第101話-3 闇夜の世界
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中です。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
アドレスは以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、第十回戦第二試合は、クローマとセルティーの対決になるのだった。
今回で、第101話が完成します。
観客席の中の貴賓席。
そこには、リースの中央で権力を握っている者たちがいた。
「まずは、一勝ですね。アングリア様。」
と、アングリアに付き従う一人の人物が言う。
この人物にとっても、瑠璃チームの勝利は、歓喜でしかなかった。
瑠璃チームがランシュ率いるチームに勝利すれば、セルティーを傀儡にして、リースの実権を完全に再度掌握することができる。
そうすれば、アングリアに付き従う人物は、アングリアが得るであろう莫大な利益のお零れをいただくことができる。その利益が、リースの多くの人々の不利益を被るほどに吸うものであっても―…。
「ああ、そうだな。ランシュとかいう若造が粋がって権力を握ろうとするからだ。どんな個人も組織の前では無意味な存在だ。我々は、大きな権力および基盤という力を持っている。そんな奴に挑戦するのではなく、付き従い、そのために、奉仕するのが下の者たちの生き方だ。世の中にある変革というものすべては、人を滅ぼす道でしかない。」
と、アングリアは言う。
この人物にとって、変革など、最悪の出来事でしかない。世の中など永続不変というものが正しいという道理なのだ。アングリアは、そう思っているし、それを信念にしなければならない。
なぜなら、それが、自らの権力を永久に保障されるために必要なことなのだから―…。権力というものは素晴らしいものだ。劣っているという自覚を抱かなくていいのだから―…。甘い、甘い、優れている言葉を無条件で受けられるということが簡単なのだから―…。この甘い食べ物からは逃れられない。依存性があるがゆえに―…。
(すべての人間は、俺のために尽くせ。)
と、アングリアは、心の中で思うのだった。
アングリアは、常に自分がこの地域における、さらには、この世界において一番上でないと気が済まない。それは、自ら以外の存在は自分より下でなくてはならず、どんな人物も自らに服従しないといけないと思っているし、自分の命令は何があっても確実に遂行されないといけない。その失敗は、自分のせいではなく、他者が余計なことをしたからだ、と考えるほどだ。
人という存在は完璧ではないというのに―…。たぶん、アングリアにはそのことが一生にわたって、現時点の状況が続けば、理解することはできないだろう。その機会すら与えられずに―…。
一方で、付き従う人物たちも、アングリアの滅茶苦茶な命令には、不満があった。
だが、それでもアングリアに従っていれば、簡単に、楽にお零れに与ることができ、苦労するのは、アングリアのご機嫌をとることだけである。こんな都合の良い人物はいないだろう。
まあ、ストレスは溜まることであろうが―…。
観客席。
審判のいる場所。
そこでは、審判のファーランスが四角いリング側の様子を見ていた。
(今日は、やけに入りずらい空気を向こうで醸し出してますよ。本当に、今日は第六試合は最低でもするのですから、空気ぐらい読んでほしい。無理だな。こっちが空気を読まずに進めていくことにしよう。)
と、ファーランスは、心の中で言う。
それは、何度も何度も言うが、第十回戦は、第六試合まで確実におこなわれるのだ。追加ルールがさらにそのようにさせるのだ。付け加えるなら、四角いリングの試合ごとによる損傷が大きくなるの可能性も存在する。今日の回戦には、ランシュが率いる、直属のチームであり、実力はすでに折り紙付き。大きな攻撃によって、四角いリングが損傷を受けるのは避けられない。大きなものになると、四角いリングが元に戻るのに時間がかかってしまう。そうなると、試合と試合の空き時間が長くなってしまうのだ。これまでの最大では、二時間ほどであろう。それを越えるを可能性がある。そうなってしまうと、さっさと試合を進めていきたいというファーランスの考えにも納得がいくことであろう。
ファーランスは、
「両者ともに試合を開始してもよろしいでしょうか。」
と、第十回戦第二試合を開始してもいいか尋ねる。
クローマは、
「試合かぁ~、まあ、今日は六試合も最低限でもあるんだ。審判によってもさっさと始めた方がよいな。構わないぜ。俺は―…。」
と、第十回戦第二試合を開始することに同意する。
セルティーも同様で、
「ええ、構いません。」
と、言う。
クローマとセルティーから第十回戦第二試合を開始してもいいという同意が得られたので、ファーランスは、試合を開始するためのいつもの行動をおこなうことにする。
ファーランスは、自らの右手を真上に振り上げ、
「これより、最終回戦、第十回戦、第二試合―………、開始!!!」
と、開始という言葉とともに、真上に振り上げていた右手を下に向かって、振り下ろすのだった。
こうして、第十回戦第二試合が開幕するのだった。
「ふう~、まあ、アンバイドに負けた奴は、俺の弟子みたいなものだ。つまり、リークよりも俺は強いぞ。」
と、クローマは言う。
クローマとしては、リークより強いのは現時点で当たり前のことであり、数年の間は確実にリークがクローマを超えることはない。クローマの予測では―…。
それでも、リークが急成長を遂げて、クローマを追い抜くという可能性が存在しないわけではないが、そんなものは偶然であり、計算に入れること自体、馬鹿げたことでしかない。
そんなことよりもクローマにとっては、やることがある。そう、この第十回戦第二試合で対戦相手となったセルティーを倒すことだ。
「セルティー王女も嫌でしょ。自らが倒されるのを、このリースの競技場にいる人々に見られるのは―…。まあ、答えなくてもいい。これは、俺の我が儘なのだからさ。」
と、クローマが少し間を空けて、続けて言う。
クローマがセルティーが倒されるのをリースの人々、ここでは、競技場に来た人に見せたくないのは、あくまでも、クローマの親切心であると同時に、ランシュがリースを支配した時に、自分がセルティーを無惨に倒してしまい、その場面を見られたのなら、きっとその後の禍根になってしまう可能性がある。それは、ランシュのリース支配においてマイナスなことにしかならない。そうなってしまうと、クローマにとっても戦闘する回数が増え、暇になる時が少なくなる。そう、クローマ自身のためでもあるのだ。
(何を考えている。確かに、私よりも実力はありそうに感じるが、それでも、負けるわけにはいかない。)
と、セルティーは、心の中で言いながら、自らの武器である大剣を構えるのだった。
セルティーは、武器での物理戦もそれなりにできるが、本当の勝負は自らの武器に宿っている天成獣の属性が幻であることから、相手に幻を見せて、勝負をする方が得意なのだ。
だけど、クローマもそれぐらいのことは理解していた。情報を知っておくことの重要性を認識しているのは、当たり前すぎるぐらいのことだからだ。
そして、クローマは、ここに来て、四角いリングを覆う技を展開するのだった。
「闇夜の世界。」
と、言いながら―…。
しだいに、四角いリングを黒い闇が覆っていくのである。太陽の光を四角いリングへと降り注ぐのを邪魔をして、まるで夜の世界になるように―…。月の明かりすらない―…。
数秒にして、四角いリングは、クローマが出した「闇夜の世界」に覆われてしまうのだった。
その中では―…。
クローマとセルティーの二人がいた。試合を戦っているのだから当たり前のことであろう。
クローマは説明し始める。
「ここは、光すら入らない闇の世界であり、夜の世界でもある。まさに、闇夜の世界。お互いの位置は目で把握することはできない、ほとんどな―…。頼れるのは感触と気配ぐらい―…、というところか。まあ、俺はこの技を使っているのだから、セルティー王女の居場所を探すことは簡単なことだ。気配でな―…。」
と。
クローマは、優しさだけでセルティーに自らの技のことを説明したのではない。この説明をしたところでセルティーが攻略するのは難しく、かつ、不可能であると思っているからだ。
気配というものを感じたとしても、感じてから攻撃へと移行するのタイムロスが必ず発生する。かなりの実力者同士の戦いでは、このわずかな時間が勝敗を決すると言ってもいいほどだ。これをどうにかするのは、人としてどうかというほどの実力になっておく必要があるが―…。
「なるほど、気配ですか―…。」
と、セルティーは、言いながら、心の中で考えるのであった。
(かなり厄介なことになってしまいました。最初から相手にとって都合の良い状態にもっていかれるとは―…。それでも、やることは確実に決まっています。クローマを倒すことです。天成獣の属性は、闇ということは確定しています。)
と。
「やることはわかっていますよ。…この闇夜の世界を破壊すればいいのよね。何てわかりやすいのだろう。私の天成獣の属性でどうやって、破ってみせよう。」
と、セルティーは、再度言葉にするのだった。
一種の強がりというものは入っていた。それでも、セルティーは、自らがやるべきことは決まっていたし、それしか現状を打破する方法はないのだ。そう、クローマが展開し、四角いリングを覆った「闇夜の世界」を壊して視界を取り戻すことを―…。
最悪、「闇夜の世界」の中で戦うことも覚悟して―…。
クローマは、セルティーの言葉を聞いて、話し始めるのであった。
「そうか、「闇夜の世界」の破壊か。まあ、考えられる方法の一つではあるな。だが、この俺の「闇夜の世界」は、セルティー王女で破壊できる技ではない。せいぜい頑張ってみることだ。」
と、クローマは言う。
クローマのこの自身に裏打ちするものが存在していた。それは、「闇夜の世界」が破られたことがないということだ。クローマも、いつかは「闇夜の世界」が壊されるということがあるだろうということが自覚している。例えば、クローマよりも強者であるアンバイドと戦った時の場合は―…など。
だけど、セルティーによって、「闇夜の世界」が破壊されるということは想定していない。それは、セルティーがクローマより実力では劣っているということの一点につきる。クローマは、「闇夜の世界」を破壊できるのは、クローマより強い者であり、この技の性質をしっかりと理解できるものであると考えているからだ。
人の想定などは、占いのようなものだ。当たるも八卦当たらぬも八卦。そう、当たるも外れるも未来の結果であり、未来にわかることなのだから―…。未来の一時点において―…。
「言われずともそうさせてもらいます。」
と、セルティーは言う。
クローマは、移動を開始する。しっかりと把握している距離と位置を―…、そう、四角いリングの距離とセルティーの位置を―…。
(まだ、移動を開始していない。)
と、クローマは、心の中で、セルティーが移動を開始していないことを理解する。
一方で、セルティーは、動かなかった。気配もそうだが、同時に音という面にも頼ることにした。ただし、音がするからといって、完全にどんな場合でも正確に相手の位置と、どこへ移動するかを完全に理解できるわけではない。推測をつけることしかできない。想定することしかできない。
音がする。
はっきりとして、その音を言葉で表現できるものではなかった。そうする時間も存在しなかった。
その音をセルティーは、聞き逃さなかった。聞き逃すことがどれだけ危険なことかわかっているので、聞き逃すことができなかった。
(そこだ。)
と、セルティーは、心の中で言う。
そう言いながら、後ろへと体を向け、その後に横で自らの大剣を横に振るうのであった。
その結果は、
(!!! いない!!! 避けられた!!!)
と、心の中で、驚くのだった。
セルティーとしては、確信に近いものがあった。そこに、クローマがいるというものを―…。
だけど、そこにはクローマがいなかった。
少しだけ、セルティーは、動揺するのだった。
「甘ちゃんだな。」
と、クローマは言ってくる。
クローマは、すでに、セルティーへと攻撃する範囲にいた。いや、最初からいたというほうが表現としては正しいかもしれない。クローマの持っている武器は、変形可能な球状の形をした物体であり、それに闇を纏わせて戦う。
つまり、第四回戦でネリワッセとして戦った時は、本気すら出していなかったということだ。
セルティーは、ブワッとさせる音を聞く。
何か常時では、曲がったりしているが、振ると一直線になるような感じの武器の動きではないかと理解する。
「隙あり!!」
と、クローマは言う。
そして、セルティーは、後ろへとジャンプするのであった。
何とか、クローマの攻撃をかわすことに成功し、四角いリングの地面に着地することができるのだった。
「ここから避けるとは―……、成長している、ということか。大したものだよ。」
と、クローマは褒めるのであった。
それは、クローマはセルティーが成長していなかったのなら、この攻撃を防ぐこともかわすこともできなかったであろうと思っていたからだ。それをかわしたことから、セルティーは第四回戦以後から確実に成長していることがわかったのだ。
まあ、セルティーの成長に関しては、嬉しいことであるが、クローマが負ける要素はどこにも存在しないと感じていた。
(そろそろ、ウォーミングアップも完了して、本格的に攻めていくことにするか。)
と、クローマは、心の中で言うのだった。
「どうもありがとうございます。だけど、負けるのはクローマ。」
と、セルティーは言うのだった。
【第101話 Fin】
次回、闇の中の戦い!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第101話で分割することになるとは―…。何とか、今年中に第132話は最低限でも終わらせたいのですが―…。目標は、リースの章を完成させることです。
次回の投稿は、2021年9月1日頃を予定しています。明日、投稿できるか、わかりませんので―…。
では―…。