第96話-4 自分の真実を知る時
カクヨムで投稿中の『ウィザーズ コンダクター』は、2021年7月1日から第2部の投稿を開始し、再開します。
第2部のあらすじは、阿久利美愛の命を神信会から何とか守った(?)各田十言は、そのことのせいで神信学園に通えなくなり、転校することになる。そして、神信会の中に、十言に興味を示す人物がいた。
こんな感じなのだろう。
アドレスは、以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝は以上です。
『水晶』の前回までのあらすじは、とある研究所の中で、発見された別の世界の情報が漏れてしまうのであった。その犯人が誰なのかをムーメインは、考えるのだった。
ムーメインは考える。
(一体、誰が―…。情報を知っているのは研究室の仲間と、所長のみのはず。それ以外の人物には一切話していない。ということは―…、俺を含めて、別の世界に関して聞いた者たちの中に裏切り者がいるということか。)
と、心の中で思い、現実に歯噛みをしてしまう。
ムーメインにとって、研究室にいる研究員は仲間という意味を持っていた。それでも、人と人との関係である以上、自らの方針を気に食わない思いで見ているものもいることであろう。それぐらい、ムーメインにもわかっている。
それでも、この別の世界のことを出資者たちに知らせて何か意味があるのか。危険性は、少し考えれば、わかることだ。独占欲がどれだけ、不幸をもたらしたのか―…。
いや、現実に得をしていて、そのことに満足している人間が他者の不幸に対して、自分の得ている得を放棄してくださいと言って、放棄するという選択はないのだから―…。例外は存在するかもしれないが―…。
ムーメインは、心の中で辛くもなる。この中に情報を漏らした者がいるとなると、迂闊に自らの悩みとこの別の世界に関する情報が漏らした人物がいるという情報を言うわけにはいかないのだ。
それでも、研究は進めていくのであった。
それは、研究自体を止めてしまえば、別の誰かが自らよりも先に進めて、出資者たちに情報を漏らし、自らの得のためだけの行動しかとれないものを野放しにしてしまうし、さらに、研究を進めていくことでそういう輩に対して、対処することも可能という面で続けざるをえないのであるのだ。
所長室。
そこには、所長と呼ばれている人物がいた。
(情報は漏れたか―…。まあ、私は情報を漏らした犯人ではないな。たぶん、ムーメインの様子から察して、秘書にさえも誰一人として言っていない。言うわけにもいかない内容だったし―…。つまり、ムーメインの研究室の中から漏れたということになるな。さて、誰、経由なのだろうなぁ~。)
と、心の中で所長と呼ばれる人物は言う。
所長としては、情報がどうやって漏れたのかという目星というものはある程度ついていた。副所長と同じぐらいには―…。所長自身は、自ら情報を漏らそうとしていたわけではない。ムーメインとの会話で別の世界のことについて話せば、どうなるのかということはある程度予想することができた。必ず、私欲のみだけを貫き通し、最悪の場合の結果を招くものがいるということであり、必然というほどにほとんどそのような最悪の場合の結果となっているのを―…。
ゆえに、情報を漏らさないために、秘書に対しても一切、別の世界のことについて話していないのだ。
「所長、水をお持ちいたしました。」
と、秘書の一人が言う。
「ミンゼナ…か。」
と、所長は、自らに水を運んできたミンゼナという秘書の一人に対して、その名を言う。
ミンゼナは、水の入っている所長専用の馬車の絵の入ったコップを所長が使っている机の上に置くのであった。
「大変ですね。なぜか、ムーメイン副所長の研究室が別の世界を観測することに成功しただとか…で。まあ、別の世界の発見なのですから、驚くのも無理はないでしょう。」
と、ミンゼナはまるで今、身の周りがこの話題で盛り上がっている話であるかのように言う。
その言葉遣いではあるが、所長にはある勘が働くのである。
(こいつ…か。情報を漏らした人の上の人間は―…。)
と、所長は、情報を漏らすのにミンゼナが関わっているのではないかと感じるのである。
所長も彼にそのようなことを言って、追い詰める気もなかった。確実な証拠がない以上、いくら言っても意味はないのだから―…。
むしろ、証拠もなく犯人と決めつけたことによって、かえって、自分の地位および最悪の人間たちにこの研究所が乗っ取られ、自分達よりも最悪な実験というものがおこなわれるのは必然のことであろう。守るということまでは、前者の意味において、そう、自分の地位とここを追われれば、次どこで研究できるかわからないという面で、達することができた。後者の最悪の実験を止めたいという気持ちは、少しぐらいは存在していた。
結局、所長は、好奇心の人間であることがわかるし、研究に夢中でしかないことが理解できるであろう。
「そうか―…、驚くほどのことか。確かに大変なことだな。私はここで始めて聞いたのだが…な。」
と、所長は、あまり得意ではない駆け引きで、ミンゼナが情報を引き出そうとした。
それは、ミンゼナが別の世界という情報の漏洩にどのように関与しているかという情報を手に入れようとしたのだ。ここでは、追及できなくても、証拠を探す上で参考になるかもしれないということを思って―…。
そんなことに関して、ミンゼナは、
(普段、駆け引きをしない人がそのようなことを言ってもバレバレですよ。まあ、どうやって私が別の世界の情報漏洩に関わったか言うわけがないでしょ。こちらも、情報元に関しては、それなり優遇するのですよ。使えなくなったら、捨てるのは当たり前のことですが―…。ここは、嘘というものを並べるのがよいでしょう。)
と、心の中で言う。
ミンゼナにとっては、所長のしようとしていることは、あまりにもバレバレなものでしかない。ミンゼナは、人生において駆け引きというものを心得ているし、馬鹿のように何でもかんでも自分の利益になることを短期間においても長期間においても得たいわけではない。
物事とは、最初のうちは損するかもしれないが、後に大きな富や利益を得ることができるものもある。ゆえに、それをどうすればいいのか、感覚的に、時には論理的に判断することの重要性を理解しており、確実に、自分にとっての得である選択をすることができるのだ。
ここでは、嘘をついてでも自分が別の世界の観測に対する情報漏洩に関わっていることを悟られるわけにはいかない。
「そうですか。研究所員や出資者様が噂をしていたのを、たまたま聞いてしまったので―…、所長に言っておかないといけないと思って―…。始めて聞いたのであれば、よかったです。私の情報がお役立ちになって―…。」
と、ミンゼナは、落ち着いた風に言う。
コップを運ぶために使ったお盆を持っていたため、嘘を付いている時に身振り手振りしないことによって嘘を見破られるということからバレるのを回避することができた。ミンゼナは、そういうことを駆け引きをしていくなかで学んでいた。学んで、理解し、活用できなければ、最悪の結果しか待っていないのだから―…。自らの生の終わりという結末すらいたることさえあるのだ。
そして、相手を褒めることも忘れない。それでも、最悪な印象を解消できるとは思わないが、やっておく必要もある。いつ、自らにとって最悪の結果への因果になっていくのかはわからないのだから―…。
「そうか、下がっていいぞ。」
と、所長は言う。
その言葉を聞いたミンゼナは、
「畏まりました。」
と、言って、所長室から出ていくのであった。
その様子を見ながら所長は思うのだった。
(くっ、抜け目のない人物だ。秘書として完璧に仕事をこなしているだけのことはある。ふう~、出資者たちもミンゼナに踊らされているな。私も賢いのが多いはずだから、うまくコントロールできると思っているのだろ。だけど、そのような人物ではないぞ、ミンゼナは―…。確実に、相手を倒そうとして、牙を研ぎ澄ましている。血も骨、その細胞一片さえも残さないように―…。)
と。
所長は、ミンゼナの実力を認めている。ゆえに、うまくはいかないことに対して、納得することはできる。
そして、ミンゼナを紹介したのは、出資者たちであったのだ。ミンゼナと出資者たちにどのように繋がりが発生したのかはわからない。所長がいくら調べたとしても、永久にわかることはないのかもしれない。ゆえに、今は、どうすることもできないのだ。所長に駆け引きをして、相手を倒す実力があれば、少しは抵抗できるのかもしれない。そんな方法を学ぶよりも研究の方が彼にとって重要なことでしかなかったのだ。人生の中で―…。だから、今、駆け引きができないことで後悔しても意味がないことでしかない。
所長は、この趨勢を見守ることにした。いや、どこかに科学技術を欲している場所がないかを今まで、出資者たちの話から検討をつけに入る時間を増やすのであった。ここを追われることになったとして、うまく逃げることができるように―…。
廊下を歩くミンゼナ。
(あの所長は、研究バカで助かるが、勘は鋭いな。このまま、あの研究員ども殺すことはできないだろう。出資者に情報を漏らしている以上、どこかの組織が目を付けてもおかしくない。なら、何も仕掛けずに、最悪の場合は、逃がすのが立派な選択だろう。他の組織との衝突すべき時期ではないからな。ベルグとかいうリースの宰相だった人物に目を付けられれば、私たちでは対処のしようがない。)
と、ミンゼナは心の中で、これからのことの一部を考えるのであった。
表情は、いつも通りの老紳士という感じで―…。
ゆえに、誰からもその表情から何を考えているのか築かれない。初対面の人からは、優しい老紳士にみえ、一方で、何回も出会ってしまえば、何を考えているのかわからず、その不気味さに警戒感を表してしまうのだ。それは、心を開いてくれていないということを周りが感じるようになって―…。ただし、物事をそつなくこなすので、かえって排除しにくかったり、一部の人間にとっては、有用な人間と判断される。
そして、ミンゼナが警戒していたのは、ムーメインも同様に警戒していた人物であるベルグだ。ベルグという人物のリース王国での経歴は知っている。それ以前、どこにいたのかわかっていない。商人の情報網で調べ上げられていないのだ。もちろん、それよりも高い、裏のルートからの情報というものも商人の得ている情報と対して変わりはない。ほぼ同じで、違う情報自体が曖昧としかいえないのだ。人を殺して、笑っていたのだ、とか。
人という生き物は、大抵の場合、何かしらの痕跡を残しているものである。けど、その情報というものがリース王国に来る前は、一切、残っていないのである。噂程度のレベルしかないものだった。そういう面で、ベルグという人物は危険な人物だとわかる。どんな人も完全に情報を消すことができない。行動するということが、その人物の痕跡を何がしか残すのである。ただし、人は、その痕跡を理解できなければ、その情報の意味を理解することができないので、情報の理解できないという面が存在しているのかもしれない。ベルグに関しては―…。
その、情報があるのに理解できない、情報がないということは人には理解という区別がつかないために判別することができない。今、まさに、ミンゼナが陥っている状態だ。ベルグに関しての情報で―…。
(さて、得られた別の世界に関して、どうやってアプローチを成功させ、自らの利益にするのか。これは―…、う~ん。悩んでもなるようにしかならない。まず、所長および副所長一派を追放することに全力を傾斜させるか。)
と、ミンゼナは、心の中で、何を優先すべきかを判断し、行動に移るための計画を練るのであった。
クルバト町の周辺の地下。
そこの一室には、ベルグという人物がいた。
(う~ん、別の世界か―…。これは俺の楽しみの一つではあるが、いや、世界か。俺の実験とも関係がありそうだな。世界を支配しようとしたものたちは、あの人の記憶や得た知識の中にも誰一人として存在しない。なら、支配してみたらどういう景色でどういうことが起こるのかな~。その過程もまたどういうことなのだろうねぇ~。まあ、この実験は、人の反抗すら無効にしてしまうのだろうねぇ~。僕の実験では―…。)
と、ベルグは心の中で考える。
そして、同時に、今、やろうとしている実験の準備を進める。ベルグは、あまり人を実験材料とすることを初期からすることなく実験を進めることができる。ベルグに協力している存在がいろんなことにおいて、これほどに参考になる存在はいないのだから―…。人よりもはるかに良い結果が得られる。
そう、ベルグという人物もまた、人としての倫理観など、生まれた時から壊れていたのかもしれない。普通の環境であったなら、生き残る術および物心がないうちに誰かによって生を終わらされていたであろう存在であるが、それでも、いろんな要因で生き残ることができたのだ。その一つに、あの存在も関わっているのだが―…。
(まあ、今は、とにかく自分のやりたいことを進めていくとするか。)
と、ベルグは、結局、自らのやりたいことを進めていくのであった。
知っていることも忘れるほどに、自分のやりたいことに熱中して―…。
第96話-5 自分の真実を知る時 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の投稿に関しては、次回の投稿分が仕上がっていないので、仕上がり次第、この部分でお知らせすることにします。
では―…。
2021年7月2日 次回の投稿分が完成しました。次回の投稿は2021年7月3日頃に投稿する予定です。