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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
218/747

第101話-1 闇夜の世界

カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。

今日、2021年8月26日18時30分から、第3部を開始します。

ぜひ、興味のある方は、読んでみてください。

アドレスは以下となります。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


宣伝以上。

前回までの『水晶』は、第十回戦第一試合の勝者が決まるのであった。圧倒的な実力によって―…。

第101話は、内容量が多かったために、分割します。

 【第101話 闇夜の世界】


 第十回戦第一試合の勝者は決まった。

 勝者は、敗者を讃えることはしない。

 心の中で送れば十分だ。

 これ以上は、野暮なことでしかない。

 わかっている。敗者の心は折れかけているということを―…。

 ゆえに、勝者であるアンバイドは、すぐに四角いリングから下りるのである。

 審判による勝者宣言は、すでに終わっているのだから―…。

 (さて、まずはこちらの一勝ということだな。)

と、アンバイドは、心の中で言う。

 その時、アンバイドに誰かが話しかけるのだった。

 「ほお~、本気を出すとは―…、珍しい。」

と。

 その声がする方へとアンバイドは視線を向ける。

 声をかけたのは、ギーランであった。

 アンバイドは、その声に対して、イラつきを見せながら答えるのであった。

 「チッ!! うぜぇ~…。そういう変な声かけなどいらんわ。」

と。

 アンバイドとしては、ギーランのように自らの本気を知っていて、かつ、迂闊に、本気を出すとか言っている人物は嫌なのだ。

 アンバイドとしては、ベルグと関係のあるランシュにその情報を知られるのが、これからベルグへと復讐するという状態になったときに、優位性をなくすのが、アンバイド自身にとって、不利になるものでしかないからだ。

 (ギーラン(こいつ)魔術師ロー(ババア)は、俺のベルグに対する復讐と、その動機を知っているからな。いや、イルーナとミランも含めて―…、か。だから、俺の復讐を止めるために、わざと俺の情報を漏らしているのではないかと思ってしまう。復讐なんて馬鹿馬鹿しいと言いやがって―…。テメーらに一生分からないだろうなぁ~。失って、二度と戻ってこない人の気持ちなんか―…。)

と、アンバイドは、ギーランたちに向けて、心の中で睨みつけるように言う。

 それは、ギーランやイルーナは過去に、自分達の娘である瑠璃を連れ去られた経験があるが、最近、再会を果たすことができたので、アンバイドの気持ちを理解することはできない。

 アンバイドは過去に、夫婦になったパートナーをベルグによって殺されているのだから―…。そう、二度と戻ってくることがないということが殺された日から未来永劫、決まりきった法則であるようになったのだから―…。

 いつか帰って来る可能性を抱けるものと、同じではないのだ。抱く可能性すらないのだから―…。

 そして、同時に、復讐を止めなければならないという倫理的な、いや、道徳的なルールのようなもんを掲げてくるのが、さらに、アンバイドの腹を立たせるのであった。

 ゆえに、アンバイドには、理解されない。ベルグへの復讐を肯定されないということがわかっているのだ。

 だけど、アンバイドは、ある一点において、重要なことを見落としているのだ。

 そう、魔術師ローだけは、復讐の意義を理解しているということだ。アンバイドと完全に同じではないが、ほとんど同じ意味で―…。

 それでも、ローは、復讐かもしれないことを実行しようとしているが、あくまでも、それは、止めるためのものである。これ以上、今のところ、ローについて触れることはできない。

 アンバイドは、そして、一人、じっくりと観戦できる場所へと向かうのだった。

 (まっ、今日で、このような馴れ合いも終わりになるのか。ベルグの居場所さえ聞き出せれば―…、な。)

と、アンバイドは心の中で思うのだった。

 アンバイドにとって、ベルグへの復讐が一番の優先事項である以上、瑠璃たちへの同行に関しては、ここリースでランシュに勝利して、終わるのだ。ベルグの居場所が聞くことができたら―…。

 一方で、ギーランは、

 (本当に、アンバイド(やつ)は、自分のパートナーを殺したベルグへの復讐しか考えていないようだな。まあ、仕方ないといえば、仕方ないことか。だけど―…、アンバイド(お前)の子どもはどうするつもりだ。今は、大きくなったのが一人いるが―…。亡くなった人との間でアンバイドがもうけた子どものことを少しでも大切にすればいいのに―…。ベルグに使っている復讐というエネルギーのすべてをそっちに向けて―…。)

と、心の中で言う。

 ギーランとしては、アンバイドという人物が、復讐に囚われているのは、アンバイドの子どもたちにとっても不幸なことでしかない。ギーラン自身も最近、そのせいで、ミランの瑠璃への復讐という出来事を経験しているのだから―…。

 ミランの場合は何とか抑えることができたが、アンバイドの場合は、ミランと違い、かなり厄介である。ミランの時は、イルーナという抑えることができる人物がいて、何とかなったが、アンバイドは、それができる人物がすでにこの世に存在しないのである。

 つまり、アンバイドを抑えることが確実にできる人物がここにも、この世にもいないのだ。物理的な方法、暴力的な方法ならば、いるのであるが―…。そう、魔術師ローとイルーナが―…。

 だけども、それで無理矢理抑えたとしても、一時的な効果でしかなく、必ず再度、アンバイドはベルグへの復讐を再開することになる。だろうなんて言葉がいらないほどに、確実に―…。

 (俺たちじゃ、どうしようもないか―…。)

と、ギーランは、アンバイドのベルグへの復讐を半分諦めモードになるのだった。

 ギーランにイルーナが近づいて言うのだった。

 「ホント、馬鹿だよね。アンバイドは―…。復讐なんて、意味のないこと、あの人も望んでいないのだから―…。」

と、イルーナは言う。

 アンバイドが復讐する理由を知ってはいるが、共感という面もしくは心の底から理解できるという面においては、わかることができなかった。

 そりゃそうだろう。復讐をしたいほどに愛しい人と二度と会えなくなることが確定的になったということはないのだから―…。そう思うと、アンバイドの人生に共感することができる人物は、この異世界においても多くはないのではないだろうか。実際に、その数を数えることができない以上、わからないという結果になってしまうが―…。

 「まあ―…、俺らにはわからないのかもな。自分を完全に知ることができない人という生物にとっては―…。他者に共感しても完全には理解できないのだから、人の気持ちなんて―…。」

と、ギーランは、イルーナのさっきの言葉に返事するように言う。

 人は、自分をも完全に人生の中において知ることはできない。さらに、他者に対しても、経験を完全に共有、気持ちなどの要素もそうなのであるが、完全に同じ経験をすることができないので、完全に他者を理解することはできない。できないからこそ、自らのプライバシーというものを確保することが可能なのであろうが―…。

 ゆえに、アンバイドの気持ちを完全に理解することは、誰でもできないことである。

 それでも、一人で解決することが可能であるかというと、そうではない場合の方が多い。それは、人が自分以外からの行動によって、影響を常に受けているからであろう。

 そのため、アンバイドが復讐を止めるには、まず、アンバイド自身が気づき、さらに、自らに入ってきた自分および他者の経験の中から自らにとって最適の解決方法を選ばないといけない。

 まあ、アンバイドが現時点で、そのようなことをすることはまずないだろう。あの日から、本当の意味でのアンバイドの時間というものは止まってしまっているのだから―…。

 「そうね。」

と、イルーナは言うのだった。

 瑠璃とミランの方でも会話が繰り広げられようとしていた。

 それは、アンバイドの態度に関して、ミランが心の中で思っていた。

 (アンバイド―…、あいつはまだあのことに対する復讐を考えているのね。アホだな。私も言えることではないか。まあ、アンバイドの復讐の方が根深いものがあるし―…。それにしても、元気しているかなぁ~、リンちゃんは―…。)

と。

 ミランとしては、復讐が意味のないことだと理解している。自身も瑠璃へと復讐しようとしていたのだから―…。そのために、アンバイドに復讐をやめろとは言えるような立場にはなかった。それでも、アンバイドの復讐には、何か心の中の抉れてしまった大きなものがあるということは理解できた。その大きさの中の内容は、ある程度しかわかっていないが―…。

 「アンバイドさんって―…、パパやママ、ローさんとはあまり親しそうにしないよね。避けているみたい―…。お姉ちゃん。」

と、瑠璃がミランに話しかけてきたのだ。

 瑠璃としては、たまたま近くに姉であるミランがいて、距離をつめたいと思い、話かけるのであった。それでも、瑠璃は、ミランが嫌がるお姉ちゃんという言葉を言うのであった。実際に、血の繋がった姉である以上―…。

 「お姉ちゃん言うな!! 一体、何回言ったらわかるの!!? それで、アンバイドのことね―…。アンバイドはねぇ~、自分の目的を達成しようとしているのよ。その目的は、クソ親父と母さん、ローさんによって、危ないとして、止めるように言われているのよ。まあ、アンバイドには一生わからないことだろうけど―…。だけど、私たちの敵というわけじゃない。失ったものに対する復讐と言ったほうがいいね。それに、アンバイドが近くにいるから絶対にアンバイドに聞くなよ。アンバイドは、何をしても止まらないし、瑠璃は自分の育った世界のことについてだけ考えなさい。一刻を争うかもしれないのだから―…。」

と、ミランは言う。

 ミランとしては、アンバイドの復讐について話してもいいとは思っていたが、アンバイドがそれに気づきかけたので、瑠璃には言わなかったのだ。

 瑠璃がどのような理由でこの異世界に来ているのか理解しているために、そっちの方が重要であるとミランなりに判断したからだ。

 まあ、アンバイドのベルグへの復讐と、現実世界における石化に関することを比べれれば、現実世界における石化の方が重要であるということは、事実であろう。だけど、これら二つのことを比べることが本当の意味ではできないが―…。人によって重要度は変わってくるために―…。

 「ふ~ん、そうなんだ。」

と、瑠璃は興味がなさそうに聞く。

 だけど、瑠璃は心の中で完全に興味がなかったわけではない。自分達にしなければならないことがある以上、瑠璃はそっちの方に集中するのである。自分にとっての重要な物事の順序はわかっているのだから―…。

 「関心なさそうな返事はやめなさい。まあ、それでも私としては、別に構わない。」

と、ミランが瑠璃に向かって言う。

 ミランとしても、瑠璃たちのやるべきのことで何が一番重要なのかはわかっている。さらに、ミランは、さっき、瑠璃に対して、瑠璃が育った現実世界の石化の方をどうにかする必要があり、そのことについて瑠璃に考えろと言っているので、あくまでも、アンバイドの復讐に関して興味も関心も持つ必要はなくていいから、そのように感じさせる返事さえしないようにしておけばいいと思ったのだ。

 そして、数十秒後のことであった。

 ミランは後ろから抱きしめられる感触がした。

 「何、急に、お母さん。」

と、ミランが言う。

 「うふふふふ。娘の成分が欲しくなっちゃった。」

と、イルーナは言う。

 本当に、ミランが言った通り、イルーナが後ろから抱きしめるのである。それも優しく、愛おしいものを抱くように―…。

 イルーナとしては、本当の意味で娘に触れたくなったのだ。瑠璃はそれを察知したのか、少し遠く離れているのだった。

 「ううう~。瑠璃には逃げられちゃったよぉ~。どうしよう、ミラン。」

と、イルーナは、続けて言う。

 それは、瑠璃とミランの二人を一緒に抱きしめたいと思ったのだが、実際には、ミランのみだった。

 ミランとしては、イルーナのことは家族として好きであったが、このように今現在、抱きしめられたいとは思っていなかった。ミランもこの場において、気分が高揚すれば、心の底から応じていたかもしれないが、現在は、たくさんの人がいる場であり、恥ずかしくてできるものではなかった。どうして、この場でイルーナができるのか不思議に思うほどだった。

 「どうしようもないでしょ。今は、節度を守って―…、お母さん。そうすれば、話しかけてくれると思うわよ。」

と、ミランは言う。

 半分適当に、半分は的確な指摘として言うのだった。

 イルーナは少しだけ反省するのだった。だけど、ミランへの抱きしめはしばらくの間、続けるのだった。


 一方の観客席。

 その中の審判であるファーランスのいる場所。

 そこで、ファーランスは、四角いリングが回復しているのを確認して、

 「次の最終回戦、第十回戦、第二試合に出場する者は、四角いリング(フィールド)へ!!」

と、言うのであった。


第101話-2 闇夜の世界 に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


前回の投稿でちょうど第100話になりました。かなり時間がかかってしまいましたが―…。第100話までいくのに、文字数は100万文字を超えるとは―…。本当に驚きです。リースの章もいろいろ長くなってしまいましたが、今年中にはなんとか、第132話までいくと思います。そう思いたいです―…。

では―…。


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