第96話-8 自分の真実を知る時
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中です。
興味のある方は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
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宣伝以上。
『水晶』の前回までのあらすじは、ついにギーランとイルーナの間に第2子が誕生することになった。その子どもは、狙われるのであった。別の世界へと向かう実験のために―…。
すでに、子どもは生まれていた。
今回の出産は、時間のかかるものではなかった。
そう、ローが、イルーナのいる病室に入る頃に、出産を終えていたようだ。
生まれたばかりのイルーナとギーランの子どもは、産婆によって別室に運ばれていた。
イルーナも後産も終えており、完全に疲れ切っていた。
この地域では、出産に関する分野では、サンバリア王国と変わらないぐらいのものであったが、それでも出産時に亡くなってしまう人がいないわけではない。
ゆえに、この時代の異世界における多くの地域では、出産イコール妊婦の死が起きるという可能性をしっかりと認識しているために、出産における母体および子どもの生命の安全を祈願する風習が存在している。
例えば、この病室においても、安産祈願のためのお守りが一つ高々と額縁に入れられて、立てかけられている。
話がそれて長くなりそうなので、ここで話の本筋に戻すことにする。
ローは、イルーナの方へと向かう。
到着すると、
「イルーナ、儂も出産の経験はあるが―…、こればかりは―…、の~う。」
と、ローは、言う。
ロー自身も自らの子どもを産むという出産の経験がある。ゆえに、その痛さや大変さを理解している。一生に渡って、男には理解することができないほどの痛みを―…。
「でも……、初産じゃ…ないから…。」
と、イルーナは、何とかローの言葉に対して、返事をする。
「そう、気にするな。気休めではあるが、少しだけ体力を回復させる。」
と、ローは言うと、イルーナに向かって手を向け、
「青の水晶。」
と、言う。
そうすると、光が発生し、イルーナの体力を回復させるのであった。ここで水晶を使うのは、あくまでも体力を回復させるということであって、疲労を完全に和らげるということではない。
そして、その体力回復というのも、イルーナにとって、何か起こった時に対処できるぐらいのほどまでである。
ローは、続けて、
「ふう~。これぐらいの体力なら何かあっても問題ないじゃろう。それに、ギーランの奴に元気な姿を見せておいたほうがいいの~う。あやつ、病院の廊下でかなりのショックか、とても近寄れるほどではないぐらいのテンションの暗さをしておったわ。」
と、言う。
それは、ローが病院の廊下、イルーナがいる病室の近くの廊下でギーランがイルーナに病室を追い出されたせいで、ショックのあまりミランに抱き着いてしまっており、さらに、それを見たローと、その後のミランの行動によって、ギーランはショックを受けて、体を廊下のイルーナのいる病室とは反対側の側壁に目のある方向をその側壁に向けて近づかせているのを思い出したからだ。
ここでローは、少しだけ嘘を混ぜた。ギーランのテンションの暗さはローとミランによるものであるが、その中にイルーナが原因であることを付け加えたのだ。実際、ある程度は本当のことであるが―…。
「しょうがないわね。本当に―…。もうそろそろしたら、私の方から―…。」
と、イルーナが言いかけたところで、ローがその言葉を遮るように言う。
「いや、出産したばかりじゃろ。そんな人に任せたりはせん。今は、ゆっくりと休むといい。儂の方から呼んでこよう。」
と、ローが言うと、ローは病室の外へと向かうのである。
その時、イルーナは「ありがとうございます」と、ローに感謝し、ローは「ええよ、ええよ」と返事をするのであった。
イルーナいる病室の近くの廊下。
そこには、未だにショックを受けているギーラン、大人しく待っていたミランがいる。
ローは二人を見て、別々の評価を下していた。
(相変わらずミランは、いい子じゃの~う。少しぐらいは我が儘を言ってくれると良いし、他人思いの子じゃから―…。それに引きかえギーランときたら、ちょっと儂の方にミランが寄っていっただけで、このショックの受けよう。もう少し、心に余裕というものをもって欲しいものじゃ。)
と。
ローとしては、ミランは少しぐらい我が儘を言っていいと思っている。それに、ミランが良い子なのはわかっている。他人思いで、他者の痛みを自分の痛みのように共感してしまうからだ。ゆえに、時には割り切りというものを心の中での言葉にはしなかったが、それでも身につけてほしいとは思っていた。
一方で、ギーランは、呆れかえるしかない状態であるし、今の状態でギーランと会話したいとは思えなかった。
それでも、呼び行くと自分が言った以上は、しっかりとしないといけないために、ギーランに話しかけるのであった。
「ギーランよ。イルーナがもう病室に入ってもいいと言っておったぞ。」
と、ローは、呆れ混じりの声で言う。
そのローの言葉を聞いたギーランは、ピクン!! と体をわずかに震えさせ、ローの方へと視線を向ける。この時、ローは、ギーランのその動きにドン引きしてしまう。
「本当ですか!! ローさん。」
と、ギーランは、ローに向かって行き、ビシッとローの両肩に両手を乗せる。
「本当じゃ。」
と、ローは、驚きながら言う。
そのため、言葉がたどたどしくはないが、ポツポツとした感じなってしまう。
「では―。」
と、言ったギーランは、すぐにイルーナのいる病室へと入っていくのである。
ローは、茫然とするしかなかった。ギーランのあまりにもショックからハイテンションへの変化に対して―…。
(ようわからん。)
と、ローは、心の中で思う。
その時、ミランは、ローに近寄ってきて、
「大丈夫。ローおばあちゃん。」
と、心配そうな顔をしながら言う。
ローは、小さな幼子であるミランに心配されるのはあまりよろしくないと思ったのか、真下にいるミランと目線と同じにようにしゃがんで、
「大丈夫じゃ。ギーランに少しだけ、驚いただけじゃ。それよりも、ミランも病室に入るか?」
と、言う。
ローとしては、ここで少しだけ話題というものを逸らしておきたかったし、ミランに心配されるほどに落ちぶれてはいない。ローは、ミランの前では立派な大人でありたいとも思っていた。小さい子どもの前では特に―…。
一方で、ミランは、ローが心配な表情が消えたということに安心し、さらに、ローがイルーナのいる病室に一緒に入るかと尋ねられた。もちろん、ミランの答えは決まっている。
「うん、入る。私の妹の姿を見たい。」
と、ミランは、大声にならないように元気に返事をする。
「そうか。」
と、ローが言うと、ミランとローは、イルーナのいる病室へと入っていく。
イルーナのいる病室。
イルーナは、少し嫌だと感じていた。
「大丈夫か。体の方に痛みとかは―…。そして、新たな我が子はどこへ―…。」
と、質問を対象にイルーナに浴びせる存在がいる。
その人物は、イルーナの夫であるギーランである。ギーランは、イルーナが出産時に命にかかわるようなことがないかと心配し、さらに、新しく生まれた自らの子を早く抱き上げたいと思っていた。その気持ちが前面に出てきていて、この場における空気と他人の感情というものよりも優先順位を一番にしていたため、あのような他人から見たら辟易する行動をとることが可能になっているのだ。
ここで、その状態の自分を俯瞰的に見ることができるならば、きっとギーランは後悔していることであろう。俺は何てことをしているのだと思いながら―…。まあ、しばらくの間は気づかないであろうが―…。
(少し大人しくしろ、ギーラン。これも惚れた私のせいかなぁ~。)
と、イルーナは、心の中で思う。
ギーランとイルーナの恋愛は、イルーナの方がギーランと初対面の時に惚れてしまったのだ。まさに、ビビっと頭の中に雷が落ちてくるかのように―…。実際に、頭の中に雷など落ちようものなら、そんなぐらい済むはずがないであろう。でも、そのような表現の方がイメージはしやすいだろう。
そのせいもあって、ギーランの暴走に関しては、ある程度のところのラインで抑えるようにしているが、余程のイラつきという面がなければそれも難しいというものだ。
ゆえに、イルーナは、ギーランの暴走を見ながら呆れるのである。もし、アンバイドなら楽に蹴り倒すことができるだろう。家族愛という面で―…。
それでも、イルーナは、病院ということも考えて、
「少しは大人しくしなさい。それに―…、赤ちゃんならちゃんと抱き上げられるから―…。」
と、声を張り上げないように気をつけながら、ギーランに聞こえるように言う。
「ッ!! そうか、そうか。っと、自分の新たな子どもの姿を見て、抱き上げようと思ったら、自然と興奮してしまったようだ。すまない。」
と、ギーランは、後悔しながら反省するのであった。
ギーランは、イルーナの言葉、特に「赤ちゃんならちゃんと抱き上げられるから」という部分でさっきまでの暴走から落ち着くことができたのだ。それは、ギーランとイルーナの新たな子どもを抱くために、興奮している状態では、子どもが驚いてしまって、泣かれてしまうかもしれないと思ったからだ。
そういう思考にいたれば、自然と冷静になることができるというものだ。ギーランにとっては―…。
そして、ギーランのさっきの興奮した様子は、イルーナだけでなく、ローとミランにも見られてしまっていた。
ギーランが冷静になるまでに、ミランがローに向かって、「ごめんなさい」と言いながら謝るようなこともあった。さらに、そのミランの謝りに対して、「お主が謝らなくてもよいのじゃ、悪いのはギーランじゃから」と、返答して、ローはミランにギーランのことで謝罪しなくてもいいと言うのであった。それは、ギーランの暴走はミランのせいではないし、幼い子どもであるミランに謝られるのは体裁というものが良いとは思えなかったからだ。
そして、同時にローは、ギーランがまともな性格になってほしいと思うのだった。しかし、ローよりもギーランの方が性格としてはまともな部類に入るのであるが―…。
「ママ。」
と、ミランは、イルーナに向かって行く。
「ミラン。」
と、ミランがイルーナの元へと到着すると、イルーナは、ミランを撫でるのであった。
「ちゃんと良い子にしてた。病院で燥いでいたりして、周りの人や病院の人に迷惑をかけていないよね。」
と、イルーナは、ミランの頭を撫でながらも、心配そうに言う。
イルーナとしても、ちゃんと外で良い子しているか心配だった。不安という感情もあろう。家の中にいる間は、普通の子どもように、大人にとって奇想天外なことをしてくることもあるし、頑張ったことを自慢したりもする。まあ、子どもの性格も千差万別である以上、全員が全員同じということではないであろうが―…。
「迷惑などかけておらんよ。ミランは―…。むしろ、良い子じゃったよ。安心せい。イルーナよ。」
と、ローは言う。
ローとしては、ミランよりもギーランの方を心配して欲しかった。ローからしてみれば、ギーランのあのようなミランを抱きしめながら泣いているのではないかと思わせる表情、および、変な体勢によるショックの受け方のほうがミランより人間としてあの場でどうなのかと思ってしまう。
ギーラン、イルーナ、ミランという家族についての疑問が浮かぶローであった。同時に、生まれた子どもの未来が大丈夫なのか少しだけ心配になるのだった。たぶん、なるようにしかならないのだから―…。
「そうですか。良い子です。ミラン。」
と、イルーナは、ミランを褒めて、ミランの髪を撫でながら、安心するのであった。
ミランが人様に外で迷惑をかける子ではないということをローから聞いたことが、イルーナにとって心配の一つを取り除くことができるのであった。
ミランは、「えへへへへ」と笑顔にほほ笑むのであった。その笑顔は、見た者を癒すだろうし、暗い気持ちの人も明るい気持ちにさせてしまうほどだ。
そうこうしているうちに、ギーランとイルーナの新しい子どもが産婆に抱えられてくるのであった。
一方、病院の近く。
そこには、モウスを含め、いくつかの集団がいた。
普通の恰好からは、ほど遠いものでしかなかった。
ただし、ここで黒装束をしていようものなら、かえって目立ってしまう。目立たせないように、建物と同じ色である白を基調とした服を全身に身に纏っていたのだ。
「中で監視している者から、今日、一組の夫婦から子どもが生まれた。そいつを連れ去る。わかったな。」
と、モウスが言う。
そうすると、反応すると、同様の衣装を着た数人が一斉に、
『はい。』
と、返事をするのだった。
その声は、決して、大きいものではなく、それでもはっきりとした意志というものを感じさせるのだった。
その言葉を聞いたモウスは、
(ふう。今回の任務は、ここらの地域で続いている連続子ども連れ去り事件と同じものにすること。その手口はすでに、ミンゼナ様の集めた情報から理解している。ゆえに、完璧に再現することは可能だ。俺ならできる。こいつらとならできる。)
と、心の中で言う。
それは、モウスにとって、今回の任務は赤子の連れ去りであり、さらに、自分たちが犯行に加担していないということを他の人たちに思わせるために、ここら周辺で起こっている赤子連れ去り事件と同じようにしないといけない。そうしないと、他の人たちにそう思わせることができないのだ。
そして、モウスは、そのようなことを完璧できると自身に思わせるのだ。そうすることで、自分に対して自信というものがでてくるとモウスは信じている。同時に、同じ任務をおこなう者たちを信頼するようにしている。
モウスたちは、歩き始める。これから赤子の連れ去りを実行するために―…。
第96話-9 自分の真実を知る時 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の投稿分に関しては、まだ完成していないので、完成した後に、この部分で詳細な投稿日時に関して、報告すると思います。
では―…。
2021年7月18日 次回の投稿分がある程度完成しました。次回の投稿は2021年7月19日頃を予定しております。
では―…。