第96話-3 自分の真実を知る時
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カクヨムで投稿中の『ウィザーズ コンダクター』は、2021年7月1日から第2部で、投稿を再開します。21回分は、現時点でストックがあります。21回分で、だいたい前半が終わったぐらいだと思います。
アドレスは以下となっております。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝は以上。
前回までの『水晶』は、とある研究室で、別の世界が発見されるのだった。それを別の研究室(ミンゼナと繋がっている)がその情報を手に入れるのだった。
所長室。
その中に一人の人物が入っていく。
この研究所の副所長であるムーメインだ。
彼は、重要な要件を所長に報告しに来たのだ。
そして、所長室にいた一人の人物がムーメインが入ってくるのに気づく。
「私に、何の用だ。私は、自らの探求している次世代の乗り物の理論研究のために忙しいのだが―…、ムーメイン。」
と、所長室にいた一人の人物が、ムーメインに向かって言う。
その表情は、とても、イラついているものであった。なぜなら、自らの研究のための理論に対して、多様で膨大な文献や、サンバリア王国などの技術理論の論文、実際の運用に関するものを読みながら、あ~でもない、こ~でもないと考えている最中だったからだ。そのような場面に、突然、邪魔が入ってしまったのだ。イラつきもする。
「所長、相変わらず追究していますね。乗り物…、どんだけ好きなんですか。」
と、ムーメインは、所長に向かって、呆れる気持ちもあるが、同時に、所長もまた一人の研究者であることに感心するのだった。
今、ムーメインが見ている所長といわれる人物は、髪もボサボサ、髭も伸びきっており、口を隠すほどであった。ムーメインからすれば、食事するときにちゃんと食事をすることができるのかと不安になってしまうほどであった。そう、所長といわれる人物は、副所長をはるかに凌ぐ、研究バカなのであり、研究することに生きがいを感じてから、ずっとこんな感じなのだ。
ゆえに、彼は、多くの時間を自らの研究のために時間を割くことに苦痛を感じず、いくつかの研究成果をあけることができたのだ。所長の得意とするのは、乗り物に関する技術についてであり、昔、研究に目覚める前には、どこかの有名な工房に入っていたそうだ。そこで学んだ職人としての技術と、同時に元来持っていた手先の器用さという才能で、技術関係の研究で、成果をあげてきたのだ。それを理論化することができる術を研究する過程で身につけたがゆえに―…。
「私は、昔から、船やらを見ていると、どうして、船は動いているのだろうかと気になったものだ。そして、陸上では、馬車について歯車を木ではなく、他の材料で使うことが可能になれば、速く物を輸送することができて、その地元で有名だけど、すぐに腐ってしまう食べ物を、遠くの町へと運ぶこともできる。商人の奴らも新たなビジネスチャンスができて、感謝するだろう。私は、そこから得られる資金で、さらに研究を進めるのだ。研究とは、誰かの不幸を消すためにおこない、誰かの幸運をつくるためにおこなうのだ。私は、そういう人間でありたいのだ。」
と、まるで、演説するかのように所長は言う。
だけど、その演説のような主張は、所長の言葉や言い方があまりにもある物事が好きすぎて、それを布教しようとしている人のような感じだったのだ。聞かされる側の表情など無視で、自分が如何にそれが好きかを熱弁をふるうものなのである。ゆえに、周囲は、その言葉に引いてしまい、適当な相槌を打って、終わらせようとするもしくは、もういい十分わかったからというようなことを言って、さも理解しているふうに装い、その場から回避しようとするのである。
まさに、副所長の気持ちがそうなのである。だから、副所長は、所長に研究という面での情熱には敵わないと思うのだった。
「はいはい、わかりましたから―…。こっちとしても大事な報告をしにきました。」
と、ムーメインは、真剣な表情になって言うのだった。
所長といわれる人物は、研究者という目から少しだけ、物事を判断しなければならない指導者のような目になる。所長も自らを研究者と思っているが、所長である以上、それ以外の世間的な影響について考えることはできる。そうしないと、いくら発明した物を自慢して、社会的に利用したとしても、何かしらの不利益が生じることがあるのだから―…。良からぬもしくは意図しない方向に使われたりと―…。
「なんだ。」
と、所長は、威厳というものをだし、副所長であるムーメインに報告の内容を言うように促す。
「実は、私の研究室のメンバーの一人であるマルインダルが観測していた次元観測で、別の世界があると発見したようです。」
と、ムーメインは、最初に結果を伝える。
「で、別の世界があることを発見した。それは、私にとってもとても好奇心のそそられるものであるが、本当に言いたいことはそういうことではないじゃろ。」
と、所長は、ムーメインが本当に言いたいことを言うようにさせる。
ムーメインは、所長のその言葉により、本題に入るのであった。
「ええ、その通りです。別の世界が発見されたのは本当のことです。だけど、これを出資者たちに知らせれば、確実に彼らはこの研究に多額の出資をするでしょう。しかし、過去の文献などを私が見た限りでは、別の大陸の住人との接触は、その地に住んでいる者たちの人口減少につながる可能性があります。我々の先祖から得た病気に対する免疫を彼らが持っていない可能性があり、その地に住んでいる者たちにパンデミック規模の被害をおよぼすことです。さらに、商人たちが、その別の世界に住んでいる者たちを不当に扱う可能性が存在していることです。それは、異世界差別を生んだりすることがあります。そのようなことになれば、歴史に重要な汚点を残すかもしれませんし、最悪の場合、我々の生きる世界と別の世界との間で戦争だって起こりかねません。そんなことになれば、最悪、我々が滅びるか、向こうが滅びるかになってしまいます。ゆえに、今は、我々の研究室と所長以外の人々に別の世界については、一切、知らせないようにしたいのです。」
と、長い言葉を、淡々と述べるのであった。
ムーメインが言いたいのはこういうことだ。つまり、別の世界のことが知られれば、必ず別の世界の不利益および歴史に汚点を残すようなことをする可能性が存在するので、副所長の研究室のメンバーと所長以外には一切、このことを教えないということである。
ムーメインは、ここまでの可能性にいたることができたのは、学問を学ぶうえで、一つのことに専門的にもなるが、同時に、他の分野の知識に関しても吸収していったのだ。文献を読むということで―…。それは、専門的で視野が狭くなりやすいのを広げるということができ、同時に、専門的なものを考えているだけでは得られない発見を専門的な分野で得るためであった。
そのために、ムーメインは、一つの出来事を進めた場合に生じるデメリットについての可能性を浮かべることが容易ではないにしろ、考えることができるのだ。自らの知識を総動員して―…。
「そうか。まあ、ムーメイン、お前の言いたいことはわからないでもない。だけど、そういうものは簡単にバレてしまうものだし、それに―…、お前の言っている結末になりやすい。人という生き物が、欲というものをもっている限り―…。」
と、所長は言う。
所長としては、ムーメインの言っていることには、賛成である。世間というものは善意だけで成り立っているわけではなく、悪意というものも存在する。その二つのことを、人が主観的に自らの価値観や立場によって区別しているものでしかなく、多くの過去の出来事から判断するとすれば、多くの意味で欲望を優先した結末になりやすい。そう、自らの利益のためだけに、別の世界に住んでいる人々にとっての不利益をもたらすということである。そして、このことを反省し、協力することに気づき、実行することも可能であるが、それが素晴らしい社会へと導くかどうかはわからないというのが答えだろう。できるのは、自らの利益のために他の者の権益を顧みないことを反省し、協力することに素晴らしい社会が実現できると信じることだけであろう。信じるものは救われるかもしれないのだから―…。
「ええ、だから、所長にお願いしているのです。」
と、ムーメインは、所長に向かって、強く言い始める。
自らの力では、どうすることもできないと理解しているからだ。ゆえに、所長という自らよりも強い権力を持っている人に頼って、何とか、別の世界のことが広まらないようにしたいのだ。
「わかった。だが、私にできることにも限りがある。期待はしないでくれ。」
と、所長は、困りながらも言う。
そして、ムーメインは、自らの別の世界に対して、出資者である商人に知らせないという要望を聞いてもらえたので、所長を退出するのであった。
そこに、残った一人である所長は、
(私も、ムーメインと同じ意見である。だが、こういうのは、意外なところから漏れてしまうものだ。そこから漏れたものは、瞬く間に都市伝説にしろ、噂話にしろ人々へと広まっていくのだよ。尾ひれという名のフィクションが付け加えられて―…。)
と、心の中で、懸念を強めるのだった。
この所長の懸念が、当たってしまうことになる。
それから、数十日が経過した。
その間に起きたことは、明らかであった。
ムーメイン副所長は、怒り狂っていた。
「なぜだ!! なぜ、別の世界の発見に関する情報が商人たちに漏れている!!!」
と。
「副所長、落ち着いてください。」
と、研究室の一人のアントスがムーメインを落ち着かせようとして言う。
アントスとしても、落ち着いてもらうのがよいと思ったのだ。
「これが落ち着いていられるか。一体、どこから漏れたんだ。」
と、ムーメインは、冷静さを失っていて、すぐに言葉にしてしまうほどであった。
自らが考える最悪のシナリオが頭によぎり、これがさらに、ムーメインの怒りという名の火に油を注ぎ、冷静さをどんどん灰に変えていくのだった。
しばらくの間、ムーメインの怒りは収まることを知らなかった。
「すまない。私としたことが、冷静さを失ってしまったようだ。」
と、ムーメインは言う。
ムーメインは、自らの怒りを何とか、抑えることができると、自らが怒り狂ったせいで、自分の周りに迷惑をかけてしまったことに対して、申し訳ない気持ちになってしまう。
ならば、ムーメインがやらなければいけないことは決まっている。二つのことだ。
まず、最初に、やるべきことを実行する。
「怒り狂ってしまって申し訳ない。」
と、ムーメインは、研究室にいる者たち全員に謝るのであった。
上の人間として、どんなに倫理観というものが欠けていたとしても、最低限、人との間の関係が研究を円滑におこなっていくうえで必要である以上、自分のミスや迷惑に関しては、被害を受けた人々に謝るということは必要なことである。簡単に謝るものではないというが、そんなことをするのは、自分のミスを認められない人間することであり、立場の下の者たちに不快感と溝をつくり、物事をチーム、組織としてなすことの障害にしかならないのだ。
それぐらいは、研究をすることがトライアンドエラー、つまり、試行錯誤であることから、その上で重要なのはどうして失敗したのかを知ることが重要である。ゆえに、その失敗を知るという前提に失敗を認めることが存在する。
だから、ムーメインは、その研究の過程で、自らの失敗があるということを学び、迷惑をかけた場合に謝る必要があるということを経験的に学んだのだ。それは、彼の人生において恵まれたことなのかもしれない。こうやって、生かされているのだから―…。
「副所長―…。わかりましたから―…。」
と、ムーメインの怒り狂ったのを抑えようとしたアントスが、ムーメインの謝罪はもう十分だからと言って、ムーメインが謝罪するのをやめさせようとする。
その時のアントスの表情には、何か雲がかかるようなものもあった。そう、何か表情を覆い隠しているような―…。
その後、ムーメインは、研究室にいる者たちへの謝罪を終え、どうしてバレたのかを追求していくことにする。その時には、自らの冷静さというものを取り戻すことに成功していた。
そして、二つ目は、誰が情報を漏らしたのか、ということを―…。
ムーメイン副所長のいる研究室とは違う研究室。
そこには、二人の人物がいた。
「ミンゼナの旦那ぁ~。今頃、ムーメインの研究室は大変なことになっているだろうな。俺はちゃんと、内通者によって、こうやって、別の世界の観測に対する資料を得られたわけなのだから―…。」
と、この研究室の主任を任されている者が言う。
この人物の容姿は、あまりにも普通の人であり、声も誰が聞いてもその特徴を覚えることができないほどだ。それぐらいに目立たないのだ。
だけど、彼には強烈な個性というものがあった。容姿で目立たたない分を補うかのように―…。そう、この人物は、それ以上に人に対する敬意などありはしない。自らのためなら、危険な実験をするし、人命の軽視を平然とできるものなのである。
そして、この人物と話している相手は、この人物が名を呼んだようにミンゼナである。
そう、所長の秘書の一人で、ムーメインが警戒する人物である。
「そうですね。ふう~。そろそろ、所長にも副所長一派もこれで用済みだな。殺すには惜しい人材であるがな―…。まあ、どこか遠い地へと追放すればいいか。海の奥にある砂漠のほうに―…。あそこなら、二度とここへ戻ってくることはできないだろう。さて、そのためには、何の罪をなすりつけるか―…。いや、私の子飼いの部隊を使うとするか。」
と、ミンゼナは策をめぐらすのであった。
ミンゼナは、自らの欲、いや、夢のために着実に準備しているだけであった。この研究室にいる研究員全員さえ、自らの夢のための手駒にすぎない。
第96話-4 自分の真実を知る時 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
この第96話は、とんでもないくらいに長くなりそうな予感がします。内容の追加量が半端ない感じです。未だに、当初書いていたネームよりも、大幅に増量という感じです。この研究所の出来事が『水晶』だけでなく、外伝にも一部出てくる可能性がありそうなぐらいに頭の中で膨らみあがっています。
とにかく、第96話をしっかり書ききることにします。まだ、第96話は、仕上がっていないのですが―…。ネームはだいぶ昔に書きあげたのですが―…。このままだと第200部分は、第96話の投稿中に超えそうな予感がします。
疲れがでないように頑張っていきます。
では~。