第116話 決着への伏線
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
アドレスは以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ヒルバスが、五つの円盤を出し、李章の攻撃を防ぐのであった。
次回の第117話は、プロローグに次いで文章量が短いものとなる予定です。
【第116話 決着への伏線】
李章は驚く。
と、同時にヒルバスから距離をとる。
ヒルバスは李章のいる方へと、向きを変える。
「さて、どうしますか。」
と、ヒルバスは挑発するように言う。
だけど、李章は、すぐにこのヒルバスの言った言葉が李章を挑発しようというものであることに気づき、ヒルバスの挑発に乗らない。
乗る必要もない。
(円盤はかなり固いです。これで、余計に対戦相手に私の攻撃を当てるのは難しくなってしまいました。あの円盤をどうにかしないといけません。)
と、李章は心の中で思う。
いや、焦りすら出てきてもおかしくない状況だ。
李章としては、やっとの思いで、ヒルバスに攻撃を当てることができる機会であり、かつ、倒すことも可能であったのだから―…、余程にショックがデカくても仕方のないことだ。
それでも、李章は、冷静さを欠くことはできない。
不利になってしまえば、李章は、あの自らの嫌いな人格を呼び覚まされてしまうのだから―…。
そんなことをしてしまえば、周囲に危害が及んでしまうのはわかっている。かつて、それを自身はやってしまったのだから―…。
不利になることも許されない。勝ち続けるしかない。そうしなければ―…。
李章にとっては、それらはプレッシャーでしかない。
それでも、乗り越えていかないといけないことだ。
李章はやることが決まっている。だからこそ、集中力をそこに注ぐ。
一方で、ヒルバスは、
(さぁ~て、五つの円盤を発動させることになりました。本当に油断すらできないと思っていましたが、これだけは想定外としか言いようがありません。この技の名前は、カッコよさもないですが、今はこの技が頼りですから―…。)
と、心の中で言う。
ヒルバスによって五つの円盤を発動させること自体が予想外のことでしかなかった。
李章の実力は、ヒルバスから見ても、瑠璃チームの中で最も弱いということはわかっていた。理解できない方がおかしいと思われるほどであった。
それは、あくまでも李章(?)という存在を知っているかどうかは、別であるが―…。
つまり、ヒルバスにとって、李章(?)に人格が変わったということは予想外のことであり、予測することもできないほどの事態でしかない。
そうなったせいもあり、ヒルバスは李章との戦いで予想以上の苦戦を強いられてしまったのである。ランシュ率いるチームの全員がそのように理解することは簡単だ。
観客席にいる者たちの一部と中央の舞台にいる者たちの多くは、ちゃんとヒルバスが苦戦してもおかしくないということを李章(?)がヒルバスに蹴りの攻撃を入れた時から気づいていたのだ。
ゆえに、ヒルバスの苦戦を非難することはない。できるはずもないのだ。もし、自分が同じ立場であれば、同様になってしまっていたかもしれないからだ。もしくは、倒されていたかもしれないのだ。
そう思えば、ヒルバスに大変だなという視線はある。
そして、同時に、李章という人間に対する警戒も一気に上がってしまうことになるのだ。その正体を知っている魔術師ロー以外は―…。
ヒルバスは、銃を李章に向けて構える。
五つの円盤も自動でヒルバスを守れるように動かすことができるようにする。
その時、李章がヒルバスの目の前から消える。
(攻めてこないのならば、私から攻めるしかありません。あの円盤をどうにかするのは、難しいです。だけど、スピードを重視した攻めなら、対処することはできるはず。それを確かめるためにも行動あるのみです。)
と、李章は、心の中で言う。
李章としては、ヒルバスから攻撃して、そのカウンターで決着を付けようとしたが、ヒルバスが動かなかったので、攻めるしかないと考えるのだった。
まだ、李章もまだまだ相手を意図を読むということに伸びしろはかなりあるということだ。
ヒルバスの隙を突くという一面では、もう少し待った方がよかったかもしれない。銃撃ととも動けば、何かできるかもしれない。
それでも、ヒルバスに防がれる可能性はかなり高いものであろうが―…。
この李章の選択が最悪かもしくは最高か、そのどちらでもないかというのを完全に理解することも納得することもできない。人という生き物が生まれ、死ぬという時間におけるある一点からある一点の範囲でその個人として存在する以上、無限と言ってもいい事象を知ることを完全にできない。ゆえに、最高の解答など、自らの生きている時のある時点までの経験の中でどうかとしか言いようがない。
李章は、自らの天成獣の宿っている刀の刀身に生を纏わせるのだった。
そして、ヒルバスから見て右横に刀を構えた姿勢で姿を現わし、斬る動作をするのだった。上から下に向かって―…。
だけど、その攻撃も見事に防がれてしまうのだった。
キーン。
五つの円盤の一つに―…。
(やっぱり、こうなりましたか。)
と、李章は、心の中で言いながら、再度距離を取るのだった。
この時の李章は、焦りはあるものの、冷静さ自体を失ってはいなかった。
(この堅さをどうにかしないといけません。そのための攻撃をどうするかです。)
と、李章は、心の中で続けながら言う。
李章は、ヒルバスが自身よりも圧倒的に強いということをちゃんと理解している。ゆえに、力を抜いて戦うということは一切できないと理解していた。
そのようなことをしてしまえば、あっさりと李章は負けてしまうだろうし、殺されてしまう可能性が高いのだから―…。
緊張感のある戦いは続く。
「五つの円盤は、その程度の攻撃では敗れはしませんよ。私も奥の手を出さないといけなくなったのです。ここで、負けてもらいます。」
と、ヒルバスが再度、銃を構えようとする。
李章は、そのヒルバスの行動に気づき、すぐに高速移動を開始する。
そのため、ヒルバスには、李章が消えたように見えるのだった。
(また!!)
と、ヒルバスは、心の中で怒りというものが出るのだった。
それでも、表情に出すのを抑えるのだった。
冷静さを失っていると思われれば、それこそ油断したと判断して、すぐに攻撃されてしまうのだから―…。李章のスピードから考えて、ヒルバスの隙を突くのは確実にできると判断したからだ。
それでも、五つの円盤でうまく防げるのは確実なことであるので、そこまで気にする必要はないのであるが、五つの円盤にも弱点があるのではないかと思わせておく方がヒルバスにとっても都合が良かったのだ。
その都合とは、五つの円盤を潜り抜けて、ヒルバスに攻撃を当てられるということを李章に思わせることである。
そう思わせておけば、李章は動きまくり、ヒルバスが五つの円盤で防御することで、相手に対して、自分は勝てないと思わせることができるからだ。
キーン。
ヒルバスは驚くような素振りをする。
この演技も李章という相手を倒すためには必要なことであった。李章の移動に対して、苦戦していると思わせることで、思いのほか戦えているのではと感じさせるのだ。
そうすれば、圧倒的な実力を示した時に、相手は絶望という気持ちを大きくしてしまうのだから―…。
そして、ヒルバスは、李章に向かって、右手に持っている銃を向け、銃口から煙のようなものを発生しており、銃口の外側で、球状のものを形成し、前に李章を覆った銃撃を再度、繰り出すのだった。
「これで終わりとしましょう。李章との戦いを―…。」
と、ヒルバスは言う。
ヒルバスとしては、五つの円盤が、自らの銃撃で消滅してしまうほど柔なものではないということを知っている。むしろ、ヒルバスの銃撃を無効にしたり、相手に対してのみ、五つの円盤がその銃撃の威力を増加させるのだ。
つまり、五つの円盤の一つの近くにいる李章は、ヒルバスの目の前の直線状にいるので、前の同様の攻撃よりも勢いが強くなり、対処しなければ最悪の展開になってしまうのだ。生の終わりという―…。
そして、李章は今度も避けようとせずに、ヒルバスの攻撃を受けようとするのだった。
別に李章に自殺願望があるわけでもなく、被虐願望が存在しているわけでもない。
そのことに関しては、後にわかることであろう。
李章は、ヒルバスの放たれて、自らに向かっていた銃撃に飲み込まれるのだった。
「李章君!!!」
と、瑠璃は中央の舞台から心配そうに叫ぶ。
さっきは、上手く生き残れたけれど、今度はどうかという面で瑠璃は不安になるのだった。
たまたまの可能性もあるので、同じことをして助かる可能性が低いと思ってしまうのだ。
そして、李章がいると思われる場所では、ヒルバスの放った光線のような銃撃は、一瞬にして消滅するのだった。
そのことに対して、リースの競技場にいた全員が驚くのだった。
そう、李章の持っている刀の刀身の数倍もある大きさの光輝く天成獣の力を刀に纏っていたのだ。その刀で、ヒルバスの攻撃を斬ることで防いだのだ。
(ふう~、刀に力を纏わせることができるので、力の消費量も少なくて済みます。フィルネに教えてもらった通りです。)
と、李章は、心の中で思う。
それは、フィルネに教えてもらった刀にフィルネから借りられた天成獣の力を纏うということであった。これは、李章が刀を、いや、蹴りでの攻撃をしている時でも扱うことができるものであった。
それを、李章は一切気づかずに使っていたのだ。
フィルネはそのことに対して、もしも聞くことになったら、呆れていただろう。まあ、フィルネの方は察してしまっていることであろうし、現に、心の中で呆れかえったこともある。
一方で、李章に攻撃を防がれたヒルバスは、
(やってくれますね。ならば、さらに―…、威力の強い攻撃をしなければなりません。)
と、心の中で悔しそうにするのだった。
表情にだすことはなかったが―…。
中央の舞台。
ランシュが率いるチームのいる場所。
(銃の攻撃を刀に纏った天成獣から借りた力で防ぐとはな。刀を武器とする天成獣の使い手は、独特の強さを誇ることがあると聞く。刀自体はこの地域では珍しいからな。一体、どこから手に入れたのだ。)
と、ランシュは、李章の持っている武器に関心を示し、疑問に思うのだった。
実際、刀を武器とするのは、ある地域が主流であり、天成獣の宿っている刀という武器もその主流地域で多かったりする。外部に漏れること自体珍しいことであった。その国は、今のところは男女の力関係における差は、瑠璃たちがいる異世界の時代ではなかったといってもいいぐらいであるが、後のある時代に、男性優位の社会になってしまうのだった。この話はまた、編を改めて話すことになるだろう。瑠璃、李章、礼奈が育った国のある時代に似ているのだから―…。すべてではないことは注意しないといけないが―…。
李章の使っている刀は、ローが元々持っていたものだ。ローがどこで手に入れたかというと、たまたま、闇市で売られていた安物であったものをローが少しその売られていた価格よりも高めにして購入した。ローは、それが天成獣の宿っている武器だとちゃんと認識していたようだ。
この武器がどこから来たのかローでもわかっていないが、大よそどこかは推測することができている。それは、刀が主流で使われている地域、リースより遥か東の方にある島であろう、と―…。
同様に中央の舞台。
今度は、瑠璃チームのいる側。
ミランは、
(この試合が動く、いや、決着がつく。)
と、心の中で言う。
感覚的なところでしかないし、直感の類のものでしかなかった。
ゆえに、確定的に結論付けるのは良いことではないが、無視することのできるものではないと認識していた。
そして―…、決着が近いということが事実でしかないということが将来に起こることを―…。
四角いリング。
(私は―…、私は―…、ランシュ様の最強の守護者です。ここで負けるわけにはいきません。)
と、心の中でヒルバスが言うと、ヒルバスは両手に持っている銃を李章がいる方に向いて構える。
ヒルバスとしては、今から放つ一撃が、自らの一撃にとって、最大の威力の一撃であることを―…。
ヒルバスの持っている武器の銃口から煙のようなものが出てきて、それは光を帯びながら、二つの煙が混じる場所で、球状のものが発生し、しだいに回転スピードが増し、ヒルバスの持っている武器の銃口と同じくらいの大きさになるのだった。
李章は、ヒルバスが大きな攻撃をしようとすることに気づく。
李章は動かない。
何も対処しようとしていないわけではない。
自らの刀に自らの武器に宿っている天成獣の力を纏わせるのであった。より、大きく、蜜になるように―…。
そして、先に、攻撃の準備を完了したのは、ヒルバスであった。
「李章を倒す!!! ランシュ様の守護者として!!!!」
と、強くヒルバスは言う。
これは、ヒルバスの決意だ。
誓っていることだ。
何事においても変えられない矜持であり、信念だ。
ゆえに、ランシュのために戦う。
その引き金をたとえ子どもであろうが引けるのだ。本当に―…。
こうして、ヒルバスは、李章に向かって、今形成させた球状のものから光線が放たれるのだった。
李章は、ヒルバスの言葉を聞いたとしても、返事をすることはない。する必要はない。しても意味がない。
李章は、ただ一言、心の中で思う。
(これで、決めさせていただきます。)
と。
【第116話 Fin】
次回、守護者が―…!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
前書きでも書いた通り、第117話はかなり短いものとなっております。理由は、構成上の関係です。
では―…。