第96話-7 自分の真実を知る時
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味のある方は、ぜひ、読みに来てください。
アドレスに関しては、以下となっております。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
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『水晶』の前回までのあらすじは、時は、十二年前まで戻り、ギーランの次女が行方不明になる時へと突入していこうとしている。その前に、ギーランは、イルーナがいる病室からイルーナによって追い出されるのであった。一方、とある研究所の方では―…。
少し時間が経過する。
所長室からは、モウスが任務のため外に出て、代わりにある人物が入って来ていた。
「ローゼか。今日の研究の進捗はさっき、私の方で確認に行ったのであるが―…。」
と、ミンゼナは、少しだけ、表情を曇らせながら言う。
ミンゼナとしては、ローゼとの会話自体を好まないわけではない。だけど、ローゼに対する危険性も感じてはいる。自分以上の危険性というものを―…。
特に、研究所の所長という職を手に入れ、研究所の実権を掌握した後、ローゼの別の世界に対する思いは、なぜか狂気のようなものにさえ感じた。ローゼの言葉から考えると、楽園へと向かいたいという執念の感さえあった。
(まあ、それでも使える駒だ。その狂気をうまくコントロールすればいいだけ。)
と、ミンゼナは、心の中で思うのだった。
ローゼの方は、さっき、自分がトップをつとめる研究室に戻った時、部下からミンゼナが来て、別の世界に対する渡航への進捗状況の確認があって、報告したと言われたので、所長室に来たのだ。
ローゼは望んでいた。別の世界、そう、現実世界が自らにとって楽園であるということを―…。そうでなくてはならない。この今いる世界である異世界は、自分にとっての絶望でしかない。この異世界では、自らの欲望を解放し、自由にすることができないのだ。ローゼにとって理不尽と感じる、人間間におけるルールという鎖によって―…。
もし、これを自由にさせることができるのならば、どれだけ素晴らしいことであろうとローゼは思っていたのだ。その自由は同時に、他者を理不尽や不自由に陥れるものであったとしても―…。要は、ローゼは、自らの欲望を自由に解き放つことができるという夢を、観測された現実世界に求めたのだ。そう、自らの欲望を解き放つことができる世界イコール楽園ということだ。
だけど、どんな世界においても、自らの欲望のすべてを解き放つことはできない。なぜなら、その欲望をすべて放てば、そこにあるのは自らの破滅であり、多くの他者の破滅、社会の破滅でしかないのだ。
そりゃそうだろ。世界とは、自らと他という関係で成り立っているのだから―…。いや、自らと他も混同することも可能か。要は世界というものは、何かしらの行動によって、他に対して刺激を与えるもしくは与えない、与えた場合どれぐらいの影響になるかということが常時起こっている。
その中で、人々は、自らにとって良いのか、悪いのか、を主観的に判断している。その判断は、自分と他の人、もしくは他の存在によって異なる部分と共通する部分が存在する。
つまり、ローゼが欲望を解放させた場合、その欲望は他者にとって、悪いものと良いもののどちらか、完全にそれと区別されるわけではなく、その二つの間を結ぶ線上のどこかになる。
また、その行動というものは、自分とそれ以外に繋がっているがゆえに、他者にとっての不幸となり、かつ、自らの不幸にも繋がることがある。影響というものが与えないという場合はこの限りではないが―…。
人は、この世界の、いや他者や自らのすべてを完璧に知り尽くすことなどできやしないのだから―…。
結局は、ローゼの望む楽園は、現実世界に存在しないということだ。たとえ、現実世界とは別の世界を発見したとしても、ローゼの望みは叶うことはないが―…。
「そうですか。でも、一応、ちゃんと私の方から顔を出しておかないと―…。ミンゼナの旦那は、そういうところに拘りないだろうが、もしも、私が出資者に対して、同様の態度をとれば、誰か一人ぐらいは腹を立てかねませんから―…。」
と、ローゼは言う。
ローゼも怒られるのは嫌だ。出資者の中には、自分は出資者でお前らの実験にお金を出しているのだから、俺が直々に来ている場合は、必ず俺の前に顔を出せという輩がいる。そういう奴は、自らの言うこと、望むことができないのならば、研究への資金を停止でき、そして、その研究を滞らせることができると思っているのだ。
そう、自分が偉いのであって、その偉さに他の人物が跪き、自分のためだけに動いてほしいという欲を強くもっていて、他者に強制しようとしているのである。
そして、ローゼは、怒られる時間というものがあれば、研究の時間にあてたほうが、得であるし、よりよい成果を得ることができる。ゆえに、苦々しい思いをしながらも、上の人間が自らの研究室に来た時には、必ず自分が向かうようにしている。
たぶんだが、このようなことから、欲望の解放という願望を強くする一環というなっているのだろう。
「そういうのもいるな。まあ、私は、確かに、私のような上の人物が来た時は、研究室にその責任者はいて欲しいものだ。だけど、それだけで、怒りをだして、自らの欲望通りにしたいとは思わない。その人間も、何か重要な用事などでたまたま、いないだけかもしれない。それなら、研究室にいる人に聞けばいい。急にこっちが来たんだ。直接、会いたいのならば、事前に面会時間を双方で決めればいい。」
と、ミンゼナは言う。
「そうですか。ミンゼナの旦那は、私にとってもやりやすい人だ。では―…。」
と、ローゼは言うと、所長室の外へと出ていくのであった。
(まあ、そんな小さいところをいちいち気にしすぎても意味はない。それよりも、周りに聞いてわかることは、周りに聞けばいい。権威や権力は欲しても、表で示す時は、必要以上にそれらを無茶苦茶に振るっているように見せてはいけない。そうしないと、どこで私にとって最悪の事態になるかわからない。)
と、心の中でミンゼナは、思うのだった。
そして、しばらくの間、ミンゼナは、書類仕事に追われるのだった。それは、これからおこなわれるであろう実験、別の世界という現実世界へと渡航できるということに近づくために―…。
イルーナがいる病院。
「追い出された。」
と、ギーランは病室の外で落ち込むのであった。
ギーランとしては、イルーナの出産をまじかで見守って、これから生まれてくるわが子を抱っこしようとしていたのだ。
それは、イルーナにとっては、ストレスにしかならず、ギーランを好きでいたいがために、ギーランを病室の外へ追い出したのである。出産時において、出産のための技術がないギーランがいたところで、邪魔でしかないのだから―…。
そのイルーナの気持ちには、ギーランは気づいていなかった。生まれてくるわが子を抱っこする思いが強すぎるために―…。
「パパ、元気出して。」
と、可愛らしく幼さを感じさせるたどたどしい言葉を言う少女の声が聞こえる。
ギーランは、その言葉が誰の言葉であるかを知っている。あの愛おしいと感じさせる声を―…。
「ミラン。」
と、ギーランは、涙を溢れさせながら言う。
言葉を終えても、涙が止まることはなく、そのまま、自分の愛娘であるミランに抱き着くのである。この時、ギーランの顔の高さは、ミランの顔の高さより、ギーランの顔一つ分高めであった。つまり、ギーランは、膝を地面につけていたのだ。
ギーランは、悲しい出来事であるイルーナがいる病室から追い出されるということと、ミランというギーランにとっては愛娘であり、天使のような存在の可愛さだとギーランが勝手に自覚している存在の癒しという変な組み合わせがギーランの涙を流させるのである。
病室を追い出されたことを涙に流すという行為によって、記憶の中からその部分を流し出し、ミランという名の癒しの存在に抱き着くことによって、ずっと埋もれていたいと思うのであった。
もし、この場面を出産後にイルーナが見たのなら、完全にギーランに対して引いていたであろう。ドン引きクラスになるほどに―…。
いや、これは、イルーナだけでないだろう。もし、ここに誰かが来たのなら、家族の誰かが亡くなったのか、と思ってしまってもおかしくないし、イルーナの状況とギーランということがわかっているのなら、イルーナが自らの子どもの出産で、何かの要因で亡くなってしまい、それを聞いたギーランが悲しんでいるのだと思うだろう。
だけど、そうではないということを知っているもしくは知ることができるのであれば、このギーランの涙の意味をちゃんとしっかりと解釈することができるだろう。
そう、ここにギーランとミランの以外の人がいれば―…。
「何をやっておるのだ、ギーランの~う。」
と、老婆と思われる人物の声が聞こえる。
その声を聞いたギーランとミランは、声がした方へと視線を向ける。その時、ギーランの表情は、涙で顔がぐちゃぐちゃになっており、涙は、鼻の横を伝い、口の中へと一部は入ろうとしていた。ギーランは、涙がしょっぱいと感じているだろう。また、涙の流れをギーランを認識することもできている。顔の上を流れている以上、皮膚がそのことをちゃんとギーランに伝えてくれているのだ。
ゆえに、その老婆がどのような人物がわかった。
「ローさん。」
と、ギーランは言う。
それと同時に、ミランは、顔を笑顔にさせ、
「ローおばあちゃん。」
と、ギーランから離れて、ローの方へと向かって行き、抱き着くのであった。
ローもミランの抱き着きを受け入れる。
ギーランは、少しだけローに嫉妬したのだ。もちろん、原因はミランがローの顔を見るとすぐに、ローのもとへと駆けて行き、抱き着いたからだ。それは、ギーランにとって、ミランがギーランよりもローの方が好きなのではないかという気持ちであり、ギーランはミランの一番は自分であると思っていたからだ。要は、親バカというふうに言ったほうが正しいのだろう。
一方で、ミランは、ギーランの方が好きだとか、ローの方が好きだとかというのではなく、ローに会うということ自体が少ないので、たまたま駆けて行っただけにすぎない。ミランにとっての一番は、自分の母親であるイルーナなのだ。ゆえに、ギーランは、ミランの中では一番好きな存在ではないのだ。ミランが二歳から三歳頃の時期は、一時的ではあるが、父親が一番好きだということもあったが―…。その変化にギーランは気づかなかっただろう。今現在においても―…。
「ほ~う、ミランか、前に会った時よりも、大きくなって―…。」
と、ローは、我が孫を可愛がるようにミランの頭を撫でるのであった。
ミランは、照れそうな表情をしている。ミランの心の中では、気持ちの良いものだと思わせるのであった。意識的にそれをミランが、認識できてはいないが―…。
「うん、数も十まで数えられるようになったぁ!!」
と、ミランは、ローから抱き着いている手を離して、ローに両手をパーにして見せる。
そう、ミランは、自分が十まで数えられるのだと、言葉だけでなく、行動でも示すために手をパーにするのだ。指先から手の近くまで見えるようにすれば、指がちょうど十本あることから、その証明になる。ミランはそう考えての行動であった。
ローも、ミランのやろうとしていることが理解できたので、答えもわかりきっていた。
「そうか。偉いの~う、ミランは―…。」
と、ローは言いながら、ミランの頭を撫で続けるのであった。
ローにもし、血の繋がった孫という存在がいれば、こんな感じなのだろうという気持ちを感じていた。ローに血の繋がった孫はいない。子どもはもういない。
だから、現実に、血の繋がった孫との接するというこうした関係というものを本当に経験することはできない。これからのローの生涯にわたって二度と―…。
ローは、頭をギーランのいる方向へと向ける。
「何を落ち込んでいるのだ、ギーランよ。」
と、なぜか病院の廊下でショックのあまり、壁に向かってだらしなくなだれ込むのであった。
そう、ギーランは、目を壁の方向に向けて―…。
(物理的に不可能なことをしてしまうのか?)
と、ローは、心の中でギーランのことを別の次元の存在なのではないかと思うのだった。
ただし、ギーランが人間である以上、天成獣の力を借りることで普通の人以上の力を発揮させるときの常人以上の動きとは別で、人間の骨格の構造上可能とは思えないことをすることはできない。
「私は―…、私は―…。」
と、完全にギーランは、ローが声をかけていることに気づかなかった。
(こりゃ~、しばらく無理じゃの。)
と、ローは、心の中で言う。
ローは、今のギーランの様子に呆れかえっていた。いや、ここに来てから、ギーランに対しては、呆れかえってしかいなかったのかもしれない。清涼剤がミランということで何とか気持ちとして冷静さを保つことができていた。
「ミラン。お主の母親は、あの病室の中かの~う。」
と、ローは、ミランに、母親の病室をどこかと聞く。
ローとしては、イルーナがいる病室についてはギーランに聞く予定であったが、ギーランの今の状態ではとても聞くことができるものではなかったので、仕方なく、小さな子どもでしかないミランに聞くことにした。
「う~んとね、あそこの病室。」
と、ミランは、指である病室の入り口をさす。
その病室は、イルーナがちょうどいる病室であった。
「そうか。ありがとう。ミランは、偉いの~う。」
と、ローは、言いながらミランの頭を撫でる。
「えへへへへ。」
と、ミランも喜んでいた。
そして、ミランの頭を撫で終えると、ローは、イルーナが出産を終えるのを待って、出産を終えたことをちょうど病室から出てきた産婆に聞いた後、病室へと向かうのであった。
第96話-8 自分の真実を知る時 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
やっと、十二年前へと話を進めてきました。追加内容がかなり増えているような気がします。
次回の投稿関しては、まだ、次回の投稿分が完成していないので、完成ししだいに、次回の投稿の日時に関して、この部分で報告すると思います。
では―…。
2021年7月15日 次回の投稿分が完成しました。次回の投稿は、2021年7月17日頃を予定しています。
後、忘れていたのですが、この部分で、『水晶』200回目の更新だったようです。200回も更新できたことに感謝です。読者に―…。最近、何か疲れます。
では―…。