第16話 夢喰刀
前回までは、ナンゼル以外のすべての襲撃を倒すことに成功した瑠璃、李章、礼奈、アンバイド。一方で、ナンゼルは自らの武器である夢喰刀で瑠璃、李章、礼奈、アンバイドに対抗しようとする。
【第16話 夢喰刀】
ナンゼルは自らの構え、言う。
「この武器、夢喰刀の力は、文字通り―…あなたたちの夢を喰うのさ。」
と。
ナンゼルの持つ刀である夢喰刀は、やや大きな刀であり、中央部分に円の形をした穴があり、切れる部分は切っ先に沿ってはいるが、細長いといわれるものであった。
ナンゼルは、さっきの言葉と同時に、夢喰刀の能力を発動させる。
瑠璃、李章、礼奈、アンバイドがいる範囲を覆われていった。
それは、黒色である。夜の色である黒とは異なる黒である。そう、夢喰刀の能力で覆うのために発動された黒なのだ。
この覆われていくの中で、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドは驚くしかなかった。それを阻止することを考えさせる暇さえ与えられなかったのだから―。
(何をする気なんだ。ナンゼルは―…。)
と、アンバイドは心の中で呟く。ナンゼルのやろうとしていることの意図が何であるかをはっきりとわからなかったのである。
そして、黒は覆った。夢を喰うという自らの欲求を達成するために―。
ナンゼルは夢喰刀を構える。そして、ナンゼルは素早く動き、瑠璃の目の前で瑠璃を斬った。
「!!」
と、瑠璃はかすかな意識の中では思わなかった。
瑠璃は本当に斬られた。これは事実だ。もし、人に刀のような武器で斬れれば、斬られた部分から血がブシャ~と出て、体が真っ二つになっていて瑠璃の人生は終わっていなければならない。
しかし、そうはならなかった。
瑠璃は斬られた時、パリーンと何かが割れる音を聞いたのである。
瑠璃には見えていた。黒い何かが破片になっていたのだ。そして、自分の心の中の板状のようなものの一部がすっかりなくなっていたのである。破片を組み合わせると、心の中の板状のようなものが完成するかのように―。
そして、瑠璃は、
(あれ、斬られたのに傷がない……、うっ…痛い、どうして体に痛みが!!)
と、どうして斬られた傷がないのに体が痛みを感じるのか疑問に感じた。そして、表情は苦しさを相手であるナンゼルに理解できるほどであった。
「喰え、夢喰刀。」
と、ナンゼルが言う。
そうすると、黒い破片は上へと吸い上げられていく。
(さっき斬られた時に見えた黒い破片が上へと―。)
と、瑠璃は心の中で言う。そうしながら、黒い破片が上へ吸われるように上がっていくのを目で追っていった。李章、礼奈、アンバイドも同様に黒い破片を目で追った。
そうすると、覆われた黒の真上に大きな白い球状のものがあった。
大きな白い球状のものは、口みたいなものをあけて、黒い破片を一つ残らず食べてしまったのだ。
黒い破片の最後を食べると、パクと口みたいなものを閉じ、モグモグさせたのである。つまり、黒い破片を噛み砕き、咀嚼していた。ゴクンと黒い破片を飲み込み、口みたいなものを少し開け、プハ~と息を吐くのであった。
(キモイ。)
と、礼奈はこの大きな白い球状に対しての感想を思うのであった。
ナンゼルは、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドを見る。
そして、特に夢喰刀で斬った瑠璃に視線を向け、
「夢を喰われてどうですか? イドラとナンシを倒した瑠璃さん?」
と、ナンゼルは瑠璃に問いかける。
「いったい私に何か言いたいことでもあるの? それとも命乞い?」
と、瑠璃は問い返す。そして、
「夢を喰われたとしても斬られていないんだからナンゼルの刀は、ナマクラなのかしら。」
と、瑠璃は言う。実際に、夢喰刀で斬られたが、全然傷を負っていないのだから、ナンゼルの夢喰刀がナマクラである判断したのだ。
ナンゼルは、冷静だった。自らが瑠璃を斬ったことで、確信することができていた。それは、黒い破片が吸われていったのを見たからだ。つまり、ナンゼルは夢喰刀の能力が成功したことが確認することができたのだ。
故に、ナンゼルは、
「瑠璃、体の痛みを感じませんでしたか?」
と、問う。そう、ナンゼルは知っていた。瑠璃が夢喰刀に斬られたことによって、体に傷はないが、体に痛みがあるということを―。
このナンゼルの言葉に瑠璃は、自らが夢喰刀で斬られたときの状況をしっかり説明したことに動揺する。それも、ほぼ正確に。だから、瑠璃は動揺した表情をナンゼルに悟られた。
「これは、図星のようですね。この夢喰刀に斬られた者は、そこから黒い破片がでるのです。そして、上にいる夢喰刀の分身が吸うのです。いや、喰われるといったほうがよいかもしれません。そして、黒い破片がでた者は、体に痛みが走り、あなたの命を減らすのです。」
と、ナンゼルは、夢喰刀の能力を説明する。
それは、ナンゼルがここで、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドを自分一人で倒すことができるという自信からであった。
「いったいどういうこと。」
と、瑠璃はナンゼルに言葉を返す。その表情は、瑠璃自身が何をされたのかを聞きだそうとする切迫した表情であった。
瑠璃のその表情に気分をよくしたナンゼルは、さらに、
「夢を喰う―……、それは誰もが持っているものです。夢がないなどという人はいないでしょう、食べ物を食べたい、どこかへ行きたいなどでも構わないのです。それを喰うのが夢喰刀の能力です。この刀によってすべての夢を喰われた者は、命を落とすのです。しかし、安心してください。体が死ぬのではありません、死にいたるのは心です。」
と、言う。続けて、
「心が死ぬということは、あなたというもの自我の存在が―…、」
と、言いながら、それを聴いていた瑠璃は夢喰刀で夢をすべて喰われた者の末路を理解する、
「消えてなくなるということです。」
と、ナンゼルは言う。
(自分自身が消えてなくなる…じゃあ、私が李章に対する思いも…、いやそれはまだ食べられていないみたいね。)
と、瑠璃は心の中で一番大切なものが食べられていないことに心の底からホッとする。
ナンゼルは、少しの間、夢喰刀を見る。瑠璃の黒い破片を吸ったのを確かめるために―。
そして、それは確実に吸収されていた。
そのとき、ナンゼルは気配を感じた。そして、気づく。
ナンゼルはすぐに攻撃体勢に入り、移る。
「私の背後をつくとは―…。」
と、ナンゼルは苦虫を噛みしめたように言う。そう、ナンゼルの言うように背後をとられたのだ。李章によって―。
李章はすでに蹴りを入れていた。
そこで、礼奈は気づく。
「李章君、危ない。」
と、礼奈は危険を李章に知らせる。そう、蹴りを入れようとする李章の背後に、ナンゼルがいて、すでに夢喰刀を振り下ろしていたのだ。
「!!」
と、李章は驚く。
「遅いですよ。」
と、ナンゼルは言う。李章に確実に自らの攻撃があたるということを―…。
(くっ!! これは……避けられません。)
と、李章は心の中でナンゼルの攻撃を避けらない確実性を示される。それはほんの刹那の時間のことであり、李章に斬られたという確実性の未来を思わせるのに十分であった。
しかし、李章が斬られることはなかった。
「回れ。」
と、アンバイドが言う。そして、アンバイドの武器の二つが回転させながら、すでにナンゼルのいる位置の近くに来ていたのだ。
アンバイドの武器が迫ってくるのを、ナンゼルは気づく、
「!!!」
と、驚きながらであるが…。
ナンゼルは李章への攻撃を停止し、すぐに今いる位置から後ろへと退避した。
「避けた!!」
と、アンバイドは言う。
そして、退避したナンゼルの場所へ、アンバイドは自らの武器の一つを回転させながら、さらに追った。
ナンゼルは気づき、アンバイドの武器の一つを受け止める。夢喰刀を使って―。
このアンバイドの武器の一つと、夢喰刀の衝突に、キンという金属音がなる。
アンバイドの武器の一つが、クルクルと回転しながらナンゼルを夢喰刀ごとを押そうとする。そして、ナンゼルの方は耐えるしかなかった。
(すでに、もう一つで攻撃するか。)
と、アンバイドは別の場所に向けた自らの武器でナンゼル攻撃しようと考える。
(ぐっ!!)
と、ナンゼルはアンバイドの一つの武器の攻撃が悔しさを感じたが、
「やりますね―。」
と、言って、アンバイドの武器の一つを弾いたのである。
しかし、すでにアンバイドの武器のもう一つが別の場所、つまり、ナンゼルの背後で回転していた。そして、ナンゼルを向かって攻撃してきたのである。
ナンゼルは後ろを向いて、すぐに夢喰刀で防御体勢に移行して、アンバイドのもう一つの武器の攻撃を防ぐ。
しかし、アンバイドのもう一つの武器の回転の強さから、ナンゼルは少しずつ後ろへと下げられていた。
ナンゼルは、ほんの数十秒ぐらいアンバイドのもう一つの武器によって後退させられながらも、踏ん張り、弾くことができた。
ナンゼルは、
(くっ!! 一気に私の優位であった形勢が不利へなるのですか…。)
と、苦虫を噛みしめながら思った。ナンゼルはアンバイドの武器の物理攻撃の力を感じ、アンバイドとナンゼルの力の差がかなりあるのではないかと感じさせられた。
(アンバイド一人だけでも私を倒せましょう。だが、これさえ使えば―…。)
と、ナンゼルは心の中で自らの最大の力を使うことを考える。
その間にナンゼルの上には、空間の裂け目ができる。
そして、李章が攻めた時から攻撃の機会を伺っていた瑠璃が、赤の水晶を展開し、自らの雷の攻撃を放つ。
放たれた瑠璃の雷の攻撃は、瑠璃の前にある空間の裂け目へと入り、ナンゼルの真上にある空間の裂け目から出た。
そして、ナンゼルは雷の攻撃を受ける。
雷の攻撃を受けているなか、
「がああああああああああああああああああああああああああああああああ。」
と、ナンゼルは叫び続けた。
瑠璃の攻撃から数十秒が経過した。
瑠璃の攻撃は止んでいた。
ナンゼルの体中からシュウ~という煙がたっていた。
ナンゼルは、瑠璃の雷の攻撃を受け、すでに戦闘不能の状態になっていいはずであるが、
「まだだ。」
と、言う。その表情は、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドを殺してやるという目をしていた。そう、相手の畏怖を与えるような目と表情であった。
「夢喰刀。」
と、ナンゼルは自らの武器である夢喰刀に言う。
(もう、これしかない…。ここまでよくもやってくれたもんだ。)
と、ナンゼルはさっき考えていたことを実行に移そうとする。
その時、ナンゼルは気づく。気配を…。
故に、ナンゼルは夢喰刀を自らの前に構え、攻撃を受ける。李章の蹴りの一撃を―。
李章の蹴りで、夢喰刀に少しのヒビが入る。
李章は手応えを感じていた。これでナンゼルを倒せるということを―…。
しかし、何か嫌な予感を感じた人物が、
「これは危ない!! 速く離れろ!!! 李章!!!!」
と、言う。その人物はアンバイドであった。そのとき、李章も何か嫌なものを感じたので素早く蹴りを中止して、ナンゼルは全速力で離れた。
李章は、アンバイドの近くまで離れた走るのをやめて、ナンゼルのいる方向を向く。
そこからは、夢喰刀から何か黒いものが広がっていた。そう、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドとナンゼルのいる場所をより黒い景色にしていたのである。
そして、さっきよりもより黒が、瑠璃、李章、礼奈、アンバイド、ナンゼルのいるところの景色を支配した。
大きな白い球状のものは、口のようなものを開け、
「よう…こ…そ…、悪夢の…世界…へ…。」
と、ゆっくりとした口調で喋った。
ナンゼルの後ろで…。
【第16話 Fin】
次回、悪夢が長く続くのか、続かないのか? そして、ローとあった少女は…。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
たぶん、第17話あたりで、ナンゼルらによる襲撃は終わると思います。