第98話-3 最終回戦
前回までの『水晶』のあらすじは、第十回戦、最終回戦、第一試合にランシュ率いるチームから出場するのは、リークであった。リークは、ルーゼル=ロッヘでアンバイドと戦い敗れるのだった。ゆえに、アンバイドに勝負を挑もうとするのだが―…。
今回の投稿で、第98話が完成します。
これがアンバイドの感想だった。
それ以外に、何が浮かぼうか。
アンバイドは、倒した相手などよっぽどのことがない限り、どうでもいいのだ。
アンバイドには、復讐したい相手がいる。そう、ベルグだ。ベルグへの復讐で、頭がいっぱいなのだ。
それ以外のことは、記憶に入れておくだけ、ほとんど無駄でしかない。
ゆえに、アンバイドは、リークと戦ったということは、記憶にとどめることではないし、忘れていても不思議ではないのだ。
だけど、リークの見た目はちゃんと覚えていたようだ。
(黒いフードを被った奴か。ルーゼル=ロッヘで戦ったような―…。まあ、俺が覚えていないってことは、覚える必要のないことだったのか。)
と、心の中でアンバイドは、思うのだった。
アンバイドは、今回の第十回戦、最終回戦では、出場するのは、第一試合ではなく、第四試合なのだ。勝敗を決するかもしれないという場面でのところなのだ。
そう、リークが指名した相手での試合はあり得ないのだ。アンバイドもわかっている。チームである以上、チームに指名されたからこの第一試合に変えてもらえないか、ということが成り立つわけがない。チームとしての戦略を変更させてしまうものだ。そんなことは許されない。
この戦略がアンバイドによって、決められている以上―…。ただし、すべての面で、アンバイド自身が決めたわけではないが―…。
そうである以上、リークの要望にこたえることはできない。
ゆえに、アンバイドは、リークの要望を断ろうとする。
「アンバイド。折角の相手からのご指名だよ。受けないと―…。それに、こういう観客がいる試合でねぇ~。折角のご指名を断るのは野暮だとしかいえない。だから、さっさと行ってこい。」
と、イルーナがアンバイドに近づいて言うのだ。
アンバイドにとって、これは最悪のことでしかない。実際に、第一試合は、クローナが先陣をきるという予定になっていたのだ。それを差し置いて自らが出場することは、もしクローナが戦いたいのであれば、かえってチームに溝を作ることになる。
だけど、このランシュの企画したゲームのためのチームなので、溝を作ったとしてもベルグの居場所が聞ければ、瑠璃たちのところにいる必要はない。ベルグのいる場所に向かい、ベルグに対して復讐を果たせばいい。
「何を言っているんだ。だけどなぁ~。」
と、アンバイドは、イルーナの意見を断ろうとするが、なぜか、瑠璃チームのアンバイドを除く全員が、片手をだし、どうぞとするのであった。
クローナさえもどうぞというポーズをとるのだった。
(お前ら、一体、どこで打ち合わせをしやがったんだ!!)
と、アンバイドは、心の中で、何でそんな完璧に揃っているかと思わせる感じのことができるのかに、イラつきを感じるのだった。
「決めただろ。第一試合はクローナで、俺は第四試合に出場すると―…。俺が、重要な局面に出て、チームが負けている時、第五試合以降につなぐ、チームが勝っている場合は勝利を確定させるって―…。」
と、アンバイドが言いかけたところで、ギーランが言ってくるのだった。
「今回のこの試合は、ルール追加により、チームのリーダーを倒した奴の属するチームには、五試合分の勝利が今までの勝利数に付け加わるのだから―…。そうなってくると、第四試合も関係なく、第六試合までは確実におこなわれることになる。瑠璃を第六試合に出す以上―…。」
と、ギーランは、最後の方はアンバイドにのみ聞こえるように言うのだった。
相手に自らのチームの出場する試合の順番と誰が出るのかを教える義理はないし、向こうもそうしてこない可能性の方が高い。
さらに、追加ルールにより、第六試合がおこなわれるのは確実だ。瑠璃チームのリーダーは、瑠璃であり、瑠璃は第六試合に出場する予定となっているからだ。ランシュがどこで出場するかによって変わってくるだろうが―…。勝敗に関することにおいては―…。それでも、予想はできる。そう、ランシュも第六試合に出てくるのではないか、ということを―…。
「そうかよ。だけど―…。」
と、アンバイドが反論しようとすると、ローが言うのであった。
「だけどの~う、観客は、あそこにいる黒いフードを被っている人物とアンバイドの試合を望んでいるわけじゃ。もしも、第一試合にアンバイドが出場しないということになると、観客は失望し、セルティー王女のお株を下げてしまうことになるの~う。アンバイドが第一試合に出場しないせいで―…、の~う。」
と。
アンバイドは観客席の方を見回す。
観客席のそこら中から声が聞こえた。
「アンバイド、折角のご指名だ。出あがれ!!」
「そーだ。そーだ。」
「前の試合では、譲っただろ。今回は受けろよ!! あ~、前の試合も、譲るのに時間がかかったか。」
「アンバイド、出ろよ!!」
「出~ろっ!!! 出~ろ!!!! 出~ろ!!!!!」
と、次第に、観客たちは、第十回戦第一試合の瑠璃チームの出場者をアンバイドにしようとするのだった。
観客の一人一人の心理について触れたとしたら、これに要する時間、いや、文章数から考えて、軽く数万、いや数百万の文字を使ってしまうだろう。そんなことをしてしまえば、この話はいったい何だったのかと私もあなたも忘れてしまうだろう。それは良くない。ゆえに、全体的に簡単にまとめてしまうことにしよう。
そうすると、とても短い文章になってしまうのだ。そう、アンバイドに第一試合にした方が観客にとって面白いから、ということになる。その動機だけで、十分なのだ。アンバイドを第一試合に出場させるというのは―…。
一方で、アンバイドは、観客の声を聴いて、自らのチームのここでの意見の変更を聞いて―…、頭を悩ませるのだった。
(クソ~。俺の考えを初っ端から崩しやがって―…。俺の周りは、敵しかいないのか? ここには―…。)
と、アンバイドは、心の中で、自分以外はこの競技場にいるのは敵じゃないのかと思ってしまう。
アンバイドの戦略は、最初から崩壊し、その立て直しをし、残していく面は残そうとするが、それすらも崩壊しつつあるのだ。ゆえに、アンバイドにあるのは怒りだった。
(こうなったら、自棄だ、自棄だ。乗ってやろうじゃないかよ。俺の戦略を崩しやがって―…。第一試合の黒フードの奴をぶっ飛ばしてやるよ。)
と、アンバイドは、変化していった怒りの感情によって、自棄になり、第一試合に出場して、リークを倒すことに変更した。
ここに、チームへの思いとか、チームの戦略とかというアンバイドの考えというものはなくなり、アンバイド個人による周りから受けた言葉の攻撃というものに対して負ったストレスの発散であった。
そう、観客や瑠璃チーム、リーク、ランシュ率いるチームにとっては、望んだ展開であるし、アンバイドの憂さ晴らしというアンバイドの気持ちなどどうでもよかったのだ。
つまり、観客は、面白い白熱した試合を望み、瑠璃チームは、アンバイドご指名なので戦わせて、確実に一勝を手に入れるというアンバイド以外の望みであり、リークは、ルーゼル=ロッヘでの敗北に対する雪辱を果たすために、ランシュ率いるチームにとっては、リークが確実に試合放棄をしないという展開になったことに対することであった。
このように、このリースの競技場にいる人々すべての意見が一致して、第一試合がおこなわれようとしたのだ。
アンバイドは、中央の舞台から四角いリングへと上がる。
そして、リークがいる近くへと向かう。
そこに到着すると、アンバイドは、リークを睨みつけるのだった。
「よくも俺の戦略を台無しにしてくれたなぁ~。それで、十分、俺に対する屈辱を晴らせたのじゃないか。ちなみに、俺は、リークに対して、いや、観客も、いやそうじゃない。俺以外に競技場にいる奴らに恨みがあるわぁ~。その恨みの原因を作ったリークは、捻りつぶしてやる!!」
と、アンバイドは恨みがましく言うのだった。
アンバイドの怒りは相当なものであった。ただでさえ、第九回戦が終了して以後、アンバイドを子どもの頃からぶっ飛ばしてきたイルーナがおり、さらに、会いたくない筆頭の魔術師ローがいるだけでもストレスにしかならないのに、ここでさらに、リークによってアンバイド自身が考えている戦略を台無しにされてしまったのだから、怒りが相当になることは必須のことであった。
「そう。そんな小さいことで恨みを抱くとは、随分と怒りの沸点が低いようだな。それに―…、俺の屈辱は、アンバイド、お前が受けているよりもはるかに大きいものだ。だから、修行をして、強くなってきた。今度こそ、俺はお前を倒す。」
と、リークは言う。
リークは、アンバイドの今、受けていることなんぞ、リークがアンバイドから受けたものに比べたら、対したことではない。感じ方というものは、人と人との間で、すべてのおいて同じ受け方をするわけでもないし、すべて同じように思うわけでもない。
ゆえに、リークのような感じ方も、アンバイドのような感じ方による双方の比較が成り立つのだ。
「そうかい。なら、その実力とやらを見せてもらおうか。」
と、アンバイドは言うのだった。
そうすると、観客席にいるファーランスは、そろそろ進めないとまずいと感じ、
「両者ともに、試合を開始してもよろしいでしょうか。」
と、言うのだった。
そのファーランスの言葉を聞いたアンバイドとリークは、返事をするのだった。
アンバイドは、
「試合をさっさと開始をしてくれ。俺はいつだって準備は完了している。」
と。
リークは、
「試合を開始しろ。」
と。
アンバイドとリークの両者の第十回戦第一試合を開始してもいいという返事を聞いたファーランスは、自らの右手を上に上げ、
「これより、第十回戦、最終回戦、第一試合―…、開始!!!」
と、開始を言うところで、上に上げた右手を下に向かって振り降ろすのだった。
こうして、第十回戦、最終回戦、第一試合が開幕するのだった。
開始直後。
リークは、
(終わらせてやる!!)
と、心の中でいい、右手に黒いものを発生させる。
この形は、小さくて、球で、最初は、アンバイドの視界に入ることすら不可能かもしれないものであった。
それでも、アンバイドの視界に入るほどに大きくなっていく。球体の形を保ったままで―…。
さすがに、大きくなっていくので、アンバイドもそのことに気づく。
「!!」
と、驚きながら―…。
リークが出現させた黒い球体が手のひらの半分ほどのサイズになると、その黒い球体は球体の形を変えていくのであった。
そう、黒い棒になるかのように―…。
物理的法則を無視して、リークの前後に伸びていく。長さは二メートル弱ぐらいの長さに―…。
アンバイドも、リークが何かを仕掛けていることが理解できたので、
「出てこい!!」
と、叫んで、自らの武器の一つに出現させる。
その武器は、中央の球が一つ、その周りに五つの四角柱と先に三角柱がくっ付いたものである。中央の球は、周りにある五つのものとはくっ付いていない。
リークは、すぐに、移動を開始する。その時、アンバイドには一瞬で消えたように見えた。
(どこから来る!!)
と、心の中でアンバイドは言うのだった。
アンバイドとしては、リークが目の前から消えた以上、どこから来るかは予想できないが、それでも確実にわかっていることがある。それは、リークがアンバイドを攻撃するということだ。
アンバイドがこの時に活用できるものは、一つしかない。それは、気配だ。
リークの気配を掴むことができなければ、一発でアンバイドが負けてしまうことだってある。
一方で、リークは、アンバイドの背後に入ることができていた。
(決めてやる!!)
と、リークは心の中で言いながら、黒い棒でアンバイドを突こうとする。
この時、攻撃されるのではないかという予感がアンバイドに告げられる。勘と言っていいものだ。
(こっちからか!!)
と、アンバイドは、心の中で言いながら、すぐに、自らの体を後ろへと向けようとするのだった。
さらに、展開した武器をより速く後ろへと向けるのだった。
キーン。
まるで、金属音のような音がした。
それは、アンバイドの武器とリークの持っている黒い棒がリークの突きによって、衝突する音であった。
リークとアンバイドは、すぐに相手から距離を取るのだった。
「前の時は、そこまで素早い攻撃はできていなかったが、今はできるのか。驚きだぜ!!」
と、アンバイドは、驚いているように言う。
「そんなに驚いていないだろうに―…。」
と、リークは言うのだった。
アンバイドは、心の中ではそこまでリークの攻撃に驚いてはいなかった。真後ろを突いてきた攻撃は、相手の裏を突こうとしたということが理解できるからだ。
ゆえに、対処の仕方というのもすぐに、いくつか浮かぶし、次は後ろを取られないようにもできる。
一方で、中央の舞台。
ランシュ率いるチームの側。
「育てたかいがあるなぁ~。クローマ、一体何か仕込んだのか?」
と、ランシュは、クローマの近くへと向かい、クローマに尋ねるのだった。
「まあ、たいしたことではないけどな。クローマに仕込んだのは、召喚獣を使うことを減らして、自分の闇を使うこと。そして、召喚獣というのは結局、造形、つまり、イメージしたものを創造することだ。ゆえに、モンスターだけでなく、闇を使っての武器を自在に自分のイメージ通りに、瞬時に形成できるようにした。そうすれば、戦いへの応用も効くし、このような場所では、召喚獣は、意味をなさないし、余計な被害しかでない。」
と、クローマは説明するのだった。
クローマとしては、召喚獣みたいな戦い方も重要であるが、召喚獣は小さいものもあるが、大きいのがほとんどで、小さいのを出すには圧縮をしっかりとさせる能力がないと無理だし、それを鍛えるのには数年の時間があっても足りないというのがほとんどだ。
そうなってくると、召喚獣ではなくて、武器の造形なら、イメージできる武器や戦い方をイメージすることで、幾通りも作り上げることが可能であり、戦闘方法によっていろいろとできるから、戦い方次第で実力よりも強く発揮させることができる。リークの動き方からもその方がやりやすいのではないかとクローマは判断したのだ。
ランシュには、ある程度適当に言っておいたが、そこまで詳しく話しても飽きられそうとクローマが思ったからだ。
「ふ~ん、そうか。俺としては、詳しく知りたかったけどな。」
と、ランシュは、クローマがある程度適当に言っていることを見破っていた。
ゆえに、クローマは、ランシュのことをこの時、
(勘、鋭いなぁ~、マジで―…。)
と、心の中で呟くのだった。
一方、四角いリング。
アンバイドは、リークから距離を取った後、すぐに攻撃に移行する。
そう、アンバイドが展開した武器を、回転させながら、攻撃させようとしたのだ。
ブーメランを投げるような感覚で―…。
それは、リークにも見えていたことなので、意味はない。
リークも黒い棒を使って、アンバイドの武器がギリギリ黒い棒が届く範囲に来ると、左から右に振って弾くのであった。
弾くとすぐに、リークは、黒い棒を高速で球体の形に戻し、高速移動を開始するのだった。
その時、棒となるために伸びていたのは、あっという間に消えてしまったのであるが―…。
(くっ!! だけど、わかる。気配からして、後ろ!!!)
と、アンバイドは、リークの気配がどこにあるのかを理解し、後ろへと向き、自らの武器を自分の目の前へと移動し、防御に使うのであった。
そう、アンバイドは、リークは次も同じ攻撃をしてくるのではないかと思ったからだ。
だけど、それはハズレでしかない。
目の前にリークが出現する。右手には黒い球体が高速で回転しながら―…。
「いけぇ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、リークが目一杯に叫ぶと、黒い球体は、前へ向かってビームを打つかのように、伸びるのだった。
それも、アンバイドに目掛けて―…。
そのスピードが速く、武器を移動させればアンバイド本人に攻撃があたり、アンバイド本人が動けば武器にあたる。
ゆえに、選択すべきことは決まっていた。そう、アンバイド自身が避けることを選択したのだ。自分が攻撃を受けてしまえば、他の武器を展開しても、リークを倒せる確率が低くなってしまうからだ。
そして、アンバイドの展開した武器は、リークの黒い球体から出てくる伸びる棒の攻撃で、アンバイドの武器の中心にある球体にあたり、破壊するのだった。
「ひとつ。」
と、リークは言うのだった。
そう、リークは、アンバイドと一回対戦したことがあるので、アンバイドの今のような武器が他に二つあることを知っているからだ。
【第98話 Fin】
次回、本気で戦えよ!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
やっと、第十回戦、最終回戦の内容に入ることができました。長かったぁ~、です。第99話は分割しなくて済みました。
では―…。