第108話 土の巨人の右腕
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』投稿中。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
アドレスは、以下となります。
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宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、第十回戦第三試合、礼奈VSアガランダの試合は、アガランダの予想外の行動に礼奈は戸惑うのであるが、「氷の世界」を使って、アガランダを凍らせることに成功するのだった。
【第108話 土の巨人の右腕】
四角いリング。
そこは、一面凍らされていた。
一人の人物以外は、すべて凍らされているのだ。
まあ、その一人の人物が、凍らせたのであるが―…。
そう、自らの対戦相手を凍らせて、自らの第十回戦第三試合の勝利を得ようとするがために―…。
「完成、っと。」
と、一人の人物は言う。
納得の出来、と感じさせる表情になっていた。
やっとの思いで凍らせることに成功したのだから―…。これほどの氷で凍らされたのなら、対戦相手である人物も時間以内に外に出てくることはできないであろう。そう確信してしまうほどに―…。
それでも、油断というものはなかった。できるはずもない。対戦相手は、一度、凍らせても、割ることができるほどの実力者なのだから―…。
今度は、それよりも氷の厚さを厚くはしたのだ。
(あとは、審判の判断になるだろう。)
と、一人の人物が言うのだった。
一人の人物とは、礼奈のことであり、四角いリングの上で凍っている人物がアガランダである。
観客席。
四角いリングが凍らせているのを見るのだった。
観客の多くは、そのことに対して、言葉を失うのであった。
あまりにも美しい透明さと光があるのだから―…。
そして、その観客席の中で、この回戦、いや、ランシュが企画したゲームのすべての回戦において審判をしている人物がいた。そう、ファーランスである。
ファーランスは、今の四角いリングの状況を見ながら、
(これは、山梨礼奈の勝利でほぼ確定でしょう。それに―…、あのランシュ側の人物の男は、私の進行に対して、ホント、邪魔してくれました。少しぐらいは、瑠璃チームの方に依怙贔屓してしまいたい。だけど、私は、公平な審判をする者です。不公平なことはできません。時間にしてもう少しでタイムアップですね。)
と、心の中で言うのだった。
決して、言葉に出すということなく―…。
ファーランスとしても、人である以上、感情というものが存在するのは当たり前だ。ゆえに、誰かを贔屓したいという気持ちがないということにはできない。ファーランスの印象としては、アガランダが自らの試合の進行を妨害してくる以上、どうしてもアガランダに対して、好感度を上げるどころか下がる一方でしかないという気持ちになってしまうのだ。
ゆえに、アガランダの評価が下がっていく中で、何もせずに礼奈はファーランスからの評価を上昇していくのである。なぜなら、絶対的評価というものは、絶対的な尺度を決めなければできないものであるが、相対的な評価は、二つ以上のものをある尺度(絶対的な尺度でなくてよい)から比較し、その差で評価するのだ。要は、絶対的評価というものを本当の意味でやることはできないが、相対的なものは比較する対象の差でおこなわれるので、簡単に評価することができるのだ。
人は、ある尺度からでしか評価することができない以上、あるものとあるものの比較ということでしか物事の優劣を断定することができない。そういう生き物なのだ。
だから、アガランダの評価が落ちれれば、相対的に礼奈の評価が上昇する。それは、四角いリングの中での第十回戦第三試合、どちらに有利な審判をしたくなるという気持ちが現れるかということにもなろう。つまり、アガランダが礼奈の「氷の世界」という技によって凍らされたので、それをある程度の時間の経過とともにすぐに勝者の宣言をしようとしていることである。
でも、ファーランスのそのような希望も、礼奈の希望も一時的ではあるが、打ち砕かれることになる。
四角いリングの上。
すでに白い床のような覆われたものはなく、更地になっており、そこに、針山のようなものがいくつもあり、さらに、そこは白く氷で覆われている。
いろんな意味で、四角いリングの体裁などなかった。
それでも四角いリングだとわかる証拠は、その周囲を覆っている透明な壁のようなものがあるということがわかるからであろう。
礼奈の対戦相手であるアガランダは、礼奈の「氷の世界」で凍らされていた。
ピキィ…………………ピキィ……………ピキィ………ピキィ…ピキィ、ピキィ。
何かが割れる音がする。
その音は次第に、その感覚を短くなっていき、音が連続するようになった。音も大きくなり、誰もが次第にわかるようになっていったのだ。
礼奈も音がしたので、その方向に視線を合わせるのだ。いや、合わせたままであるという方が正しいかもしれない。
「!!」
と、礼奈は、その音がどこからなり、どういう結果になるのかを理解するのである。
そう、アガランダを凍らせていた氷が次第に、ヒビが入ってきて、割れていくのであった。
そして、ピキィ……………パシャ―ンと、大きな音をして、アガランダを凍らせている部分が完全に割れるのであった。
割れた瞬間を礼奈は、はっきりと見ることができたが、すぐに、アガランダは消えるのであった。
(いつの間に!!!)
と、アガランダが消えるのに、礼奈は驚かずにはいられなかった。
そう、礼奈は気づいたのだ。アガランダが礼奈を攻撃するために、瞬間移動のような速さで移動したのだ。瑠璃のように、赤の水晶の能力を使って空間移動をしたというわけではなく、人が見えないほどの速さで移動しただけにすぎないのだ。
礼奈は、アガランダの気配を感じるのだった。
真後ろから―…。
「ばいばい。」
と、アガランダは言う。
アガランダは、後ろから礼奈を見て、その雰囲気が確実に倒せるのではないかと思えたのだ。そう、礼奈が何も対策をしていないと感じたからだ。
礼奈は気づき、後ろへと向き、すぐに自らの武器である槍を構え、防御の態勢をとるのであった。さらに、槍から氷を発生させて、槍の長さが直径になるようにした円状のものを展開するのだった。
一方、アガランダは、自らの右腕を土で覆い、大きくしていたのだ。自らの腕の大きさの十倍以上と感じられるほどに―…。
それが、礼奈に向かって、パンチするように攻撃してくるのだ。
ズン。
と、風をきる音がする。
「オラララララララララララララ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、アガランダは、叫び出すのだった。
礼奈は、耳を塞ぐことができなかったけど、
「青の水晶。」
と、言って、青の水晶の能力である回復を使いながら、弱めながら、聴力の回復を持続させていた。
そうなってしまうと、防御に集中することに全体的ではないが、ほんの少し集中するのかけるので、そこに集中できない時間ができてしまうのだ。
耳がしばらく聞こえなくなるのは、かえって、危険なのは理解していたので、致し方なく青の水晶の能力を使って、防御しながら、アガランダによって受けるダメージ分の耳を回復させていたのだ。
そして、途中から、その容量がつかめたのか、自動でできるように切り替えるのだった。これは、礼奈による青の水晶への命令のプログラミングであり、二つの命令を発している。一つは、一定程度の回復を持続すること、そう、耳が受けるダメージを常時に戻すこと。二つは、常時の状態に戻った場合は、常時じゃない状態にならない限り、回復の力を発動しないということだ。
この命令をするのには、どれくらいのダメージを耳が受けるのかをちゃんと把握しておかないといけない。それを、アガランダの叫び声によるダメージをはかりながらどれくらい回復させるのが良いかを決めていたのだ。
回復も万能ではないのだ。回復も過ぎれば、自らの体にとっても毒でしかない。そのことをしっかりと礼奈は理解している以上、何をすべきかということに対して、時には慎重になるべきであるということをしっかりと理解し、実行することが可能であった。
そして、アガランダの巨大な土で覆われた右腕が、礼奈の槍にぶつかるのであった。礼奈は、何メートルか後方に押されてしまうのであった。
だけど、何とか踏ん張ることができた。
礼奈としても、早くアガランダの攻撃が終わって欲しかった。だから、耐えている間にどうすればよいかと考え、策を思いつき、それをすぐに実行するのだった。
(氷の世界でもダメだった。こうなったら、水も使って、相手に凍らせる以外の方法があると思わせた方がいいし、それに―…、これでもう戦えなくできるぐらいの大技を仕掛ける。青の水晶の能力を最大限に使って―…。)
と、礼奈は、心の中で思いながら―…。
そして、その時にまず、アガランダの今の攻撃を耐えて、防がないといけない。そのために、槍の部分から氷を展開して、それを青の水晶で回復させる、そう、成長させて、飲み込んでいくのであった。
そう、アガランダの土で覆われた右腕を凍らせるという方法で―…。槍と接触しているからすることはすぐにできた。
「グッ!! ……やってくれるなぁ~。凍らせるという方法で俺の動きを封じる気か。」
と、アガランダは、言いながら、土で覆っていたを右腕から切り離して、距離をとるのだった。
それと同時に、礼奈もさっきまでアガランダの右腕を覆っていた土を槍とその周囲にある氷から切り離すのだった。
アガランダの右腕を覆っていた土は、礼奈の目の前で落下していくのだった。
ドーン、という物凄い音をたてながら―…。
礼奈は、
(土で覆われていると言っても、アガランダの腕には、氷の冷たさは伝わるということでしょうか。確定させることはできないが、これで私の勝利は見えてきた。)
と、心の中で思うのだった。
礼奈としては、勝利を完全確信しているわけではない。対戦相手であるアガランダの戦い方は、礼奈から見て滅茶苦茶であるために、確定させることはできなかった。それでも、勝利への布石というものは見えていた。対戦相手であるアガランダに宣言してもいいぐらいには―…。
〔礼奈!! 最大限の技も準備の方は完了してる。後は、礼奈の判断でいつでもいけるぜ。それができるのは一回だけだぞ!! 失敗は許されない!!!〕
と、礼奈の武器に宿っている天成獣であるゴルグが念話で言うのであった。
〔わかった。〕
と、礼奈は、念話で返事をするのだった。
一方で、アガランダは、
(こりゃぁ~、全然倒されてくれないかぁ~。俺の方も余裕がなくなってきたか。そろそろいけるところで大技を叩きこんで、決めないとな。)
と、心の中で焦りを見せるのだった。
アガランダが、いくら天成獣の宿っている武器から借りられる力の量が多いと言っても、限度というものが存在する。アガランダにも力の底が尽きるということもあるのだ。珍しいことであるが―…。
ゆえに、なかなか経験することのないこのような状態である以上、早く決着をつけたいという気持ちを抱き、焦りというものを見せるのだ。それでも、表情にだすということはしなかったが―…。それを相手に悟られてしまえば、自らが不利になるということがちゃんとアガランダはわかっているのだから―…。
それでも、攻めていく。それがアガランダ自身の戦い方である。そうすれば、相手もいつか防御不能になり、隙というものが生じるのだから―…。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア。」
と、アガランダは叫びながら攻めてくる。
観客席にいる者たちは、今日で何度目かの耳を塞ぐ行為をするのだった。そうしないと、耳の鼓膜に大ダメージを受けてしまうのだから―…。
それでも、青の水晶で対処法を見つけた礼奈は、それを行使するだけで済むのだから―…。
アガランダは、礼奈に向かって攻撃しながら、再度、右腕を土で覆い、その大きさを巨人並みにするのだった。
(また、同じ攻撃!!)
と、心の中で、アガランダの攻撃がさっきの攻撃と同じだと感じた。
礼奈はすぐに、自らの武器である槍を前に出し、氷でさっきと同じようなことをするのだった。
そして、アガランダの土で覆われた右腕と礼奈の武器が衝突するのである。
その結果は、両者が拮抗とするものであり、礼奈の方は、さっきと同じように土で覆われた部分を凍らせようとするのだった。
「そうくると思ったぜ。俺が二度もまったく同じ攻撃をするかよ。」
と、アガランダはニヤリとしながら言うのだった。
アガランダとしては、このように同じ攻撃をしてくるのならば、確実に礼奈が同様の対処法を選択してくるのはお見通しであった。なぜなら、人という生き物は成功という体験が同じ場面で確実に通じると思っているからだ。だけど、世の中そんなに甘くはない。対策というものを立てて、対処するということがあるのだ。
さらに言うならば、何度も同じ手に引っかかることを繰り返すのは、成功体験によって満足し、それをまるで普遍的な例とでも勘違いしているか、ただ単に失敗の理由を理解することのできない現実逃避者にすぎないのだから―…。その両方が混じっている可能性も存在するが―…。
だから、アガランダは礼奈に悟られないように、次の仕掛けと戦略を考えていたのだ。
そう、三個ではなく、五個の土の塊を空中に浮かせるのだった。
その行動に、すぐに、礼奈は気づくのだった。表情では焦るような感じで見せる。実際は、そこまで焦っているわけではないが―…。
アガランダは、礼奈の心の奥底の気持ちというものに気づくはずもない。
そして、
「これで礼奈の負けだ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、アガランダは叫びながら、五個の土の塊を礼奈に向けて放つのであった。
この攻撃も最初の方で、礼奈にしていたのであるが、その時の数は三個であり、三個ではダメだったので、五個に増やしたというわけだ。
それでも、意味のないことでしかなかったが―…。
「氷の植物。」
と、礼奈が言うと、礼奈の周囲から氷の棒状のものが飛び出し、土の塊を貫くのではなく、先端が大きくなって、土の塊を飲み込むのだった。
飲み込まれた土の塊の数は、すべてであった。
そして、もう一つ、礼奈はアガランダに向かって、攻撃を放っていた。
(これでもダメか。何度も、何度も口にしてしまう、厄介だ。それでも、まだ、俺のほうが有利だ。……ッ!!!)
と、アガランダは、心の中で自らの優位を再度確認していると、礼奈の攻撃に気づくのだった。
すぐに、右腕の土で覆われて部分から自らの右腕を離し、左腕でパンチするようにして、礼奈の仕掛けた氷の棒のようなものを防ごうとするのだった。
そして、氷の棒のようなものとアガランダの左腕は、ぶつかり、拮抗するのだった。
その拮抗もわずかの時間であり、アガランダが力でねじ伏せるのだった。そう、氷の棒のようなものは、パリーンと割れるのだった。
「残念だったなぁ―。これで俺を倒そうとしたんだよなぁ~。」
と、アガランダは言うのだった。
アガランダとしては、今、礼奈が放ち、アガランダの一撃によって、破壊されたのが礼奈の最終手段だと思ったのだ。残念ながら、それは礼奈にとって、決め手になる技ではない。まだ、水を使っての技を披露していないのだから―…。
「ここで、予言するよ。アガランダが負ける未来が確定した。」
と、かっこつける気はなかったが、そのような雰囲気で、アガランダを右手で指さしながら礼奈は、言うのだった。
【第108話 Fin】
次回、やっぱり!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
そろそろ、第十回戦第三試合が終わりそうです。現時点で、投稿していないが終わってはいます。次の投稿でそうなると思います。予想以上に、進みません。
次回の投稿に関しては、2021年10月1日頃を予定しております。
では―…。