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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
239/748

第112話 陣

カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。

興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

アドレスは以下となります。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


宣伝以上。

前回までの『水晶』のあらすじは、メルフェルドは魔法陣を展開し、そこから、クローナに向かって、鉄が落下するのであった。

 鉄が落下してくる。

 それも、針山のような形をした。

 一つ一つの針山のような形をしたものは大きい。

 クローナを貫くのではなく、粉々にするほどに―…。

 この攻撃に当たったら、クローナは一たまりもない。

 確かにメルフェルドは、ミランや李章の言うように鎮圧戦の経験が多く、そのような戦いをする。

 だけど、戦闘の経験が一回もないわけではない。数が少ないというだけだ。

 人を殺さないといけないことがなかったわけではない。ただ、戦争への従軍がなかっただけだ。

 ゆえに、メルフェルドは人を殺すことを選択できないのではないかとミランと李章の心の中には存在していたのだと思う。無意識にではあるが―…。

 それでも、メルフェルドは、決してできないわけではないし、クローナに対しても殺すという選択ができないわけではない。なるべく、そうしないということだけなのだ。強ければ、そうしないと自身が勝利ができない以上するのだ。

 今、まさに、メルフェルドはそのような状態なのだ。

 (クローナさん。申し訳ありませんが、ランシュ様の企画したゲームに対戦相手を殺してはいけないというルールは存在しません。それを承知のうえで参加しているのです。だから、私は、クローナさんを殺してでも、勝利を掴みにいきます。チームの勝利のために…です。)

と、メルフェルドは、心の中でそのように言う。

 すでに、覚悟は決まっていたのだ。

 一方で、クローナは、このような危機に対応しないといけないのであった。判断する時間も少ないので、考える様子がほとんどなく―…。


 【第112話 陣】


 「…あ…。」

と、クローナは情けない声を出す。

 クローナは、今の状況をしっかりと理解できていないわけではない。理解はしているが、思考が追いついていないのだ。

 頭が処理しきれるスピードでは、無理だったのかもしれない。いや、そんなことはないのかもしれないが―…。

 そして、魔法陣から出現した針山のようなものの多数が、見事に四角いリングに落下して、衝突するのだった。クローナの所で―…。

 ただし、メルフェルドには、衝突しないようにかつ、巻き込まないようにして―…。

 その時、音は、ドンドンドン、といくつかの衝突する音が重なるのであった。

 その音には、観客もビビってしまうのであった。

 観客の中には、メルフェルドのことを、

 (本当、最強の騎士と言われるだけのことはある。容赦がない。)

と、心の中で思う者もいる。

 数としては、多くはないが―…。

 多くの人物は、心の中で言葉にできないほどに、今の状況に見入ってしまっているのである。言葉を忘れていると言ったほうが表現としてはいいのかもしれないほどに―…。

 ドオオオオオオ、という音がする。

 それは、針山のようなものどうしがぶつかって、少しだけこすれた後に一部が欠けて、四角いリングの床面に落下した音であろう。

 そして、クローナのいる場所では、煙のようなものが発生していた。それは、針山のようなものが四角いリングに落下して、土の面が上へと一部出てきたためであろう。


 中央の舞台。

 瑠璃チームのいる側。

 「クローナ!!!」

と、瑠璃は叫ぶのである。

 ここにいる者たち全員が、瑠璃のように叫んでしまいそうであった。なぜなら、クローナがメルフェルドの魔法陣の攻撃に巻き込まれてしまったのだから―…。

 クローナが大丈夫なのか心配してしまう。それを確かめることはできなかった。なぜなら、クローナのいると思われる場所の周囲は、土煙のようなものが発生していて見えなくなっているのだから―…。

 (鎮圧戦で、相手を殺そうとしてこなかったメルフェルド(対戦相手)がここまでしてくるとは―…。本当に、俺の計算違いだったのか。それとも、相手を殺すことができないということをわざと示すためにさっきのような攻撃をおこなっていたのか。これだけは確実に言える。油断ならないということだけは―…。)

と、ギーランは、心の中で言うのだった。

 ギーランの表情は、かなり歪んでいるのか、右の上下の歯たちを強く噛むようにするのだった。ギーラン自身の読みミスや瑠璃の友達であるクローナが大怪我を負ったのではないかと思い。いや、クローナがメルフェルドによって殺されたのではないかと思いながら―…。

 一方で、礼奈と李章もこのようなことに対して、かなり驚いているのだった。ランシュが企画したゲームの勝利方法に相手を殺すという方法がある以上、そのようなことになる可能性は十分にあった。だけど、現実に確実に起こったのだとほぼ完全に認識してしまいそうなことが起きることに対して、心の準備はできていなかった。

 現実に起こることをどこか、空想の出来事なのではないかと思っていたのだろう。表情は、すでに、張り詰めたものとなっていた。

 アンバイドは、

 (あのクローナの対戦相手は、誰かを殺さずに捕まえることに慣れていたし、相手を殺すことを好まないような戦い方をしていたが、それでも、相手を殺す戦い方もできるということか。戦闘経験がないというわけではないということか。余計に厄介だが、この試合に関しては、そろそろ動き出すだろうな。)

と、心の中で言う。

 アンバイドとしては、この第十回戦第四試合は、そう長くなるとはとても思えなかった。メルフェルドがクローナを殺すことを選択し、実行することができる以上、大技で仕掛けてくることも予想ができる。さらに、クローナの方も、メルフェルドの攻撃から考えると、長期決戦は避けたいはずだ。相性の問題も加味すると確実にそうなるであろう、と。

 アンバイドは、クローナが今のメルフェルドの攻撃を防げると確信をもって、防げていると思えていた。クローナが持っている物のおかげで―…。


 四角いリングの上。

 メルフェルドは、クローナがいると思われる場所へと視線を向ける。

 これは重要なことだ。

 たとえ、対戦相手であるクローナが今のメルフェルドの攻撃に巻き込まれたとしても、クローナが完全に亡くなっていることを確かめるまで、油断するわけにはいかなかったのだ。油断とは、隙となり、勝利ではなく、敗北をもたらすものでしかないのだ。

 メルフェルドは、ランシュ率いるチームの勝利を掴まんとするために―…。

 (この攻撃で、クローナさんは倒せたと思いますが―…。それでも、勝負事です。どうなるかはわかりません。クローナさん、あなたでは私を倒すことはできません。)

と、メルフェルドは、心の中で言う。

 土煙のようなものは続く。


 中央の舞台。

 ランシュ率いるチームがいる側。

 (魔法陣が形成されていた。陣を使ったのか。天成獣の宿っている武器で戦う者がたどり着くことになる最高点にある技が陣。俺もヒルバスも使えていないし、それが何なのかはわからない。だけど、メルフェルドはそれを扱うことができる。どうやってかと一回聞いた時に、属性の性質や戦い方を知ることだと言われた。いまだにわからねぇ~。)

と、ランシュは、心の中で言うのだった。

 陣、それは、天成獣の宿っている武器を扱っている者がやがてたどり着くであろうとされる極みと言っていい。その陣は、天成獣の属性に沿った技を習得するという方法で扱うことが可能になる。そのためには、自らの天成獣の属性の性質についてしっかりと理解し、扱いこなす必要がある。

 この陣を使えるということは、天成獣の宿っている武器の扱い方に関して、超一流の存在であるということだ。強さに関しては、完全に強いと言えるわけではない。ケースバイケースと言った感じであろう。

 (それに、メルフェルドの対戦相手は、メルフェルドには勝てない。相性が良すぎるのでな。まあ、この後、どうなるかは完全にはわからないのが、現状である以上、最後まで見ておく必要があるようだ。)

と、ランシュは、心の中で続けながら思うのだった。

 一方でヒルバスは、

 (メルフェルドもやりますね。まあ、勝利の条件に相手を殺すことも入っている以上、この選択肢は間違いではありません。相手側もそのようなことを理解したうえで参加しているのだから、文句を言うことはできません。こちら側は、ちゃんとそうなることを事前に相手チームにも言っているのですから―…。公平を期すために―…。)

と、心の中で言う。

 ヒルバス自身、何もかも自己責任だとは思っていない。人の生まれは本人では変えられるわけではないし、そこでの最初の環境を変えられるわけではない。それでも、双方にとって、ちゃんと偽りもなく伝えて合意をしたことに対して、同意を得てしている以上、クローナが死んだとしてもそれは自己責任でしかないと思っている。

 まあ、クローナは殺す対象ではないので、悲しいという気持ちは強くある。今回の殺すことを勝利とするルールに規定されているのは、瑠璃、李章、礼奈を討伐するということに起因するからだ。

 ヒルバスは知らないであろうが、実際、ベルグがランシュに命じたのは、瑠璃、李章、礼奈の三人組をベルグの元へと近づかせないようにするための時間稼ぎなのだから―…。まあ、ベルグとしても三人の討伐で殺すことに対しては、反対していない。三人組を討伐すれば、現実世界におけるとある実験の完成において、邪魔になる者たちは存在しなくなることがわかっているからだ。

 まあ、ここで、人の道理などを説く気持ちなどはないが、人を殺すことを正当化したり、自己責任にしたりという論理は通用すべきではない。そのような論理が通用すれば、世界は弱肉強食となり、人類が得られる者の成長速度はかなり零に近くなるだろう。この異世界においては、自己責任という概念は地域によって異なっており、大まかな傾向としては、社会福祉の進展度合いによって、反比例する関係にある。

 つまり、社会福祉の進展が高い地域では、原則として、自己責任となる場合が減少し、法や慣習、社会にある世間の考えで、弱者への救済や、殺人の度合いは低くなる。多くの者たちが安心して暮らせるからであろう。その逆の地域では、自己責任となる場合が増加する。国家というものは存在していても、権力を持っている人々の過剰な利益のための政治がおこなわれることによって、多数の一般人が損害を被っていて、ルールが権力者たちにとって都合の良いものにされることになる。ゆえに、多くの人々は自分の命を守りために、他者に対して危害を加える機会が多くなるためだ。

 ただし、今の原則においても、すべてを抑えているわけではなく、例外など、いくらでも存在する。


 中央の舞台。

 瑠璃チームの側では―…。

 (あの鉄が魔法陣ようなものから落下してくるとは―…。瑠璃の友達のクローナちゃんは無事であろうか。)

と、ギーランは、心の中で心配するのだった。

 近くにイルーナが来て、

 「私が見た感じでは―…、悪い方向にはいってはいないようだね。」

と、言うのだった。

 これは、イルーナにとっての勘にすぎない。それでも、イルーナの勘というものは鋭いもので、外れるということはあまりない。つまり、外れたことはあるという結果となり、完全に信用できるものではないが、参考にはなる。

 「……そうか。」

と、ギーランは、答えるのだった。

 そして、近くにいた瑠璃は、

 「たぶん、大丈夫。白の水晶を持っているから―…。」

と、言うのだった。

 瑠璃は確信を持っていた。

 それは、メルフェルドの攻撃は、たとえ鉄の落下だったとしても、クローナは白の水晶を持っているのだから、対処できると―…。

 そう、白の水晶の能力は防御であるから―…。

 そして、土煙のようなものの中から、風の攻撃がメルフェルドへと向かってくるのだった。

 これは、クローナが生きているという証だ。

 メルフェルドは、その攻撃を避けるのだった。

 そして、メルフェルドは見る。

 クローナがいると思われる位置の土煙のようなものが晴れてきて、そこがどのようになっているのか理解するのだった。

 「!!」

と、メルフェルドは驚くのだった。

 土煙が完全に晴れ、そこで見たのは、何重にもはられた防御テント(バリア)に、魔法陣から落下してきた鉄が防御テント(バリア)を突き刺して貫いているが、最後のクローナに届くところは一切、触れられてもいないのだ。

 そう、クローナは、白の水晶の何重にもはった防御テント(バリア)で、落下する鉄の下敷きになることを回避することに成功したのだ。

 (クローナさんはここまで能力を扱うことができるのですか。これは厄介ですね。早期に決着をつけた方がいいです。)

と、メルフェルドは、心の中で判断するのだった。

 メルフェルドとしては、白の水晶による防御という能力が厄介極まりないと感じた。それをクローナ自身の能力と本人は思っていたとしても―…。

 (はあ、はあ―…。こんなにも何重に防御テント(バリア)を張ったのは初めてだよ。)

と、クローナは心の中で言う。

 クローナとしては、さっきの魔法陣の落下による攻撃を受けてしまっていたら、自らの命がなくなっていたかもしれない。そのことだけは確実に理解していたし、直感で思うことができた。命の危機という感じで―…。

 そして、クローナは移動できる準備を完了させると、防御テント(バリア)を解除し、高速移動するかのように移動を開始するのだった。

 防御テント(バリア)を解除すると同時に、今まで防御テント(バリア)によって防いでいた鉄が四角いリングの上に落下するのであった。

 ドオーン、ゴオーン、と音をさせながら―…。

 クローナは、その鉄が四角いリングの上に落下する位置からは離れることに成功していたので、その影響を受けることはなかった。

 メルフェルドは、そのクローナの様子を見て、クローナがしてくることを予想する。

 (クローナさんの次の攻撃は、私へと向けた最大限の威力の攻撃、なら私は―…、陣によってその攻撃を防ぐことにします。)

と、心の中で言う。

 メルフェルドは、クローナの次の攻撃が最大限のものになると推測した。根拠としては、決して根拠いえるかどうかはわからないが、メルフェルドが大きな攻撃をしてきたので、次の攻撃を準備している可能性を考慮にいれて、素早く決める必要があり、かつ、防御のための準備はしていないとクローナが思っているのではないかと思ったからだ。

 鉄と風では、鉄の方が有利なのだから―…。

 そして、クローナは、メルフェルドの真後ろである程度距離をとった場所に移動し、そこで、クローナに向かって、両手で横に振り、二つの風の攻撃を放つ。

 その攻撃は二つから一つへとなり、威力を増加させるのである。相殺されることなく―…。

 そして、風は押すという役割を担うものでしかないであろうが―…。

 メルフェルドはクローナがいると思われる場所へと振り返り、すぐに陣を発動させるのだった。クローナが今放った風の攻撃に向かって―…。

 「鉄陣 防御鉄壁。」

と、メルフェルドが言うと、メルフェルドの周囲の四角いリングの床面に銀色の魔法陣が出現し、メルフェルドの目の前に一つの分厚い鉄壁が一つ出現するのであった。

 そして、その巨大鉄壁は、クローナの風の攻撃によって真っ二つに斬られるのであった。


 【第112話 Fin】


次回、対戦相手はやっぱりお前だよなぁ~!!

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


次回の投稿は、2021年10月26日頃を予定しています。変更される可能性があるかもしれないので、ご了承ください。

では―…。

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