠璃の雰囲気とか根拠としては、それでいいのかと思われるものになってしまうだろう。

 ゆえに、メルギエンダはそれをアングリアに説明をすることはできない。根拠のないことでもあるし、同時に、瑠璃がランシュに勝ったとしても、アングリアの反応は、「ランシュ呆気な」ぐらいのことを言って、むしろ、ランシュを殺すためのチャンスとでも思うと予想することできる。

 メルギエンダとしてもアングリアとどのくれいの期間、傍で仕えているかという長い年月というべきであるので、アングリアの思考ぐらい簡単に理解できてしまう。だから、アングリアがどういう考えを持ち、行動しようとするのか赤子の手をひねるようにわかってしまうのだ。

 アングリアが愚かであることを含め―…。そこが、メルギエンダの聡明なところであろう。

 そして、メルギエンダに嘘の頷きをしても、結果はアングリアにとって、良い結果にしかならないのだから―…。

 まあ、本当に良い結果になるかは、わからないが―…。

 「しかし、アングリア様。ここは公然の場です。今は、そのような笑いを抑えた方が、ランシュ様を倒した後、アングリア様がリースの実権を握った後のことを考えますと、良い結果になるでしょう。」

と、アングリアは注意することも忘れずに言う。

 アングリアは、たぶん、このさっき言っていることが周囲に漏れているとは思っていないだろう。それに、聞かれたとしても自分は権力を握って、好き放題できるので、そこまで気にしていない。なぜなら、リースの実権を握ってしまえば、誰も逆らえないと思っているからだ。そう、妄想していると言った方がいいのかもしれない。

 メルギエンダは、支配を続けていくのがかなり難しいというのをしっかりと理解している。なぜなら、情報というものを完璧に隠すことはできないのだ。リースの市民の多くが情報を権力者の好都合に受け取るとは限らないし、リースの市民にとって良い成果が長期で伴わなければ簡単に裏切って、別の体制を求めるのだから―…。

 さらに、過去の絶望を与えれば、悪い体制でも長く続けられるだろうが、希望という存在があり、かつ、それが現実を伴っていると思わせることがリースの市民にできる者がいれば、簡単にそれに縋ってしまうのだ。

 人とは自らの利益を求めるし、同時に、自らの不利益にならないように他者と協調をするのだから―…。

 それを理解できない自分だけの人間は、自分の利益しか見えずに、愚かな所業で国家や地域の社会を壊滅へと導き、最悪の場合、人類をも滅ぼしてしまう可能性の引き金を引いてしまうのだ。それが引き金あると気づかずに―…。

 そのようなメルギエンダの考えをする人間は少ないが、人とは自ら利益を求めるし、同時に、自らの不利益にならないように他者と協調するという面に関しては、無意識のうちに多くの人間はしていることであろう。

 だけど、それができないのがアングリアであるが―…。

 「わかった。メルギエンダの言っていることは事実なのであろうから―…。だが、俺の言葉など、この場にいる者たちには聞こえまい。俺に支配されることが彼らにとって幸せなのだからなぁ~。」

と、アングリアは言う。

 実際に、アングリアは本当にそう思っているのだ。他者が理解できないという一面がそうさせているのかもしれないし、それを悪化させてしまった。誰にも指摘されることがなかったというのも一面であろう。

 アングリアの影響がそれだけ強いということであるからだろう。

 それでも、メルギエンダは、注意しているのだが―…。言葉は優しめであり、自身の地位が失墜して、殺されない程度にしながら―…。アングリアの怒りを買わないようにしながら―…。

 ゆえに、さっきのアングリアの発言に対しても、呆れるしかなかった。

 アングリアははっきりとわかっていた。リースの市民がアングリアという人物を一切望んでいないということを―…。むしろ、アングリアの生まれた家がおこなっていた商売の店と商売網の広さとそこからの利益をリースに下ろすことを望んでいた。

 まあ、アングリアも一切、利益をリースに落とさないことはないが、それでも、アングリアに集まっていくお金など利益と権益の方が多いために、結果として、何も落としていないということに等しいのであるが―…。

 所得を人よりも得た者たちは、社会に対して、貢献することが必要である。何も彼らにとって不利益なのではない。この貢献は、社会への投資となり、そこで利益を得た者たちが消費者という役割を演じ、お金が回って、経済が良くなるのである。ただし、お金を回すということを怠り、貯蓄ばかりに目がいき、社会に貢献しない者たちに回れば、社会は簡単に停滞と言ってもおかしくないほどの成長になったりもしくは停滞、最悪の場合、多くの階層で前の所得よりも世代および、その時代の中で未来に向かって、所得を減少させ、社会の発展に対して、マイナスの要因になってしまうからだ。

 結局は、そのようなマイナスが、かえって、所得を人よりも得た者に返ってきてしますのだ。マイナスとして―…。本当は、成長とともに得られ、社会とともに分かち合うことのできた利益を―…。

 「そうですか。」

と、メルギエンダはさらに、呆れてしまうのだった。

 (この馬鹿には、つける薬はないのですか。)

と、心の中で思いながら―…。

 まあ、いつかは終わるだろう。何かの要因で―…。偶然か故意か、で―…。


 ランシュは抱える。

 ヒルバスが倒されて、飛ばされて、落下した地点で―…。

 ランシュの心の中に、言葉はない。

 あるのは、感情だ。

 ランシュではその感情を表現することはできない。

 できるほどの余裕がない。

 それでも、この感情は強い、強い、強い。

 だから、ランシュは―…、

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。」

と、叫びあげる。

 それは咆哮。獣が発するような―…。

 ランシュの感情の高ぶりは、このリースの競技場にいる者のすべてをランシュに視線を向けさせるほどだ。

 向けないわけにはいかないだろう。

 今のランシュには、人が視線を送ってしまうほどの魅力というよりも、強い何かを感じるのだ。その強い何かが人を惹きつける。

 感情とは、人に影響を与えるものだ。

 それがその人を表すからであろう。

 ランシュへと視線を集めている者の思考を奪うほどに―…。


 観客席の貴賓席。

 「何を叫んでいるんだ。」

と、アングリアは理解できないように言う。

 アングリアは、他者の気持ちなど理解できるはずもないし、そうする気も本人からはない。

 だから、不思議でならなかった。周りの誰も、言葉を発さず、ランシュの方へと視線を向けているのだから―…。

 「わけが分からねぇ~。本当に、ヒルバスが敗れただけで―…、吠えるほどか。やっぱり、ランシュというのは野獣だな。俺以外の人は、俺のために生きているのだから、そのために、やられるのはそいつが弱いし、運がなかっただけだ。しょうがないことだ。俺のような理性ある人間にならないと―…、な。」

と、アングリアは続けて言う。

 アングリアは、今言ったことを本当に心の底から何も疑いなく信じている。

 そう信じることができると勝手に思っているのだ。その考えを否定されたり、間違っていたりなどの批判を受けたことがないからであろう。

 その言葉に対して、メルギエンダはただ、ただ、呆れるしかなかった。今日で何度呆れたことだろう。

 これが終わるのは―…、わかっている。

 わかっているからこそ今、我慢のしどきなのだから―…。


第118話-2 友の敗北に感情を露にする者 に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


次回の投稿は、完成し次第、この部分で投稿日を報告すると思います。

では―…。


2021年11月24日 次回の投稿分が完成しました。次回の投稿は、2021年11月25日頃を予定しています。第118話は次回の投稿で完成しそうです。

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